東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

13 / 45
聖&清蘭編 二話

竹林を飛び抜け、魔法の森の上空を飛ぶ。

先行しているはずの霊夢と魔理沙の姿が見えず、少し焦った気持ちになる。

 

「どこ行っちゃったんですかね」

「こっちの方向って言ってたけど……どこかですれ違ったのかしら」

「鈴仙の事だから適当言ってる線は薄いと思うんで、多分そうかもね」

 

目下の魔法の森は本来の湿気が失われ、カラカラに乾いている。

普段は毒物耐性のある静かな虫しかいないはずの森からは、蝉の声が至る所から聞こえる。

 

「清蘭さん、少し警戒を」

「はい?」

「日差しが強くなってきました」

「はぁ……」

 

清蘭は頭上で私達を見下ろす太陽を見上げる。

私は地上を観察しながら、注意深く上空を進む。空中では太陽を遮れないため、熱気を全身で受けてしまう。

 

「一度地上に降りましょう」

「はい」

 

清蘭を引き連れ、魔法の森に降りる。

毒素が薄い事を確認し、清蘭に降りてくる様に伝える。

森の中は本来毒性のキノコが生え、有害な毒の胞子を放っている。しかしこの暑さにはキノコも耐えられないのか、周囲にキノコの姿は見えない。

そして木々の間から蝉の声が聞こえるが、どこを見ても蝉自体が存在していない。

 

「隠れていても無駄ですよ、そろそろ出てきたらどうですか」

 

私の声に反応し、清蘭はピストルを抜き周囲を警戒する。

それを手で制し、目だけで周囲を観察する。

 

「ん……聖白蓮様ですね」

「ようこそ、ようこそ」

「大日如来……」

 

木々の影、少し離れた地中、生い茂った樹上の葉の中。

至る所からゴーグルを頭にかけた妖怪が、何十人も姿を見せる。

見覚えがある。昔に大暴れしていた蝉の妖怪だ。

 

「蝉の……」

油熊実々美(ゆうぐまじじみ)です」

「お迎えにあがりました」

「呼びかけに答えてくださりどうもありがとうございます」

「……聖さん。お迎えって、何のこと?」

 

清蘭が疑う様な目を私に向けてくる。私は首を振り、実々美のうちの一人に視線を向ける。

 

「私は呼びかけなど聞こえておりませんし、応じもしません」

「それは愚かな」

「ん? 大妖怪たる我々を敵に回すと?」

「神に背くとは。ここでしばらく眠ってもらおう」

「ジジジ……」

 

至る所から実々美は現れ、どんどん数を増す。

だが私は一度深呼吸をし、確固たる意志を持って頭を下げる。

 

「私は協力も敵対も決して致しません。だからこの異変を止めてほしいとお伝えください」

「バカめ……バカめ……」

「断った時点で道は一つ」

「支配だ」

「お願いいたします」

 

私が頭を下げているのを見て、視界の端で清蘭は困惑した様子を浮かべる。

実々美達はくすくすと笑い声を上げながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

目の前にまでやってきた一人が、頭を下げる私の目の前に槍を突き出す。

 

「ミズチに伝える事すら必要ない。こんな腑抜けに何が出来るか」

「どうしても……ダメでしょうか」

「あぁ、無理な相談だ」

 

私は清蘭に視線を送り、声を発さず口パクをする。

それを理解したのか、清蘭は一瞬で地上を離脱する。

 

「逃すな! 殺しても構わん!」

 

逃げた清蘭を追って実々美達の視線が一瞬私から外れる。

その隙に目の前に突き出された槍を捻じ曲げ、刺股に形成し直し奪い取る。

 

「しま」

「ふん!」

 

刺股で目の前の実々美を拘束し、地面に刺股を突き立て動けなくする。

背中から槍を構えて迫る実々美をすれ違いざまに首を手刀で攻撃し、気絶させる。

 

「囮に構うな! こっちをやっ!?」

 

号令をかけようとした実々美を投げ飛ばし、勢いよく地面に叩きつける。

逃げた清蘭を追いかけた実々美達の半数は分断し、私に向かって飛んでくる。

 

「行くぞ! 【合唱『時雨8000ヘルツ』】!」

 

こちらに向かってくる実々美達が一斉に絶叫し始め、その音波が衝撃波となって私を襲う。

地面スレスレを旋回しながら、実々美の集団は至近距離での絶叫を浴びせ続ける。

 

「南無三!」

 

地面を殴りつけ、岩盤を砕く。破砕した岩や石は周囲に飛び散り、被弾した実々美の動きを止めた。

その一瞬で動きを止めた実々美にのみ的確に攻撃を繰り返していく。一秒経ってやっと実々美の半数を倒し終わる。

 

「一時離脱! 上空からの一斉奏射でカタをつける!」

「離脱! 離脱!」

 

実々美達は指示を復唱しながら上空に飛び上がる。

数が減って焦っているのか、私にしか目がいかないようだ。

 

「奏射用意! ……ん?」

 

実々美達は自分のすぐ側を降る、やられた同士の姿に気付く。

実々美達のさらに上では、清蘭が銃を構えて狙いを定めていた。

 

「【弾符『イーグルシューティング』】!」

「か、回避!」

 

清蘭が弾幕を乱射し、実々美達は次々と撃ち落とされていく。

最後の一人を撃ち抜いた清蘭は、私の目の前に降りてくる。

そしてウサ耳から耳栓を引っこ抜く。

 

「あんまり強くなかったね」

「でも数が多いと十分脅威ですよ」

「言えてるね」

 

清蘭はスカッとした顔で二ヘラと笑う。

私は何となく、その頭を撫でた。

 

「では一匹では脅威ではないと言えますかね?」

「まだいたの!?」

 

清蘭がピストルを向けた瞬間、そのピストルはバラバラに切り裂かれる。

私は清蘭を抱え、一瞬でその場を離れる。

 

「ほほう。流石に早いな」

「……忘れていましたよ、油熊四天王を」

「我々を知っているとは、見かけによらず年を食っているんだな」

 

暗い森の中に、陽の光を反射した刀がぼんやりと浮かぶ。

他の実々美とは違い小柄で、大きな笠を頭に被っている。

 

「私は油熊四天王、油法師実々美(あぶらほうしじじみ)。刀を振る事しか能の無い没個体だ」

「それはそれは……一つの事を極めれるのは素晴らしい事ですよ」

 

今いる場所を見るに、ついさっきも私の真後ろに立たれていた。それでも言葉を発するまで気配を感じなかったし、刀を振っても殺気の一つも漏らさない。

清蘭を降ろし、僧衣を脱ぎ捨てる。

 

「清蘭さん、援護射撃をお願いします」

「ラジャ」

 

清蘭はその場に膝をつき、スナイパーライフルを構える。

その様子を見て、油法師は嬉しそうに目を細める。

 

「準備はよろしいか?」

「そちらこそ」

 

地面を蹴って一瞬で距離を詰め、手刀を浴びせる。

笠に付いた羽飾りがふわりと揺れ、私の手刀に合わせて油法師は体を回転させて紙一重避ける。

油法師の体が一瞬地面から離れた瞬間、身体中に斬撃を浴びせられる。

魔法で強化しているとはいえ、鉄の棒で殴られたような痛みが走る。

 

「耐え切るか……」

 

油法師が着地し私にもう一太刀浴びせようとした瞬間、清蘭の放ったレーザーが油法師を襲う。

油法師は刀で綺麗にレーザーをいなし、その狙いを清蘭に定めた。

 

「ヤバ!」

「【時雨一刀流『桜裂き』】」

 

消える様に清蘭に向かって進む油法師の顔を掴み、地面に叩きつける。

一瞬で叩きつけたと言うのに、油法師はその間にも私を何度も切り付けたようだ。浅い切り傷が腕にいくつかできている。

 

「化け物め」

「まだ話せる元気があるうちに、実行犯に伝えてくださいな。今すぐ異変を止めるようにね」

「残念だが、断らせてもらう!」

 

油法師は刀を振り、私の腕にぶつける。刃は腕に接触したまま動かず、油法師は焦ったように何度も刀を私の腕に叩きつける。

魔法で強化しているとは言え血も流れ出ない様子に、油法師は絶望の表情を浮かべる。

 

「聖さん!」

 

清蘭が私の頭を撃ち抜く。ハッとし、油法師から手を離す。

油法師は既に白目を向き、顔には深々と私の手形がついていた。

清蘭は困惑しつつも、安堵の表情を浮かべる。

 

「びっくりした……頭撃ち抜いても平気とか……」

「ありがとうございます、清蘭さん……」

「聖さんは知ってたっぽいけど、コイツらは一体?」

 

清蘭は地面に転がっている実々美を足で軽く蹴る。気絶しているはずの実々美は一瞬跳ね回り、すぐにまたおとなしくなった。

私はどう説明したものかと頭を悩ませつつ口を開く。

 

「この妖怪達は昔暴れていた蝉の妖怪です。集合意識を持ち繋がっている個体全てで一個の生命体で、死生観は妖怪より妖精に近いですね」

「……死を恐れない統率された軍隊ってわけか」

「一人一人は大した実力じゃないんですけど……」

 

蝉の鳴き声がどんどんと近づいてくる。

頭上にまた大量の実々美が飛来してくる。

 

「同士!」

「油法師も!」

「応援要請はここだ! 急ぎ戦闘準備!」

 

清蘭は耳栓をもう一度付け直し、銃を構える。

そんな清蘭を手で制し、私は片手で祈りを込める。

 

「南無三……【天符『釈迦牟尼の五行山』】!」

 

巨大な仏の掌が顕現し、空中を飛ぶ実々美達をまとめて地上に叩き落とす。

魔法の森に出来た掌型のクレーターでは、大量の実々美が蠢いている。

ほとんどは気絶したり抜け殻になっているが、意識のある一人を引っ張ってクレーターから出る。

 

「息がある者を連れてきました」

「……他は死んでるの?」

「死ぬと抜け殻になって土の中で幼虫として復活するので、この子達には死の概念が無いんです。そうですよね?」

「はい! 偉ぶって申し訳ありませんでした!」

「そして数が減ると極端に気が小さくなるのです」

「はい! 我々は蛆虫にも劣ります! 助けて!」

 

泣き叫ぶ実々美を地面に降ろすと、清蘭が素早く縄で拘束する。

そして異空間に手を突っ込み、中から色々と道具を取り出す。

 

「それは?」

「異空間収納ボックスですよ。能力をいい感じに調整して使ってるんですけど、家の倉庫にしか繋がってないんであんまりスペース無いんですよね」

「そうじゃなくって、その手に持っているものですよ」

「これはペンチです。とりあえずこの異変の主犯の場所でも聞き出そうかなって」

「こら!」

 

話しながら何でも無いように実々美の爪をペンチで挟む清蘭を叱りつける。

驚いた清蘭はペンチを落とし、困惑した様子でこちらを見る。

 

「生物の殺生や、故意に痛ぶるのは人道に反します。おやめなさい」

「えぇ!? あの人数ぶっ殺しておいて!?」

「殺してません! 潰れている様に見えますが……潰れたのは体だけで中身はありません」

「えぇ……じゃあどうやって聞き出すのさ」

「言います! 何でも話しますん!」

「ほら、話し合えば通じ合えるんですよ」

 

実々美は涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔で、笑顔を浮かべる。

そして数歩膝で下がり、頭を深々と下げて地面につける。

 

「この異変の主犯は……!」

「主犯は?」

「主犯は……」

 

実々美が顔を上げる。その顔には悪どい笑みが張り付いていた。

 

「隙あり」

 

振り返ると、今にも刀を振り切ろうとしている油法師がいた。

刀は清蘭の体を真っ二つにしようとしていた。

裏拳を飛ばし油法師の頭を狙うが間に合わない。

その瞬間、油法師の体が細切れになって崩れる。

 

「誰かと思えば、命蓮寺の聖さんじゃ無いですか。こんな所で何やってるんですか?」

 

刀に付着した油法師の残骸を振り払いながら半人半霊の少女、魂魄妖夢は首を傾げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。