東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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聖&清蘭編 四話

魔法の森を抜けしばらく歩き、霧の湖に到着する。

水位は目に見えて下がっており、普段は湖周辺で飛び回っている妖精達の姿も見えない。

 

「やっぱ湖周辺なだけあって涼しいな」

「え? ……そうですか?」

「熱中症にでもなってんのか? ほら、とりあえず聖も飲んどきな」

 

そう言って清蘭は鉄の水筒を異次元から取り出し、私に投げ渡す。

私は蓋を捻って開け、中の水を飲む。

その様子を見て清蘭は自分の額を叩いた。

 

「どうしました?」

「ナチュラルに壊したな。捩じ切りやがって」

「え!? 嘘……ご、ごめんなさい!」

「まぁいいよ。本当に加減が出来ないんだな」

「はい、お恥ずかしながら……」

「まぁ帰ったら銃を修理するついでに直すからいいよ」

「材料代を後で請求してください……」

「いいよいいよ、月の経費で落ちるから」

「経費?」

「っ! 団子屋の経費でね、落とすのよ! それよりあれはなんだ!」

 

清蘭が指を指す先には、紅魔館の門番である紅美鈴が立っていた。

帽子に肩掛け紐の付いた大容量の水筒。足元は小さな子供用プールに浸し、巨大なカラフルな傘が広げられている。その傘の内側からは雪が降っているように見える。

こちらに気づいた美鈴は、小さく手を振る。

 

「何だこりゃ……暑さ対策は万全ってか?」

「最初は帽子と水筒だけだったんですけどね。フラン様にイタズラされちゃいまして」

「ふふふ、微笑ましいですね」

「ところでお二人はどうしてこんな所に? 湖はもはや避暑地ではありませんよ」

「実は」

「おっと、私が話そう」

 

清蘭は私の発言を阻み、美鈴に事情を説明した。

大まかな話に違和感が無かったが、紅い霧を出してほしい理由だけは『異変調査をスムーズに進めるため』と理由を改変していた。

それを聞いた美鈴はうんうんと唸りながら首を縦に振った。

 

「なるほど! 確かにこの日差しさえどうにかなれば自由に動けますね! 早速お嬢様に聞いてきますね!」

「よろしくね」

 

美鈴は門に付いている小さな扉を抜け、屋敷の方に走っていった。

清蘭は背負った銃を地面に下ろし、傘の下の日陰に入る。

 

「なぁ聖、この異変は本当に収まるのか?」

「はい。元凶さえ何とかしてしまえば」

「それは聖一人でやるのか?」

「……そのつもりです」

「そうか……私は役に立たないのか?」

「いえ、そういうわけでは。……相手が強すぎると言いますか」

「相手を知ってるのか?」

 

清蘭は驚いた様な表情を浮かべる。

私は周囲を見回し、何の異変も起こっていない事を確認して頷く。

 

「でも、異変の元凶と主犯は別です。まずは正体不明の主犯を倒さないと……」

「……元凶のとこ行く時は私にも声かけなよ、聖一人だと心配だし」

「……」

 

私はその言葉に返事する事が出来なかった。

遠くの方では誰かが戦っている音がする。この幻想郷はあまりにも強大すぎる異変の脅威に晒されている、それを解決できるのは私だけだ。

誰も巻き込むわけにはいかない。

 

「お待たせしました〜! 中にどうぞ!」

 

美鈴が門を開け、私達を中に招き入れる。紅魔館の敷地内に一歩足を踏み入れると、ぐっと温度が下がる。

紅魔館を囲う魔術障壁が、外界と気温を分断し中を冷却しているのだろう。太陽の光は燦々と差しているが、それほど熱さも感じない。

前庭を通りすぎ、紅魔館の玄関をくぐる。紅魔館の内部はさらに気温が低く、冬の様な温度となっていた。

 

「うへぇ、今が冬だってやっと思い出したよ」

「今紅魔館内は河童の冷房がフル稼働、さらにパチュリー様主導で冷房魔術を至る所に仕掛けてあります。お屋敷の中じゃ防寒グッズが手放せませんね」

 

そう言いながら美鈴は別に外にいた時と変わらず涼しげな格好だ。

清蘭は夏の気温に合わせてか薄着だが、いつの間にか透明な膜の様な物が体を包んでいる。そのおかげで寒そうではない、月の技術だろうか。

 

「こっちです、この先の大図書館にてレミリアお嬢様がお待ちです」

「そういえばあのメイドは?」

「あぁ、咲夜さんですか? 大図書館にてお嬢様のお手伝いをしていますよ」

 

地下に向かう階段を降り、美鈴は大きな木製の扉を開く。

中は大きな古図書館で、天井近くまで聳える本棚がいくつも並んでいる。本棚には古い本や書かれている言語が読めない本等がぎっしりと詰め込まれている。その本の森の最奥で、吸血鬼レミリア・スカーレットが何かの機械を眺めながら唸っていた。

 

「お嬢様、お連れしました!」

「あぁ……河童じゃないの?」

「え? お嬢様が言っていた客人ってこの人達じゃないんですか?」

「……伝え方が悪かったわね。これもあの忌々しい太陽のせいかしら」

 

レミリアは眉間を押さえながら、一人用のソファにどかっと座る。

そして私達を見て、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「何? 用件は?」

 

発せられた第一声は短く、冷淡な物だった。

 

「紅い霧で太陽を遮っていただきたくやってきました」

「ふぅん。僧侶と忌々しい月の兎……ねぇ」

「レミィ、河童が来たの?」

「客人違いよ」

 

機械の中から聞こえた声にレミリアが返事をすると、あからさまなため息が機械の中から聞こえた。

レミリアも同様に大きなため息をつき、天を仰ぐ。

 

「私達だって見ての通り暇じゃないのよ。今紅い霧を発生させる機械を作ってるの、霊夢との約束で前の方法は封じられたからね」

「ふぅん。中の基盤は何使ってるんだ?」

「あん? ……河童の作った冷房を分解したやつよ」

「なら多分動かないんじゃないかな。魔術用途で使うなら別の基盤を使うべきだ」

「あら月の兎のくせに随分と地上に詳しいのね。ここは穢れが多くて息苦しいんじゃなくって?」

 

レミリアは煽る様に清蘭に詰め寄る。

しかし清蘭は毅然とした態度で、レミリアを見つめ返す。

 

「魔術用途の基盤ならすぐ用意できる。手を貸そうか?」

「ッ! 気に入らない!」

 

レミリアが手を叩くと、一瞬で紅魔館のメイド十六夜咲夜が現れた。

そしてレミリアは清蘭を指差す。

 

「咲夜、忌々しい月の兎からその基盤とやらを奪い取りなさい!」

「かしこまりました」

 

また一瞬にして咲夜の姿が消える。

次の瞬間には清蘭の後ろに周り、その背中にナイフを突きつけていた。

 

「ではお譲りください」

「奪うのよ!」

「では失礼して……どこに持っているのですか?」

「能力で収納しているからここには無いよ」

「だ、そうです。お嬢様」

「力の差を分からせて奪い取りなさい! 月の手を借りるなんて絶対許さないわ!」

 

咲夜はレミリアの指示を聞き、清蘭を解放する。そして一定の距離を開けてスペルカードを取り出す。

 

「【幻在『クロックコープス』】」

 

一瞬で銀のナイフが出現し、清蘭に向かって飛んでいく。

私が清蘭の前に割り込み、ナイフを全て叩き落とす。

 

「美鈴、咲夜を手伝いなさい」

「はいお嬢様!」

 

美鈴は大きく飛び上がり、私に目掛けて踵落としを繰り出す。

腕で受け止めるが、重く鋭い。

 

「聖白蓮さん! 私がお相手しますよ!」

「聖、そっちは頼むよ!」

 

清蘭はそう言うと背中に背負った銃を構えて図書館の中を駆け出した。

私は美鈴に向き直るが、その瞬間容赦のない正拳突きが顔に向かって飛んできていた。

 

「ッ!」

「お、気を完全に消していたのにいい反応ですね!」

「体の反応が鈍い……?」

 

美鈴から距離を取り、自分の手を握ったり開いたりする。

外にいる時の様な暴走感はなく、異変が起こる前の正常な状態に体が戻っている。

本来なら嬉しい事だが、今はそうではない。

 

「じゃあ私も本気を出しますね!」

「……勝てるかしら」

 

目の前に立つ龍の気を背負う美鈴相手に、今の自分では役不足と感じてしまう。

拳を一度強く握り、美鈴が構えると同時に構えを取る。

美鈴の構えは中国拳法、その中でも攻めるための構えをとっている。対して私は我流の魔術の身体強化で相手の技を受け、強力なカウンターを打つ構え。相性でいえば噛み合っているが、暴走状態に慣れた私では受け切れるかどうか。

 

「【気符『地龍天龍脚』】!」

「っ! 【天符『大日如来の輝き』】!」

 

美鈴が地面を強く踏み、周囲の地面が小さく飛び上がる。次の瞬間には美鈴の膝蹴りが龍となって向かってきていた。

あまりの気迫に切ったスペルカード。美鈴の膝蹴りを手の平で優しく包み込み、空いた手で祈りを込める。

 

「はぁっ!」

 

全力の掌底を美鈴に打ち込むが、美鈴は膝や肘を一点に集め掌底を受け止める。

そして掌底を放った手を掴み、美鈴は地面に着地する。

 

「そいやっ!」

「くっ!」

 

軽々と背負い投げをされるが、体を捻り地面に着地する。

手が離されると同時に、虹色の気が美鈴から発せられる。

 

「【虹符『烈虹真拳』】!」

 

目にも止まらぬ連撃が角度を変えて正面から私を襲う。

受け止め、受け流し、弾き返すが連撃は止まらない。幾百幾千もの拳の連打が、私の守りをすり抜け体に突き刺さる。

魔法で強化しているが、まるでその強化をすり抜ける様に美鈴の打撃は私を削っていく。

 

「とうッ!」

 

トドメと言わんばかりの蹴りを食らい、本棚に叩きつけられる。

本棚は魔法で守られているのか、硬い一枚の壁に叩きつけられた様な感覚だ。

遠くの本棚の合間から、清蘭がナイフに追われながらも交戦を続けるのが見える。

私も本棚から体を剥がし、ふらつく足を叩いて直す。

 

「ふぅ」

「まだやりますか?」

「えぇ、友人も諦めていませんので」

「はは。たまに門の前に来てくださいよ、手合わせならその時付き合いますよ」

 

美鈴は余裕そうな笑みを浮かべる。

今のままでは勝てない。だからこそ、私は本気を出さなければならない。

暴走状態じゃない今なら、殺さずに本気が出せる。

私は懐から魔人経巻を取り出し、即座に転読とスペルカードを発動する。

 

「【超人『聖白蓮』】ここからは攻めで行かせていただきます」

「はは。最強の矛はどっちでしょうか」

 

魔術で体をフルに強化し、美鈴の目の前で同じ構えを取る。攻めにとって理想の構え。

清蘭が本棚の間を飛び、私の頭上を通過する。ナイフの雨が降り注ぐが、私も美鈴も一歩も動かない。

息をすれば相手の顔にかかりそうな程の距離、私も美鈴も動かない。

レミリアが紅茶を飲む音だけが静かに響き、飲み干したカップを皿に置く。

その甲高い音をきっかけに、私と美鈴は同時に拳を放った。

 

「……」

「……ふ」

 

美鈴が不敵に笑い、そのまま崩れ落ちる。

先に当たっていたのは美鈴の拳だった。だが、魔法で強化した体は速さを選んだ拳を受け切った。

レミリアのため息が聞こえる。

振り返ると、そこにはボロボロの清蘭が立っていた。

 

「負けちゃった……」

 

私は清蘭の頭を優しく撫でる。

咲夜は奪い取った基盤を持って、機械の中に入っていく。

 

「ま、よく来たと褒めてあげるわ」

 

レミリアが満足そうに頷く。

図書館の中に、虫の鳴き声とレミリアの笑い声が響く。

 

「……? アンタ達虫でも引っ付けてきたの?」

「え?」

「お嬢様! 大変です!」

 

図書館に大声を上げながら、メイド妖精が駆け込んでくる。

走って図書館を駆け抜け、レミリアの前で床に積まれた本に足を取られて転ぶ。

 

「どうしたのよ、騒がしいわね」

「外が! 紅魔館が虫に包囲されています!」

「虫?」

 

レミリアがこちらに訝しげな視線を送る。私と清蘭は顔を合わせ、紅魔館の外に急ごうとする。

その瞬間、図書館の天井にヒビが入る。

 

「危ない!」

 

私は咄嗟に僧衣を脱いでレミリアに被せる。天井が崩れ、大量の虫が侵入してくる。蝉だけではなく、様々な種類の虫だ。

清蘭は向かってくる虫を撃ち落としつつ、メイド妖精を守っている。私は気を溜め、虫の大群に向かって突進する。

一塊となった虫を押し返し、地上に出る。

 

「なんですか……これは……」

 

紅魔館の中庭に出るが、そこはさっきとは景色が違っていた。大量の虫が紅魔館を球状に取り囲み、蠢いている。

こちらに気づいたのか二人の人影が、ゆっくりと飛んでくる。

 

「おやおやおやおや。これはこれは、聖白蓮様じゃありませんか。先ほどはどうも」

「貴方はさっき魔法の森で捕まえた実々美と……貴方はリグル・ナイトバグ?」

「えぇどうも。虫の王、リグル・ナイトバグです」

「あら、それで蛆虫連合の王様が一体何の用で私の紅魔館に?」

 

咲夜に日傘をささせながら、レミリアが歩いてくる。

その手にはグングニルが握られている。

 

「ここで日を遮る企みをしていると聞き、それを潰しに来ただけですよ」

「魔法の森で聞かれていたのね……」

「って事はスパイじゃないのね。よかった、始末するべき奴が二人も減ったわ」

「フハハハハ! 我々を倒そうと? 同士よ聞いたかい?」

「あぁ、この耳ではっきりとね。身の程知らずはどうなるか、ちゃんと教え込まないとね」

 

煽るリグルの顔に向かって弾丸が飛ぶ。虫の大群が弾丸を防ぐが、リグルはイラついた様子を見せる。

 

「へぇ、さっきの蝉の妖怪じゃん。私達に命救われた恩はないの?」

「格下相手から恩は感じない性分でね」

「よかった。これで容赦なく頭をぶち抜ける」

 

睨み合う私達の間に、虫の大群が滑り込む。

虫の大群が通り過ぎた後には、リグルも実々美も私達から離れていた。

 

「アンタ達の不始末、キチンとカタをつけなさい」

「えぇ、そのつもりです。清蘭、いけますね」

「あぁ、さっきの負け分ここで晴らす!」

 

それぞれが構える。

それを見て、二人の虫の妖怪はニタニタと笑みを浮かべた。

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