東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
針妙丸&百々世編 一話
目下に見える太陽の畑、並び立つひまわり達は真上を向いている。上空から見るとまるで黄色い絨毯の様だ。
お椀の帽子を深く被り直し、背後に浮かぶ輝針城を振り返る。
「おいおい姫様よぉ、どこ行くんだ?」
「正邪のお望み通りやってやるんだ! アイツ私を舐め腐りやがって!」
「血気盛んだねぇ」
蜈蚣の妖怪、姫虫百々世は私の隣で寝転びながら飛んでいる。
まるで関係がないかの様な顔をし、大あくびをする。
「大体何で百々世……さんは着いてきたの?!」
「百々世でいいよお姫様。何でって……暇だからかなぁ」
「暇だから!? やる事ない暇人なの?!」
「あ? ……まぁそうかもな。やる事がないから、少なくとも面白そうなお前に着いて来たのかもな」
「ぐぬぬ……みんな私を舐めやがって! 小さいからって馬鹿にするなよ!」
百々世は私を眺めてニヤニヤしながら、仰向けになってふよふよと飛んでいる。
私はイライラして速度を出すが、百々世を引き離せない。体の大きさが圧倒的に違うから、速度を出したところで距離を離せない。
「アイツの望み通りって言っても、誰を狙うんだ?」
百々世の質問に、私は動きを止める。
確かに、幻想郷を手に入れるとは言ってもどうすれば手に入れる事ができるのだろうか。
その時、頭の中に博麗の巫女の姿が過ぎる。
「へぇ、やっぱあの巫女が一番強いんだ」
「え!?」
百々世は何かを思いついたかの様に、ニヤリと笑った。
私は滑らせた口を今更塞ぐが、百々世は私を掴んで土の匂いのする髪の中に放り込んだ。
「決めたぜ姫様。俺もその博麗の巫女討伐に手を貸すぜ」
「何でさ! 大体勝てるわけないから無理だよ!」
「いいや、今の俺なら勝てる気がする! 俺は溢れる力をぶつける相手を探していたんだ! 俺は幻想郷を手に入れる!」
百々世は大きな声で宣言する。
その声に引き寄せられる様に、ひまわり畑から蝶が飛び出す。
「聞いちゃった聞いちゃった! 面白そうな悪の企み!」
「あぁ? 誰だ?」
誰かの楽しそうな声に、百々世は不機嫌そうに周囲を見回す。
空を飛ぶ蝶達が私達を通過すると、目の前に大きな妖精が羽を広げていた。
「私はエタニティ・ラルバ! 見ての通り妖精だよ!」
「あぁそうかよ。それで聞いてどうする? 博麗の巫女に告げ口するか?」
「ううん、私今すっごく調子がいいの! だから私も巫女にリベンジしようかなって!」
「調子がいい? 俺と同じか……?」
「え!? あなたも呼ばれてるの?」
「呼ばれて……?」
「あ、違うんだ」
百々世が首を捻ると、それを見たラルバは残念そうな表情を浮かべた。
そんなラルバを睨み、百々世は大きな舌打ちをした。
「おい姫様、コイツは嫌な予感がする」
「え、なにが?」
「蟲の報せってやつだ。倒すぜ」
「戦うの? いいよ! もっと熱くなろう!」
ラルバは空中で宙返りをし、弾幕をばら撒く。
密度は異常に詰まっていて、避ける隙間が見当たらない。
「【蠱毒『スカイペンドラ』】!」
百々世が蜈蚣の様なレーザーを放ち、ラルバの弾幕を食い散らかしながら突き進む。
百々世は空いた隙間をするりと抜けて、ラルバの目の前に躍り出た。
「【大蜈蚣『スネークイーター』】!」
「【蝶符『バタフライドリーム』】!」
蝶と蜈蚣が激しくぶつかり合い、花火の様に次々と弾け飛ぶ。
百々世はピッケルを何度もラルバに叩きつけるが、ラルバは踊る様にピッケルを華麗に避ける。
「あっはははは! すごいすごい!」
「ははははは! 絶好調だ!」
「百々世! 後ろ!」
髪の毛を引っ張り、百々世の体を動かす。背後から迫っていた弾幕を避け、百々世はラルバから距離をとる。
ラルバはニコニコと笑みを浮かべ、蝶を集めて自分の周囲を囲む。
「おい姫様、いい指示だが髪を引っ張らないでくれ」
「あ、ごめん……」
「だがいい指示出しだ。俺はそこまで頭が良くねぇし、一直線に突っ込むことしかできねぇ。だからそこら辺は任せるぜ、姫様」
「分かった! 任せて!」
私は針を取り出し、弾幕を準備する。
ラルバは一気に魔力を高め、神々しい光を放つ。
「準備は出来た? 一気にアゲてくよ【蝶符『真夏の羽ばたき』】!」
「来るぞ!」
ラルバは大きく羽ばたき、弾幕と蝶を放ってくる。
複雑に絡み合った弾幕が様々な角度から百々世を囲う。魔力を纏った蝶は速度は遅いが、確実に百々世を狙って飛んできている。
私は周囲を観察し、抜け道を探す。
「百々世! あそこの弾幕の隙間!」
「はいよお姫様!」
百々世は私の指示通り、弾幕と弾幕が絡み合う小さな隙間を通り抜ける。
蝶は素早く動く百々世に狙いを定め、弾幕から飛び出した百々世に向かってくる。
「【『七人の一寸法師』】!」
弾幕を放ち、百々世に向かう蝶を次々と撃ち落とす。
百々世は楽しそうに笑みを浮かべ、背中に付けていたシャベルを手に持つ。
ピッケルとシャベルを打ち鳴らすと、髪の中から蜈蚣が大量に這い出してくる。
「うわうわうわ! ここから出てきてたの!?」
「はははは! 楽しめよお姫様! 【蠱毒『カニバリスティックインセクト』】!」
蜈蚣は周囲の蝶を一瞬で食い散らかし、旋回して百々世の髪に戻ってくる。
百々世はシャベルを振りかぶり、ラルバをかっ飛ばす。
ラルバは回転しながら太陽の畑に落下して、ひまわりの絨毯を貫通して姿を消す。
「ふぅ」
「ふぅじゃないよ! 何だったの!?」
「さぁな。夏の
「思いっきり殴ったけど、死んでないよね……?」
「妖精だし死なないだろ、それに……」
「うん! 死なないし負けない!」
ラルバの声が背後から聞こえる。
「【蝶符『デッドリーバタフライ』】!」
「ルール無用は最初から分かってただろ! 【採掘『妖怪達のシールドメソッド』】!」
蝶と弾幕が目前まで迫るが、百々世が放ったレーザーが全てを焼いてラルバに直撃する。
直撃したレーザーは弾幕を放ち、ラルバの体に次々と当たる。ラルバは力任せにレーザーを弾き、蝶を引き連れ高速で周囲を旋回する。
「弾幕勝負は避けれる弾幕を打つのがルールだ、それを最初に破った時点でコイツは俺に負けてるんだよ」
「百々世! 囲まれた、完全に!」
「避けれねぇ弾幕なら、真正面から掘り進む! これが俺のスタイルだ! 【大蜈蚣『ドラゴンイーター』】!」
髪から這い出た蜈蚣達が合体し、巨大な蜈蚣となって周囲を旋回する蝶を食っていく。
ラルバは咄嗟のところで避けるが、百々世は素早く距離を積める。
「レッツディガップ!」
「アツいね……!」
ラルバの頭に蹴りを入れ、もう一度太陽の畑に叩き落とす。
ひまわり畑の真ん中で、ラルバが地面に埋まって気絶しているのが見える。
百々世はピッケルとシャベルを背中に掛け直し、髪の中から私を引っ張り出す。
私はどんな絶対絶命な状況でも諦めないその姿に、過去の相棒の姿を重ねていた。
「蜈蚣達が飯と勘違いしちまうから、もっと別の所に乗っててくれ」
「え、うわ!」
蜈蚣達は私の前を通り過ぎ、百々世の髪の中に潜り込んでいく。
私はその様子を見て、昔小槌の反動で縮んだ時の事を思い出す。あの時は蜈蚣すら私を捕食対象として見ていた、嫌な思い出だ。
「はぁ……肩に捕まっとくよ」
「そりゃいいな。肩乗り姫様だ」
何が面白いのか、百々世はケラケラと笑いながらどこかに向かって飛んでいく。
一気に太陽の畑を抜け、迷いの竹林上空に差し掛かる。
「ねぇどこ向かってるの?」
「あぁ? 博麗の巫女の所に行くんだろ、なら博麗神社だろ!」
「まぁ……そうかも」
「何だよ姫様、ビビってんのか?」
「そりゃあ……ボコボコにされたし」
「任せとけって、俺がいるからそうはならねぇよ。いっその事俺達でこの幻想郷を手に入れちまおうぜ」
「無理だよ、その為には倒す人が多すぎる。大体私は……適当に時間を潰す為に出てきたんだし」
私がそう呟くと、百々世は私を掴んで目の前に持ってくる。
「おいおいビビってんな。弱虫は食っちまうぜ」
「痛い! 勝てない戦はやるものじゃないよ!」
「いいか、俺はもう
「ど、どうしたの? さっきから様子がおかしいよ……」
「調子がいいんだ! 今ならこの幻想郷で負ける事はない、そんな自信があるんだ」
百々世は饒舌に語り、拳を振り上げる。
髪の中の蜈蚣達が蠢き、髪が生きているかの様に脈動する。
そんな髪の毛の向こう側で、赤い何かと黒い何かが竹林の上空を飛んでいるのを見つける。
目を凝らす。それは博麗の巫女の博麗霊夢と、魔法使いの霧雨魔理沙だった。
「あ! 霊夢と魔理沙だ!」
「どこだ!?」
「後ろ!」
「どこだ!? リベンジマッチだ!」
百々世は私を握ったまま二人の元に向かう。
しかし二人は地上に向かって急降下し、一瞬で見失ってしまう。
「どこ行った!?」
「と、とりあえず離して!」
「あぁ……クソ、目が悪いから何も見えねぇ!」
「落ち着いて、私も探すから」
地上を注意深く探すが、二人の姿は見えない。
百々世はため息をつき、頭を掻く。
「あ〜? どこにもいねぇ……蜃気楼か?」
「いたと思うんだけどな……」
「まぁいいや、姫様はどうしたい? リベンジマッチには賛成か?」
百々世は私に向き直り、冷静に尋ねる。
私は少し考え込み、ゆっくりと頷く。
「私だってやってやりたい。小さくてもやれるんだって証明したい」
「それなら」
「でも、私は霊夢に恩がある。一時とは言え保護してもらってたから……」
「おいおい難しく考えすぎるなよ。リベンジマッチに恩もクソもあるか? 殺すわけじゃないんだ、死力を尽くして戦うだけ。それだけだ」
「う〜ん……?」
「それにこれは暇つぶしだ。このクソ暑い中何もせずに過ごすのか、貴重な夏休みを? もったいねぇなぁ。俺の腕試しに付き合ってくれよ。これならどうだ?」
「……うん、そうだね。サポートは任せてよ!」
「よっしゃ!」
百々世は嬉しそうにガッツポーズをし、私に手の平を差し出す。
私はその手を両手で掴み、握手に答える。
「俺達は同盟だ。暇つぶし同盟だ」
「はは、いいね」
「さぁ
「その同士ってダサいからやめてね。今まで通りでいいよ」
「ならお姫様、早速博麗神社に殴り込みだ!」
百々世の肩に乗ると、百々世は博麗神社に向かって加速する。
今日はやけに、蝉の声がうるさい気がした。