東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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針妙丸&百々世編 二話

迷いの竹林を抜けしばらく飛ぶと、博麗神社の大鳥居が見えてきた。

百々世は速度と高度を落とし、鳥居の前に着地する。

神社はがらんとしていて、人の気配は無かった。

 

「留守か?」

「そうかも」

「やっぱ竹林で探すべきだったか〜!」

 

百々世はため息をつき、すぐそばの石の台座にもたれ掛かる。

私はそこで違和感を覚えた。

 

「あれ? 狛犬がいない……」

「あ? 本当だな、どこ行ったんだか」

 

その時、神社の裏手で爆発音がする。百々世にここにいる様に言って急いで向かってみると、裏手では狛犬の高麗野あうんが地面に倒れていた。

そのすぐ上では、まだら模様の奇妙な服を着た妖怪が槍を持って飛んでいた。

 

「チチチ! 狛犬もこの程度。博麗の巫女など我々の相手になりませんね」

「うるさい! もっと涼しかったら……!」

「チチチチ! 涼しくてもあなたに負ける程我々は弱くはありませんよ」

 

悔しそうな顔を浮かべるあうんの前に、槍が突き立てられる。

私は居ても立ってもいられず、針の剣を持って飛び出る。

 

「おいお前! 何してるんだ!」

「針妙丸さん……!」

「チ……何ですかあの小人は、まさか助っ人のおつもりですかぁ?」

 

妖怪は馬鹿にした様な笑みを浮かべ、槍の先端を空に向ける。

周囲の木々から蝉が飛び立ち、その槍を中心にして集まる。

 

「ここまで心許ない助っ人が存在するでしょうか! あぁ可哀想な狛犬、守りたい物も守れず。みすみすご友人が蝉に喰われて消える様を見る羽目になるなんて!」

「うるさい! 針妙丸さん逃げて! こいつ強い!」

「ざんね〜ん! もう遅いで〜す!」

 

妖怪は楽しそうに槍を私に向けると、集まっていた蝉達が濁流の様に向かってくる。

百々世はさっきの戦闘でスペルカードを多く使っていた、ここは私が引き受けなければ。

針を咥え、蝉の濁流の上に乗る。

 

「【小弾『小人の茨道』】!」

 

蝉の頭を針で突き刺しながら、次々と蝉を飛び移る。弾幕をばら撒き妖怪にも攻撃するが、濁流蝉が弾幕をかき消す。

濁流を乗り越え、地面に降り立つ。

妖怪は少し不愉快そうな表情を浮かべ、槍を掲げて蝉を呼び戻す。

 

「あなた……何ですか?」

「お前こそなんだ! 私は少名針妙丸、誇り高き小人の末裔だ!」

「へぇ、そうですか。私は蝉の油熊四天王、油煮実々美(あぶらにじじみ)。同士の中では参謀を請け負っております」

「参謀……? 蝉……? とにかくあうんから離れろ!」

「うぅん、私もそうしたいのですがねぇ」

 

油煮は足元を困った様に見下ろす。

足元では、あうんが油煮の足を両腕で掴んでいた。

 

「逃げて! こいつは危険だから、霊夢さんを呼んできて!」

「これでは離れる事も出来ません。お友達らしいので、どうか離すように説得してくれませんか?」

「……あうん、離して大丈夫」

「ダメ! こいつと話しちゃダメ!」

 

一瞬あうんに視界を移した瞬間、あうんが叫ぶ。

急に足に力が入らなくなり、その場に膝をつく。

 

「チチチチチッ!」

 

気色の悪い笑い声を上げながら、油煮が手を叩く。

歪む視界であうんが手を離し、私の元に這いずってくる。

 

「残念でしたねぇ! どうやらあなた達にまだ強固な信頼関係はないようで、必死の訴えさえも無意味! チチチチ!」

「針妙丸さん……今ならまだ間に合う、逃げて!」

「邪魔ですよぉ、狛犬さん。今からここに罠を張り、帰ってきた博麗の巫女を捕縛しなければなりませんので!」

 

あうんは私に覆い被さり、油煮に向かって唸り声を上げる。

私はふらつく頭を殴りつけ、意識をはっきりと保とうとする。

あうんが一瞬で蝉の濁流に呑まれ、博麗神社の壁に押さえつけられる。

 

「ほらほら、小人さんも退いてください。邪魔ですよ」

「ぐ……くそ! 【輝針『鬼ごろしの両目突きの針』】!」

 

鋭い弾幕が油煮の目に突き刺さる。

油煮が目を覆って絶叫を上げると、あうんを押さえつけていた蝉達が一斉にバラける。

油煮の絶叫は地面を揺らし、木を揺らし、神社全体を揺らす。

 

「う……あうん、逃げるよ!」

「いいえ、逃げれません!」

 

あうんはフラフラと立ち上がり、油煮に対して牙を剥く。

 

「私はこの博麗神社の留守を任されています! 霊夢さんに危害を加えようとしている奴を、みすみす放って逃げられません!」

「っ! このクソ小人がぁ! 全員まとめて木の養分にしてくれるわぁ!」

 

油煮は充血した目で私を睨み、槍を振り回し蝉を集める。

そして集めた蝉を球にして、一気に振り下ろす。

 

「【小槌『伝説の椀飯振舞』】!」

 

小槌を振り回し、蝉を薙ぎ払う。

あうんが驚いた様に私の事を見る。

私は久しぶりに使った小槌の重さを腕に感じながら、あうんに笑顔を向ける。

 

「私も手伝うよ! こんな奴、二人で倒しちゃおう!」

「……! うん、やったりますよ!」

「ゴミカスがいくら手を尽くそうとも、私には勝てない事を教育して差し上げましょう! 【震符『共振破砕音波』】!」

 

空を飛ぶ蝉達が一斉に鳴き始め、音の塊がまるで透明な壁の様に迫ってくる。

あうんに乗り込み避けると、音の壁がぶつかった神社の柱が粉々に破壊された。

音の壁は感覚を開け連続して放たれるが、あうんを操りそれを避ける。

 

「何をしている同士達! もっとよく狙いなさい!」

「あの妖怪をやれば指示が途切れるかも!」

「任せて!」

 

私は針に糸を括り付け、針の先を曲げてかえしを作る。

そして糸を持って振り回し、針を油煮に向けて投げ飛ばす。針は油煮の服に引っかかり、かえしが機能し油煮を捕まえる。

 

「回って!」

「はい! 【独楽『コマ犬回し』】!」

「よし! 【大漁『空中大回転漁法』】!」

 

あうんが飛び上がり回転する勢いに合わせ、糸を引っ張り油煮を振り回す。

回転の勢いで周囲にぶつかりまくる油煮は、空高く飛んでいく。

太陽の光が眩しく、思わず目を細める。

 

「やりましたね! 針妙丸さん!」

「うん! 私だってやればできるんだぞ!」

「さすがですじゃ……我々小人族の星ですじゃ」

「さすが針妙丸! もう私も博麗の巫女をやめて部下になります!」

「異変に巻き込んでごめんなさい、部屋も返すから友達になってくれ!」

「正邪……みんな! やったよ! 私やった……」

 

太陽の光が目を焼き、手で日を遮る。

周囲には小人族も、博麗の巫女も、正邪もいない。代わりに油煮があうんを木に逆さ吊りにしている。

 

「あれ……? なんで……」

「ん? おやおや、もう解けましたか? さっきは地面でうごうごと回転していて面白かったのに、残念ですね」

「何で……お前は倒したはず……」

「あぁ、そうらしいですね。あなたの都合の良い妄想の中ではね」

 

油煮はあうんを木に吊り下げて固定し、私を摘み上げる。

 

「私の声は一種の催眠効果を持っていましてね、言葉を聞いたものに幻覚を見せる事ができるんですよ」

「幻……そんな……」

「チチチチ。体の自由が効かない今のうちに始末してしまいますかねぇ」

 

油煮は蝉に指示を出し、地面を掘る。そこに私を投げ入れ、足で土をかける。

体が自由に動かない。こんな所で何も出来ずに負ける。

私は悔しくって、涙を流す。

その時、背中側の土が盛り上がる感覚が伝わってくる。

 

「レッツディガップだぜ! お姫様!」

「百々世!」

 

土の中から百々世が飛び出す。油煮にアッパーを食らわし、私を受け止める。

油煮は空中に留まる蝉の上に着地し、口の端から血を流して百々世を睨みつける。

 

「貴様ぁ! どこの名無しの虫妖怪か知らんがこの私に手を出したのだ、絶対にぶち殺してやる!」

「はははは! うちのお姫様を埋葬しようとしていた馬鹿蝉が言うと迫力が違うなぁ!」

「百々世、あいつと話しちゃダメ!」

「大丈夫ですよ、お姫様」

 

百々世は自分の耳を指差す。耳には蜈蚣の形のヘッドホンが付いており、百々世は平気そうな顔をしている。

油煮はイライラした様子で蝉の大群の上からこちらを睨む。

 

「お前の催眠術は聞かないぜ。俺はもう攻略済みだ」

「えぇその様ですね! ですがプランはまだ用意してあります! 出番です同士達、このゴミ共を始末なさい!」

 

油煮はそう叫び、周囲を見回す。しかし、何も起こらない。

困惑した表情を浮かべる油煮の顔を見て、百々世は吹き出す。

 

「お前のお仲間は神社の表でおねんねしてるぜ! 石畳の敷布団はさぞ寝心地が悪そうだったがな!」

「貴様ぁ……! この無礼者め、私は大妖怪だぞ!」

「それがどうした、俺様は()()()()()()()()だぜ」

「この私が直接地獄に送ってやりましょう!」

 

油煮は蝉から飛び降り、百々世に向かって槍を突き立てる。

百々世は一瞥もくれてやらずに避け、踊る様な足取りで距離を取る。

 

「あ、そうそうひとつ言い忘れていた」

「今更命乞いですか? 無駄ですよ!」

「そこら辺地雷を撒いているから気をつけろよ」

 

油煮が一歩踏み出した瞬間、地面が爆発し弾幕が噴出する。

吹き飛んだ油煮は地面に落ちるが、落ちた先も爆発し空に打ち上げられる。

 

「【採掘『マインブラスト』】トドメは自分で決めな!」

「わ、分かった!」

 

百々世は私を空に投げる。

油煮はまた地雷に打ち上げられ、私の目の前に飛んでくる。

油煮を守るように飛ぶ蝉達は百々世の弾幕で次々と撃ち落とされていく。

 

「今度こそ! 【輝針『鬼ごろし両目突きの針』】!」

 

針の鋭い一撃で、油煮はバラバラと崩れて消える。

私はあうんが吊り下げられている木に着地し、あうんの足に絡まっている縄を切る。

落ちるあうんを百々世が受け止め、私はあうんの上に着地する。

 

「やったなお姫様」

「うん! 百々世もありがとう!」

「なぁに、俺は降りかかる火の粉を払っただけさ」

 

百々世はあうんを抱えたままずかずかと博麗神社に踏み込み、適当な座布団の上にあうんを寝かせる。

そして勝手に机の上に置いてあった煎餅を手に取り、半分に割って差し出してきた。

 

「博麗の巫女いねぇなぁ」

「異変解決に出たんじゃないかなぁ」

「なら博麗の巫女は後回しだな」

 

百々世は煎餅を細かく砕き、髪の中の蜈蚣達に分け与える。

そして机の上の菓子類を全て引っ掴み、おもむろに髪の中に突っ込んだ。

私が驚いた顔をしていた事に気づいたのか、百々世は恥ずかしそうに笑った。

 

「へへへ」

「へへへじゃないよ!? 何してんの!?」

「いや、もらって行こうと思って」

「ダメだよ! っていうか髪で持ってけるわけないじゃん!」

 

そう言うと百々世はすくっと立ち上がり、その場でバサバサと髪の毛を振る。

蜈蚣達が頑張って、髪の中の物が落ちないように支えているのが見える。

 

「ほら! 蜈蚣達が頑張ってる! 今すぐ解放しなさ〜い!」

「え〜、こいつらは仲間だよ。共生関係ってやつだ」

 

蜈蚣達は髪から顔を出し、うんうんと頷く。

ちょっと数が多くて気色悪い。

私はため息をつき、百々世の肩に登る。

 

「分かったよ。それで次はどこ行くの?」

「お、話が早いな。次は山の神社の巫女だ、虹龍洞では世話になったからな。たっぷりお返ししてやらなきゃな」

 

百々世は悪い顔を浮かべながら、私を肩に乗せ博麗神社を飛び立った。

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