東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
博麗神社を離れ、妖怪の山に差し掛かる。
地上からは蝉の声が喧しく鳴り響き、熱気がここまで登ってくる。
よく見ると所々に木に隠れた実々美がこちらを見ている。何もしてこず、ただ隠れてじっとしている。
ただ神社で見た奴とは姿が違う事が気がかりだった。
「アイツら大量にいるぜ。さっきも同じ姿の奴が大勢で襲ってきたんだ」
「そういえば参謀とか、同士とかって言ってた……何か巨大な勢力が異変を起こしているのかな」
「まぁ誰が異変を起こそうと知ったこっちゃねぇぜ。俺達はそれに乗じて暇を潰す、そんだけだ」
そう話していた百々世は急に立ち止まり、周囲を見回す。
私も同じ様に周囲を見るが、何もおかしいところはない。
「どうしたの?」
「あ? ……んだこりゃ?」
百々世は耳を澄ませ、地上付近に視線をやる。
私もお椀を集音器にして耳を澄ませるが、蝉の声しか聞こえない。
百々世はピッケルとシャベルを持ち、戦闘体制に入る。
「うっせぇぞ! 俺を従えたきゃかかってこい!」
「何!? どうしたの?」
「捕まってろ!」
百々世に言われるがままに、百々世の肩にしがみつく。百々世が急加速すると、地上から黒い柱が私達を狙う様に突き出してくる。
その黒い柱は小さい何かが集まっているのか、小さく蠢いて形を変えて追ってくる。
「何あれ!」
「厄介だ! 食われんなよ!」
目の前にも同じ柱が突き出してくるが、百々世はその柱をピッケルとシャベルで掘り進む。
柱の中で、私はその柱の正体を知った。虫だ。何千何万という種類の虫が集まり、柱の様に密集していたのだ。
私達を目掛けて虫が降り注ぐが、百々世はスピードを落とさず柱を突破する。
「毒虫肉虫羽虫に便所虫……季節も食物連鎖も無視して集まってやがる。こんな芸当が出来るのは一人しかいねぇなぁ!」
「ご名答だ! 姫虫百々世!」
黒い虫の柱は空中で球体を形成し、一瞬で解散する。
その中央には蛍の妖怪、リグル・ナイトバグが笑みを浮かべていた。
「さぁ、我々と共に行こう同士よ!」
「やなこった! 俺はこれから暇を潰しに行くんだよ!」
「蝉の大妖怪は我々虫の味方だ! 何を恐れるか!」
「くっだらねぇ! さっきも相手してやったが蝉共は碌な話をしなかったぞ、幻想郷の地下に虫の王国を作るだったか?」
「そうだ! 我々の安息の地! 人に怯えず動物に怯えず、繁栄を貪れる。僕達虫にとって夢の楽園だ!」
「そこが出来たら招待してくれよ、俺にとっちゃバイキングだぜ」
「……所詮は野蛮な蜈蚣、話は通じんか。同士よ!」
妖怪の山から蝉が一斉に飛び立ち、鳴き声を上げながら私達の背後に集まる。
蝉が晴れると、そこには地上から私達を見ていた実々美が羽ばたいていた。
「ははは! 交渉決裂だな、同士リグル!」
「黙れ、今はこの蜈蚣共を倒すのが先だ。我々の脅威となり得る力を持っている」
「百々世……」
「心配すんな、こんな奴らに靡く蜈蚣衆じゃねぇよ!」
百々世の髪の中から蜈蚣が一匹顔を出し、私に向かって頷く。
百々世はピッケルとシャベルを握り直し、ニヤリと笑った。
「【蠱毒『カニバリスティックインセクト』】!」
「え!?」
百々世は弾幕を放ち、蜈蚣達は弾幕に紛れてリグルと実々美に向かう。黒い虫の柱が一瞬で弾幕をかき消し、私達を押し潰そうと迫ってくる。
髪の中の蜈蚣がスペルカードを持って肩に乗ってくる。百々世はそれを受け取り、スペルカードを発動させる。
「【採掘『積り続けるマインダンプ』】!」
弾幕が私達を囲む様に展開され、虫の柱がその弾幕に触れると大爆発を起こす。
私達の周囲で虫の柱が次々と爆発していく。
「百々世、どういう事……?」
「何がだ?」
「どうしてこんな短時間でもう一度スペルカードが使えるの……?」
「あぁ。言ったろ、調子がいいんだ!」
「だからって!」
百々世は次々と弾幕を放ち、向かってくる虫の大群を蹴散らしていく。
弾幕もスペルカードも、少なからず魔力を消費する。だから節約のため、基本的には同じスペルカードをその日のうちに使いまわさない。
だが今の百々世はまるで無限のエネルギーを手に入れたかの様に、無尽蔵に弾幕やスペルカードを使いまわしている。こんな使い方をしていれば、いずれ魔力が切れて危険な目に遭う。
私は小槌を取り出し、百々世の髪の中から蜈蚣を引っ張り出す。
「大きくなれ! そして私達を守れ!」
蜈蚣に小槌を振い、空中に投げる。みるみるうちに蜈蚣は巨大化し、龍の様に空を泳いで虫の大群を食い散らかす。
「百々世! 私が弾幕や蜈蚣を大きくするから、消費を抑えて!」
「そりゃ助かるぜお姫様! 蜈蚣共、張り切っていくぞ!」
「鬱陶しい! 【蠢符『ナイトバグトルネード』】!」
「はははは! 蜈蚣への下剋上だ【五月雨『夏の訪れを告げる雨』】!」
雨の様な弾幕が降り注ぎ、虫が渦を巻き竜巻を作り出す。
雨の様な弾幕は虫の竜巻に巻き込まれ、加速した虫に紛れて私達に放たれる。
「急降下!」
「あいよ姫様!」
百々世に指示を出すと、一気に地上付近まで落下する。弾幕はまっすぐ飛んでいくが、虫達はこちらに急カーブし追ってくる。
上空では虫の竜巻自体がゆっくりと動き、私達を追って高度を下げ始めている。
「このまま真っ直ぐ、木々の間を縫う様に!」
「任せろ、蛇行は得意だ!」
百々世は地面スレスレを飛び、木々の間をスルスルと抜ける。
そして私は森の中にキラリと光る反射物を見つけ、そこを指差す。
「百々世! あそこ! あそこに行って急上昇!」
「ありゃあ……なるほどな!」
百々世は私の考えを理解したのか、速度をわざと緩めて虫を誘導する様に飛ぶ。
そして私が指を差した銀色に光る八角形の前で一瞬止まり、空に向かって飛び上がった。虫達はブレーキが効かず、そのまま巨大な蜘蛛の巣にぶつかる。
「ははは! 大蜘蛛の巣とは考えたな!」
「昔食べられそうになってね。記憶に残ってたんだ」
「あぁ! 虫達が!」
リグルは大蜘蛛の巣に捕まった虫を助けに、慌てて地上に降りていく。
雨の様な弾幕を躱しつつ、実々美の姿を正面に捉える。
「使えん蛍め! やはり信用出来るのは真の同士たる我々だけだ!」
地上から実々美が大量に飛び立ち、私達を囲む。
全員が同じ姿でやっぱりちょっと気持ち悪い。
「ははは! 蜈蚣狩りだ!」
「我々こそが夏の虫だ!」
「百々世、蜈蚣達。少し無茶するよ」
「おう、任せろ姫様!」
「蜈蚣達、散開して!」
私の合図と同時に蜈蚣達は、百々世の髪の毛から四方八方に飛び出す。その蜈蚣達全てに小槌を振り、蜈蚣達は実々美達の横をすり抜けて巨大化する。
「蜈蚣達よ! こいつらを食い散らかせ!」
「【『蠱毒のグルメ』】だ!」
百々世が弾幕をばら撒くと、それに向かって蜈蚣達が大口を開けて急加速する。道中にいた実々美達は迎撃や回避をするが、数の多い蜈蚣達に対処仕切れていない。
百々世はシャベルを構えて近くの実々美に殴りかかる。
「オラオラァ! 乱闘だァ!」
「一匹も逃さないで!」
私は暴れる百々世から飛び降り、弾幕を喰らう蜈蚣の上に着地する。
針に糸を通し、その糸の先に弾幕をくっつける。そして蜈蚣の前に垂らすと、蜈蚣は目の前の弾幕に向かって突進し始める。
「どけどけぇ!」
巨大な蜈蚣は実々美達を次々と轢き飛ばしながら、私の指示に従って暴れ回る。
大量の蝉と虫の大群が地上から向かってくるが、蜈蚣を操り正面から迎え撃つ。
「【小槌『もっと大きくなぁれ』】!」
蜈蚣に小槌を叩きつけ、蜈蚣をさらに巨大化させる。
蜈蚣は地上に虫達を叩きつけ、龍の様に暴れ回る。
「ッ! 制御が効かない!」
「なんだこいつは!? 【蛍符『地上の」
目の前にいたリグルに噛みつき、大蜈蚣はうねりながら天を昇る。
「ぐぁぁぁ!」
噛み付かれたままのリグルが絶叫を上げる。
天を昇る大蜈蚣の目の前に、百々世が蜈蚣を引き連れて立ち塞がる。
しかし大蜈蚣は減速する事なく、空を目指して速度を上げる。
「百々世! 止めて!」
「いくぞ蜈蚣衆共! 【大蜈蚣『ドラゴンイーター』】!」
蜈蚣を一斉に引き連れ、百々世は大蜈蚣に正面からぶつかる。
その瞬間ピッケルが大蜈蚣の頭を砕き、割れた頭を周囲の蜈蚣達が跡形もなく食い尽くす。シャベルで蜈蚣のバラけた体片を掻き出し、背後の蜈蚣達が食い尽くす。
百々世はピッケルとシャベルを何度も振り下ろし、大蜈蚣を粉々に粉砕していく。
十秒も経たないうちに大蜈蚣はバラバラに砕かれ、一瞬で蜈蚣達に食い尽くされた。
「よぉお姫様、無事かい?」
「……どうして殺したの?」
「あ? あぁ、俺達は共生関係だ。命令を聞かない奴は最後まで聞かないのさ」
「だからって……」
「蜈蚣は共食いするもんだ。そう落ち込むなよお姫様」
百々世は人指し指で私の頭を撫でる。
私は罪悪感と涙を袖で拭いつつ、百々世の手をよじ登る。
「ジジジ……蜈蚣め、夏の恩恵を受けるというのに我々に歯向かうとは!」
「まだ生きてる奴がいたか、随分としぶといな」
ボロボロの実々美がフラフラと近づいてくる。
周りを飛ぶ蝉も数は少なく、それ以外の虫達はどこかへ消えてしまった。
肝心のリグルの姿は見えないが、大蜈蚣に食べられていたんだ。しばらくは動けないだろう。
「我々は不滅、故に最強。故に大妖怪!」
「そうかよ」
「この異変で我々の同士は安息の地を得るのだ! 【『セミ・ファイナル』】!」
実々美は絶叫を上げながら、こちらに真っ直ぐ向かってくる。
槍が太陽の光を反射して、ギラリと光る。
百々世はシャベルを振りかぶり、実々美に叩きつける。
「弾けろぉ!」
「うぉっ!」
その瞬間実々美の体が爆発し、高密度の弾幕が放たれる。
百々世は咄嗟に蜈蚣を前方に展開し、弾幕を防ぐ。
しかしシャベルには大穴が空き、百々世はシャベルを捨てる。
「自爆かよ」
「百々世!」
私は周囲に渦を巻く蝉達の様子がおかしい事に気づく。蝉達も太陽の光を浴び、ギラギラと光っている。
ゆっくりと魔力が高まっているのが、肌で感じる。
「あれ全部自爆するつもりだ!」
「ははは! やべぇな!」
蝉達は旋回の速度をどんどんと上げ、私達めがけて次々と突撃してくる。
百々世は弾幕を防ぎバラバラになった蜈蚣達の欠片に魔力を込め、自身の周りを蜈蚣の死骸で囲む。
「【『千切れもがき苦しむ蟲の怨み』】」
蜈蚣の死骸が踊る様に蠢き、蝉達に当たり誘爆していく。
百々世は正確に蝉に蜈蚣を直撃させ、淡々と処理していく。
バラバラになった蜈蚣の欠片を使い切ると同時に、蝉の最後の一匹が爆発した。
「ふぅ、これで終いかな」
「……」
百々世は髪の中から博麗神社から盗んできた菓子を取り出し、砕いてその場にばら撒いた。
そして手を合わせ、静かに黙祷した。
「何してるの……?」
「散った蜈蚣共への弔いだ。あいつらは部下じゃなくて仲間だ、俺は身を挺して守ってもらったんだ。最低限の弔いは必要なのさ」
「そっか……ありがとう、蜈蚣たち」
「さぁ、腹減ってきたな。昼飯時も過ぎたくらいだ、守矢の巫女を倒したら飯でも食おうぜ」
百々世はニカっと笑うと、妖怪の山を進む。
目指す守矢神社が、遠くに見える。