東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
霊夢&魔理沙編 一話
「とは言ってもどこに行くんだ?」
「一応紫から手がかりはもらったわ」
スカートのポケットから地図を取り出し、魔理沙に投げ渡す。
魔理沙はいつもの魔女服を改造して、とても涼げな格好だ。確か流行りの『クールビズ』だとか言っていた事を思い出す。
魔理沙は地図を眺め、首を傾げる。
「どうして目的地が複数あるんだ?」
「その赤点周辺で力の出現を感じ取ったらしいから、どれかがビンゴって訳よ」
「なるほど。最初はどこから行くんだ?」
「とりあえず近場から潰していくわよ」
「……って事は人里か」
「人里は絶対違うから除外よ」
「じゃあ迷いの竹林だな」
魔理沙は箒の速度を上げ、迷いの竹林に向かって飛んでいく。
私も置いていかれないように速度を上げ、魔理沙と並走する。
五分と経たず迷いの竹林の前に到着する。
たけのこ達は成長に必要な雨が降らず、見窄らしく細いまま成長している。
「うわ、ひどいな」
「そう言えばしばらく雨が降ってないわね」
「魔法の森も今じゃカラカラの森だぞ」
「あんたの好きなキノコも音を上げてるわね」
「別に好きじゃない。どちらかといえばって話だ」
魔理沙は地面に生える一際立派なタケノコをもぎ取り、背負っていた大きめのカバンにしまう。
そのままの調子で竹林の中に入っていく魔理沙を追って、ゆっくりと私も竹林に足を入れる。
竹林の中は外と比べれば涼しく、そよ風が吹き抜けている。
「そういえば霊夢。外の世界じゃタケノコとキノコ、どっちが優れているかで競われてるらしいぜ」
「何それ、何かの例え話?」
「いいや、本当らしい。私はもちろんキノコ派だ」
「ふ〜ん。でも夏はタケノコの季節じゃないの?」
「霊夢、今は冬だぞ」
「……季節感ごっちゃになるわね」
魔理沙に一本取られたようで気に食わないが、気を取り直して竹林を進む。
竹林の中におかしなものはなく、所々に穴が掘られている程度。
そこで違和感に気づいた。
「妖怪兎共は?」
「……そう言えば見ないな。これくらい歩いてれば一匹くらいは見てもいいのに」
「……」
私は昔一度、似たような感覚の竹林に足を踏み入れた事があった。
それに倣い、試しに結界破りを放つ。
その瞬間空間にヒビが入り、張られていた結界が破れる。
「うわっ、やるなら一言声かけてくれよ!」
「永夜異変と同じ手ね」
「結界を張るなんて、よっぽど見られたくないものがあるんだな」
魔理沙が我先にと箒に跨り直進を始める。
私も竹に飛び乗り、しなりを利用して加速する。
魔理沙を追い抜かし、竹林の奥に進む。
(小さな地蔵を目印に、右に三十、正面二十)
永遠亭への目印を思い出しながら、竹林の中を飛ぶ。
「ストーップ!」
前方から声がする。
速度を緩めると、見覚えのあるウサ耳が竹林の中に浮かんでいる。
永遠亭の兎、鈴仙だ。
「ちょっと何やってるんですか!」
「異変解決」
「違いますよ! どうして結界破ったんですか!」
「うっさいわねぇ……張られてたから試しに破ってみただけよ」
「お、うどんげじゃないか」
遅れてきた魔理沙も合流する。
鈴仙はあからさまに嫌な顔をして、肩を落とす。
「とりあえずうちは無関係です。早めにお引き取りくださいな」
「それは出来ない相談ね」
「怪しさ抜群、敵なら撃つぜ」
「今永遠亭は急患まみれなんですから、これ以上問題を増やさないでくださいよ」
「急患まみれ?」
魔理沙の顔を見る。魔理沙は八卦炉を下ろし、私に向かって不思議そうな顔をした。
鈴仙は疲れからか、ふよふよと力なく竹林を進む。
「この異変のせいで、幻想郷の至る所で熱中症患者が出ているんです。人間だけならまだしも、水分補給をしなければ妖怪や神様ですら急患として運ばれて来ます」
「どうして水分補給をしないんだ?」
「自分の力を過信していたりが過半数ですね。ですが炎を操る妖怪だったり、熱にある程度の耐性がある者達も運ばれてきます。異変はただの気温の上昇ではなく、ある程度の熱中症のケアをしないと強制的に熱中症に陥るもの。とお師匠様が」
「うへぇ、水筒持ってきてよかったぜ」
「私の水筒なんだけど?」
魔理沙はお構いなしに水筒の中の麦茶を飲む。私も魔理沙から水筒を奪い返し、さっきの話を念頭に置いて麦茶を飲む。
鈴仙に案内されるがままに、永遠亭に着く。
中では人型の妖怪兎や、竹林に住む無関係の妖怪ですら忙しそうに動き回っている。
「ご覧の通り人手が足りず、竹林の妖怪達にも冷房と三食を条件に手伝ってもらっています。霊夢さんがぶち壊しましたけど」
「え、私? 何かした?」
「お師匠様が張った結界ぶち壊したでしょう!? あれのおかげで竹林の中はまだ春の初め頃の温度を保っていられたのに!」
「ご、ごめんなさい。そんな大事なものとは……」
「霊夢、素直にごめんなさいしような」
「ちなみに魔理沙さんが引き抜いたタケノコ、あれも結界の一部です」
「えぇ、ただのタケノコだぜ!?」
「異変の主犯に見つからない様に偽装してたんですよ!」
「もっと別のにしろよ!」
魔理沙はカバンからタケノコを引き抜き、地面に叩きつける。
地面にぶつかると鉄の様な音がする。
「何で鉄で出来たタケノコを普通のタケノコだと思ったんですか」
「メタルタケノコかと思って……」
「はぁ……結界は後で直しておくわ。それよりも怪しい人物を見ていたりしない? ここら辺で力が増幅するのを感じたって報告があって来たんだけど」
「怪しい人物……? 心当たりはないですね。お師匠なら右の一番奥の部屋にいるんで、聞いてみてください」
鈴仙はそう言い残し、集団で動く妖怪兎の群れに紛れて患者のもとに走っていく。
医者も大変だな。としみじみと感じていると、魔理沙に肩を叩かれる。
「おい、あれ」
魔理沙が永遠亭の中庭を指差す。そこにはいつかの異変で見た疫病神の依神女苑が、せっせと池から水を汲んでいた。
いかにも慣れていない様相で、水の入ったバケツをひっくり返さない様に精一杯運んでいる。
魔理沙を放って、裸足で駆け出す。焼けた砂利が足の裏に痛みを走らせる。
「手伝うわ」
「ありがと……博麗霊夢?!」
「どこに持っていくの?」
「……姉さんの病室」
「それじゃあペース合わせてね!」
一二の三でタイミングを合わせ、バケツを室内に運び入れる。そしてそのまま永遠亭を突っ切り、反対側の中庭にある倉庫まで運ぶ。
倉庫の中では顔色の悪い貧乏神の依神紫苑が、ふかふかの布団の上で眠っている。
「姉さん、水持って来たわよ。今体を冷ますから」
女苑はタオルを濡らし、べちゃべちゃのまま紫苑の顔に乗せる。
見ていられず、タオルを取り上げ十分に絞って額に乗せ直す。
紫苑は少しばかり涼しそうな顔をし、それを見た女苑はほっとした表情を浮かべる。
「……ありがとう、博麗霊夢」
「別にいいのよ。でもなんでこんな所に?」
「姉さんと私が疫病神と貧乏神だから」
「はぁ!? あったまきた、あの赤青に直談判してやる!」
「違う違う! 先生じゃなくて、他の入院患者達が……」
振り上げた拳を納め、怒りを鎮める。
いかに貧乏神疫病神といえど病人にこの扱いは如何なものかと思ったが、他の患者がきっと猛反対したのだろう。
それならばこの倉庫は涼しいし、永琳の温情と取れる。
心の中で永琳に謝罪しつつ、寝込む紫苑の手を握る女苑を見る。
「どうして博麗霊夢はここに?」
「異変解決の為なんだけど、情報が足りなくって」
「情報……怪しい人とか?」
「うぅ、怪しい……」
紫苑が女苑の手を握り、呻き声をあげる。
紫苑は細い指を伸ばし、窓の外を指差す。
「三日前、あっちの方が夜なのに明るかった……異常な程に……」
「あっち? 分かった、あっちね」
「女苑……」
「姉さん何? どうしたの?」
「涼しいわ、ありがとう」
「別にこれくらいなんて事ないわよ」
二人をそっとしておき、私は倉庫を出る。
紫苑が指を刺した方向。永遠亭からの観測だから、方向感覚が狂っている事はない。ここから直線上に、何があるか。
地図を広げて現実の風景と照らし合わせる。
「よぉ霊夢、いい情報をもらってきたぜ」
魔理沙が小さなメモをひらひらさせながら、地図を覗き込んでくる。
そして私が見ていた方向を指差し、ドヤ顔でメモを読み上げる。
「三日前の夜、この方角で」
「光があった。でしょ、聞いたわ」
「……ちぇ。じゃあ次の目的地は旧地獄だな」
「待って、それどういうこと?」
「ん? あっちには旧地獄から薬を買い付けに来る為の近道があるって……」
「魔理沙、お手柄。とりあえずその近道を探しに行くわよ」
永遠亭の玄関に置いたままの草履を掴み、中庭から飛び出す。
空中で草履を履き、地表を注意深く観察する。
後から追いついた魔理沙はサンダルを箒の上に立って器用に履いてみせる。
「でもそんな穴なんて見つかるのか? どれくらいの穴か」
「見つけた!」
地表に開いた小さな穴は、隠される様に岩で蓋がされている。すぐそばに降り、岩をどかして穴を開く。
大の大人一人分の直径の穴は、緩やかなカーブを描いて遠くまで続いている。耳をすませば風の音がするため、ここで間違いは無さそうだ。
「ここ?」
「風に乗って妖気が混じってる。ここで間違いないわ」
「よっしゃ、一番乗り!」
先行して穴の中に飛び込む魔理沙の後を追って、私も穴に飛び込む。
魔理沙の尻を追いながら、入り組んだ地下道を進んでいく。
「霊夢! 何か並走しているぞ!」
魔理沙が叫ぶ。並走などあり得ない。なぜなら上下左右全て土の壁で塞がれているからだ。
魔理沙に従いブレーキをかけ、周囲の壁を観察する。
すると、土の中を確かに何かが並走していた。
「霊夢!」
魔理沙の掛け声と共に、姿勢を低くする。
魔理沙の放ったレーザーが壁を直撃し、何かが飛び出す。
「おわーっ! ばれたー!」
「……誰!?」
土から飛び出したのは、大きなゴーグルを頭に掛けた見た事もない妖怪だった。