東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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針妙丸&百々世編 五話

前方の二人の姿がはっきりと分かる。

博麗の巫女博麗霊夢と、魔法使い霧雨魔理沙だ。

 

「博麗の巫女ォ!」

 

百々世が大声を張り上げると、二人は戦闘体制をとった。

 

「と、白黒魔法使い!」

「誰が添え物だ!」

「こりゃ都合がいい。ちょうど俺もやる気になって来たんだ!」

 

二人はまるで覚えがないかの様な顔をしながら、百々世の事を観察している。

もしかしたら百々世の事を覚えていないのかもしれない。

私は百々世の肩の上に立ち上がり、二人に見える様に手を振る。

 

「ちょっと事情があって、戦ってもらえない?」

「針妙丸? 事情って何?」

 

霊夢はイラつく様に尋ねる。二人共誰かと戦った後なのか、身体中に包帯が見える。

恐らく異変解決の最中だったのだろう。

それでも私はやらなきゃならない。

 

「実は輝針城の私の部屋が正邪に占領されちゃって、それを取り返すために倒されて欲しいんだ」

「はぁ?」

 

我ながら馬鹿らしい理由だ。

だがそれが事実で、私達の暇つぶしの口実だ。

しかし二人は小声で話し、私を心配する様な目を向ける。

 

「とにかく幻想郷を手に入れないと私の部屋がめちゃくちゃにされるんだよ!」

 

弁明のために口を動かすが、尚更訳の分からない言葉が出る。

百々世は吹き出しそうな顔をしながら、ピッケルを手に構えた。

 

「どうやら交渉は決裂、戦闘止むなしだなぁ!」

「霊夢、あいつアビリティカード異変の時の奴だ! 龍珠を掘ってた蜈蚣の親玉!」

「やっと思い出してもらえた様で何よりだ! 俺は姫虫百々世、縁あって小さなお姫様の幻想郷侵略を手伝っている身だ! 今度こそ二人共喰らい尽くしてやる!」

「今は疲れてるっていうのに……!」

「チャチャっと二秒で片付ける!」

 

ようやくやる気になった二人が、一気に攻撃の体制に入る。

百々世はその場で大きく周り、うねるような軌道で二人に向かう。

 

「【彗星『ブレイジングスター』】!」

 

魔理沙が八卦炉を箒に取り付け、弾幕を放ちながら高速で向かってくる。

さっきの宣言通り二秒でカタを付ける気だ。

 

「百々世! 防いで!」

「おうよ! 蜈蚣共、出番だ!」

 

百々世の髪の中から蜈蚣が這い出す。

向かってくる魔理沙に狙いを定めて体を縮め、弾ける様に飛んでいく。

私は小槌を振ってその蜈蚣達を大きくする。

 

「大きくなぁれ!」

「マジかよ!」

 

魔理沙は巨大になった蜈蚣に怯み、箒の向く先を変え下降していく。

蜈蚣達はそのままの勢いを維持し、霊夢に狙いを変えて向かっていく。

 

「っ!」

「しっかり捕まってろよ、お姫様!」

 

霊夢が結界を張り蜈蚣を受け止めようとすると同時に、百々世が蜈蚣の集団の中に飛び込む。

蜈蚣達が体をうねらせ、百々世を前に前にと押し出していく。

一瞬で結界と蜈蚣の接触部まで着くと、百々世は結界に飛びついた。

結界に触れた部分が焼ける様な音と共に、白い煙を上げ始める。

 

「っ! 針妙丸!」

「はいはい! 小さくなぁれ!」

 

百々世の叫びを聞き、私は後先考えずに小槌を振り下ろす。

小槌が結界に触れると、結界は一瞬で元の半分ほどの大きさになった。

もう一度振り上げ、結界に向かって振り下ろす。

 

「発!」

 

霊夢が結界を足がかりに後ろに飛ぶと同時に、いつの間にか結界に貼られていたお札が爆発する。

結界が消え爆風が私達に直撃しそうになった瞬間、蜈蚣達が一瞬で間に割って入る。

私が振り下ろした小槌を百々世が受け止め、私と同じサイズにまで縮小する。

 

「蜈蚣ぇ!」

 

百々世の号令と同じタイミングで、蜈蚣が体をしならせ私達を霊夢の方に弾き飛ばす。

 

「ここだよここ!」

 

霊夢の顔の側にきた瞬間、百々世が私に目で合図をする。

霊夢が顔を百々世に向けると同時に、私は百々世に小槌を振り下ろした。

 

「大きくなぁれ!」

「博麗霊夢打ち取ったりぃ!」

「そこだぁ!」

「っグ!?」

 

地上付近まで降りていたはずの魔理沙が箒で百々世を轢き、百々世が私の視界から消える。

 

「あんなに小さいのに見えたの?!」

「勘!」

「【蠱毒のグルメ】」

 

霊夢と魔理沙の話し声の中で、百々世の声が聞こえる。

ゆっくりと大きくなりつつある百々世が、魔理沙の箒を齧って木屑にしている。

私だってリベンジしたい。その為には小槌の反動を恐れていては何も出来ない。

また虫よりも小さくなったとしても、今の私には百々世という力強い味方がいる。

恐れる事は何もない。自分に向かって小槌を振る。

 

「【小槌『もっと大きくなぁれ』】!」

 

体はどんどんと巨大になり、あっという間に二人の身長を抜かす。

みこし入道の様に二人を見下ろす。

 

「やばい落ちる!」

「魔理沙!」

 

箒を失い落下しそうになった魔理沙を霊夢が受け止める。

百々世は魔理沙の頭を踏んづけ、私の手の中に飛び乗る。

百々世は自分の体がまだ正常に動くかを確かめながら、口元についた木屑を拭う。

 

「こんなものか? 俺は満足してねぇぞ!」

「魔理沙、行ける?」

「ちょっとまずいかも……!」

 

二人の会話を聞き、百々世は少しイラついた様な表情を浮かべる。私も同じ気持ちだ。

二人はもっと強かった。こんなものではなかった。私達のリベンジは、こんな難易度じゃないはずだ。

百々世がこちらにチラリと視線をやる。その瞳には、諦めの表情が浮かんでいた。

私は頷き、大きく息を吸う。

 

「降参なら今のうちだよ!」

「……そうだ! 俺らは勝ったという事実があればいい!」

 

百々世も私に続いて声を上げるが、悔しそうに下唇を噛んでいる。

しかし霊夢は魔理沙を抱えながら、私達を睨む。

 

「魔理沙、やるわよ!」

「……絶対落とすなよ!」

「そうこなくっちゃなぁ……!」

 

百々世が噛み締める様にこぼすと同時に、霊夢は前に倒れる様に加速する。

私は百々世を大きく掲げ、軽く握る。百々世は私の手の中で、手の平に対して垂直に足を立てる。

 

「行くぜ!」

「迎撃は任せろ!」

 

百々世を投げると同時に、魔理沙が弾幕をばら撒く。

一見適当にばら撒いた様に見えるが、いくつか穴が見える。百々世はその穴に吸い込まれる様に入っていく。

 

「蜈蚣の機動性を舐めたな!」

「……! 待って!」

「ルートは絞れたぜ!」

 

弾幕の合間を抜ける百々世目掛けて、八卦炉から細いレーザーが放たれる。

百々世はそのレーザーを回避するが、弾幕に隠れる様に投げられていた魔力詰めの瓶が爆発を起こす。

轟音が響き、小瓶が連鎖爆発を起こす。

百々世は爆風から抜け出し、爆煙の向こうの霊夢と魔理沙を探す。

その瞬間、爆風の中から魔理沙が単体で飛び出す。

 

「よぉ、箒の仇を取りに来たぜ。【魔符『スターダスト』】!」

「うぉ! 蜈蚣共!」

 

魔理沙がほぼゼロ距離で星弾を放つ。

その時。百々世の髪の毛から蜈蚣達が這い出て、百々世の目の前に集まり壁となった。

彼らは命を賭して百々世を守った、私も彼らに敬意を払わねば。

吹き飛ばされた百々世を見失ったのか、霊夢は魔理沙を受け止め距離を取ろうとする。

私はその行く先に回り込み、大きく手を広げる。

 

「逃がさないよ! これが本当の『ウォールオブイッスン』ってね!」

「針妙丸!」

「退け退けぇ!」

 

魔理沙がレーザーを放つ。巨大化しているとはいえ、直撃を喰らい焼ける様な痛みが走る。

魔理沙の背後に、蜈蚣の破片をかき集めた百々世が迫る。

 

「お前達の思いを無駄にはしない……【『千切れもがき苦しむ蟲の怨み』】……!」

「まずい! 後ろから来るぞ!」

 

バラバラになった蜈蚣達の欠片が百々世の元に集まり、大きな蜈蚣の姿を作り出す。

完全に不意を付けた、ここで攻め切れれば確実に勝てる。

 

「針妙丸ぅ! 行くぞぉ!」

 

大きな蜈蚣の頭に乗った百々世が私を見上げて叫ぶ。

私は小槌を目一杯振り上げ、全てを込めて振り下ろした。

 

「【小槌『お前が大きくなあれ』】!」

「【超大蜈蚣『ドラゴンイーター』】!」

 

龍の様に大きくなった蜈蚣は霊夢に狙いを定め、瞬きをする間もなく迫る。

その瞬間、二人は奇妙な動きを始める。

魔理沙を抱えているはずなのに、霊夢はお祓い棒を取り出し一瞬で印を結んだ。

魔理沙は八卦炉を投げ上げ、一瞬口に運んで片手で構えた。

 

「魔理沙! 合わせて!」

「こうなりゃヤケだ!」

「【大結界『博麗大結界』】!」

「【魔砲『ファイナルマスタースパーク』】!」

 

一瞬の間に、閃光が何度も放たれる。

百々世を蜈蚣ごと結界が囲うと同時に、極太の魔砲が百々世目掛けて放たれた。

結界は一瞬で構築できる様な代物には見えなく、存在するだけで私の目を浄化する。

魔砲は異常な程の魔力量を秘めており、直接食らってもいないのに肌が焼かれる様な感覚に陥る。

そうだ。この二人は強い、幻想郷で最も強い事を私は思い出した。

大蜈蚣が真正面から粉砕されていく。

 

「一瞬でも、勝てると思ったのが間違いだったの……?」

「最強は! 俺達だぁ!」

 

粉砕される蜈蚣の中から百々世がピッケルを構えて飛び出す。

百々世はまだ勝ちを諦めていない。私が諦めてどうする。

私は拳を握り、二人に目掛けて振り上げる。

 

「最強は! 私達だぁ!」

 

結界に魔砲が跳ね返り、百々世は背後から焼き尽くされる。

そのまま魔砲は結界を突き破り、私の顔面にぶち当たった。

目の前に星空の様な輝きを見せつけられながら、私の体は小さくなっていく。

やっぱり負けた。その思いが私の頭をよぎる。

 

(でも、楽しかったなぁ……!)

「俺もだよ、お姫様」

 

百々世の声が聞こえる。

優しく百々世が私の体を受け止める。

 

「もういい?! 疲れたんだけど!」

「あぁ、俺の。いや、俺達の負けだ」

 

空を仰ぎながら、百々世はため息をつく。

私も釣られて、大きなため息を漏らす。

 

「ごめんね、百々世。小槌の副作用を恐れなかったらもっとやれたんだけど……」

 

百々世は驚いた様な顔をして、苦笑した。

 

「いいんだよ、俺も結構楽しめたしな!」

「それで、あんた達は何が目的だったの? 部屋とかなんとか言ってたけど」

「あぁ? あぁ……実は鬼人正邪って奴がなぁ」

 

百々世が事情を説明しようとした瞬間、何かを感じ取る。

ビリビリとした痛みを発する顔を抑えながら、体を起こして周囲を見回す。 

 

「なんだ今の!」

「どこ!?」

 

霊夢と魔理沙も感じ取ったのか、周囲を警戒する。

まだ戦う力があるのかと感心していると、周囲の景色がゆっくりと歪み出す。

巨大な蜃気楼が現れ、その蜃気楼ははっきりとした人の姿に変化する。

 

「いやぁご苦労ご苦労。さすがは幻想郷、想像よりも早く現れる事が出来ましたわ」

 

歪んだ景色の中から、巨大な人影が浮かび上がる。

長い紫の髪をドリルの様に左右で巻き、その頂点からは二本の龍の様な角が生えている。

百々世のお腹がグゥと鳴る。

 

「……誰だお前」

「ご機嫌よう魔法使い。それと博麗の巫女。それから幻想郷の全ての生命よ! (わたくし)の名前は『楼山閣(ろうざんかく) ミズチ』、この幻想郷をこれから支配する女王ですわ」

「って事はあんたがこの異変の主犯って事ね!」

「ご名答ですわ。さすがは博麗の巫女。飲み込みが早い事で感心ですわ」

「ミズチって事は龍か……通りで美味そうな」

 

百々世が冗談の様に言うと、地上から大量に何かが飛来する。

ミズチが口元を隠し笑うと、その周囲に大量に蝉の妖怪である実々美が集まってくる。

その数は何百体といるのか、一瞬で周囲の景色は黒く染まった。

 

「うわ! 姿形全員一緒で気持ち悪い!」

「ご苦労実々美、約束通り幻想郷の下半分は差し上げますわ」

「ふん。私達の働きとして正当な報酬だな」

「ですが邪魔者がいては支配も出来ません。屈服させ、支配しなければ真の目的達成とは言えませんね」

 

何千体もの実々美が一斉に霊夢達に向く。空は実々美達に埋め尽くされ、渦巻き雲の様に上空を旋回している。

 

「ですが(わたくし)、争い事は嫌いでして。……なので降伏する時間をあげましょう」

 

ミズチは懐から時計を取り出し、こちらに向ける。

 

「明日の昼、昼食をとり終わった十四時ちょうど。その時までには幻想郷の支配権をに開け渡せる様にしておいてくださいまし」

「誰がそんな提案に乗るかっての!」

「おほほほほ! 拒否するならば更に気温を上げ、この地を焼き尽くす事もやむなしですわ! よくお考えなさってくださいまし! お〜っほっほっほっほっ!」

 

ミズチは高笑いを残し、煙の様に景色に溶けて消えてしまった。

空に渦巻いていた実々美達も解散し、各々幻想郷に散らばっていく。

太陽の光が残された私達の肌を焼く。

 

「霊夢!」

「……紫」

「なんだよ、また誰か来たぞ」

 

百々世が口をこぼす。

スキマを開き幻想郷の顔役、八雲紫が顔を出す。

 

「とにかく無事でよかったわ。今から事態を纏めるから、一度集まってちょうだい」

「えぇ、そうね。色々と確認すべき事もありそうだし……」

「あ?」

 

霊夢の言葉が急に止まる。

魔理沙も紫もどうしたのかと、動きを止める。

霊夢はまるで膝から崩れ落ちる様に脱力し、自由落下を始める。

百々世が私を魔理沙の元に放り投げ、霊夢を受け止めた。

 

「おっと、こうなったのは俺のせいでもあるな」

「……」

「睨むなよ」

「わっ、クソ! 百々世ッ……!」

 

落ちる魔理沙の背中を引っ張り、なんとか空中に止まる。

もうほとんど魔力も残っていないというのに、なんと無茶をさせてくるのだろうか。

しかしこれは信頼の形でもあるのだろう。

 

「重い〜!!!」

「あと少し! がんばれ針妙丸!」

 

吊り下げられている魔理沙が手を伸ばし、スキマを掴む。

私達はそのままスキマの中に入って行った。

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