東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦前夜編
決戦前夜 前編


異空間八雲邸。異変解決の為に動いていたもの達は、偶然か必然かここに集まった。

 

「それで……なんで早苗が?」

「清蘭もだ。お前らはどういう関わりだ?」

 

霊夢と魔理沙は不思議そうな顔をする。

霊夢は氷の詰まった袋を頭に乗せ、魔理沙は胡座をかいて紅茶を飲んでいる。

 

「そ、それにどうして蜈蚣の妖怪が……?」

「あぁ? どこに居ようが俺の勝手だろうが」

「ははははは! 蝉の妖怪が異変に関わっていたんです、蜈蚣の妖怪も十分怪しいですけどね!」

 

早苗が折れたお祓い棒を手に持ちブンブンと振り回す。

はたては百々世の視線に怯えつつ、早苗の後ろに隠れる。しかし百々世は大して脅威に感じていないのか、大欠伸をしながら寝転んでいる。

 

「なんでこうも嫌な思い出がある人ばっかり集まってるんだよ……」

「私も霊夢や魔理沙にやられた覚えがあるけど、今じゃ仲良しだからあなたも大丈夫だよ」

「皆さん平等に仲良しなのが一番ですからね」

 

清蘭は苦虫を噛み潰した様な顔をするが、針妙丸が慰める様に膝を叩く。

その様子を見て、聖は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「はいはい! 全員集まったわね」

 

八雲紫が大きなホワイトボードを引っ張ってくる。

橙もホワイトボードの端を持ち、押しながら部屋に入ってくる。

 

「まずは自体を纏めましょうか。異変の主犯が判明したわね、その名も【楼山閣ミズチ】」

「あのデカい奴ね」

「キンキン声でうるさかったな」

「アイツ龍だろ? 俺腹減ってきたよ」

「パッと現れてパッと消える、幻みたいだったね」

 

霊夢と魔理沙、百々世と針妙丸は口々に好き勝手感想を言い合う。

ホワイトボードにミズチの写真を貼り付け、紫は今出た情報をペンでボードに書き込む。

 

「こっちに情報がほぼ無いから、あなた達の証言だけが頼りよ。種族は龍? それで幻みたいな体? 声がうるさくって体が大きい?」

「でも幻を使ってくる蝉の妖怪いたよね」

「あぁ、あのザコ蝉。お姫様が博麗神社で埋められそうになってた奴か」

「博麗神社!?」

 

霊夢が机に乗り出す。

驚いた様に針妙丸がひっくり返りそうになるが、百々世が背中を支える。

 

「博麗神社に蝉が攻め込んでいたんだよ。あうんが応戦してたんだけど、結構強い奴で……」

「あうんは大丈夫なの!? 紫、スキマ開いて!」

「あ、一応百々世と私で倒したよ。あうんも無事だし」

「あぁ。大勢いた蝉の妖怪も俺がほとんどぶちのめしたしな」

「……ひとまずは大丈夫そうね、ありがとう」

 

霊夢はぶっきらぼうに礼を言い、姿勢を直して座る。

百々世と針妙丸はニヤリと顔を見合わせ、拳を突き合わせる。

紫が咳払いをし、沈黙を誘う。

 

「それで……幻覚? なんだったかしら?」

「姿の表し方的には幻に近いものを感じたわね」

「でもあれは」

「えぇ、あの力は」

 

黙っていた早苗と聖が同時に声を漏らす。

 

「「「神の力」」」

「……なるほど、龍だし神様に近いと言えるわね」

 

霊夢、早苗、聖が放った言葉に、紫は深く頷いてホワイトボードに書き足そうとする。

その手を二人の声が止める。

 

「近いじゃない!」

「あれは正真正銘神の力です!」

「巫女の私が断言するわ、今までに見た事のない類の古き神よ」

「まぁ巫女が二人も口を揃えて言うんだから、これは信憑性があるわね。でも記録がないのは少し気がかりね」

 

紫はホワイトボードに『龍神の類?』と書く。

霊夢は立ち上がろうとするが、疲れが出て膝を付く。代わりに早苗が紫からペンを奪い、『龍・神』と書き直す。

 

「神様ねぇ……地底の八咫烏もその関係か?」

「八咫烏? お空さんがどうかしたんですか?」

「暴走状態で地底は火の海だったぜ。私と霊夢でなんとかしたがな!」

 

魔理沙が得意げに早苗にペラペラと話す。

その言葉を聞いて、聖が何かを考える様に黙り込む。

 

「地底の八咫烏まで……」

「……何やら訳知り顔ですね」

「いえ、別に」

「アッ、すいません……なんか機嫌、損ねさせてしまって……スイマセン」

 

聖の沈黙を貫く態度に、はたては怖がって引っ込んでしまう。

その会話を聞いていた清蘭は柱にもたれ掛かりながら、銃を磨きながらクスリと笑う。

 

「聖は訳があって話せないのさ。私の口からならいくらでも話せるぜ」

「……いえ、ここでなら軽く話せますね」

「私の存在価値がどんどん減ってくなぁ!?」

「あ……私と同類ですかね」

「君と一緒にしないでくれ」

 

はたては目を【><】の形にして早苗の後ろに隠れる。

紫は手を叩き、全員の注目を集める。

 

「それで何を知っているの、聖白蓮?」

「えっと……私から言える事は少ないですよ。あの蝉の妖怪【油熊実々美】の事と、この異変でなんらかの力を受け取った人達の事ですかね」

「それなら私達も分かるよ! ね、百々世!」

「え? 何が?」

 

百々世は半分寝かけていたのか、口から涎を垂らしながら針妙丸の方を見る。

針妙丸は怒りながら百々世の頭をポカポカと叩く。

百々世はケラケラと笑いながら、針妙丸を摘み上げる。

 

「さっきの話の後者。力を受け取った奴ってのは、俺もそうだな」

「あ? あんたも異変関係者って事?」

「霊夢さん、武器をしまいなさい。少なくとも私達みんな関係者よ」

「どう言うことよ聖。五秒で説明しなさい」

 

霊夢はお祓い棒を握り、ゆっくりと立ち上がる。

 

「この幻想郷には【夏休み】が持ち込まれた、その時点でこの幻想郷で効果を受けていない者はいない。全員が関係者よ」

「説明になっていないわね」

「つまり玉兎が犯人か!?」

「あぁ!? なんで私なんだ!?」

 

急に立ち上がった魔理沙が清蘭を呼びさし、清蘭は驚きながら同じく立ち上がる。

魔理沙の後頭部に霊夢のチョップが入り、清蘭の後頭部にも聖のチョップが入る。

 

「あだっ!」

「あんたはいい加減そのバカ推理から離れなさい」

「なんで私も殴るのさ!」

「喧嘩両成敗です。ともかく夏休みという概念は受け取り手によって大きく変わります」

「人を殴っておいて話を続けるなよぉ……」

「夏に由縁のある者には力を、由縁のない者には堕落と悪症状を与えます」

「なるほどな、通りで俺の調子が絶好調なわけだ」

 

百々世がケラケラと笑いながら、髪の中から取り出したお菓子を貪る。

霊夢はそのお菓子に驚きつつも、平静を保とうとしている。

聖は百々世に視線を向け、大きく頷く。その隣にいつの間にかいた早苗も、大きく頷く。

 

「蝉や昆虫とかが活発だったのはそういう事ですね」

「蝉の妖怪は夏の加護を受けるにはうってつけ、その上数もいますからね」

「さらには能力での完璧な統率と羽を使った機動力、私から見ても兵士としては最適なチョイスだ」

「大妖怪として過去に大暴れした実々美達は、個体の強さではなく軍隊としての強さを見るべきです」

「あの蝉の妖怪、別に文献には載っていなかったけれども?」

 

紫の鋭い指摘に、聖は一瞬言葉を止める。

 

「昔、何度か見た事が」

「そういえば七十年がどうとか言ってたわね」

「あぁ、地底の奴か。そういえば言ってたな、寝過ごしたとか、みんなとか」

「みんなとは、恐らく他の実々美の事でしょう。彼女らは集合体で一つの生命、個体によって微妙な変化もありますが……」

「油熊四天王?」

 

早苗の発言に、霊夢と魔理沙以外が反応する。

その様子に驚き、霊夢と魔理沙も早苗の方を見る。

 

「神霊廟で倒しましたね」

「神霊廟? もしかして命蓮寺に立ち寄りましたか?」

「えぇ、蝉の妖怪を退治しましたよ」

「それは……ありがとうございます。その四天王ですが、実々美の特殊個体です。群に属さずに単独任務を可能とする、特殊技能を持った個体です。私達も一人倒しましたね」

「あぁ、魔法の森でな」

「私達は博麗神社で一人倒したね」

「あぁ、あの自称参謀な」

「……私達だけ手柄をあげていないって事?」

 

霊夢は不服そうに声を上げるが、その頭を紫が優しく撫でる。

 

「その名の通り四体しかいません。その中の三体を懲らしめる事が出来ただけでも十分な成果です。おかげで実々美達は単独行動が厳しくなり、異変の主犯が顔を出したのですから」

「なるほど、異変の主犯は追い詰められて姿を見せたって事ね」

 

紫はホワイトボードに、【負けそうになってたまらず顔を出した】と書き足す。

紫も幻想郷に好き勝手暴れられたせいで相当腹を立てているのか、そのペンを握る手には恨みがこもっている。

 

「実々美に関しての情報ですが、種族は知っての通り蝉の妖怪です。能力は他の個体と共鳴し情報を共有したり、力を増幅させたりします」

「どうせ全員戦ったんだろ? これ以上何を共有するんだ?」

「百々世、私達は共有すべき事あるでしょ! 妖怪の山で!」

「……あぁ、土蜘蛛の件か」

 

百々世は起き上がり、菓子をボリボリと貪りながらみんなの注目を集める。

 

「土蜘蛛が守矢神社を襲って」

「えぇ!? 守矢神社が襲われた!?」

「あぁ、あそこの神様と龍が倒してたよ。龍は怪我してたけど」

「えぇ!? 龍様が!?」

「うっせぇなぁ。あいつは簡単にくたばんねぇよ、同じ鴉天狗なら分かるだろ」

「あ……すいません……邪魔して……」

「とにかく、土蜘蛛をぶっ倒そうとしたら蝉の妖怪の話を聞けてな。うちの姫様が推理したところによると」

「虫は総じて操れる可能性がある、って事だね。実際土蜘蛛が無理やり操られる所も見たし」

「そう言うこった」

「なるほど、貴重な意見ね」

 

紫は橙が持ってきた実々美の写真をホワイトボードに貼り付け、細かく情報を書き込む。

 

「それで続きは?」

「えっと……それくらいしか無いわね」

「あら、結構短かったわね。数はいるのに特筆すべき事がないのかしら?」

「あいつら自体は俺みたいに強くはない。結局数がヤバいだけだ」

「そうね。でもそれなら何で貴方は操られていないのかしら?」

 

全員の視線が百々世に集まる。

百々世は嬉しそうに牙を剥き、ピッケルに手を伸ばそうとする。

 

「コラ! 全員やめやめ! 百々世は大丈夫だから!」

「あぁ? 姫様、俺はここでやり合ってもいいんだぜ?」

「百々世もふざけないの!」

「あれが冗談を言ってる妖怪の顔に見えるか? 私にはまだスパイの方が納得いくぜ?」

「魔理沙も黙れ!」

「黙れ!?」

 

魔理沙は驚いた様に針妙丸を見る。

針妙丸は机によじ登り、針と小槌を両手に構えて周囲を威嚇する。だがサイズがいつもより小さいため、迫力はない。

 

「俺は耳に蜈蚣を詰めてたおかげで洗脳が効かなかったってわけだ」

「うへぇ……」

 

耳から蜈蚣を取り出し、その光景を見て魔理沙が声を上げる。

みんな声には出さなかったが、その行動に若干引いていた。

百々世はみんなの反応が芳しくない事に首をすくめ、耳の中に蜈蚣を戻した。

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