東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦前夜 後編

「はいはい。ここにいるみんなは異変解決に向かう仲間、戦う前に数が減っちゃ困るわ」

「おい待てよ、俺はいつ異変を解決するなんて言ったんだ?」

「そうだ! そんなつもりで私達は動いていない!」

 

百々世と針妙丸が紫の言葉に立ち上がる。

早苗は目を輝かせ、腕を捲って膝立ちする。

 

「やっぱり虫側のスパイですね!」

「いいや違う! 俺達は【暇つぶし同盟】だ!」

「だ!」

 

百々世は腕を組んで仁王立ちする。

その腕の上に立ち、針妙丸も同じポーズを取る。

 

「俺達は暇つぶしに、昔負けた奴らにリベンジマッチを申し込む!」

「あわよくば幻想郷を手に入れる!」

「そんで鬼人正邪から部屋を奪い返し、お姫様は満足する!」

「百々世は! ……百々世はリベンジができる!」

「そうだ! それが俺達だ!」

「つまり異変解決に動いていたわけじゃないのね?」

 

二人が同時に頷くと、紫はため息をついて頭を掻きむしる。

そして何かを思い出したかの様に手を叩き、平静をとり戻して咳払いをする。

 

「残念ね。異変を一番に解決した人には、その働きに見合った『凄い』報酬をお渡ししようと思っていたのに……」

「凄い?」

「報酬?」

「えぇ、物凄い報酬をね」

 

百々世と針妙丸は顔を見合わせ、何かを小声で相談する。

そして同時に頷き、その場に座る。

 

「まぁ異変解決も暇つぶしみたいなものだし……」

「俺も強い奴とやれるんなら問題ないぜ」

「はい、ご協力どうも」

「ちょっと待ってください。報酬? そんな事の為に動いていたんですか?!」

 

今度は聖が立ち上がる。

紫は天井に顔を向け、肩の力を抜いて項垂れる。

 

「博麗霊夢!」

「は、はい!」

「巫女としての使命として異変解決に乗り出したのではなく、そんな私欲を満たすために異変解決をしているのですか!?」

「え……ごめんなさい……」

「霧雨魔理沙!」

「え、何!?」

「貴方は友人や隣人を助ける為に戦う人情深い人だと思っていました! そんな欲にまみれた人間だとは思いませんでしたよ!」

「えぇ……知らんが……」

「八雲紫!」

「私も!?」

「異変解決にそんな不純な報酬などを用意するのは邪道です!」

「だって……霊夢達がいつまで経っても異変解決に行かないから」

「全員説教です! 後日命蓮寺に来る様に!」

「はは。あの博麗霊夢が手も足も出てないな」

「清蘭もです!」

「あえ!?」

 

聖は怒りながらその場に座り込む。

紫は疲弊した顔をしながら、話が終わったかを確認する為に聖の顔を見る。

聖は座禅を組み、心を鎮めようと微動だにしていない。

 

「……はぁ」

 

紫は一際大きなため息をつき、ホワイトボードに向き直る。

 

「とりあえず分かったこととしては……異変の犯人は二人。一人目は主犯の【楼山閣ミズチ】、種族は龍と神? どんな力があるかは分からないけど、あの大きな体はおそらく本体ではない」

「俺から見れば美味そうだ」

「あっそう……二人目は【油熊実々美】、蝉の妖怪でミズチの手先。能力は……声で攻撃したり虫を操ったり? 複数匹いて統率は完璧。一匹一匹は大した力ではない」

「脆いですが、死んでもどこかの土の中で幼虫として復活します」

「あぁそう。やりすぎても問題ないらしいわ」

 

紫は投げやりにホワイトボードに『やりすぎても問題なし』と書き込む。

橙は飽きたのか、ホワイトボードの端に落書きを始めている。

 

「それで? これ以上に何かある人は?」

「はいはい! 私霊夢さんに伝言を預かってます!」

「私に? 誰から?」

「豊聡耳神子さんからです! 『聖は聖を知る』です!」

「どういう事? 早苗、聞き逃したりした?」

「あ、私もちゃんと聞いてました。伝言は合っています」

「……ふぅん。一応覚えておくわ」

 

霊夢は伝言を口の中で反芻すながら、小さく頷いた。

沈黙の中で、針妙丸が手を挙げた。

 

「結局戦うの?」

「当然よ。あんな奴に幻想郷は渡さない」

 

紫が即答する。

 

「明日奴が提示した時間。それが決戦の時刻よ。異論はあるかしら?」

「異論はないわ、異変解決は私の役目だし」

「馬鹿言うな、報酬は私のもんだぜ」

「神奈子様の期待に応える為、そして人里の皆さんの為に!」

「命令とはいえ、幻想郷に暮らすものとして……やります」

「信者の、仲間の、この幻想郷に生きる全ての存在の為に」

「この幻想郷で暮らすものとして」

「俺は姫様に着いて暇をつぶす」

「私は自分の力の証明のため!」

「……全員やる気十分ね」

 

紫は一人一人の背後にスキマを作る。

 

「貴方達の家に繋がってるわ。もう夜だし、今夜はゆっくり体を休めてちょうだい。決戦一時間前には迎えに行くわ」

「じゃ私は帰るわ、また明日」

 

紫の言葉を聞き、一番に霊夢がスキマを潜って姿を消す。

魔理沙は残った紅茶を飲み干し、スキマを通って姿を消した。

 

「では私もこれで。はたてちゃんも報告のために来てください」

「えぇ……家に帰りたい……」

「異変解決したら帰れますよ!」

 

早苗ははたてを引きずって、スキマを通って消える。

 

「では私もこれで、命蓮寺の様子も気になりますので」

「私もこれで。銃の修理をしなきゃ」

 

聖と清蘭は別々のスキマに入って姿を消す。

入れ違いに魔理沙がスキマを通って戻ってくる。

 

「なぁ、魔法の森がめちゃくちゃなんだが知ってる奴はいないか?」

「……さぁ?」

「そっか……私の小さな畑が……」

 

魔理沙は肩を落としながら、またスキマを通って姿を消した。

針妙丸はスキマを通ろうとするが、動く様子のない百々世に振り返る。

 

「帰らないの?」

「俺に家はないしな。ここで一晩過ごすぜ」

「……よかったら来る?」

「おいマジかよ。いいのか?」

「うん。輝針城に空き部屋がたくさんあるから!」

「そりゃありがてぇな!」

 

百々世は針妙丸を拾い上げ、スキマに向かう。

その瞬間、正邪がスキマから顔を出す。

 

「あ!? 八雲紫!」

「あら、天邪鬼」

「ここで見つけたが運の尽き! 覚悟ォ!」

「うっせぇ、邪魔だ」

 

百々世が正邪の顔を足で押し返し、スキマの中に消える。

全てのスキマが閉じ、静寂が訪れる。

紫はホワイトボードのペンを置き、その場に寝転がる。

虚な目で天井を見て、大きなため息を吐く。そんな紫の頭を、橙が優しく撫でた。

______________________________________

かまくらの中に焚き火の光が反射する。

氷の妖精チルノは上機嫌で魚を焼いている。

 

「よし! 出来たぞ!」

 

私に笑顔で差し出してくる。

私はそれを受け取り、ゆっくりと食べる。

 

「喉に詰めるなよ!」

 

チルノはそう言うと、自分の分の魚を暑そうに食べる。

私は魚を食べ終えると、焼かれているもう一本に視線をやる。

 

「まだ焼けてないから待ってな」

 

チルノはそう言いながら、冷ました魚を齧る。

私は弾ける炎をぼーっと見つめながら、静かに待った。

 

「よし、そろそろだな」

 

チルノが火から魚をあげると、真っ二つに折って片方を私に渡す。

 

「いいのですか?」

「あぁ、あたい舎弟には優しいんだ!」

「……ありがとうございます」

 

真っ二つになった魚を受け取り、口に運ぶ。

チルノは尻尾の方を自分で食べ、木の串を火の中に放り投げた。

 

「怖いのか?」

「えぇ……はい」

「大丈夫だって! あたいが着いてるから!」

「……本当にうまく行くんでしょうか」

「明日の事は明日だ!」

 

チルノは適当な事を言うと、その場に寝転んだ。

 

「せっかくの夏休み、楽しまなきゃ損だろ? だからおまえも楽しむんだよ!」

「……」

「どうしても元気が出ないか?」

 

チルノは心配そうな顔で覗き込んでくる。

私は首を振り、膝を抱えて火を見つめる。

 

「勝てるのか、分からなくって」

「大丈夫、あたいに任せれば全部問題ない! それとも舎弟なのにあたいの事が信じられないのか?」

「……そうですね。きっと貴方の様な人なら、ミズチにも勝てます」

「そのミズチって奴はあたいがぶっ飛ばす、任せろ!」

 

チルノはそう言うと、地面に敷いた寝袋に入り目を瞑る。

私も渡された寝袋に入り、目を瞑る。

 

「なぁ、お前は好きな奴とかいるのか?」

「え? 急になんですか?」

「キャンプといえば布団の中での恋バナだって言ってた!」

「あぁ、そうですか。私にはいませんね……」

「そっか、あたいもいないぞ。……恋バナって何が楽しいんだ?」

「きっと好きな人が出来たら楽しいですよ」

「じゃあ大人にならなきゃな! 大人になっても夏休みにキャンプをして、そんでもう一回恋バナをしよう!」

「いいアイデアですね……とっても素敵だ」

 

チルノの方を見ると、既に寝息を立てていた。

小さくなる焚き火を見ながら、うとうととし始める。

外は暑いが、氷のかまくらのおかげでここは涼しい。

私はいつの間にか明日への不安も忘れ、眠ってしまった。

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