東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦編
決戦 その一


「針妙丸、腹減った」

「正邪……さっき食べたでしょ?」

 

正邪は私の部屋の柱に括り付けられたまま、居心地悪そうに身を捩る。

百々世は真新しいシャベルを何度も素振りし、決戦の時間を今か今かと待っている。

私は背中に付けた小槌を振り、正邪の前に食べ物を用意する。

 

「おいお姫様、あんま無駄遣いすんなよ」

「大丈夫だよこれくらい。休ませたおかげで小槌の魔力もほぼ満タンに戻ったし、心配事は無いよ」

「そうかよ。よかったなぁ鬼人正邪、姫様の温情でこんな涼しい部屋に置いてもらえてなぁ?」

「うるせぇ! 針妙丸は騙されてるんだ、この蜈蚣野郎は裏切る準備をしてるぞ!」

「はいはい、裏切った正邪が言うと説得力あるね」

「針妙丸〜!」

 

正邪がジタバタと足を暴れさせると、部屋の扉の方から魔力の揺らぎを感じる。

扉に視線を向けると、そこには八雲紫のスキマが開いていた。

 

「……百々世、準備はいい?」

「あぁ、問題ないぜ」

「じゃあ正邪、ちょっと行ってくるね。帰ったら解くから、待っててね」

 

百々世の肩に登り、百々世はワクワクとした期待を足取りに感じさせながらスキマを通る。

 

「せめて飯は届くところに置いてくれ〜!」

 

正邪の叫びが聞こえたが、もう既にスキマは閉じてしまった。

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命蓮寺の中、仲間に囲われながら私は座禅を解く。

 

「そろそろ時間ですね。大丈夫です、夕飯までには帰って来ます」

「聖様……」

 

響子が心配で泣きそうな顔をしながら、抱きついてくる。

まるで死地に赴く我が子を抱くかの様な抱擁だが、私は優しく頭を撫でる。

 

「大丈夫です。任せてください」

「清蘭殿、聖の事をよろしく頼んだぞ」

「任せてよ」

 

清蘭はニヤリと笑いながら、背中に掛けた銃を叩く。昨日よりもさらに多い武装をぶら下げ、清蘭は少し動き辛そうだ。

それと同時に、本殿の入り口にスキマが開く。

私と清蘭は同時に頷き、スキマに向かって歩く。

草履を履き、一度振り返る。

 

「聖」

 

寅丸が火打石を打合せ、切り火をする。

命蓮寺のみんなが見送ってくれる中、私は清蘭と共にスキマを跨いだ。

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「お、もうこんな時間ですか」

 

開いたスキマでようやく時間に気づく。

絶賛消毒中の守矢神社とは違い、天狗の本部は壁掛け時計が少ないせいで時間を失念していた。

急いで荷物を掴み、お祓い棒を腰に差し込む。今回は巫女装束だから、武装をたんまりと詰め込める。

はたても気づいていなかったのか、それとも行くのが嫌なのか、椅子に座ったまま動かない。

龍はそんな様子を察して、静かに目を開いた。

 

「はたて」

「は、はい!」

「やはりこの件、お前に任せて正解だった。私の期待に応えて来てくれ」

「わ、わかりました! 必ず!」

 

はたては勢いよく立ち、今の発言を後悔したかの様に携帯を片手で握りしめる。

突然諏訪子様が抱きついてきて、私はバランスを崩しそうになる。

 

「早苗、危なくなったらちゃんと逃げるんだよ?」

「そんな心配はありません! 必ずミズチの首を取って信仰心に変えてみせます!」

「早苗」

 

神奈子様が私の頭を抱きしめる。

 

「気をつけろよ」

「……はい!」

 

私が返事をすると、泣きそうな諏訪子様が離れる。

ゆっくりと神奈子様も私を離し、はたての手を握って振り上げる。

 

「じゃあ、行ってきます!」

「あ。わわ」

 

手を繋ぎながら、私達はスキマを通った。

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神棚の前で祈りを捧げる。

魔理沙も私の隣で正座をし、神棚に向かって祈っている。

 

「……よし」

「……うし」

 

魔理沙と同時に立ち上がると、庭の木の下にスキマが開く。

私達は荷物をまとめ、縁側から庭に降りる。

蝉の声はどこからも聞こえず、日差しは今まで以上に強く輝いている。

満杯の水筒を固定し、草履を履く。

魔理沙も新品の箒の先端に涼風を出す扇風機を取り付け、帽子の角度を直して日差しを遮る。

 

「じゃ、あうん。留守番よろしくね」

「はい……お二人とも、お気をつけて!」

 

私は軽く手を振りながら、魔理沙と一緒にスキマをくぐった。

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「さて、みんな集まったようね」

 

昨日ミズチが出現した地点に全員が集合する。

全員決戦の用意はできているらしい。私は徹夜で作った魔力の籠った巻物を取り出す。

 

「これが幻想郷の権利書……そんな物は存在しないけど、それっぽく見える様に作ったわ。これをミズチに受け渡し、その隙に全員でミズチを強襲。上手くいけば三十分も経たずに帰れるわ」

「待って、そんな物が存在しない事相手も知ってるんじゃない?」

 

霊夢は当然の疑問を投げかけてくる。私は手の中で巻物を転がしながら、片手で目を擦る。

 

「昨日あなた達が帰った後、幻想郷中の人妖達に【楼山閣ミズチ】について聞いて回ったわ。でも得られた答えは一件だけだったわ」

「一件?」

「二ッ岩マミゾウよ。外の世界で少し聞いた事のある気がするって言う、心許ない発言だったけどね」

「って事はミズチは幻想郷の事を知らないのね」

「そうであってくれると楽でいいわね」

 

私は周囲の木々に魔術をかけ、魔術でも探知出来ない様に細工を施す。

 

「全員適度な距離を取って準備を。霊夢はミズチが隙を見せたら結界で拘束。他は私が合図を出したら一斉に飛び出て攻撃。一番危険な囮役は私、ミズチは私が誘き出す。幻想郷に手を出した事、後悔させてやるわ」

 

その瞬間、霊夢に尻を叩かれる。

数センチ地面から飛び上がり、尻を押さえて霊夢を睨む。

霊夢は目の下を指差す。

 

「あんた碌に寝てないでしょ?」

「……」

「これが終わったらぐっすり寝なさい、その為に私達がいるんだから」

「……分かったわ。私の夏休みは異変が終わってからね」

 

霊夢達は各々バラけ、魔術を施した隠れ場所に入る。

私は日傘と椅子を取り出し、その場に設置する。椅子に座り、懐中時計を確認する。

 

「後、五十分。楽しみに待っているといいわ」

 

時計と景色を交互に見比べ、ただ時を過ごす。

幻想郷は今日も夏景色だ。気温計では昨日よりも五度も高かった事を思い出す。

このままでは幻想郷は文字通り焼かれるだろう。

四十分、三十分、二十分。

 

十分、五分、一分。

 

「……」

 

時計が約束の時刻の一分前を指す。

しかし空にも地上にも、ミズチどころか実々美すら姿を見せない。

焦りからか激しい頭痛が脳を走り抜ける。

十秒、五秒、四秒。

 

(三秒、二秒、一秒……)

「初めまして、貴女が幻想郷を支配している方でして?」

 

時間ぴったり。私の目の前の景色が歪み、ミズチがそこに現れた。

魔術的な物ではない、何の力も感じなかった。

私は冷静を装い、足を組む。

 

「支配じゃない。管理よ」

「あらあらそれは、これからはその仕事もしなくてよくなりますわね。幻想郷の支配権をこちらにお渡しなさい」

 

私は隠し持っていた偽の権利書を取り出し、ミズチに見せつける。

ミズチは権利書をまじまじと見つめ、手を伸ばす。手が届く瞬間で私が手を引き、ミズチの手は空を切る。

 

「幻想郷は私の魂よ」

「ですが渡さなければ私、この幻想郷を燃やし尽くすと言ったはずですわ」

「えぇ、それは嫌。だから仕方なくこの幻想郷を譲り渡してあげるのよ」

 

私は権利書を地面に投げる。権利書はミズチの足元に転がり、下駄に当たって止まる。

 

「拾いなさい、虫の様に」

「ふふ。最後の抵抗がそれとは、実に可愛らしい。ペットにしてあげたいくらいですわ」

 

ミズチはゆっくりと腰を落とし、袖を捲って権利書に手を伸ばした。

 

「れ」

「結!」

 

私が霊夢に合図を送ろうとした瞬間、ミズチを檻の様な結界が囲む。

結界には『博麗』の文字が浮かび上がり、ミズチはしゃがんだまま動かない。

 

「さすがね、霊夢」

「あっけないわね、随分と」

「ふふふ、愉快ですわ」

 

ミズチはくすくすと笑い声を上げる。

私は椅子から立ち上がり、ミズチの入った結界を足で踏みつける。

 

「私の幻想郷に手を出したらどうなるか、たっぷり思い知らせてあげるわ」

「愚か愚か。私が何も考えずここに来たとでも?」

「なに?」

「実々美はどこに行ったのか? 姿が現れたり消えたりする者にどこまで話を聞かれていたか? 夜通し異空間を通っているとは言え、私の事を探り回れば気付かれかねないか? お顔を見れば随分とお疲れの様ですが……ちゃんと眠れているのかしら?」

「貴様……!」

「紫、こいつはここから抜けられない。落ち着いて」

「貴女もよ、博麗霊夢。私が最初になんて言ったのか、忘れたのかしら?」

「……博麗の巫女!」

 

霊夢は驚いた様な顔をし、お祓い棒を構える。

結界の中でミズチはケラケラと笑い出す。

 

「暑さで思考が鈍りましたか? 結構結構、計画通りですわ」

 

結界の中のミズチの姿が薄まり消えていく。

周囲を探すが、ミズチの姿はない。

私は激しい頭痛に襲われ、椅子に崩れる様に座る。

 

「紫!」

 

霊夢の叫びと同時に、羽音と蝉の声が幻想郷中に鳴り響く。

幻想郷中から実々美が飛び立ち、一瞬で空を埋め尽くす。

 

『交渉は決裂、これより幻想郷の廃滅を開始いたしますわ。実々美、邪魔する者をねじ伏せなさい』

「カスが! コキ使いやがって!」

「テメェ後でぶっ殺してやる!」

「ざけんなパープルヘアー!」

「紫キャベツみてぇな髪の毛しやがって!」

 

空を飛ぶ実々美達が口々に、ミズチへの罵詈雑言を吐き捨てる。

しかし目線はしっかりと、私達を捉えている。

 

「く……どうしてこうも上手くいかないの……!」

「紫、その為に私達がいるのよ」

 

霊夢が空を見上げ、針やお札を取り出す。

日の光を遮った実々美達は薄ぼんやりとした明るさの中で、ギラギラと光る目を霊夢に向ける。

 

「異変解決の最終幕、ちゃんと見届けなさい!」

 

霊夢が飛び立つと同時に、隠れていた全員も同時に飛び立つ。

実々美達は分裂し、集合し、狙いを定めそれぞれに向かっていく。

 

「……幻想郷をお願い!」

 

全員の後ろ姿が、実々美達の中に消えていく。

実々美の一部が私の方に向かい、飛んでくる。

椅子に変化していた藍が向かってくる実々美達を焼き尽くす。

 

「紫様! ここは危険です、スキマで退避を!」

「いいえ、私も戦う。少しでもみんなの負担を減らすわよ!」

「あぁもう! 分かりましたよ!」

 

藍が私の背中に付く。

上空に蠢く何百万もの実々美の大群は、霊夢達を撃退するために大きく四つに分かれた。

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