東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
「鬱陶しいですね!」
「撮っても撃ってもキリがありません……!」
追ってくる実々美をはたての撮影で動きを止め、弾幕で次々と撃ち落とす。
しかしすぐに新たな実々美達が投入される。
上下左右、どこもかしこも実々美の集団が私達を取り囲んでいる。
「戦力を投入し続けろ! あの巫女を疲弊させるんだ!」
大声で指示を出す実々美を弾幕で撃ち抜く。撃たれた実々美は真っ二つに裂け、上方向に落下していく。
「上下の感覚がやられている……」
「早苗さん! マズイです、第三陣です!」
「もう八陣です! しっかりしてください!」
疲労からか、はたての被弾が増えている。
守矢の守りを施しているとはいえ、これ以上の被弾は危険な領域だ。
「【奇跡『ミラクルペンタクル』】!」
弾幕を放ち、はたてに向かう実々美を撃墜する。
しかし実々美達はほとんどの攻撃の手をはたてに向け続ける。
「ジジジジ! 巫女が疲弊しているぞ、この調子だ!」
お札を投げ、声を上げた実々美を爆破する。だが、どれもこれも手応えが薄い。
体を捻り角度を変え、地上を探る。
「こっちが下! こっちが上!」
お祓い棒を振り上げ、奇跡の力を込める。
「【開海『モーゼの奇跡』】!」
下方の実々美達を真っ二つにする。そしてもう一度お祓い棒を振り上げ、下方の実々美達を細切れにする。
はたての腕を掴み、速度を上げて下方の爆発する実々美達の群れを抜ける。
目下に広がる幻想郷には実々美達が影を落とし、至る所で戦闘が起こっている。
「逃すな!」
実々美達が濁流となって追ってくる。
風を掴んで加速したいが、実々美達が飛び回っているせいで風の流れが無茶苦茶になっている。
はたては必死に翼を動かし、私の後をついて来ている。
「もっと速度出して!」
「は、はい!」
実々美達の射程距離に入ったのか、一斉に弾幕が発射される。
手鏡で背後を確認しつつ、前方の風を探り続ける。
弾幕は全てはたてを狙っており、はたてを囲う様に放たれていた。
「くっ!」
はたての手を引っ張り、速度を上げる。弾幕同士がぶつかり弾けるが、ギリギリはたては被弾していない。
しかし、私の目の前に実々美達が広がる。
気が散っていたせいで目の前に来るまで気付かなかった。
「放て【厄災『蝉地獄』】!」
実々美達が私達を取り囲み、渦を巻く。
その実々美達が叫び声を上げ、私達の体に浴びせる。
鼓膜が震え、振動で体内の血液の温度が上がる。
まるで電子レンジだ。
「あぁもう!」
「早苗さん!」
はたてが背後に迫る実々美を蹴り飛ばす。
はたては渦を構成する実々美を撮影し、動きを止める。動きの止まった実々美が他の実々美とぶつかり、大爆発を次々と起こす。
一瞬実々美が解散し、すぐに再集結し渦を巻き始める。
「……早苗さん!」
「なんですか!」
「も、もう一度穴を開けるので……その隙にここを抜け出してください……!」
「分かりました。でもはたてちゃんはどうするんですか?」
「私は……ここで囮になります……」
私ははたてを殴る。
突然の暴力になにが起こったか分からず、はたては困惑した表情を浮かべる。
「ばっきゃろー! 見捨てていけるわけないでしょう!」
「い、いえ。私を狙って早苗さんを疲弊させる事を狙っています。……つまり早苗さん一人に対して奴らは勝てないんです」
「それがどうしましたか!」
私は周囲にバリアを張り、実々美の音での攻撃を防ぐ。
しかしバリアにもすぐにヒビが入る。
はたては私の肩を掴み、頭を下げる。
「私は足手纏いなんです……! どうかお一人で、この異変をきっと解決できます……!」
「一人足手纏いがいた所で、私が負けるわけないでしょう!」
「足手纏いなのは否定しないんですか……やはり私は囮になった方が」
「囮になっても十秒も稼げないでしょう!」
はたてはがくりと肩を落とし、私の肩から手を離した。
今度は私がはたての肩を両手で掴み、頭突きをする。
「いたぁ!?」
「お友達見殺しにする正義のヒーローがどこにいますか!」
「と、友達……?」
「そうです、マブダチってやつです! 最後まで付き合ってもらいますからね!」
「で……でも……」
「はたてちゃんの力が必要なんです! 奇跡なんて使わなくっても、私には分かります!」
根拠のない言葉を並べ、はたてを元気づける。
バリアの割れ目から実々美達の叫び声が入ってくる。
私ははたてに手を差し出し、本心を言葉にする。
「はたてちゃん、一緒に来てください。あなたがいると心強いんです」
「……っ! わ、分かりました、全力でやらせていただきます……!」
はたては私の手を取る。
その瞬間バリアが破れ、実々美達は一斉に息を吸い込む。
「【写真『フルパノラマショット』】!」
カメラのシャッター音が響くと同時に、声を上げようとした実々美達の動きが止まる。
実々美達は渦を巻き続け、止まった個体に動いた個体がぶつかる。
はたては私の手を引っ張り、動いている実々美達の間を物凄い速度で抜ける。
「すごい、あっという間に離れる!」
背後で実々美達が爆発する。渦を構成していた半数は爆散するが、残りは私達を追ってくる。
はたては私を引っ張りながら、音よりも速く空を飛び回る。
「そこ! こっちも!」
私はお札や弾幕を投げ、追ってくる実々美を撃ち落とし続ける。
近づかれたとしても、声を上げられる前にはたてが速度を上げて距離を取る。
「これなら確実に数が減らせます! 凄いですよ、さすが鴉天狗!」
「……」
私の手を引くはたてを見る。はたては吐きそうな顔をしながら、白目を剥いていた。
顔は青ざめ、体が震えている。
「どうしたんですか!」
「つ、疲れた……」
「なんて自分勝手な!」
フラッと落ちるはたてを抱え、私は速度を上げて実々美達から逃げる。
だが、今の時間で十分稼げた。
「少し乱暴しますよ! はたてちゃん!」
「……へ?」
はたてをその場に投げ上げ、私は離れる。
実々美達は一瞬迷い、はたての方に向かう。
私は逆さになり、地面にお祓い棒を突き立てる。
「蛇符、省略……全員集合!」
地面から三匹の大蛇が飛び出す。
三匹の大蛇はまっすぐ飛び上がり、はたてに向かう実々美達を弾き飛ばす。
二匹の蛇ははたてを乗せ、こちらに合流する。一際大きな蛇は向かってくる実々美達を食い止めている。
「ナイス囮ですはたてちゃん!」
「うぅ……帰りたい……!」
「お二人もナイス働きです!」
二匹の蛇は嬉しそうにはたてに頬擦りをする。
「あ……紅魔館で守ってくれた蛇ですね! あの時はありがとうございます!」
蛇達は嬉しそうに目を細める。私は少しいたずら心がくすぐられ、蛇に顔を近づける。
「なになに? 鳥は好物だ? よかったですね、好かれてますよ!」
「えぅ……」
はたては怯む様に蛇達から距離を取る。
それを見て、蛇達は私に体を擦り付けて抗議してくる。
その時、たった一人で実々美を食い止めていた蛇が吹き飛ばされてくる。軽傷だが、これ以上のワンオペはキツそうだ。
「さて、おふざけはこのくらいにしておきましょうかね!」
「絶対! ……後で覚えていてくださいよ!」
波の様に群れを成し、実々美達が迫る。
その瞬間、群れのど真ん中から何かが飛び出し地面に突き刺さる。
「【神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』】!」
実々美の群れを何本もの御柱が撃ち抜く。
群れの真ん中に空いた穴から、神々しい光を放って神奈子様が現れた。
「神奈子様!」
「っ! 早苗後ろだ!」
撃ち落とされた実々美が地面を這いつくばり、私に近づく。
体を光り輝かせ、体内のエネルギーが上昇していく。
「【祟符『ミシャグジさま』】!」
突然巨大な蛇が地面を割って実々美を飲み込む。
そして御柱の中から諏訪子様が出てきた。
「早苗! 無事か!?」
「諏訪子様まで! どうしてこんな所に?」
「良かった〜! 怪我してないよ〜!」
諏訪子様は私に抱きつき、頭を撫でてくる。
神奈子様も迫る実々美を御柱で叩き落としながら、私の隣に降りてくる。
「お二人ともどうして?」
「この数はキツイだろう、私達が手伝ってやろうと思ってな」
「神奈子だって気が気じゃなかった癖に!」
「うっ、うるさい! この規模だったら私が最初から出ていた!」
「まったく、お二人とも口実探しにあくせくしていて大変だったんですからね」
誰かがまた御柱から降りてくる。
大きな翼を畳み、はたての肩を叩く。
「よく働いているな、関心関心」
「い、飯綱丸様!?」
「はたて〜、ゲロ吐きそうな顔ちゃんと撮りましたよ〜?」
「文!?」
飯綱丸の後ろからしたり顔の射命丸文が顔を出す。
はたての顔から疲労の色が飛び、生気に満ち溢れる。
「文、ここにきた目的を忘れていないだろうな?」
「はいもちろんです。我々天狗に攻撃を仕掛けてきた馬鹿な蝉の妖怪を、全員漏れなく一匹残らず退治する」
「その通りだ! かかれっ!」
飯綱丸が合図をすると、突然周囲を囲む実々美達が爆発する。
その爆発の後から天狗達が現れ、実々美達と戦闘を始める。
「今動ける者を全て動員した! 我々天狗の結束力を見せつけてやれ! 【光馬『天馬行空乱舞』】!」
「それじゃあはたて、また後で。【疾風『風神少女』】!」
二人の天狗は一瞬で空に飛び上がり、次々と実々美達を倒していく。
神奈子様と諏訪子様は私の前に立ち、何かを差し出す。
「これは?」
「お守りだ、渡し損ねたからな」
「これは私から! 黒幕は任せたよ!」
神奈子様から蛙と蛇の柄の入った、手作りのお守りを受け取る。
はたては諏訪子様から、守矢神社のお守りを受け取る。
「早苗、黒幕は」
「分かっています! このずっと上にいます!」
「さすが早苗だ。下は私達に任せておけ」
「はい!」
私はなんの躊躇いもなく、はたての手を引き御柱の中に入る。
扉を閉めると同時に、御柱が持ち上げられる感覚が外から伝わってくる。
私ははたての手を握り、奇跡をかけて保護をする。
「行くぞ! 舌を噛むなよ!」
御柱の底に寝転び、息を全て吐き出す。御柱が神奈子様の手で投げられたのだろう。
それと同時に下に物凄い勢いで引っ張られる感覚に襲われる。
御柱が激しく揺れ、何度も衝撃音が響く。恐らく空中を塞ぐ実々美達にぶつかっているのだろう。
呼吸がし辛くなると同時に、無重力が私達の体を浮かす。
「っ!」
気絶しているはたての手を握り締め、御柱から脱出する。
そこには衝撃的な光景が広がっていた。
「……! 霊夢さん!」
目下には分厚い雲の様に実々美が地平線の端まで見える。
実々美の雲の上では、霊夢と魔理沙がミズチ相手に弾幕で戦っていた。
「早苗遅い! あんたも手伝って!」
霊夢は一瞥もくれずに私に向かって声を荒げる。
私ははたての頬を叩いて目を覚まさせ、無理やり引っ張って霊夢の前に出る。
「無駄無駄! 巫女がいくら増えようとも私には勝てませんわよ!」
「早苗邪魔!」
吠える霊夢を無視し、奇跡を使って防御結界を張る。
「【幻砲『ドラゴン“エンドレスサマー“ブレス』】!」
ミズチが大きく息を吸うと、胴体が何倍も膨れ上がる。
口元に太陽の様な光が煌めいた瞬間、広範囲に火炎ブレスが吐き出される。
防御結界で防ぐが、ゴリゴリと削られる。
「っふ! なるほどなるほど、厄介な巫女ですわねぇ」
「……タヌキめ」
「龍でしてよ」
燃える口元を拭いながら、ミズチは嬉しそうに笑う。
防御結界には真ん中一点にのみヒビが入っている。恐らく広範囲の火炎は幻で、本体は不可視のレーザーだ。
火炎ブレスに危険を感じて背を向け逃げれば、不可視のレーザーで背中を撃たれる。そういう仕組みだろう。
「霊夢さん、あの人相当頭が切れますよ」
「えぇ、その様ね。そうじゃなければ今頃倒してるわよ」
「ですが安心してください。私は更に頭が切れます!」
私はお祓い棒を取り出し、天高く掲げる。
「我こそは守矢の風祝、東風谷早苗! いざ尋常に勝負です!」