東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦 その四 聖&清蘭

皮の捲れた拳に包帯を巻く。僧衣ごと焼けた足首に水をかけ、邪魔になった僧衣の焼け端を引きちぎる。

 

「清蘭! 大丈夫ですか!」

「あぁ、撃てば当たるし当たれば落ちる! こっちは最高だ!」

 

清蘭は直上に向けて銃を乱射する。

私達のすぐ頭上には、実々美達が覆い被さる様に天井を作っている。

私はその実々美達のもっと上に主犯がいる事が分かっている。それを理解している様に、実々美達は立ち塞がっている。

腕を組み何十にも積み重なった実々美の層が重力の助けを得て、私の打撃すらもまったく通らない。

それだけではなく実々美達は声で自分達の体を揺らし、体温を限界まで上げている。打撃を入れれば実々美は倒せるが、打撃を入れれば入れるほどこちらに火傷でダメージが返ってくる。

 

「退いていただけませんかね」

「ジジジ……最大警戒対象だ。お前だけは通すなという指令だ」

「そうですか……」

 

実々美達が一斉に降下してくる。私は思わず落ちてくる実々美達を両手で受け止める。

両手の平が焼け、痛みが走る。床を形作る実々美達も震え出し、高温の鉄板の様に熱を発し私を待ち構えている。

 

「聖!」

「撃ち続けてください!」

「分かった!」

 

清蘭は銃を撃ち続け、天井を形作る実々美を撃破していく。

だが力尽きた実々美は体を輝かせ、最後の力を振り絞って自爆する。

魔法で自分の体を保護しているとはいえ、体勢は崩れ天井の支えが落ちてくる。

実々美達に遮られ、ここには太陽に光すら届かない。

清蘭も自爆する実々美達を避けつつ発砲を続けるが、天井がゆっくりと下がるにつれて苦しそうな表情になっていく。

 

「私の対策はバッチリって言うわけですか……!」

 

天井を形作る実々美達がどんどんと降下してくる。

実々美の床が近づき、足元から熱気が登ってくる。

 

「清蘭! どこかに逃げ道はありませんか!」

「……ダメだ四方八方塞がれてる!」

「く……!」

「こんな所でホットサンドになってたまるか!」

 

清蘭は下方で床を構成する実々美達を次々と撃ち抜く。

しかし撃ち抜いた側から新しい実々美が空いた隙間に滑り込み、包囲が完全に崩れる事はない。

ついに足が下の実々美達に着く。草履越しに高熱が足を焼き、頭上の実々美達はさらに重みを増す。

上下を挟まれ、高熱を発する実々美達にジリジリと押し潰される。

魔法で体を防御すれば、完全に押し潰されても火傷程度で済むだろう。しかし生身の清蘭はそうはいかない。

 

「清蘭! 撤退を!」

「撤退!? どこに!」

「私が下に穴を開けます! そこを通って地上まで逃げてください!」

「聖を置いてけっていうのか!? それはできない相談だな!」

「わがままを言って……!」

 

清蘭は懐からメモを取り出し、指で何かを書き始める。

しきりに上を見上げ、ピストルを頭上に構えつつ私のそばにやってくる。

 

「もう……持ち堪えられませんから……!」

「聖、十秒持たせてくれ」

「……ッ! わかりました、十秒経ったら逃げてくださいね!」

 

清蘭は私の頭のそばにピストルを持って来て、頭上の実々美に狙いを定める。

そしてメモを見ながら、角度を調整する。

 

「ここだッ!」

 

清蘭がピストルの引き金を引く。

弾丸は実々美に向かって飛ぶが、当たる直前に異次元に吸い込まれる。

その異次元の穴の先、弾丸の通った軌跡を通って日の光が私の目に注がれる。

 

「ふんっ!」

 

湧き上がる力をフルに絞り出し、一気に実々美達を投げ返す。

実々美達は予想していなかった反撃に驚き、結束を解き一瞬でバラバラになる。

 

「やっぱ精密射撃は慣れねぇなぁ」

「どうして私の言う事を聞かなかったんですか!」

「まぁまぁ、良いじゃん何とかなったし。聖の暴走の原因も分かったしさ」

 

清蘭は銃を両手に持ち、周囲の実々美に向かって乱射し始める。

被弾した実々美は他の実々美に当たり自爆、その自爆に巻き込まれた実々美が誘爆する地獄が描き出される。

 

「聖! 昨日夏に由縁のある者は力が与えられるとか何とか言ってたよな。アレ、嘘だろ?」

「ぐ……」

 

清蘭はニヤつきながら、私に向かって飛んでくる実々美を次々と撃ち落とす。

素早く空になった弾倉を交換し、絶え間なく弾幕を張り続ける。

 

「夏じゃない。正確には太陽、そうだな?」

「……」

「どうやらその反応、正解っぽいな」

 

清蘭は私が顔を背けた事で疑念を確信に変え、また再集結し始めた実々美達にグレネードを投げつけた。

大爆発と共に焼けた実々美が床を形作る実々美達に降り注ぐ。

 

「まぁ聖が何にビビってるかは知らないけど、それが解決するまでは付き合ってやるよ」

「命蓮寺のみんなに頼まれたから……ですか? だからさっきも逃げなかったのですか?」

「あんたが背負ってるもんは相当大きいらしい、月で生まれた私では計り知れないくらいにはな。でもな」

 

清蘭は笑顔で私に向かって手を差し出す。

 

「友達の助け方くらいは私でも知ってる。一緒に解決しよう、聖」

「……敵はあまりにも強大です。そして何より、邪悪ではありません。だから私が、私が一人で止めなければならないのです」

「残念だが私は【ホトケノミチ】とやらを歩む気はないんだ。どう言ったって聖に付いていくよ」

「はぁ。どうやら貴方の更生には手がかかりそうですね」

 

清蘭はまっすぐと、私の目を見つめる。私はその手を取る。

その瞬間清蘭は私を振り回し、下方の実々美に向かって投げつける。

私は下方の実々美を蹴りで撃ち抜き、実々美達の包囲を突破する。

実々美を足で捉えながら、地面に着地する。腰を深く落とし地面を蹴り付け、バネの様にもう一度飛び上がる。

また再集結し天井を構成する実々美達の中に飛び込み、魔人経巻を両手で広げる。

一気に広げた魔人経巻を手を打ち鳴らす様に閉じ、一瞬で転読を済ませる。

体の底から湧き上がる魔力を全身に巡らせ、魔力で形作った独鈷杵を両手で握りしめる。

 

「【光符『インドラのヴァジュラ』】!」

 

独鈷杵に魔力を流しこみ、手当たり次第に実々美を切り捨てていく。

時間にして一秒も経たず、私達を囲んでいた実々美の数は半分にまで減った。

出力過多で融解する独鈷杵を捨て、新たな独鈷杵をもう一度作り出す。

 

「あと半分!」

「【弾符『ラビットシューティング』】!」

 

清蘭が結束が解け散り散りになる実々美達を次々と撃ち抜く。

しかし清蘭の背後から、実々美の塊が光り輝きながら向かってくるのが見える。

 

「清蘭!」

 

清蘭を庇う様に飛び込み、両手を広げて魔法で体を強化する。

実々美達は光り輝き、私にぶつかると同時に自爆をしようとした。

その瞬間、私の目の前の実々美達を巨大な光が包み込んだ。一瞬で実々美達は塵になり、肌が高濃度の魔力でひりつく感覚がする。

 

「聖様〜!」

 

声のした方を見る。

実々美達の壁を突き破り、巨大な船首が顔を出した。

 

「聖輦船!」

「聖様〜!」

 

船首に乗り出し、響子がこちらに手を振っている。

その後ろでは星、ナズーリン、一輪、雲山が控えている。

聖輦船は私達のすぐ側に止まり、響子が飛びついてくる。

 

「めちゃくちゃ怖かったです〜!」

「何もかもが上手くいかなかっただけですよ」

「聖、人里も襲われている。私達も戦うぞ」

「星……」

「聖が何を隠しているかは分からないが、私達では力不足か?」

「いえ。お願いします、力を貸してください」

 

私が頭を下げた瞬間、聖輦船の床の一部が開く。

そこからもう一人の玉兎が顔を出した。

 

「お、清蘭〜」

「鈴瑚?!」

「面白そうだから付いてきちゃった〜」

 

鈴瑚は笑顔でピースを作り、聖輦船の中から見た事もない工具を次々と引っ張り出す。

それを見た清蘭は慌てたように鈴瑚の手を止める。

 

「お、おい! それ月の……何したのさ!」

「ちょ〜っとこの船を改造しただけだよ」

「上にバレたらどうすんの!」

「バレないバレない、み〜んなそこまで地上に興味ないって。それじゃあ後は頑張ってね〜」

 

鈴瑚はにへらと笑い、聖輦船の中に向かって呼びかける。

聖輦船が軋む様な音を立て、聞こえるはずのない鉄のぶつかる音が聞こえる。

聖輦船の側面が開き、幾つもの砲門が顔を出す。

 

『こちら村紗! 発射準備完了だ!』

 

星が懐から通信機を取り出し、私に手渡す。

 

「聖」

「……では、初めなさい!」

「聖、ここのボタンを押しながらじゃないと聞こえない……」

 

清蘭が通信機の側面に付いたボタンを指差す。

私は一度咳払いをし、ボタンを押し込む。

 

「撃ち方はじめ!」

 

私の合図と共に砲門から次々とビームが放たれる。

私達の様子を見ていた実々美達を次々と撃ち抜き、一瞬で炎の海が空に出来る。

 

「人里や地上に絶対に被害が出ない様に尽力しなさい! 星は甲板で村紗と聖輦船の防御と、現場判断での指示をお願いします!」

「はい!」

「ナズーリン・一輪・雲山は撃ち漏らした実々美の対処をお願いします」

「はいよ」

「了解!」

「響子は船の中にいる村紗の補助を!」

「はい! 聖様!」

「それで……貴女は?」

「ん〜? 私は適当にやっとくよ〜」

「そうですか。では清蘭は私と元凶を倒しに行きます」

 

私は薄くなった上空の実々美達を指差す。

その向こう側に、ミズチがいる。

 

「あ、そ〜だ」

 

鈴瑚が何かを取り出し、清蘭に投げ渡す。

清蘭はそれを受け止めると、小さく頷き胸ポケットに入れた。

 

「頑張りなよ」

「うん!」

「聖、上空への突破口は私が開く」

「任せましたよ、星」

 

私は清蘭を抱え、聖輦船を蹴って空に飛び上がる。

実々美達は私に気付き、一斉に天井を形作り発熱を始める。

星は聖輦船の船首で、高々と宝塔を掲げた。

 

「【光符『浄化の魔』】!」

 

宝塔から何十本ものレーザーが飛び出し、束となって実々美達を貫く。

ぽっかりと上空までのルートが開け、私は速度を上げて実々美達の雲を抜ける。

上空には本物の雲は一つない程晴れ渡り、少し肌寒い。

 

「聖!」

 

清蘭に引っ張られ体勢が崩れると同時に、顔を巨大なレーザーが掠める。

太陽下で強化されている私の皮膚を裂き、頬からはダクダクと血が流れ出る。

 

「なんですか、一体……」

「あれ!」

 

清蘭が指差す先には、巨大な弾幕の塊が蠢いていた。

目を凝らせば、早苗や霊夢達が弾幕の塊に出たり入ったりしている。

 

「実々美達は何をしているのでしょうか。私の労力も考えていただきたいものですわ!」

 

弾幕の塊が弾けると、中からミズチが現れる。

その弾けた弾幕に混じり、はたてを抱えた魔理沙が吹き飛ばされてくる。

 

「いっ……たぁ……」

「おいおい随分と傷まみれだな、ここで見学でもいいんだぜ?」

「いえ、ここまで来て足手纏いでは笑えませんから……」

「いい心がけだ! お前らも足引っ張るなよ!」

 

魔理沙ははたてから手を離し、ミズチに向かって一目散に突進した。

私も清蘭を下ろし、独鈷杵を取り出し魔力を込める。

 

「聖!」

 

清蘭の声が聞こえると同時に、目の前にミズチが現れる。

ミズチは舌を出して笑みを浮かべながら、手に持った巨大な剣を振り上げようとする。

私は独鈷杵をミズチに投げつけ、独鈷杵ごと蹴り飛ばす。

 

「【夏想剣『異龍刀』】厄介な相手にはこれ一択ですわ」

 

ミズチが剣を撫でると、その姿が薄くなり空気に溶けて見えなくなる。

周囲に目を凝らすが、透明化故の空気の不自然な揺らぎなどは見えない。

突然空中から弾幕が生まれ、私達に向かって降り注ぐ。

密度の薄い弾幕を避けると、避けた先には剣を構えたミズチがいた。

 

「まずは一人」

「【凶弾『スピードストライク』】!」

 

ミズチに向かって銃弾が放たれる。

清蘭の顔には、モノグラスの様なものが付いていた。

 

「チッ、未来が見えても反応が遅れる……!」

「厄介なのがまだ」

「【夢符『夢想亜空穴』】!」

 

突然霊夢が出現し、ミズチに蹴りを入れる。

しかしミズチは蹴りを受け止め、霊夢を振り回して投げ飛ばす。

 

「このっ! いつまで経ってものらりくらり避けやがって!」

「それが私の戦闘スタイルですことよ!」

「清蘭、私達も追いますよ! ここで仕留めます!」

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