東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
皮の捲れた拳に包帯を巻く。僧衣ごと焼けた足首に水をかけ、邪魔になった僧衣の焼け端を引きちぎる。
「清蘭! 大丈夫ですか!」
「あぁ、撃てば当たるし当たれば落ちる! こっちは最高だ!」
清蘭は直上に向けて銃を乱射する。
私達のすぐ頭上には、実々美達が覆い被さる様に天井を作っている。
私はその実々美達のもっと上に主犯がいる事が分かっている。それを理解している様に、実々美達は立ち塞がっている。
腕を組み何十にも積み重なった実々美の層が重力の助けを得て、私の打撃すらもまったく通らない。
それだけではなく実々美達は声で自分達の体を揺らし、体温を限界まで上げている。打撃を入れれば実々美は倒せるが、打撃を入れれば入れるほどこちらに火傷でダメージが返ってくる。
「退いていただけませんかね」
「ジジジ……最大警戒対象だ。お前だけは通すなという指令だ」
「そうですか……」
実々美達が一斉に降下してくる。私は思わず落ちてくる実々美達を両手で受け止める。
両手の平が焼け、痛みが走る。床を形作る実々美達も震え出し、高温の鉄板の様に熱を発し私を待ち構えている。
「聖!」
「撃ち続けてください!」
「分かった!」
清蘭は銃を撃ち続け、天井を形作る実々美を撃破していく。
だが力尽きた実々美は体を輝かせ、最後の力を振り絞って自爆する。
魔法で自分の体を保護しているとはいえ、体勢は崩れ天井の支えが落ちてくる。
実々美達に遮られ、ここには太陽に光すら届かない。
清蘭も自爆する実々美達を避けつつ発砲を続けるが、天井がゆっくりと下がるにつれて苦しそうな表情になっていく。
「私の対策はバッチリって言うわけですか……!」
天井を形作る実々美達がどんどんと降下してくる。
実々美の床が近づき、足元から熱気が登ってくる。
「清蘭! どこかに逃げ道はありませんか!」
「……ダメだ四方八方塞がれてる!」
「く……!」
「こんな所でホットサンドになってたまるか!」
清蘭は下方で床を構成する実々美達を次々と撃ち抜く。
しかし撃ち抜いた側から新しい実々美が空いた隙間に滑り込み、包囲が完全に崩れる事はない。
ついに足が下の実々美達に着く。草履越しに高熱が足を焼き、頭上の実々美達はさらに重みを増す。
上下を挟まれ、高熱を発する実々美達にジリジリと押し潰される。
魔法で体を防御すれば、完全に押し潰されても火傷程度で済むだろう。しかし生身の清蘭はそうはいかない。
「清蘭! 撤退を!」
「撤退!? どこに!」
「私が下に穴を開けます! そこを通って地上まで逃げてください!」
「聖を置いてけっていうのか!? それはできない相談だな!」
「わがままを言って……!」
清蘭は懐からメモを取り出し、指で何かを書き始める。
しきりに上を見上げ、ピストルを頭上に構えつつ私のそばにやってくる。
「もう……持ち堪えられませんから……!」
「聖、十秒持たせてくれ」
「……ッ! わかりました、十秒経ったら逃げてくださいね!」
清蘭は私の頭のそばにピストルを持って来て、頭上の実々美に狙いを定める。
そしてメモを見ながら、角度を調整する。
「ここだッ!」
清蘭がピストルの引き金を引く。
弾丸は実々美に向かって飛ぶが、当たる直前に異次元に吸い込まれる。
その異次元の穴の先、弾丸の通った軌跡を通って日の光が私の目に注がれる。
「ふんっ!」
湧き上がる力をフルに絞り出し、一気に実々美達を投げ返す。
実々美達は予想していなかった反撃に驚き、結束を解き一瞬でバラバラになる。
「やっぱ精密射撃は慣れねぇなぁ」
「どうして私の言う事を聞かなかったんですか!」
「まぁまぁ、良いじゃん何とかなったし。聖の暴走の原因も分かったしさ」
清蘭は銃を両手に持ち、周囲の実々美に向かって乱射し始める。
被弾した実々美は他の実々美に当たり自爆、その自爆に巻き込まれた実々美が誘爆する地獄が描き出される。
「聖! 昨日夏に由縁のある者は力が与えられるとか何とか言ってたよな。アレ、嘘だろ?」
「ぐ……」
清蘭はニヤつきながら、私に向かって飛んでくる実々美を次々と撃ち落とす。
素早く空になった弾倉を交換し、絶え間なく弾幕を張り続ける。
「夏じゃない。正確には太陽、そうだな?」
「……」
「どうやらその反応、正解っぽいな」
清蘭は私が顔を背けた事で疑念を確信に変え、また再集結し始めた実々美達にグレネードを投げつけた。
大爆発と共に焼けた実々美が床を形作る実々美達に降り注ぐ。
「まぁ聖が何にビビってるかは知らないけど、それが解決するまでは付き合ってやるよ」
「命蓮寺のみんなに頼まれたから……ですか? だからさっきも逃げなかったのですか?」
「あんたが背負ってるもんは相当大きいらしい、月で生まれた私では計り知れないくらいにはな。でもな」
清蘭は笑顔で私に向かって手を差し出す。
「友達の助け方くらいは私でも知ってる。一緒に解決しよう、聖」
「……敵はあまりにも強大です。そして何より、邪悪ではありません。だから私が、私が一人で止めなければならないのです」
「残念だが私は【ホトケノミチ】とやらを歩む気はないんだ。どう言ったって聖に付いていくよ」
「はぁ。どうやら貴方の更生には手がかかりそうですね」
清蘭はまっすぐと、私の目を見つめる。私はその手を取る。
その瞬間清蘭は私を振り回し、下方の実々美に向かって投げつける。
私は下方の実々美を蹴りで撃ち抜き、実々美達の包囲を突破する。
実々美を足で捉えながら、地面に着地する。腰を深く落とし地面を蹴り付け、バネの様にもう一度飛び上がる。
また再集結し天井を構成する実々美達の中に飛び込み、魔人経巻を両手で広げる。
一気に広げた魔人経巻を手を打ち鳴らす様に閉じ、一瞬で転読を済ませる。
体の底から湧き上がる魔力を全身に巡らせ、魔力で形作った独鈷杵を両手で握りしめる。
「【光符『インドラのヴァジュラ』】!」
独鈷杵に魔力を流しこみ、手当たり次第に実々美を切り捨てていく。
時間にして一秒も経たず、私達を囲んでいた実々美の数は半分にまで減った。
出力過多で融解する独鈷杵を捨て、新たな独鈷杵をもう一度作り出す。
「あと半分!」
「【弾符『ラビットシューティング』】!」
清蘭が結束が解け散り散りになる実々美達を次々と撃ち抜く。
しかし清蘭の背後から、実々美の塊が光り輝きながら向かってくるのが見える。
「清蘭!」
清蘭を庇う様に飛び込み、両手を広げて魔法で体を強化する。
実々美達は光り輝き、私にぶつかると同時に自爆をしようとした。
その瞬間、私の目の前の実々美達を巨大な光が包み込んだ。一瞬で実々美達は塵になり、肌が高濃度の魔力でひりつく感覚がする。
「聖様〜!」
声のした方を見る。
実々美達の壁を突き破り、巨大な船首が顔を出した。
「聖輦船!」
「聖様〜!」
船首に乗り出し、響子がこちらに手を振っている。
その後ろでは星、ナズーリン、一輪、雲山が控えている。
聖輦船は私達のすぐ側に止まり、響子が飛びついてくる。
「めちゃくちゃ怖かったです〜!」
「何もかもが上手くいかなかっただけですよ」
「聖、人里も襲われている。私達も戦うぞ」
「星……」
「聖が何を隠しているかは分からないが、私達では力不足か?」
「いえ。お願いします、力を貸してください」
私が頭を下げた瞬間、聖輦船の床の一部が開く。
そこからもう一人の玉兎が顔を出した。
「お、清蘭〜」
「鈴瑚?!」
「面白そうだから付いてきちゃった〜」
鈴瑚は笑顔でピースを作り、聖輦船の中から見た事もない工具を次々と引っ張り出す。
それを見た清蘭は慌てたように鈴瑚の手を止める。
「お、おい! それ月の……何したのさ!」
「ちょ〜っとこの船を改造しただけだよ」
「上にバレたらどうすんの!」
「バレないバレない、み〜んなそこまで地上に興味ないって。それじゃあ後は頑張ってね〜」
鈴瑚はにへらと笑い、聖輦船の中に向かって呼びかける。
聖輦船が軋む様な音を立て、聞こえるはずのない鉄のぶつかる音が聞こえる。
聖輦船の側面が開き、幾つもの砲門が顔を出す。
『こちら村紗! 発射準備完了だ!』
星が懐から通信機を取り出し、私に手渡す。
「聖」
「……では、初めなさい!」
「聖、ここのボタンを押しながらじゃないと聞こえない……」
清蘭が通信機の側面に付いたボタンを指差す。
私は一度咳払いをし、ボタンを押し込む。
「撃ち方はじめ!」
私の合図と共に砲門から次々とビームが放たれる。
私達の様子を見ていた実々美達を次々と撃ち抜き、一瞬で炎の海が空に出来る。
「人里や地上に絶対に被害が出ない様に尽力しなさい! 星は甲板で村紗と聖輦船の防御と、現場判断での指示をお願いします!」
「はい!」
「ナズーリン・一輪・雲山は撃ち漏らした実々美の対処をお願いします」
「はいよ」
「了解!」
「響子は船の中にいる村紗の補助を!」
「はい! 聖様!」
「それで……貴女は?」
「ん〜? 私は適当にやっとくよ〜」
「そうですか。では清蘭は私と元凶を倒しに行きます」
私は薄くなった上空の実々美達を指差す。
その向こう側に、ミズチがいる。
「あ、そ〜だ」
鈴瑚が何かを取り出し、清蘭に投げ渡す。
清蘭はそれを受け止めると、小さく頷き胸ポケットに入れた。
「頑張りなよ」
「うん!」
「聖、上空への突破口は私が開く」
「任せましたよ、星」
私は清蘭を抱え、聖輦船を蹴って空に飛び上がる。
実々美達は私に気付き、一斉に天井を形作り発熱を始める。
星は聖輦船の船首で、高々と宝塔を掲げた。
「【光符『浄化の魔』】!」
宝塔から何十本ものレーザーが飛び出し、束となって実々美達を貫く。
ぽっかりと上空までのルートが開け、私は速度を上げて実々美達の雲を抜ける。
上空には本物の雲は一つない程晴れ渡り、少し肌寒い。
「聖!」
清蘭に引っ張られ体勢が崩れると同時に、顔を巨大なレーザーが掠める。
太陽下で強化されている私の皮膚を裂き、頬からはダクダクと血が流れ出る。
「なんですか、一体……」
「あれ!」
清蘭が指差す先には、巨大な弾幕の塊が蠢いていた。
目を凝らせば、早苗や霊夢達が弾幕の塊に出たり入ったりしている。
「実々美達は何をしているのでしょうか。私の労力も考えていただきたいものですわ!」
弾幕の塊が弾けると、中からミズチが現れる。
その弾けた弾幕に混じり、はたてを抱えた魔理沙が吹き飛ばされてくる。
「いっ……たぁ……」
「おいおい随分と傷まみれだな、ここで見学でもいいんだぜ?」
「いえ、ここまで来て足手纏いでは笑えませんから……」
「いい心がけだ! お前らも足引っ張るなよ!」
魔理沙ははたてから手を離し、ミズチに向かって一目散に突進した。
私も清蘭を下ろし、独鈷杵を取り出し魔力を込める。
「聖!」
清蘭の声が聞こえると同時に、目の前にミズチが現れる。
ミズチは舌を出して笑みを浮かべながら、手に持った巨大な剣を振り上げようとする。
私は独鈷杵をミズチに投げつけ、独鈷杵ごと蹴り飛ばす。
「【夏想剣『異龍刀』】厄介な相手にはこれ一択ですわ」
ミズチが剣を撫でると、その姿が薄くなり空気に溶けて見えなくなる。
周囲に目を凝らすが、透明化故の空気の不自然な揺らぎなどは見えない。
突然空中から弾幕が生まれ、私達に向かって降り注ぐ。
密度の薄い弾幕を避けると、避けた先には剣を構えたミズチがいた。
「まずは一人」
「【凶弾『スピードストライク』】!」
ミズチに向かって銃弾が放たれる。
清蘭の顔には、モノグラスの様なものが付いていた。
「チッ、未来が見えても反応が遅れる……!」
「厄介なのがまだ」
「【夢符『夢想亜空穴』】!」
突然霊夢が出現し、ミズチに蹴りを入れる。
しかしミズチは蹴りを受け止め、霊夢を振り回して投げ飛ばす。
「このっ! いつまで経ってものらりくらり避けやがって!」
「それが私の戦闘スタイルですことよ!」
「清蘭、私達も追いますよ! ここで仕留めます!」