東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
「オラオラァ! こんなもんかよぉ!」
激しく動き回る百々世の肩にしがみ付きながら、背後から不意打ちを狙う実々美を排除する。
かれこれ三十分程だろうか、百々世と私は実々美達と戦い続けていた。
ついさっき巨大な宝船が通過していったが、あれのおかげか先程から実々美達の数が減った様な気がする。
「百々世、まだいける?」
「全然余裕だぜ! コイツらじゃ俺には勝てねぇよ! もっとこの俺を楽しませてみやがれぇぇぇ!!!」
さっきから百々世はハイになってるのか、蜈蚣達すら使わずに戦い続けている。
私の呼びかけの返事にしてもどこかフワついているし、攻撃をしていない時には体が小刻みに震えている。
私の勝手な推測だが、百々世は一種の限界を迎えているのだろう。
私は百々世の頭によじ登り、額を叩く。
「百々世! 百々世!」
「あぁ? あぁ! なんだ!?」
「一旦ここを離れよう! さっきからずっと戦いっぱなしだよ!」
「こんなに気持ちいいのに、ここから逃げろって!? 絶対にやだね!」
百々世は言う事を聞かずに、上下左右から迫り来る実々美達をシャベルで切り裂く。
そしてピッケルで採掘する様に、固まった実々美達を掘り進め弾幕を回避する。
百々世が少しばかり掘り進めると、ぽっかりと空いた空間に出た。実々美達が相変わらず周囲を囲っているが、妙に広い空間が用意されている。
「時雨一刀流」
真下から声が聞こえる。
百々世から乗り出し下方を見ると、そこには他とは姿の違う実々美が刀を構えていた。
「さく」
「【採掘『積もり続けるマインダンプ』】!」
実々美が抜刀するより先に、百々世がスペルカードを発動する。
細かな弾幕が下方の実々美に降り注ぎ、構えを解いて実々美は回避に走る。
「なんだなんだ! もっと面白そうな奴だなぁ!!」
「我こそは油熊四天王、その名も」
「知るかよ!」
百々世はシャベルを刀の様に振り下ろし、実々美を狙う。
その実々美は刀を使ってシャベルを受け止めるが、百々世のシャベルは刀を真っ二つにへし折る。
「ぐっ!?」
「消えろッ!」
百々世がピッケルを振り上げ、脳天目掛けて振り下ろす。
その瞬間、背後から赤髪の実々美が急接近していた。
「【妖剣『輝針剣』】!」
「くくく、背後はガラ空きというわけでもなしか!」
「新手かぁ!?」
百々世は回転し、赤髪の実々美を蹴り飛ばす。
私達は前後を二人の実々美に挟まれる。
どちらも普通の実々美とは姿が違う、恐らく二匹とも油熊四天王だろう。
「いやはや、強制リスポーンのせいで休めていないんですよ」
「その声……神社で戦った奴だな!」
この狭い空間に、神社で戦った油煮の声が響く。
周囲を囲む実々美達に何度も反射しているのか、声の出所が特定できない。
私は咄嗟に百々世の耳を塞ぐ。
「百々世、また催眠術が来る! 答えちゃダメだよ!」
「いい心掛けですが、徒労ですね。碌に休めていないので能力はまだ回復しきっていませんよ」
「どうせまた嘘だろ! 私がやられても百々世がお前を倒すからな!」
「ふ、疑う事を覚えた様で感動しますねぇ!」
周囲に目をやるが、どこもかしこも実々美だらけで目が疲れる。
その一瞬目を離した隙に、赤髪の実々美が姿を消した。
「しまった!」
「もう遅い!」
一瞬で私の目の前に赤髪の実々美が現れ、槍の狙いを私に定める。
それと同時に百々世の前方にいる実々美も、折れた刀を持って急接近する。
「油熊四天王の頭脳たる私にかかれば、貴様らなど蛆虫だ!」
「ならそれにやられるテメェらは一体何だって話だな」
百々世は視線を一切やらずに背後の槍を掴み、赤髪の実々美ごと引っ張る。
槍投げの様に前方から迫る実々美に投げつけ、二匹にまとめて弾幕を撃ち込む。
「おい針妙丸、お前の方が疲れてる自覚はあるか?」
「え……?」
「さっきから呼吸がうるせぇし、針が肩に刺さって痛ぇ」
「あ! ご、ごめん」
私は百々世の肩に刺さった針を抜く。何度も刺さっていたのか、百々世の肩には小さな穴がいくつか空いていた。
百々世が私を掴み、目の前に持ってくる。
「頭脳労働ってのは疲れるんだろうな、その様子だと」
「ごめん……邪魔になってたかも」
「おい蜈蚣共」
百々世の声掛けと共に、蜈蚣達が私を取り囲む。
私の体を束になった蜈蚣達の上に乗せ、百々世はピッケルとシャベルを両手に持つ。
「あのメガネは任せたぜ、お姫様」
「……! 絶対やってくる! 任せて!」
私は湧いて出てきた涙を袖で拭い、針の剣を抜いて蜈蚣達を走らせる。
振り返ると百々世に向かって、体勢を立て直した二匹の実々美が襲いかかっている。
百々世は私を信頼して無理を強いて来てくれた、守られるばっかりじゃない事を証明してやる。
「妄想がちな小人一匹、私に勝てるわけがないでしょう!」
「やってやる! かかって来やがれ!」
その瞬間全身の力が抜けて、蜈蚣達の上に倒れる。
「あなたも学習しませんねぇ……二度も同じ手を食らうなんて間抜け以外に表現出来ませんよ」
私は針の剣を手に取り、自分の足を突き刺す。
痛みで体が跳ね上がり催眠が解除された事を確信、一瞬で全身の自由が戻る。
「蜈蚣達、前進を続けろ! 【小槌『大きくなぁれ!』】」
小槌を振い、小槌の魔力で蜈蚣達が大きくなる。
正面に広がる実々美の壁を貪り食いながら、蜈蚣と私は前進を続ける。
「な、何をしているんですか!」
油煮が焦ったような声を上げる。だがその声は今までの様な反響した聞こえ方ではなかった。
「反転しろ!」
蜈蚣達に指示を出し、声の聞こえた方向に向かって実々美達を掘り進む。
恐らくさっきの空間では、壁になった実々美達で声が増幅・反響し、位置が掴めなかった。
だが、逆に実々美達の中なら増幅はすれども反響はしない。声が聞こえる方向は一定に定まる。
「何故だ! ……そうか!」
「気付いたところでもう遅い! 【小槌『お前が大きくなぁれ』】!」
小槌を握りしめ、声がした方に振る。
魔力が前方にばら撒かれ、実々美達が巨大化する。その中には、油煮の姿も見えた。
「く! 【斑符『シカーダシンドローム』】!」
巨大な油煮が蝉を大量に放つ。
私は蜈蚣達から飛び出し、その蝉達を次々と飛び移り油煮に迫る。
針の剣を両手で構え、最後の一歩を飛ぶ。
「こんな小人なんかにぃ!」
「【『進撃の小人』】!」
針の剣を振り抜き、巨大な油煮の首を切り裂く。
巨大な油煮は絶叫を上げながら塵となり、私は迎えに来た蜈蚣達に乗り込む。
どっと疲れが全身を襲い、蜈蚣達の上で倒れ込む。蜈蚣達は自分の意思で進み、やがてさっきの空間に抜け出る。
「おう姫様、遅かったな」
百々世の声に顔を上げると、目の前にはボロボロになった百々世が立っていた。
「ひどい傷! どうしたの!?」
「あぁ、姫様がいないと後ろからボコスカやられてな。でもちゃんと倒したぜ」
百々世は笑顔でウインクする。
蜈蚣達にかけた小槌の魔力の効力が切れ、蜈蚣達は元のサイズに戻り百々世の髪の中に帰っていく。
私も何とか百々世の肩にしがみつく。
「後は残った雑魚を蹴散らすだけだな」
百々世は周囲を取り囲む実々美達に睨みを効かせる。
周囲の実々美達は攻めあぐねているのか、私達を遠巻きに見つめている。
ざっと一万匹、その後ろにもいると推定すれば十万は超えるだろうか。
「……どこにそんな数が埋まっていたんだよ」
「何言ってんだ姫様、こいつらの大半はただの蝉だ」
「え?」
「ただの蝉に無理やり魔力を注ぎ込み、蝉の妖怪に見せかけている。ほとんどの中身は空っぽだ」
「なるほどなるほど、それはいい情報を聞きましたねぇ」
百々世の髪の中から声が聞こえる。
ずるずると髪の毛から、狐耳の女が這い出て来た。
「な、なに……? 誰……?」
「管狐の管牧典です。飯綱丸様の命で情報を集めていました」
「何だお前、ずっといたのか?」
「はい、昨日からずっとね。飯綱丸様から蝉の妖怪を殲滅せよとのお達しが出たので、ここらで私は離脱させてもらいますね」
「おい待てよ」
そそくさと退散しようとした典の頭を、百々世が鷲掴みにする。
典は引きつった笑みを浮かべながら、ゆっくりと振り向く。
「何でしょうか」
「お前も手伝え」
「……いくらただの魔力を持っただけの蝉といえど、この数は無理ですって」
周囲を取り囲む実々美達は、私達の様子を窺いながら一定の距離を保っている。
幸い少し休憩出来そうなので、私は百々世の肩の上で力を抜く。
「ジジ」
視界の端で何かが光る。
次の瞬間爆発が巻き起こり、私は吹き飛ばされる。
「ハハハハ! 私こそが勝者だ!」
「ッ! 油煮ィ!」
爆煙を抜け、私に向かってボロボロの油煮が突進してくる。
油煮は光り輝く自爆直前の実々美を抱え、私に向かってまるで物の様に投げつけてくる。
「消し飛べぇ!」
私に向かって飛んでくる実々美は強く光を放ち、空中でピタリと静止した。
そしてゆっくりと油煮に向かって、投げられた実々美が吸い寄せられていく。
「な、こっちに来るなぁ!」
「昔っから詰めが甘いんだよ、針妙丸ぅ!」
油煮にぶつかった実々美が爆発する。
私の頭に懐かしい声が降り掛かり、私は頭上を見上げる。
「正邪!」
「よくも私にあんな真似しやがったな、後で覚えてろよ!」
「正邪、一緒に戦ってくれる?」
「嫌なこった! 【逆符『イビルインザミラー』】!」
正邪は私に中指を立てながら弾幕を放つ。
私には擦りもしない弾幕は、周囲の実々美達を次々と撃ち落としていく。
「一緒になんて戦ってやるもんか! 勝手にやってろ!」
「わかった! ここは任せたよ、正邪」
「せいぜい黒幕相手に派手に負けろよ、針妙丸」
私は正邪から離れ、混乱した様に飛び回る実々美を抜けて百々世を探し出す。
「百々世!」
「おうお姫様。大丈夫だったか?」
「ここは任せて大丈夫! 黒幕の所に向かおう!」
「あぁ? ……何だかわかんねぇけど、お姫様が言うんなら従うぜ。典、後は任せたぞ!」
百々世は私を肩に乗せ、ピッケルとシャベルを構えて急上昇を始める。
纏まりを無くした実々美達が弾丸の様に飛び交う空を、まるで地面を掘り進める様に突き進む。
あっという間に実々美達の厚い天井を抜け、私達は空の上に出る。
「おいおい、随分と楽しそうだなぁ!」
「もう戦ってる!」
私達の視線の先には、ミズチと交戦する博麗の巫女達の姿があった。
百々世は一気に距離を詰め、ミズチの頭上に陣取った。
「本物はもっと美味そうだな!」
「チッ……さらに援軍、旗色が悪くなり始めましたわね!」
ミズチは私達を一瞥して舌打ちをすると、一瞬で姿を消した。
私は周囲を見回す。しかしどこにもミズチの姿がない。
次の瞬間私達を影が覆う。
「百々世、上!」
「あいよ!」
「クソ厄介ですわね……!」
百々世は体を上下反転させ、その勢いでピッケルを振り抜く。
ミズチはピッケルを寸での所で回避するが、疲労の色が見える。
そんなミズチの顔面を、弾丸が突き抜ける。
「クソ! 本体のはずなのに当たらないってどうなってるんだ!」
「おい玉兎! 邪魔すんな!」
「うっせ〜! 一番遅れて来たのにガチャガチャ言うな〜!」
清蘭が変なメガネ越しに私達を睨む。
そんな清蘭の後ろにミズチが出現する。
「危ない!」
「【蠱毒『カニバリスティックインセクト』】!」
百々世の髪から素早く蜈蚣達が飛び出し、清蘭を守る様にミズチとの間に割って入る。
「【幻覚『砂漠に消える幻の宮殿』】!」
ミズチの手から砂の様な物が発射され、一瞬で蜈蚣達が吹き飛ばされる。
しかし蜈蚣達が稼いだ一瞬で、清蘭はミズチに銃口を向けていた。
銃声が響き、ミズチが吹き飛ばされる。
「今よ! 畳み掛けるわよ!」
霊夢の掛け声で全員が一斉にミズチに向かう。
私も針の剣を握り、ミズチに飛びかかった。