東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦 その五 針妙丸&百々世

「オラオラァ! こんなもんかよぉ!」

 

激しく動き回る百々世の肩にしがみ付きながら、背後から不意打ちを狙う実々美を排除する。

かれこれ三十分程だろうか、百々世と私は実々美達と戦い続けていた。

ついさっき巨大な宝船が通過していったが、あれのおかげか先程から実々美達の数が減った様な気がする。

 

「百々世、まだいける?」

「全然余裕だぜ! コイツらじゃ俺には勝てねぇよ! もっとこの俺を楽しませてみやがれぇぇぇ!!!」

 

さっきから百々世はハイになってるのか、蜈蚣達すら使わずに戦い続けている。

私の呼びかけの返事にしてもどこかフワついているし、攻撃をしていない時には体が小刻みに震えている。

私の勝手な推測だが、百々世は一種の限界を迎えているのだろう。

私は百々世の頭によじ登り、額を叩く。

 

「百々世! 百々世!」

「あぁ? あぁ! なんだ!?」

「一旦ここを離れよう! さっきからずっと戦いっぱなしだよ!」

「こんなに気持ちいいのに、ここから逃げろって!? 絶対にやだね!」

 

百々世は言う事を聞かずに、上下左右から迫り来る実々美達をシャベルで切り裂く。

そしてピッケルで採掘する様に、固まった実々美達を掘り進め弾幕を回避する。

百々世が少しばかり掘り進めると、ぽっかりと空いた空間に出た。実々美達が相変わらず周囲を囲っているが、妙に広い空間が用意されている。

 

「時雨一刀流」

 

真下から声が聞こえる。

百々世から乗り出し下方を見ると、そこには他とは姿の違う実々美が刀を構えていた。

 

「さく」

「【採掘『積もり続けるマインダンプ』】!」

 

実々美が抜刀するより先に、百々世がスペルカードを発動する。

細かな弾幕が下方の実々美に降り注ぎ、構えを解いて実々美は回避に走る。

 

「なんだなんだ! もっと面白そうな奴だなぁ!!」

「我こそは油熊四天王、その名も」

「知るかよ!」

 

百々世はシャベルを刀の様に振り下ろし、実々美を狙う。

その実々美は刀を使ってシャベルを受け止めるが、百々世のシャベルは刀を真っ二つにへし折る。

 

「ぐっ!?」

「消えろッ!」

 

百々世がピッケルを振り上げ、脳天目掛けて振り下ろす。

その瞬間、背後から赤髪の実々美が急接近していた。

 

「【妖剣『輝針剣』】!」

「くくく、背後はガラ空きというわけでもなしか!」

「新手かぁ!?」

 

百々世は回転し、赤髪の実々美を蹴り飛ばす。

私達は前後を二人の実々美に挟まれる。

どちらも普通の実々美とは姿が違う、恐らく二匹とも油熊四天王だろう。

 

「いやはや、強制リスポーンのせいで休めていないんですよ」

「その声……神社で戦った奴だな!」

 

この狭い空間に、神社で戦った油煮の声が響く。

周囲を囲む実々美達に何度も反射しているのか、声の出所が特定できない。

私は咄嗟に百々世の耳を塞ぐ。

 

「百々世、また催眠術が来る! 答えちゃダメだよ!」

「いい心掛けですが、徒労ですね。碌に休めていないので能力はまだ回復しきっていませんよ」

「どうせまた嘘だろ! 私がやられても百々世がお前を倒すからな!」

「ふ、疑う事を覚えた様で感動しますねぇ!」

 

周囲に目をやるが、どこもかしこも実々美だらけで目が疲れる。

その一瞬目を離した隙に、赤髪の実々美が姿を消した。

 

「しまった!」

「もう遅い!」

 

一瞬で私の目の前に赤髪の実々美が現れ、槍の狙いを私に定める。

それと同時に百々世の前方にいる実々美も、折れた刀を持って急接近する。

 

「油熊四天王の頭脳たる私にかかれば、貴様らなど蛆虫だ!」

「ならそれにやられるテメェらは一体何だって話だな」

 

百々世は視線を一切やらずに背後の槍を掴み、赤髪の実々美ごと引っ張る。

槍投げの様に前方から迫る実々美に投げつけ、二匹にまとめて弾幕を撃ち込む。

 

「おい針妙丸、お前の方が疲れてる自覚はあるか?」

「え……?」

「さっきから呼吸がうるせぇし、針が肩に刺さって痛ぇ」

「あ! ご、ごめん」

 

私は百々世の肩に刺さった針を抜く。何度も刺さっていたのか、百々世の肩には小さな穴がいくつか空いていた。

百々世が私を掴み、目の前に持ってくる。

 

「頭脳労働ってのは疲れるんだろうな、その様子だと」

「ごめん……邪魔になってたかも」

「おい蜈蚣共」

 

百々世の声掛けと共に、蜈蚣達が私を取り囲む。

私の体を束になった蜈蚣達の上に乗せ、百々世はピッケルとシャベルを両手に持つ。

 

「あのメガネは任せたぜ、お姫様」

「……! 絶対やってくる! 任せて!」

 

私は湧いて出てきた涙を袖で拭い、針の剣を抜いて蜈蚣達を走らせる。

振り返ると百々世に向かって、体勢を立て直した二匹の実々美が襲いかかっている。

百々世は私を信頼して無理を強いて来てくれた、守られるばっかりじゃない事を証明してやる。

 

「妄想がちな小人一匹、私に勝てるわけがないでしょう!」

「やってやる! かかって来やがれ!」

 

その瞬間全身の力が抜けて、蜈蚣達の上に倒れる。

 

「あなたも学習しませんねぇ……二度も同じ手を食らうなんて間抜け以外に表現出来ませんよ」

 

私は針の剣を手に取り、自分の足を突き刺す。

痛みで体が跳ね上がり催眠が解除された事を確信、一瞬で全身の自由が戻る。

 

「蜈蚣達、前進を続けろ! 【小槌『大きくなぁれ!』】」

 

小槌を振い、小槌の魔力で蜈蚣達が大きくなる。

正面に広がる実々美の壁を貪り食いながら、蜈蚣と私は前進を続ける。

 

「な、何をしているんですか!」

 

油煮が焦ったような声を上げる。だがその声は今までの様な反響した聞こえ方ではなかった。

 

「反転しろ!」

 

蜈蚣達に指示を出し、声の聞こえた方向に向かって実々美達を掘り進む。

恐らくさっきの空間では、壁になった実々美達で声が増幅・反響し、位置が掴めなかった。

だが、逆に実々美達の中なら増幅はすれども反響はしない。声が聞こえる方向は一定に定まる。

 

「何故だ! ……そうか!」

「気付いたところでもう遅い! 【小槌『お前が大きくなぁれ』】!」

 

小槌を握りしめ、声がした方に振る。

魔力が前方にばら撒かれ、実々美達が巨大化する。その中には、油煮の姿も見えた。

 

「く! 【斑符『シカーダシンドローム』】!」

 

巨大な油煮が蝉を大量に放つ。

私は蜈蚣達から飛び出し、その蝉達を次々と飛び移り油煮に迫る。

針の剣を両手で構え、最後の一歩を飛ぶ。

 

「こんな小人なんかにぃ!」

「【『進撃の小人』】!」

 

針の剣を振り抜き、巨大な油煮の首を切り裂く。

巨大な油煮は絶叫を上げながら塵となり、私は迎えに来た蜈蚣達に乗り込む。

どっと疲れが全身を襲い、蜈蚣達の上で倒れ込む。蜈蚣達は自分の意思で進み、やがてさっきの空間に抜け出る。

 

「おう姫様、遅かったな」

 

百々世の声に顔を上げると、目の前にはボロボロになった百々世が立っていた。

 

「ひどい傷! どうしたの!?」

「あぁ、姫様がいないと後ろからボコスカやられてな。でもちゃんと倒したぜ」

 

百々世は笑顔でウインクする。

蜈蚣達にかけた小槌の魔力の効力が切れ、蜈蚣達は元のサイズに戻り百々世の髪の中に帰っていく。

私も何とか百々世の肩にしがみつく。

 

「後は残った雑魚を蹴散らすだけだな」

 

百々世は周囲を取り囲む実々美達に睨みを効かせる。

周囲の実々美達は攻めあぐねているのか、私達を遠巻きに見つめている。

ざっと一万匹、その後ろにもいると推定すれば十万は超えるだろうか。

 

「……どこにそんな数が埋まっていたんだよ」

「何言ってんだ姫様、こいつらの大半はただの蝉だ」

「え?」

「ただの蝉に無理やり魔力を注ぎ込み、蝉の妖怪に見せかけている。ほとんどの中身は空っぽだ」

「なるほどなるほど、それはいい情報を聞きましたねぇ」

 

百々世の髪の中から声が聞こえる。

ずるずると髪の毛から、狐耳の女が這い出て来た。

 

「な、なに……? 誰……?」

「管狐の管牧典です。飯綱丸様の命で情報を集めていました」

「何だお前、ずっといたのか?」

「はい、昨日からずっとね。飯綱丸様から蝉の妖怪を殲滅せよとのお達しが出たので、ここらで私は離脱させてもらいますね」

「おい待てよ」

 

そそくさと退散しようとした典の頭を、百々世が鷲掴みにする。

典は引きつった笑みを浮かべながら、ゆっくりと振り向く。

 

「何でしょうか」

「お前も手伝え」

「……いくらただの魔力を持っただけの蝉といえど、この数は無理ですって」

 

周囲を取り囲む実々美達は、私達の様子を窺いながら一定の距離を保っている。

幸い少し休憩出来そうなので、私は百々世の肩の上で力を抜く。

 

「ジジ」

 

視界の端で何かが光る。

次の瞬間爆発が巻き起こり、私は吹き飛ばされる。

 

「ハハハハ! 私こそが勝者だ!」

「ッ! 油煮ィ!」

 

爆煙を抜け、私に向かってボロボロの油煮が突進してくる。

油煮は光り輝く自爆直前の実々美を抱え、私に向かってまるで物の様に投げつけてくる。

 

「消し飛べぇ!」

 

私に向かって飛んでくる実々美は強く光を放ち、空中でピタリと静止した。

そしてゆっくりと油煮に向かって、投げられた実々美が吸い寄せられていく。

 

「な、こっちに来るなぁ!」

「昔っから詰めが甘いんだよ、針妙丸ぅ!」

 

油煮にぶつかった実々美が爆発する。

私の頭に懐かしい声が降り掛かり、私は頭上を見上げる。

 

「正邪!」

「よくも私にあんな真似しやがったな、後で覚えてろよ!」

「正邪、一緒に戦ってくれる?」

「嫌なこった! 【逆符『イビルインザミラー』】!」

 

正邪は私に中指を立てながら弾幕を放つ。

私には擦りもしない弾幕は、周囲の実々美達を次々と撃ち落としていく。

 

「一緒になんて戦ってやるもんか! 勝手にやってろ!」

「わかった! ここは任せたよ、正邪」

「せいぜい黒幕相手に派手に負けろよ、針妙丸」

 

私は正邪から離れ、混乱した様に飛び回る実々美を抜けて百々世を探し出す。

 

「百々世!」

「おうお姫様。大丈夫だったか?」

「ここは任せて大丈夫! 黒幕の所に向かおう!」

「あぁ? ……何だかわかんねぇけど、お姫様が言うんなら従うぜ。典、後は任せたぞ!」

 

百々世は私を肩に乗せ、ピッケルとシャベルを構えて急上昇を始める。

纏まりを無くした実々美達が弾丸の様に飛び交う空を、まるで地面を掘り進める様に突き進む。

あっという間に実々美達の厚い天井を抜け、私達は空の上に出る。

 

「おいおい、随分と楽しそうだなぁ!」

「もう戦ってる!」

 

私達の視線の先には、ミズチと交戦する博麗の巫女達の姿があった。

百々世は一気に距離を詰め、ミズチの頭上に陣取った。

 

「本物はもっと美味そうだな!」

「チッ……さらに援軍、旗色が悪くなり始めましたわね!」

 

ミズチは私達を一瞥して舌打ちをすると、一瞬で姿を消した。

私は周囲を見回す。しかしどこにもミズチの姿がない。

次の瞬間私達を影が覆う。

 

「百々世、上!」

「あいよ!」

「クソ厄介ですわね……!」

 

百々世は体を上下反転させ、その勢いでピッケルを振り抜く。

ミズチはピッケルを寸での所で回避するが、疲労の色が見える。

そんなミズチの顔面を、弾丸が突き抜ける。

 

「クソ! 本体のはずなのに当たらないってどうなってるんだ!」

「おい玉兎! 邪魔すんな!」

「うっせ〜! 一番遅れて来たのにガチャガチャ言うな〜!」

 

清蘭が変なメガネ越しに私達を睨む。

そんな清蘭の後ろにミズチが出現する。

 

「危ない!」

「【蠱毒『カニバリスティックインセクト』】!」

 

百々世の髪から素早く蜈蚣達が飛び出し、清蘭を守る様にミズチとの間に割って入る。

 

「【幻覚『砂漠に消える幻の宮殿』】!」

 

ミズチの手から砂の様な物が発射され、一瞬で蜈蚣達が吹き飛ばされる。

しかし蜈蚣達が稼いだ一瞬で、清蘭はミズチに銃口を向けていた。

銃声が響き、ミズチが吹き飛ばされる。

 

「今よ! 畳み掛けるわよ!」

 

霊夢の掛け声で全員が一斉にミズチに向かう。

私も針の剣を握り、ミズチに飛びかかった。

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