東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決戦 その六

「はぁ……はぁ……」

 

おかしい。何かがおかしい。

巫女としての直感が、今までの経験が。

異常を叫んでいる。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

ミズチは全員に囲まれ、絶えず猛攻を受け続けている。

ただ、魔理沙のマスタースパークを食らっても。早苗の奇跡の一撃を受けようとも。はたての撮影で防御不可になっても。聖の拳を正面から撃ち込まれても。清蘭の射撃で蜂の巣にされても。針妙丸の針の剣で貫こうとも。百々世の蜈蚣が体を食っても。

ミズチは倒れない。

子供の駄々の様に、まるでやじろべえの様に。最後の最後、淵の淵で。

倒れない。

 

「霊夢……まだ行けるか」

「はぁ……はぁ……当然」

 

魔理沙もすっかり疲弊し切っている。

どれだけの弾幕を撃ち込んだか、もう覚えてすらいない。

 

「こんなの……序の口ですわ」

 

ミズチは口の端から垂れた液体を拭いながらそう宣言する。

それが血液なのか、よだれなのか、はたまた別の液体なのか。

だが確実に言える事は、私達は確実にミズチを追い込めている。それだけだ。

 

「く……」

 

太陽の光が体温を上げ、徐々に体力が削られている。長引けば長引くほど、私達には不利になる。

残り少ない水筒の中身を飲み干し、ミズチに向かって空の水筒を投げつける。

 

「あだっ!」

「避ける体力も残ってないのに……よくやるわね」

「ぐぅ……! こんな所で終わってちゃダメ……! 絶対に負けられないんですわ!」

「高飛車風な喋りもついに崩れ出したな……」

 

清蘭がぼやく様に呟く。

ミズチを挟んで反対側にいる針妙丸と百々世が、何かを話している。

ミズチの視界はこちらに向いたままだ。ダメ押しの一手を考えてくれている可能性を考慮し、私は気を引くために針を抜く。

 

「これ以上戦うってんなら、もう本当に容赦しないわよ」

「あら、それはそれは恐ろしい。でも私はもっと恐ろしい物を知っていますわ」

「は? 何よ」

 

私が問うと、ミズチは自分の口を塞いで天を仰いだ。

 

「……お喋りはここまで。本気を出しますわ」

 

その一言で、周囲の空気が変わった。

風が吹き抜け、寒い風と暑い風が混じり合って肌をなぞる。

 

「【妄想『入道雲に描く阿修羅』】!」

 

ミズチの服の中から煙が放出され、それはあっという間に人の形になる。

巨大な雲の阿修羅がそれぞれの顔で私達を睨みつける。

天高く振り上げた阿修羅の剣が、一斉に振り下ろされる。

振り下ろした剣の軌跡には弾幕が放たれ、一瞬視界が埋まる。

 

「ッ! こんなもの!」

 

弾幕を撃ち込み阿修羅の顔の一つを吹き飛ばす。

しかし霧散した雲はまた集まり、阿修羅の顔となって私を睨みつける。

 

「胴体です! 霊夢さん!」

 

聖の声がどこからか聞こえる。

私はその声に従い阿修羅の胴体に弾幕を撃ち込む。雲が散り、ミズチの姿が露出する。

次の瞬間ミズチが巨大な蜈蚣に食われる。

私が見た大蜈蚣よりも、二倍ほど大きい。

 

「ぐぅっ!」

 

ミズチを咥えた大蜈蚣は雲の阿修羅を散らし、空域を縦横無尽に飛び回る。

 

「言っとくがあれの制御は出来ねぇぞ!」

 

百々世が飛び回る大蜈蚣を見つめながら私達に忠告する。

その言葉通りに、大蜈蚣は私達に一切気を配らず飛び回っている。鋭い足が空を叩き、うねる体がスレスレを通過する。

ミズチは大蜈蚣に咥えられながらも、必死に抜け出そうともがいている。

 

「……! 【走馬灯『三途の川』】!」

 

ミズチが発光し、周囲が一瞬光で包まれる。

思わず目を瞑り、次に目を開けた瞬間私達は川のほとりに立っていた。

 

「おい、何だこれ……」

「幻覚だよ、油煮……幻覚を使ってきた敵と同じ感覚があるから」

 

針妙丸はそう言いながら、自分の手の平を針で軽く刺す。

しかし渋い顔をしながら針をしまう。

私には幻覚には思えない。感覚もしっかりしてるし、五感もはっきりとある。痛覚もさっきまでの戦いで出来た傷がある事を教えてくれている。

 

「う〜ん出れませんね」

 

早苗が空間に向かって奇跡を付与したお祓い棒を振っている。

それでも出れないとなると、よほど強固な幻術か転送されたかの二択だ。

 

「うぇ……」

「清蘭? 大丈夫ですか?」

「ここは嫌だ……あんまりにも穢れがキツすぎる……」

 

清蘭が地面に膝をつき、口と鼻を押さえる。

穢れ。という事はやはりミズチの言う通り、三途の川なんだろうか。

 

「霊夢」

「何?」

「どうするんだ」

 

魔理沙が私の目の前に立つ。

じっと私の目を見て、私の回答を待っている。

他の奴らもその会話を聞き、私に視線を向けている。

私は少し考え、ある仮説を立てた。

 

「ここがもし仮に本当の三途の川だとしたら、死者や小町がいないのは不自然よ」

「つまり針妙丸さんの言う通り、ここは幻覚の世界ですか」

「厳密には違う。幻覚に近しいけど、痛みでも早苗の奇跡でも抜け出せない。それに何より、意識がはっきりとし過ぎている」

 

ついさっきまでは炎天下の中の長期戦で、少なからずとも意識の中にモヤは存在していた。

だが今、私の頭の中は冴え渡っている。不自然な程に。

 

「つまり私達は転送に見せかけた幻を見せられている」

 

私がそう結論を出すと同時に、バラバラになった大蜈蚣が川を流れてくる。

川の上流に立つミズチと目が合う。

 

「少しは休憩できると思いましたのに!」

 

ミズチが大きく手を振り上げると、鉄砲水が発生してミズチを飲み込む。

私達は飛び上がり鉄砲水を避ける。

跳ねた水滴や流されてきた流氷が弾幕となって私達に襲いかかってくる。

しかし鉄砲水に飲まれたミズチの姿が見えない。

 

「どこに……!」

「上流だ! 鉄砲水の発生源にいる……!」

 

清蘭が青い顔をしながら叫ぶ。

私は上流を見つめるが、ミズチの姿は見えない。

そこで違和感を感じる。

 

(幻覚の三途の川なのに、穢れを感じるのか?)

 

ハッとなり清蘭の方を向く。

清蘭はミズチの持っていた大剣を構え、聖に背後から斬りかかろうとしていた。

 

「させるかぁ!」

「ぐ!?」

 

シャッター音が鳴り響き、清蘭の動きが止まる。

異常を察知した聖は事態に一瞬怯みつつも、清蘭に発勁を撃ち込んだ。

 

「な、何故……!」

「これ見よがしに蜈蚣を流して、わざわざ姿を見せてから攻撃を始める。そんな視線誘導、誰も引っかかりません……!」

 

はたては携帯を向けながら、正体を表したミズチに言い放つ。

周囲の空間が剥がれ始め、頭の中の不明瞭さが元に戻り始める。

正直な所その視線誘導に引っ掛かりまくっていたが、ミズチが悔しそうな表情を浮かべているのでよしとする。

 

「ぐふっ……」

 

今の一撃が相当効いたのか、ミズチは苦悶の表情を浮かべる。

しかしすぐに歯を食いしばり、大きく息を吸い込んだ。

 

「こうなりゃ奥の手ですわ……! 【『霧の向こう岸に佇む蓬莱山脈』】!」

 

ミズチが叫んだ瞬間、下方の実々美達の鳴き声がピタリと止んだ。

そして絹を擦る様な微かな音を放ち始め、やがて音が重なりまるで読経の様な鳴き声を上げ始める。

 

「全員その場から離れろぉ!」

 

清蘭の叫び声が聞こえる。

またミズチの術かと一瞬迷った。

迷った瞬間、下から突き上がってきた何かに跳ね飛ばされる。

 

「……っ!? 山……?」

 

巨大な山が実々美達の合間から次々とせり上がり、私達の目の間に佇む。周囲は一瞬で山の中にいるかの様な景色に変わってしまった。

山には宝石の様に輝く色とりどりな果実を実らせる木々が生えており、太陽の光を浴びて煌びやかに。

 

「博麗の巫女!」

 

誰かの声が聞こえた瞬間、私は霧に包まれる。

周囲は一寸先すら見えず、しかし山に実る果実の光だけは霧の向こうにはっきりと見える。

 

「どこだミズチ!」

 

私の叫び声は霧の向こうの蓬莱山に吸い込まれていく。

果実の光が一層強くなり、一筋のレーザーが私に向かって放たれる。

 

「くっ!」

 

山に生えた木々の果実達が、次々と光る。

次の瞬間にはレーザーが私目掛けて飛んできていた。霧のせいで判別がつきにくい上に、無闇矢鱈に飛べば霧のせいで見えなかった山にぶつかる可能性もある。

最小の動きで。

 

「っ!」

 

レーザーが足を掠る。

周囲四方八方に輝く果実が、霧の向こうに見える。

 

「パーフェクトフリィィィズ!!!」

 

周囲の温度が一気に下がり、果実の輝きが失われる。

霧は凍って地上に落下し、一瞬で視界は晴れ渡る。

凍りついた山脈の上で、透き通る氷の羽がミズチの前に立ち塞がっていた。

 

「お前がミズチだな!」

「……あなたは?」

「よくぞ聞いた、あたいの名はチルノ! お前を倒し幻想郷を救う最強の妖精だ!」

「なんで……?」

 

チルノは自信満々にそう宣言する。

チルノに追従する様に、一体の実々美がチルノの側にやってくる。

 

「お前は……」

「こいつはあたいの舎弟だ! 文句あるか!」

「なるほど……共鳴を切った裏切り者が出たと言う報告は、貴方ですのね」

「そうだ! 私は油熊実々美。お前の道具でもなく、集合体の中の一つでもない! 一人の妖怪だ!」

「不愉快ですわ!」

 

ミズチの姿が一瞬消えかかるが、チルノが氷弾を撃ち込むとミズチの姿がはっきりと現れる。

 

「な、何!?」

「聞いたぞ、ミズチ。お前は神様でもなんでもない、()()()を操る龍だってな!」

「ぐぅっ……!」

「外の世界が冬だから幻想郷を夏にして気温差を生む! そして蜃気楼を発生させ自分の力を増幅させる! それがお前の企みだ!」

「全部バレていてもこの私を倒す事は出来ませんわ!」

「【凍符『マイナスK』】!」

 

チルノがスペルカードを発動すると同時に、ミズチに氷弾を浴びせる。一つも当たっていないが、周囲の温度はどんどんと下がっていく。

 

「温度差が無くなれば、蜃気楼は使えない!」

「……【『インビンシブル・カルテット』】!」

 

一瞬でミズチが四人に分裂し、四方に散らばる。

 

「一人でも生き残れば勝ちですわ!」

「全員一人も逃すな!」

 

高笑いしながら逃げ出すミズチの一人を追いかける。

いつの間にか魔理沙も私の隣で、ミズチを追跡している。

三人のミズチは他の奴が追いかけてくれているはず。

私はただ、目の前の一体にだけ集中する。

 

「逃げるなミズチィッ!」

「たかだか二人程度で追いかけて来た事を後悔する事ですわ!」

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