東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
「くくく……ここで見つかったが七年ぶり! 今こそ復活の時だ!」
「七年……? 霊夢、知ってる奴か?」
「いいえ、知らないわ」
「ん? 今は何年だ? お前は誰だ? 博麗の巫女っぽいが、私の知っている博麗の巫女とは違うぞ?」
困惑する様子の妖怪は、頭を抱えてあからさまに狼狽える。
「今は2024年だぜ」
「……ん? つまり私は七十年眠っていたというわけか!? うわぁぁぁぁぁ!」
急に絶叫を始める妖怪。思わず耳を塞ぎ、魔理沙に合図を送る。
魔理沙も耳を塞ぎつつ、レーザーを妖怪に打ち込む。完全に不意打ちのレーザーだったが、妖怪は余裕を持って回避する。
「まぁいい。まぁぁぁいい。 予定が狂ったが、目覚めの時は合っていた。計画は順調というわけだ!」
「さっきからぶつくさ言ったり急に叫んだり忙しい奴ね」
「まだ耳がキンキンする……」
「よく聞けい! 私こそかの恐るべき大妖怪、『
「じじみ……全部読みが『み』になるの? 変な名前ね」
「いや、もしかしたら『じ、地味』って意味かもしれないぜ? 服も茶色だし」
「黙れ黙れぇい! 地味じゃないっ奥ゆかしいのだ!」
「はいはい。それで? あんたは何の用?」
「まずはこの私の恐ろしさを見に染み込ませる必要がある様だな……!」
実々美は長い槍を土から取り出し、こちらに向ける。
「現代もルールは弾幕ごっこで変わりないな?」
「やる気ってんならちょうどいいわね」
「あぁ、シメて色々聞き出してやる」
私はお祓い棒を取り出し、弾幕ごっこの準備をする。
魔理沙はすでにやる気十分だ。
「【伏兵『絶叫地獄』】!」
実々美は高々とスペルカードを使用するが、何も起こらない。
首を何度も傾げつつ、別のスペルカードを取り出す。
「【合唱『時雨5000ヘルツ』】!」
「……?」
「スペルカードって湿気ると使い物にならなくなるのか?」
「そんな事ないけど……」
「……ん? なんで?」
実々美は泣きそうになりながら、何かを探す様に周りの土を掘り返す。
そして何かを諦めたように、こちらに向き直る。
「私一人でもやってやらぁ! 大妖怪舐めんなぁ! 【故符『岩にしみ入る断末魔』】!」
「うわっ!」
狭い地下道いっぱいに弾幕が放たれる。
咄嗟の事で魔理沙と分断されたが、弾幕の雨で魔理沙の姿が見えない。
その上実々美はこれでもかと絶叫をあげ、その絶叫に合わせて弾幕が上下する。
「恋符……!」
絶叫に紛れて、魔理沙の声が聞こえる。
急いで結界を結び、勘で魔理沙のいる位置を囲む。
次の瞬間地下道を虹色の閃光が瞬く。
結界に近づくと、ご立腹な魔理沙が結界越しに怒鳴りつけてくる。
「何すんだ、邪魔すんな!」
「こんな狭い場所でそんなの放てば、天井が崩れて生き埋めよ!?」
「それは……なんとかする!」
「ん? 仲間割れか? 随分と余裕だなぁ!」
「火力は細く、鋭くが絶対!」
「しゃーない! 威力50%【恋符『マスタースパーク』】!」
針の様な虹色の砲が実々美に向かって飛んでいく。弾幕を打ち消し、実々美の腹に直撃する。
「っくぅ〜……! 効くなぁ!」
「魔力でガードしやがった!?」
「十分!」
一瞬で実々美の後ろに周り、陰陽玉に力を貯める。
十分な力を込めた陰陽玉を蹴り出し、実々美にぶつける。
魔力のガードを破り、実々美は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「ぐえ〜!」
「はい、私達の勝ち」
「さ、とっとと知ってる事を吐くんだな!」
「まだだぁ……!」
腕を伸ばして槍を掴もうとする手を、お祓い棒で押さえつける。
お祓い棒と実々美の接触部分から、白い煙が立ち上る。
「いてててて!」
「往生際が悪いのは寝起きだから?」
「負けです負けです! 祓わないで〜!」
「それであんたは何?」
「私は集合意識に呼ばれただけなんだよ〜! でも起きてみればみんないないし、誰からも返事が返って来ないし……私もわけがわからないんだよ〜!」
「集合意識? みんな? いったい誰を指してるの?」
「霊夢!」
魔理沙に引っ張られ、実々美が飛び出してきた穴に引き摺り込まれる。
その瞬間地下道を巨大な火球が通り抜け、実々美は跡形もなく消し飛ばされる。
熱を結界で防ぎ、火球が通り抜けた地下道に顔を出す。火球は私達が向かっていた方向。旧地獄の方から飛んできたようだ。
「口封じ……って感じか?」
「さぁね。何にせよ目的地は変わらないわ」
念の為防御結界を魔理沙にも施し、旧地獄に通ずると言われる地下道を進む。
所々に横穴が開いており、人一人が入れそうなスペースが空いている。
「不気味だな。まるで土葬された跡みたいだ」
「じゃあ中の死体はどこ行ったの?」
「さぁな。旧地獄は今頃ゾンビ地獄だったりして」
「その予想が外れる事を祈るわ」
地下道を進むにつれて、気温が上がっていく。
旧地獄に着いた頃には、日に直接当たっているのと変わらない気温になっていた。
「正解は灼熱地獄だったみたいだ」
魔理沙が軽口を叩き、首元の汗を拭う。
旧地獄は全体的に赤熱し、地面からは火柱が上がっていた。
洞窟の壁から滴り落ちた水滴は地面に落ちると同時に蒸発し、集まった蒸気は洞窟の天井に薄い雲を作り出している。
そんな旧地獄の中でも一層赤々と輝いているのは、地霊伝だった。
魔理沙と顔を見合わせ、地霊殿に向かって近づく。近づくにつれて気温は急上昇し、危険を感じて一旦身を引く。
「魔理沙、退くわよ!」
「いいや! 行けるところまで行く!」
魔理沙は速度を上げ、さらに地霊殿に近づく。
いくら防御結界で緩和されているとはいえ、あの中心部に行けば耐えられる保証はない。
「あぁもう!」
私は陰陽玉を放り投げ自分の結界を四重に増やし、魔理沙の後を追う。後ろから狙いを定め、魔理沙にもさらに結界を重ね掛けする。
それでも焼けた空気は喉にへばりつき、口の中の水分を急速に奪っていく。
「ぁ……りさぁ……!」
喉が乾燥し、声もまともに出ない。
箒の上に跨った魔理沙はバランスを崩したように傾き、地霊殿に向かって加速する。
私もさらに速度を上げ、魔理沙の真後ろに着く。
(魔理沙の結界が破れかかってる……!)
急いで魔理沙の結界を重ね掛けし、そのままの勢いで地霊殿の窓に突っ込む。
割れたガラスは即座に溶け、ぼたぼたと落下していく。
そこに見知った地霊殿の姿はなく、床が抜け赤熱するマントルが露出する灼熱地獄跡に繋がっていた。
その中心部に、黒い人影を見る。燃え上がるマントルの上に、一人立ち尽くしこちらを見上げている。
私は魔理沙を抱え、紫から教わった術を発動させる。
陰陽玉を起点に空間を捻じ曲げ、戦線から急速離脱する技。
印を結び発動させると、魔理沙を抱えたまま陰陽玉を設置した地点まで戻っていた。
「魔理沙!」
意識を失い箒から落ちそうな魔理沙を支え、赤熱する地霊殿から距離を取る。
「魔理沙、しっかりして!」
「み、みず……」
水筒を開け、魔理沙に麦茶を浴びせる。
地霊殿とは反対側の地面に着地する。火柱はいつの間にか収まり、地面の温度はある程度まで下がっている。
「確か川が……」
魔理沙を抱えながら、記憶を頼りに足を進める。
旧地獄には地下水を利用した川が流れていたはず。
私は大きな段差を降り、川のあった方向に進む。
私の頭上に橋が見える。
立ち止まり、左右を見る。石垣の様に隙間なく積まれた石が、ずっと先まで続いている。
その石垣を跨ぐ様に、何本か橋が掛かっている。
「……干上がってる」
「おい! 博麗の巫女!」
頭上から声がかかる。顔を上げれば、一本角の鬼。星熊勇儀が橋から顔を覗かせていた。
「急げ、もう一回上がってくるぞ!」
その言葉に呼応するかの様に、旧地獄全体の気温が上昇し始めるのを感じる。
草履越しにも地面が熱くなり始めるのを感じる。
走り出す勇儀の後を追い、地霊殿から距離を取る。
旧地獄の至る所から火柱が上がる。地霊殿を中心に火柱の数は多くなり、地霊殿自体が強い光を放つ。
『CAUTION! CAUTION!』
「何この声!?」
「警告音だ! 急げ!」
洞窟の端に着くと、勇儀は姿を消した。
姿が消えた辺りを探ると、壁にカモフラージュされた大きめの隙間を見つける。
そこに飛び込むと同時に、何かが地霊殿から飛び出す。
それはさっきの黒い影で、巨大な翼を広げてまるで神様の様に輝いている。
「早く入れ!」
勇儀に引っ張られ、その中の隙間に入る。中は旧地獄の五分の一ほどの大きさの洞窟で、所狭しと妖怪や鬼が溢れかえっている。
岩の向こうでは轟音が響き、洞窟全体が揺れる。
「熱に当てられたな。あっちに水を配ってる奴がいる、もらって来い」
勇儀は魔理沙の頬に手を当て、洞窟の壁際を指差す。そこには妖怪達が長蛇の列を作り、その先頭ではガタイのいい鬼達がせっせと水を配給している。
私がその列に並ぶと、自然と妖怪達が列を明け渡していく。
そのまま前に進むと、鬼達に道を塞がれる
「博麗の巫女。順番は守ってくれよ」
「……何も言わずにみんな避けたから、ごめんなさい」
「……しょうがない。持ってきな」
鬼は小さな器に入れられた水を手渡してくる。
私はそれを受け取り、鬼と妖怪達に頭を下げて魔理沙の元に走る。
「よぉ、悪かったな」
「……」
私は渡された水を手拭いに吸わせ、魔理沙の口に突っ込む。
魔理沙はうんうん唸りながら、水の含まれた手拭いをしゃぶる。
「ちょっとしょっぱい……」
「……ごめん、それ汗拭いたやつだから」
魔理沙はちうちうと手拭いをしゃぶり続ける。
意外にも元気そうな魔理沙に、ほっと息をつく。
「地霊殿に突っ込んだって事は、あいつを見たのか?」
「……あの黒い人影? あれは何?」
「それは私から説明しましょう」
妖怪達を掻き分け、覚り妖怪の古明地さとりが前に出る。
その隣には少し髪の焦げた火車の火焔猫隣もいる。
「あれはお空……うちのペット、霊烏路空だったものです」
「……だったもの? あの烏が?」
「最初の変化は小さなものでした。一ヶ月ほど前に調子がいいと言って、いつも以上に元気でした。それに呼応するように、徐々に灼熱地獄の温度が上がっていきました」
「……」
「そんなある日。旧地獄に大量の絶叫が響き渡ると見た事もない妖怪達がどこからか現れ、旧地獄の住人を無差別に襲い始めました。幸い力は弱く、死者は出ませんでした。ですが、数が多かったんです」
「絶叫……数……」
私は心の中で地下道で会ったあの妖怪を思い出す。
するとさとりは第三の眼を瞬きさせ、深く頷いた。
「おや、もう会っていましたか。そうです、その蝉の妖怪です」
「それでその蝉はどうなったの?」
「お空によって焼き払われました。ですがその戦闘の途中でお空の様子が豹変し、あんな異形に……旧地獄は灼熱地獄に変わり、蝉の妖怪が現れればお空が炎と共に現れ焼き尽くす。そんな事をもう三日は続けています」
「三日……紫苑の見た光はお空の火球で、増幅した力はお空と考えると辻褄が合うわね」
「つまり……この異変はお空が原因か?」
魔理沙が口を開く。
口に手拭いを入れ直し、首を振る。
「きっと別に犯人がいるはず。聞いてる感じお空は異変によって変えられた被害者よ」
「そりゃ大変だ。早めにぶっ飛ばさないとな」
「えぇそうね。落ち着かせてから話を聞く価値はありそう」
「もう手拭いはいいって!」
手拭いを吐き出し、魔理沙は立ち上がる。
「とにかく! あの暴走烏を止めればいいんだろ」
「何か策があるんでしょうか」
「無い! 私が出来るのは火力で一気に吹っ飛ばすだけだ!」
「ま、力尽きれば正気に戻るんじゃない?」
「……どうか、お空をよろしくお願いします」
頭を下げるさとりとお燐。
二人の肩を叩き、拳を振り上げる。
「あの烏を倒して、この旧地獄の異変を解決してみせるわ! 博麗の巫女と!」
「……あ! 霧雨魔理沙の名にかけて!」
この場にいる鬼や妖怪達が歓声を上げる。
この人達も困っているのだ。放っておくわけにはいかない。
「よ〜し、そうと決まれば!」
魔理沙は背負ったカバンの中から、小さな棒にプロペラの付いた小型の扇風機を取り出す。
魔力を流すとプロペラが周り、冷風が吹き始める。
「それ何?」
「ハンディ扇風機。香霖の所で買ったやつを改造したんだ」
「もっと早めに出しなさいよ……」