東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決着 蟲姫様と小人姫さま

実々美の雲に突っ込んで逃げるミズチを追いかける。

激しく振るわれるピッケルとシャベルが、実々美達を次々と破砕する。

 

「来るんじゃねぇですわ!」

「うっせぇ! 俺と戦いやがれ! もっと楽しませろ!」

「捉えた!」

 

逃げ続けるミズチの服に針を投げ、しっかりと捕まえる。

針に繋がった糸の上を走り、ミズチの体にしがみつく。

 

「【小槌『大きくなあれ』】! 【『もっと大きくなあれ』】!」

 

自分の体に小槌を何度も振り、体がどんどんと大きくなる。

しがみついていたミズチの体は、一瞬で手の平の中にスッポリと収まる。

しっかりと手の平に握りしめ、実々美達の雲を抜ける。

 

「ふん!」

 

ミズチを大きく振りかぶり、地面にミズチを叩きつける。

クレーターを作りながら、ミズチはその中心で大剣を構える。

 

「行くぞ蜈蚣衆! 【大蜈蚣『ドラゴンイーター』】!」

 

蜈蚣達が集まり、巨大な蜈蚣となってミズチに降り注ぐ。

ミズチは大剣を盾にして蜈蚣の一撃を防ぐ。

しかし蜈蚣達は一斉にバラけ、ミズチの体を縄の様に縛り上げる。

そして動けないミズチの首筋に、百々世がシャベルを突きつける。

 

「これで決着だ」

「……ッ!」

「ミズチ、お前の企みは終わりだ」

 

ミズチは静かに項垂れ、すがる様に視線を上げた。

 

「あなたも蟲妖怪ですわよね……実々美から聞いていませんの? 平和な蟲だけの世界」

「生憎俺は平和よりも喧嘩の方が好きでね」

「そうですか……ですがそちらの小人さんは違うんじゃないんですの?」

 

ミズチは私を見上げ、不適な笑みを浮かべる。

 

「小人は絶滅危惧種、もはやこのままでは滅ぶ運命。ですが私なら、その蟲の王国の様に小人だけの居場所を提供できますわよ」

「何?」

「そうすればあなたは小人族の英雄。簡単な事ですのよ、ただ私を見逃せばいいんですから」

「だってよお姫様。俺はどっち選んでも構わねぇぜ」

 

百々世は笑顔を浮かべながら、私を見上げる。

私は笑顔を百々世に返し、針の剣を抜きミズチの目の前に突き立てる。

 

「私は小人族が大事。でも私を送り出してくれたり、私に力を貸してくれる人の方がもっと大事!」

「……」

「それに私も、楽しく暴れる方が好き」

「ははっ! さすがは俺のお姫様だ!」

「そう……最後のチャンスも無碍にするのですわね」

 

ミズチは一瞬体を丸め、バネの様に足を振り上げる。

私が突きつけた針の剣を蹴り上げ、体を縛る蜈蚣を力ずくで引きちぎる。

百々世がシャベルを振るが、それよりも早くミズチは大剣を拾い上げ百々世の一撃を防いだ。

 

「腐っても龍、甘くみましたわね!」

 

私は拳を握り、ミズチに向かって全力で振り下ろす。

 

「【『待ち望んだ恐怖の大王』】!」

 

ミズチの声が聞こえると同時に、膨大な魔力がミズチに集まる。

ミズチは私の拳を受け止め、高笑いを上げる。

 

「お前の恐怖を見せて差し上げますわ!」

「サイズがっ!?」

 

ミズチの体はどんどんと巨大になり、山一つと見間違うほどの大きさになった。

私と同じ目線で、ミズチが邪悪な笑みを浮かべる。

 

「これでサイズは互角。フィジカルバトルですわ!」

「ぐっ!?」

 

ミズチは素早く拳を引き、素早くジャブを打ち込んでくる。

咄嗟にガードをするが、重い拳が私の体の芯まで響く。

ミズチは連続でジャブを繰り出し、貫く様なパンチを打ち続ける。

ミズチの猛攻に耐えきれず、ガードが一瞬崩れる。

 

「隙ありですわ!」

「がっ!」

 

ガードの隙間を縫って、ミズチの前蹴りが腹に直撃する。

腹がキリキリと痛み、思わず体をくの字に曲げてしまう。

 

「しまっ……」

 

気づいた時には私の顔面に、ミズチの強力な蹴りが迫っていた。

 

「オラァ!」

 

百々世が蜈蚣の大群と共にミズチの蹴りを止めに入るが、この大きさのミズチの蹴りを止められず吹き飛ばされる。

私の頬にミズチの蹴りが入り、私の視界が一瞬白む。

気づけば空を見上げていて、お椀の帽子が空高々と弾き飛ばされている。

 

「針妙丸!」

 

肩の上から声が聞こえる。

百々世が私の肩に乗り、拳を握って立っている。

 

「ぶん殴りあいなら得意だ! 俺の動きに合わせろ!」

「わ、わかった!」

 

私はミズチに向かって立ち上がり、拳を握り直し百々世を観察する。

百々世が素早く体を反らせる動きを取る。

私もそれを真似し体を反らすと、ミズチの拳が私の顔のすぐ側を空振る。

 

「今だカウンター!」

「カウンター!」

 

百々世の動きの通りに大きく弧を描く様に拳を振る。振った拳はミズチの咄嗟のガードをすり抜け、ミズチの顔面にクリーンヒットした。

 

「もう一発だお姫様!」

「もう一発!」

 

下から打ち上げる様に拳を振り上げ、ミズチの顎を打ち抜く。

 

「がぁぁ……!」

「頭が下がったぞ! キツいの入れてやれ!」

「おぉぉぉぉ!!」

 

ミズチの顔面に向かって拳を引き、全力を込めてぶん殴る。

しかし私の体は急に全ての動作を停止し、破裂しそうな心臓の音だけが耳の中に反響した。

まるで風船が萎む様に急速に体が縮み、見えていた景色がどんどんと見えなくなる。

 

「じ……時間、切れ……」

 

小槌の魔力が底をつき、私の体は一瞬で元のサイズに戻った。だが、縮小は終わらない。

小槌の魔力を使いすぎた代償は、私がよく知っている。

 

「も、百々世!」

 

更に小さくなる体で、地面に落ちた百々世に向かって走り出す。

私の体は縮小を止めず、百々世との距離が離れていく。私の小さな小さな一歩よりも、縮小の方が早い。

 

「消えたくない……百々世……!」

 

ついには土の粒と同じ程の大きさになってしまった。

微生物達が、急に現れた同サイズの私に近寄ってくる。地面に生えた芝生で太陽の光が遮られ、視界は光を失っている。

ついに縮小は止まったが、もう百々世もミズチも見えやしない。

私は、ついに一人になってしまった。

 

「……」

 

その場に膝をつき、溢れ出る涙を止める事もなく泣く。

何もやり遂げられなかった。このサイズでは誰にも気づいてもらえない。

あれだけ啖呵を切ったのに、結局何も一人ではできなかった。

 

「針妙丸!!」

 

鼓膜が破れんばかりの音量で、百々世の呼ぶ声が聞こえる。

見上げると、百々世が這いつくばって私を探している。

 

「百々世!」

 

私は精一杯の声で叫ぶ。しかしこのサイズでは聞こえるはずもない。

それでも精一杯、百々世の呼びかけに応える様に叫ぶ。

 

「針妙丸!」

 

百々世と目が合う。

百々世が土の間に手を差し込み、私を周辺の土ごと掬い上げる。

 

「ちっさ!」

「どうやって……どうやって私を見つけたの?」

「地下を掘り進める俺達蜈蚣衆は、目の代わりに耳がいいんだよ!」

 

百々世は私の周りの土を取り払い、目線の高さまで持ち上げる。

ミズチはさっきの一撃のおかげで、私達を見失っていた。

 

「どうするお姫様、あのデカさの相手じゃ刃が立たねぇぞ」

「……一つだけ方法がある。私達小人に伝わる唯一の方法が」

「……なるほどなぁ! その案乗ったぜ!」

 

百々世はミズチに引きちぎられた蜈蚣達の残骸に歩いていく。

そして残骸の前に跪き、片手で祈る。

 

「もう少し力を貸してくれ、お前ら」

 

蜈蚣の残骸はゆっくりと蠢き、百々世の体にくっついていく。

鎧の様に蜈蚣の残骸を纏った百々世は、ピッケルとシャベルを持ってミズチの方に走る。

私は百々世の皮膚に自分を縫い付け、絶対に取れない様にした。

 

「こっち見やがれデカブツ!」

「っ! 見つけましたわ!」

 

ミズチは踵を天高く上げ、私達に向かって振り下ろす。

百々世はシャベルで土を掘り、ミズチの踏み付けを避ける。

そして地面を掘り進め、ミズチの背後に回り込む。

 

「どこに!?」

 

ミズチの背中に飛びつき、ピッケルを背中に刺す。

百々世はピッケル一本を支えに、ミズチの体を登っていく。

 

「クソ! 潰してやりますわ!」

「百々世!」

 

ミズチが背中に手を回し払い落とそうとするが、私が百々世に知らせ避けさせる。

首筋まで上り詰め、ミズチの手を避けながらミズチの顔面までよじ登る。

 

「百々世、呼吸で吹き飛ばされないように気をつけて!」

「任せろ!」

「まさか!」

 

ミズチは私達の意図に気付いたようで、歯を食いしばり口を閉ざす。

百々世はピッケルを振り上げ、歯に穴を開けてミズチの口内に侵入する。

ぬらぬらと光る舌を滑り降り、焼け付く様なミズチの呼吸を耐えて降下する。

胃の中に降り立った私達は、周囲を見渡す。

 

「後は暴れるだけだな」

「全力でやろう!」

「燃やし尽くしてやりますわ!」

 

頭上からミズチの声が聞こえると、急激に胃の中の温度が上がる。

頭上では赤々とした炎が輝き、私達に向かって降り注ぐ。

蜈蚣の残骸の鎧が炎を防ぎ、跳ね飛んだ胃液から私達を守る。

 

「さぁて食べ放題だな! 【『蠱毒のグルメ』】!」

 

百々世は弾幕を放ちながら飛び回り、ぶつかった胃壁という胃壁を食いちぎる。

私も小さいながらも弾幕を放ち、胃の中を傷つける。

 

「わ、わかりましたわ!」

 

堪らなくなったのか、ミズチが炎を止める。

 

「もう降参ですわ! もう諦めますからお止めくださいまし!」

「だってよお姫様、やめてやるか?」

「いいや、徹底的にやるよ!」

 

私は魔力を失った小槌を取り出し、両手で構える。

百々世はそれを見てニヤリと笑い、胃の中で大きく飛び上がった。

 

「【『小人の地獄』】!」

「【『蟲姫さまの輝かしく落ち着かない毎日』】!」

 

弾幕がばら撒かれ、ミズチの胃の中がズタズタになっていく。

破れた胃壁からは血が吹き出し、胃の中の水位はどんどん上がっていく。

 

「こんな……ウッ、こんな小虫らに……ウゲッ」

 

ミズチが苦しそうに喘ぐ声が聞こえる。

胃の水位は急上昇し、私達はミズチの口から噴水の様に打ち上げられた。

空は蝉一匹飛んでおらず快晴で、私は思わず両手足を広げて雄叫びを上げた。

 

「勝ったぁぁぁぁぁ!!!」

「俺達の勝ちだぁぁぁぁぁ!!!」

 

心の底から気持ち良さそうな百々世の笑い声を聞きながら、私達は地上に落ちていった。

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