東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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決着 住めば楽園、厭離穢土

清蘭の射撃を避けながら、ミズチは高速で飛行を続ける。

他の人達との距離が離れ詳しい状況は分からないが、今ここで一人でも逃せばこの異変は終わらない。

だからこそ。

 

「掴んだ!」

「離しなさい!」

 

ミズチの着物の裾を掴み、引き寄せ羽交締めにする。

一瞬で清蘭が狙いを定め、ミズチに向かって発砲する。

だがミズチは体を空中で回転させ、180度反転する。

 

「ぐっ!」

 

清蘭の放った弾幕が私の背中に直撃する。衝撃で一瞬力が緩んだせいで、ミズチは私の腕から抜け出す。

しかし逃げようとはせず、距離をとって私達に向かって大剣を構える。

 

「加護の対象内ってだけで力を得たと勘違い、僧侶の癖に浅ましいのですね?」

「何を言っているのですか?」

「……ふふ。力を得たと勘違いし、欲に溺れた愚かな僧侶だと罵っているのですよ」

「……?」

 

ミズチが何を言っているのか理解できなかった。

しかしミズチは薄ら笑いを浮かべながら、震える手で大剣を私達に向け続ける。

 

「この異変の最中に随分と戦果を上げていらしたけれども、それで誰かが救われるのですか?」

「おい、見当違いな事ベラベラ喋ってるんじゃねぇぞ」

 

清蘭が口を開く。

銃を握る手はブルブルと震え、怒りに満ちた顔でミズチを睨みつける。

 

「聖は私のわがままを聞いて同行を許した。その目的は最初から最後まで他人の為の異変解決だ! 何が欲に溺れた愚かな僧侶だ! 訂正しろ!」

「ふふ。いいえ、訂正などもっての外。正論を投げつけて何が悪いんですの?」

「私の友人をこれ以上侮辱するな!」

「清蘭!」

 

清蘭が銃を乱射しながらミズチに向かっていく。

ミズチは大剣で銃弾を防ぎ、清蘭に向かって大剣を蹴って飛ばす。

 

「こんなもの!」

「【『降り注ぐ宇宙(ソラ)からの訪問者(ビジター)』】!」

 

大剣を弾き飛ばした清蘭に焼けた鉄の塊が直撃する。

私は清蘭を受け止め、鉄の塊を蹴り飛ばす。

 

「安い挑発に僧侶が乗るかどうかと不安に思いましたが、まさかそっちが釣れるとは。嬉しい誤算ですわ!」

「聖はなぁ……聖はなぁ!」

 

私の腕の中で、清蘭が拳を握り締める。

 

「聖はずっと人の心配ばっかしてて、私が負けても責めずにいてくれて!」

「清蘭……」

「私の独りよがりな願いですら肯定して、人里に馴染める様に手伝いを許してくれて!」

 

清蘭は私の僧衣を握る。

 

「居場所を作ってくれようとしてるんだ! そんな聖を馬鹿にするな!」

「清蘭……」

 

私の声に反応し、清蘭が顔を上げる。

私は清蘭の頬を、手で軽くつねる。

 

「痛い!」

「あなたの思いは伝わりました。ですが、喧嘩っ早いのはいけませんよ」

「だって!」

「その結果がこのザマでは、目も当てられません」

 

清蘭は口を閉ざし、悔しそうな顔をした。

私は優しく清蘭の頭を撫で、静かに顔を上げる。

 

「激情に流されてはいけません。心頭滅却とまでは言いませんが、心を穏やかに」

「うん……」

「いい子ですね。……楼山閣ミズチ、今ならまだ許しましょう。攻撃を止め、観念しなさい」

「お断りさせていただきますわ」

 

燃え上がる鉄の塊が、地上に降り注ぐ。

私はため息をついて、清蘭をゆっくりと腕から下ろす。

 

「話し合いが通じない者もいます。ですが説得を諦めてはいけません」

「いいのか、聖……」

「ですが、私以外に害を向けるのならば」

 

拳を握り、ミズチに向ける。

 

「肉体言語上等! 私は友を守る拳を振るう事に迷いはありません!」

「やって見ろ、大日如来! 【幻符『光を折り曲げる神技』】!」

 

ミズチから蜃気楼の歪みが発生し、一瞬で私達を包み込む。世界が歪み、視界が定まらない。

歪みの向こう側で、ミズチは大剣を持って突進してくる。

 

「【大魔法『魔神復誦』】!」

 

私は蓮の花の魔法陣を背に展開し、一斉に弾幕を放つ。

しかし空間は蜃気楼によって歪み、見当違いの方向に弾幕は飛んでいく。

未だ降り続ける燃えた鉄の塊を掴み、ミズチに向かって投げつける。

 

「どこに投げておりますの?! そんな所に私はいません事よ!」

「いいや、よく見える」

 

ミズチが鉄の塊を避けた瞬間、未来を見据えた清蘭がミズチを撃ち抜く。

 

「心を落ち着け、冷静に。これなら未来への精密狙撃もやれそうだ」

「く……その小道具にこの程度の歪みは通用しないのですね!」

「その辺り!」

 

ミズチと弾がぶつかった音を頼りに、魔法陣から出る弾幕を集中させる。

大剣を盾として使い弾幕を防ぐが、動きが止まった瞬間に清蘭が銃を放つ。

弾は異次元を通り抜け、ミズチの背後から襲いかかる。

 

「く……! 実々美ィ!」

 

吠える様にミズチが叫ぶと、一瞬で歪んだ視界に実々美達が割り込んでくる。

しかし先ほどの様に埋め尽くす程の数はおらず、どの個体にも目に光がない。

 

「盾になりなさい!」

 

実々美達はミズチの前に密集し、大きな盾となって私の弾幕を防ぐ。

しかし清蘭は射撃の手を止めず、引き金を引く度にミズチのうめく声が盾の向こうから聞こえる。

 

「清蘭」

「あぁ、行ってこい」

 

私は歪む視界の中をできるだけ真っ直ぐ進み、実々美達の盾にぶつかる。

拳をピタリと密着させ、壁を打ち抜く。一瞬で実々美達の盾は瓦解し、盾の向こうのミズチと目が合う。

 

「ッ!」

「【銃符『ルナティックガン』】!」

 

逃げようとするミズチの胸元を掴み、背負い投げで清蘭の方に飛ばす。

清蘭は素早く銃を持ち替え、飛んでくるミズチに弾幕を浴びせて私の方に押し返す。

私は素早く魔神経巻を取り出し、両手で持って広げる。

 

「全ては等しく、救いの時来たれり。この救われぬ存在に慈悲を与えよう!」

 

魔神経巻が光り輝き、オート読経が開始される。

魔力が絶えず体に充填され、私は身体を強化する。

 

「【超人『ガルーダの翼』】【光魔『魔法銀河系』】」

 

私の声に反応し魔神経巻は私の体に蓮の魔法陣と魔法の翼を生やす。

 

「【天符『三千大千世界の主』】、【『遊行聖』】」

 

私の両手に独鈷杵と数珠が現れる。

魔力を流せば独鈷杵はビームサーベルとなり、数珠を握れば周囲に雷が降り注ぐ。

 

「【超人『聖白蓮』】」

 

飛んでくるミズチに向かって加速を開始する。

背の翼が風を掻き分け、魔法陣から後方に放たれるビームが背中を押す。

独鈷杵を投げてミズチの体を空中に固定し、数珠の雷でミズチへの道を作る。

 

「や、やめっ!」

「いざ、南無三!」

 

独鈷杵をミズチから引き抜くと同時に、ミズチの体を独鈷杵で切り刻む。

肩を掴みミズチの上空に飛び上がる。

狙いを定め、魔法の推進力でミズチの体を蹴り抜く。

 

「安心してください、峰打ちです」

「……ビームサーベルに峰があるのか?」

 

清蘭の指摘にハッとするが、やってしまったものは仕方ない。

それに。

 

「【空白『見えないがそこにあるモノ』】!」

 

ミズチの声が聞こえる。

だがもう既に、そこにミズチの姿はなかった。

 

「ハハハハ! 魔術で一切の攻撃を縛る代わりに、絶対に追跡されない最後の一手ですわ! 甘えが出ましたわね大日如来!」

 

ミズチは走り出し、逃げようと必死になっている。

 

「私の計画はまだ破綻していない! この幻想郷を必ず手に入れて……手に入れてぇっ!」

 

ミズチは派手に転ぶ。

 

「必ず……手に入れてみせますわ……! だから、だからぁ……っ!?」

 

地面から顔を起こし、ミズチは地面を叩く。弾力が帰って来た事に驚き、周囲を見回す。

そして私と目が合った。

 

「……」

「どこまで行っても仏の掌の上」

「あぁ……」

 

ミズチは私が顕現させた仏の掌の上で、呆然と声を漏らす。

 

「【天符『釈迦牟尼の五行山』】」

 

もう片方の掌がミズチに落ちる。

私は何もなくなった掌の上で、静かに手を合わせた。

 

「これでおしまい?」

「えぇ。ひとまずは、ですけどね」

 

清蘭は私の隣で、広い広い掌をぼーっと眺めている。

そして何か思いついたように、私に顔を向けた。

 

「私の作った団子、食べに来なよ。絶品だぜ?」

「ふふ、是非とも。命蓮寺の皆さんにもご馳走してあげてくださいね」

「私の奢りかよ。まぁいいけどさ!」

 

私と清蘭は顔を突き合わせ、互いに笑い合った。

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