東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
地上に落ちたミズチを見つけ、紫を呼ぶ。
スキマを通って紫が現れると、地面に横たわるミズチを見下ろす。
「痛い目は十分見たようね」
「……えぇ、私の負けですわ。分身体も全滅、本体の私も指一本動かす気力すら残っていませんもの」
ミズチは目を瞑ったまま、ボロボロの体で小さく笑った。
「ねぇ紫、こいつはただの駒よ」
「駒?」
「きっと近々、真の黒幕が現れるはずよ。そうでしょ?」
「……さぁ、私の口からはなんとも。ですが、この異変は終わりなのは確かですわね」
紫は眉を顰めながら、日傘を動かしてミズチの顔を影に入れる。
ミズチはうっすらと目を開き、紫の方を見た。
「今回の被害の請求は全て私に。少し派手に暴れすぎましたわ」
「あら、そう。でも財も魔力も持っている様には見えないけれど?」
「人の価値はそれだけではありませんわ。案外泥臭い事も平気ですのよ」
「じゃあ死ぬまで働いてもらおうかしらね」
紫とミズチはお互いに小さく笑う。
私は何だか仲間はずれにされているようで、少し居心地が悪かった。
「あ! いた!」
大声が聞こえると同時に、魔理沙が茂みを掻き分けやってくる。
「私が異変を解決したんだ! 報酬は私のものだよな!」
「はぁ!? 私がトドメ刺したのよ!」
「お前が意識朦朧としていた時に助けたのは私だ! トドメの一撃だけで決めるのは不公平だ!」
私と魔理沙は取っ組み合いの喧嘩を始める。
それを眺める紫とミズチは呆れた様に苦笑していた。
「はいはい、それじゃあ誰に報酬を渡すか貢献度で決めましょうか」
「紫! 私めちゃくちゃ頑張ったわよ!」
「それなら私だって、めちゃくちゃ蝉を撃ち落としたぞ!」
紫は手を叩き、私達を黙らせた。
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あの異変から一日。
守矢神社の消毒作業も異変もすっかり片付き、私は冷房の効く部屋で大の字で寝転んでいた。
「これは額縁に入れておこう」
「いやいや、写真立ての方がいいって!」
神奈子様と諏訪子様は、今日の朝刊片手に言い争いをしている。
しかしいつもの文々。新聞ではなく、花果子念報だ。
新聞の一面には、私とはたてちゃんのツーショットが大きく印刷されている。
ピロン、と可愛らしい電子音が鳴る。
「はたてちゃんからですかね」
私は机の上に置いていた携帯を、寝転んだまま手探りで取る。
外の世界にいた時に使っていたものだが、河童に修理してもらってこの幻想郷でも使える様にしてもらった。
携帯を開くと、新着メールが届いている。
『今日の朝刊売り上げで文に勝てた!』
という短い文面で、ピースの絵文字が付いている。
私は上機嫌で祝いの文面を作りながら、畳の上で寝返りを打った。
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団子を頬張る。
甘い蜜が口の中に広がり、団子のもちもちした食感と合わさって最高だ。
「美味しい〜〜〜!」
思わず口をついて出た感嘆に、往来の人々の視線が集まる。
「ありゃ聖様か」
「美味そうだな……」
「噂によれば今回の異変解決も聖様のご功績だとか」
口々に噂が聞こえてくる。
その中の一つが、耳に聞こえる。
「あの団子屋さんも着いて行ったとか」
私は悟られない様にその会話に耳を立てる。
「でも月の兎だろ? 月は地上人を敵対ししてるって聞いたから怪しいぜ」
「それが八面六臂の大活躍だって話だ。ほら、新聞にも書いてある」
「あぁ本当だ……もしかしたら友好的なのかもな」
心の中でガッツポーズを取りながら、団子をもう一口食べる。
「ん〜〜!」
「美味しそうに食べるね、聖」
「美味しいから仕方ありませんよ、清蘭」
清蘭がお茶の入った湯呑みを手渡してくる。
ホカホカのお茶を飲みながら、串に刺さった最後の団子を平らげる。
「聖〜! 腕が疲れた〜!」
「聖〜! 足が棒だよ〜!」
「一輪、村紗、もっと頑張らないと罰にならないでしょう」
一輪と村紗は焼ける前の団子を両手に、暖簾から顔を出す。
店の中では、命蓮寺のみんなが山盛りの団子を囲んで小さな宴を開いている。
その様子に釣られて、若い男がやってくる。
「兎の嬢ちゃん、みたらし五つ持ち帰りでもらえるかい?」
「はいよ、ただいま!」
私と清蘭は笑顔で顔を見合わせた。
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「って事で今日から世話になる姫虫百々世だ。よろしく」
「反対だ!」
正邪は両手を振り上げて抗議する。
百々世は気にせず少ない荷物を下ろし、服に着いた泥を叩いて落とす。
「正邪もわがまま言わないの! 助けてもらったし恩を返さないわけにもいかないでしょ! っていうか正邪だって居候の身じゃん!」
「私と針妙丸の間にはふっか〜い絆があるからいいんだよ!」
「勝手すぎる!」
私は正邪から借りた拡声器を使って、精一杯主張する。
私を保護する小さな球体のカプセルを正邪が掴み、ぶんぶんと振り回す。
中の私はガチャガチャと振り回され、目を回して倒れてしまう。
「大体大妖怪だぞ!? つまり強者、私の抹殺リストに名前が載る奴だ!」
「お、喧嘩か!? やるか天邪鬼!?」
「せ、正邪の抹殺リストって馬鹿みたいに名前書いてあるだけじゃん! あ、やめてっ!」
またガチャガチャと振り回される。
「大体俺はそこまで長居しねぇよ」
「え、そうなの!?」
「採掘作業が今回の異常気象で一時中断になってな。異変だって終わったし龍から声がかかれば、また虹龍洞で作業を再開しなくちゃならねぇ」
「そうなんだ……」
「ま、休暇中はここで過ごすってんだからそんな悲しい顔すんなよお姫様」
「そのお姫様って呼び方も気に食わねぇんだよ! 表出ろ!」
「おぉ! やってやろうじゃねぇか!」
正邪と百々世は弾幕ごっこの準備をしながら外に向かう。
正邪と二人きりの時も騒がしかったが、これからはもっと騒がしくなりそうだ。
「私も混ぜろ二人とも〜!」
私はカプセルを中から転がし、二人の後を着いていく。
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「「はぁ……」」
二人してため息をつく。
今回の異変で出た被害は全てミズチが保証するという取り決めになったが、紫からの特別報酬をもらうのは私達ではないらしい。
「骨折り損のくたびれ儲けだ」
「くたびれ儲けも無いわよ」
「じゃあただの骨折だな」
もう飛ぶ力も残っていない私は、トボトボと岐路を歩いていた。
魔理沙の箒も鋼鉄製の外装が吹き飛び、中に詰められた魔力炉は焼けて使い物にならないようだ。
「っていうか鉄の箒ってどうなのよ」
「使い心地としては最悪だな。特にわさわさの部分がただの剣山だから、触ると痛いぜ」
「ちょ、こっち向けないで」
魔理沙は箒の下の部分で私を突っつく。確かに鉄でできているせいで、ただの剣山になっている。
「とりあえず今日は解散だな……疲れた一日だったぜ」
「ほんと……暑い上に疲れた……」
私は自分の目を軽く塞ぎながら、空を仰ぐ。太陽は天高く燦々と輝き、私達を見下ろしている。
「……? 魔理沙、今何時?」
「あぁ? ……夜の十時ちょうど」
「……」
私達はまだ燦々と輝く太陽を見上げる。
そして二人して、大きなため息をつく。
異変はまだまだ続きそうだ。