東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
勇儀の合図とともに、旧地獄に出る。
熱は引き切っておらず、まだところどころから火柱が上がっている。
「お空は蝉の妖怪を検知すると地霊殿の地下から飛び出し、蝉の妖怪を排除すると帰っていく。それでいいのよね」
「はい。ですが地霊殿の地下にある灼熱地獄跡が高熱を常に放っているために、地霊殿や灼熱地獄跡での戦闘はお勧めできません」
「分かってるわよ。魔理沙も準備いい?」
「はいはい、次に飛び出したら撃って気を引く。だろ?」
「そうよ。後は弾幕勝負でケリをつけておしまい」
「……来るぞ!」
勇儀が旧地獄の天井を指差す。天井を掻き分け、土の中から槍が飛び出してくる。
旧地獄の温度がほんのりと上昇する。
鬼や妖怪達から託された水の入った水筒を、一口飲む。
『CAUTION! CAUTION!』
さっきと同じ声が地底に響く。
周囲の温度は急上昇し、火柱がポツポツと上がり始める。
地霊殿の正面出口から、黒い人影となったお空が飛び上がる。
その瞬間地底の温度は一気に急上昇し、地霊殿の方から熱波が飛んでくる。
あらかじめ張っておいた結界があるといえど、熱波は激しく体の水分を奪い去っていく。
「魔理沙!」
「おう!」
合図と共に飛び立ち、お空に接近する。
話によれば攻撃が終わると同時に灼熱地獄跡に帰ってしまうらしい。今のうちに近づいて、射程距離内に収める。
お空は片手を振り上げ、火球を手の中に作り出す。それを放ち、天井から這い出ようとするその蝉の妖怪に着弾する。
太陽の様に輝き弾ける火球は、地底の天井を炎で覆う。地面から上がった火柱が天井に到達し、まるで地底全体が洋風神殿に変わった様な錯覚を起こす。
「こっちだ馬鹿烏!」
魔理沙が八卦炉からレーザーを放ち、お空の翼にぶつける。
お空はゆっくりとこっちに視線を向け、翼を大きく広げる。
逆光を浴びたシルエットの様に形を掴めない彼女の足は、三本あるかの様に見える。
「なるほど。八咫烏に体を乗っ取られているのね」
「つまりあれは太陽の神って事か?」
「神と言えども体は妖怪、勝てない相手じゃないわ!」
『CAUTION! CAUTION!』
またけたたましく声が地底に響く。サイレンの音が鳴り響き、お空は輪郭の無い顔で雄叫びを上げる。
私は持ってきた針を構え、戦闘体制に入る。
お空は腕を伸ばし、こちらに腕の砲塔を向ける。
「……!」
急いで距離をとると同時に、巨大な紅いレーザーが放たれる。
レーザーは私の側を掠め、洞窟の壁に向かって飛んでいく。
だがレーザーは壁にぶつかる直前で軌道を変え、もう一度こちらに飛んでくる。
「弾幕勝負は受けてくれそうだな!」
魔理沙がレーザーで相殺し、お空に向かって攻撃を開始する。
魔法を使った七色の攻撃が、至る所からお空に向かって放たれる。魔理沙は簡単に捕捉されない様に、お空の周りを常に移動しながら撃ち続ける。
私はお空の背後に周り、一点集中の火力を叩き込む。弾幕、針、陰陽玉、お札。持てる全てを打ち込みつつ、お空の出方を見る。
「【⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』】!」
「何だ?!」
「おそらくスペカよ! デカいの来るわよ!」
お空は言葉にならない言葉で宣言をした後、翼を折りたたみ自分の体を翼で包み込んだ。
周囲の温度が急激に高くなるのを肌で感じ、急いで距離を取る。
「ぶっ飛べ! 【恋符『ノンディレクショナルレーザー』】!」
無数のレーザーが放たれ、空を割いてお空に向かっていく。
だがレーザーはまるでお空の翼を避ける様に軌道が逸れ、壁にぶつかって消える。
「なんだよ無敵モードか!?」
「いや……」
精神を集中させ、魔力の流れを見る。
お空のいる場所に、さっきの魔理沙のスペカ分の魔力が上乗せされている。
「吸収している……」
「はぁ!? 吸収してどうするんだよ!」
「撃ち返して来る一択でしょ!」
私が叫ぶと同時にお空が翼を広げ、何十本ものレーザーを翼から打ち上げる。
打ち上げられたレーザーは天井の炎を絡め纏い、私達めがけて落下してくる。
「追尾してくる! 気をつけて!」
「あっぶね!」
魔理沙に声をかけ、天井から降るレーザーを避ける。地面に向かったレーザーは地表ギリギリで旋回し、もう一度私に向かって飛んでくる。
上と下からのレーザーを回避するが、レーザーの勢いは衰えず。それどころかお空の翼からは絶えずレーザーが追加される。
「しつこい!」
「霊夢! 打ち消せ!」
「数が多い!」
魔理沙の言う通りに追ってくるレーザーに陰陽玉をぶつけるが、二、三本打ち消した所で陰陽玉は溶けて消えてしまう。
速度を緩めず、私達を観察する様に動かないお空を睨みつける。
空中で身を捻り、レーザーをギリギリで躱す。
「こんなにいらないわよ!」
空中でターンを決め私に向かってくるレーザーを、お空との直線上でもう一度避ける。
目論見通りレーザーはお空に直撃し、大きな爆発が発生する。
「おかわりだぜ!」
魔理沙がお空の頭上で同じ様にレーザーを誘導し、お空に当てる。
だがレーザーの内数本は当たらなかったのか、地面スレスレでターンを決めて魔理沙に向かって飛んでいく。
「魔理っ!」
「ダメ押し! 【恋心『ダブルスパーク』】!」
螺旋を描きながら、二本の魔力の砲がお空もろとも反転するレーザーを飲み込む。
魔理沙が赤熱する八卦炉を振って冷ましながら隣にやってくる。
「なんだ? 呼んだか?」
「いいえ、心配する必要ないなって」
「私は万事問題ないぜ!」
「……ちょっと嘘でしょ?」
爆煙の中から、ゆっくりとお空が現れる。
その周囲には球体状にヒビ模様の紅い幕が張られ、その中のお空は何事もなかったかの様に無傷だ。
「……霊夢! あれはバリアだ!」
「バリア?」
「攻撃を肩代わりしてくれる防御機構だ! 結界みたいな!」
「じゃあ撃ってたら壊れるって事ね!」
「第二ラウンドだぜ!」
魔理沙と左右に分かれ、お互いが直線上に入らないように最大火力を準備する。
「【⬛︎⬛︎『⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎』】!」
「また何か……!」
お空が高々と叫び、高度を上げていく。
天井に広がる炎の中に突っ込み、その中に身を沈める。お空の黒い姿は赤い炎の中では目立ち、どこにいるかが一目瞭然だった。
「隠れられてないわよ!」
「霊夢! 下だ!」
魔理沙に言われ、咄嗟にその場を離れる。次の瞬間、地面から昇る火柱が私の目の前に現れる。
火柱が天井にくっ付くと同時にお空が火柱の中を進み始め、私と同じ目線でピタリと止まった。
「まずい」
「うわっ!」
魔理沙が私を引っ張り高度を下げると同時に、黒い目の巨大な炎の八咫烏が火柱の中から飛び出す。
炎の八咫烏は空間を焼き尽くしながら、奇怪な鳴き声をあげてまた天井の炎の中に消えていく。
「助かった!」
「貸しイチな!」
お空がまた天井の炎の中を移動し、狙いを定めている。
お空が移動した後の炎はまるで雫の様に落下し、目下に広がる家屋に火を付ける。
「【魔符『スターダストレヴァリエ』】!」
魔理沙が螺旋の弾幕を放ち、お空にめがけて飛んでいく。
だが炎の中のお空は俊敏に動き、魔理沙の弾幕を次々と躱す。
それどころか動き回るせいで落ちてくる炎の量が増加している。
「魔理沙! 強いの準備して!」
「任せろ!」
魔理沙が八卦炉に魔力を込めるのを確認し、お空に向かって弾幕を打ち込む。
観察している限り、より多く攻撃をしている者を標的にしている。
手数なら私の方が魔理沙より上だ。
昇ってくる火柱を避け、炎の八咫烏を引き付けすれ違い様に弾幕を打ち込む。
炎に弾幕が消されている様に見えたが、一部分だけ確実に手応えが帰って来た。
「火力の準備完了だぜ!」
「魔理沙! 目が弱点よ!」
「生物の基本だぜ!」
魔理沙が細かいレーザーや弾幕を打ち込み、お空の狙いを誘導する。
私は降ってくる炎を避けつつ、魔理沙にできる限りの守りを付与する。
お空は魔理沙の頭上に留まり、火柱が立ち昇る。
魔理沙は火柱を避けようともせず、炎に呑み込まれる。
私の結界に全幅の信頼を置いてくれているのは分かるが、私には到底真似できない。
「今度は全力100%! 【恋符『マスタースパーク』】ッ!」
火柱の中を潜行するお空に向かい、魔理沙が虹色の砲を撃ち込む。
だがお空はその中をも潜行し続け、魔理沙に徐々に接近していく。
「オラァッ!」
突然巨大な岩がお空に投げつけられる。
飛んできた方を見ると、そこには大岩を担ぐ勇儀が立っていた。
「もう一個行くぞッ!」
勇儀が投げた大岩は、お空にぶつかりお空は体勢を崩す。
その瞬間、洞窟の天井にお空が叩きつけられる。
「もっとだ!」
魔理沙のマスタースパークの輝きの中に、うっすらと紅い光が混じり始める。
私は勇儀の持ち上げる岩に飛び乗り、陰陽玉をその場に設置する。
「勇儀! 投げて!」
「おうさ! 鬼の怪力みさらせやぁ!」
私の乗った岩を勇儀はお空に向かって投げつける。
私は岩の加速に乗ったまま、魔理沙に向かって飛ぶ。
魔理沙を引っ掴み、印を結んで陰陽玉の位置に瞬間移動する。
「【『ソドムの火』】」
お空の周囲を守っていたバリアが割れると同時に、お空が声高らかに叫ぶ。
火柱が次々と立ち昇り、回転しながらお空の元に集まっていく。
赤く輝いていた炎はお空を中心に黒く染まり、周囲の温度が急激に下がっていく。
「第三ラウンド……ダッ!」
お空が私達を見下ろし、砲塔をこちらに向ける。
その瞬間洞窟の天井が崩落し、土砂に巻き込まれたお空は地面に落下し生き埋めになる。
気温の上昇も感じられず、魔力反応もほとんど消えてしまった。
旧地獄の中心に積もった土砂には、天井に空いた穴から日の光が差し込んでいた。
「……これで貸しナシね」
「……倒せたのか?」
「魔力反応もないし、動く気配もない。火柱も収まったし万事解決じゃない?」
「お空!」
さとりが積もった土砂に駆け寄る。
必死に手で掘り返していると、中から寝息を立てるお空が掘り出される。
「……ひとまずは生きてるっぽいな」
「感動の再会に水をさすわけにはいかないわね。話は後で聞き出しましょ」
大きく息をつき、地面にへたり込む。
今ので持ってきた武装も道具も魔力すらもほとんど使い尽くしてしまった、それは魔理沙も同じようで私の背中を背もたれにさっきの魔道具で涼んでいる。
異変はまだ解決はしていないが、私達は一区切りついた様に身を休めた。