東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
霊夢&魔理沙編EX 【太陽の子】
太陽はこの三日間沈むことはなく、幻想郷を照らし続けた。
蝉の鳴き声が消えた幻想郷はまるで空っぽの夏景色。
二日間たっぷりと休んだとはいえあの戦いの疲労が残る中、私と魔理沙はまたミズチと戦った空域に戻ってきていた。
「ここか?」
「いや、もうちょっと上ね」
私は幻想郷の真上に浮遊する太陽を見上げる。
捕まえたミズチから聞き出した情報によると、この沈まぬ太陽異変の主犯はあるルートを通らないと会えないらしい。
魔力を注意深く観察しながら、魔理沙を少しずつ誘導する。
「そこ、そこでいいわよ」
「おー、確かにここは魔力の感じ方が違うな」
「とりあえず防御結界を張ってから入りましょ」
私は魔理沙の手を取って、防御結界を施す。
しかし、私は感じた事のない程の不安を感じていた。
「……」
「どうした?」
「このルートの先から、ずっと視線を感じるの。それに……とんでもない神聖な力も」
「神聖な力って事は良い事なんじゃないのか?」
「人体の許容量に収まるならね。パワースポットも強力過ぎれば禁足地、神様だって直視すれば正気を失う」
「じゃあ神奈子とか諏訪子はどうなんだ。私は正気だぜ?」
「普段は許容量内に抑えてくれているからよ。はい完成、そろそろ行くわよ」
私は閉じられたルートを開き、魔理沙と異空間に踏み入る。
周囲の景色は若干ぼやけているが、太陽に向かって結界で道が作られている。
太陽に近づくにつれて神聖な力は増していき、私達に張った防御結界を蝕んでいく。
そして何より異様なのは、私達の視線の先。行く先に見える太陽に、石で出来た扉の様な物が付いていた。
「……魔理沙、あれ見える?」
「あぁ……なんだかやばい場所に来ちまったみたいだな」
扉はうっすらと開き、中から誰かが私達を覗いている。
その時私達の背後から誰かが追い抜かし、両手を広げて立ち塞がった。
「お、お待ちくださいませ!」
「あぁ? なんでお前がここにいるんだ、ミズチ?」
「紫の所で無償労働の筈でしょ、紫はどうしたのよ」
首輪を首に巻いたミズチが焦った様子で、私達に縋り付くように寄ってくる。
「紫さんは過労でぶっ倒れているので抜け出してきたんですわ! そんな事よりたった二人で来るなんて正気の沙汰じゃありませんわ!」
「どう言う事?」
「あ、あのお方は強大な力をお持ちですわ! あんまりにも強大にして絶大! たかだか人間二人、一瞬で塵にされてしまいますわよ! せめて私を追い詰めた方々全員を集めなければ、ただ機嫌を損ねるだけですわ!」
「うっさいわね、また退治するわよ」
「うぅ……私の身の安全のため、あなた達にはここで引き返していただきますわ! 【幻想『氷河の大地を照らすオーロラ』】!」
ミズチは私を突き飛ばす様に離れ、ミズチがスペルカードを放とうとする。
しかし弾幕は出現せず、魔力がただただ漏れ出るだけだ。
「ほい」
「ぎゃ!」
魔理沙が細いレーザーでミズチを撃ち落とす。
ミズチは一瞬でやられ、ヘロヘロと落下してくる。
「く……この首輪さえなければ……」
「とりあえずこいつどうする?」
「連れて行って肉盾にでもしようぜ」
「あんまりですわ……」
しょぼしょぼと力なく項垂れるミズチを片手に、私達は異空間を進む。
太陽の目前にまでやってきた私は、ミズチを投げて扉にぶつけた。
「……」
「子供?」
扉は内側から開き、中から小さなオレンジ髪の少女が顔を出した。
その瞬間、人体の許容量を大幅に越した神聖な力が私達の体に降り注ぐ。
人体は一瞬で塵になり、意識すら保てない程の神性。防御結界が無ければそうなっていた事は明白だった。
「あなたは……いや、あなた様は?」
「お……【オオヒメ】って、いいます……」
「オオヒメ!? オオヒメって、大日女か!?」
魔理沙が慌てた様に叫ぶ。
大日女とは日本の最高神、天照大神の名前の一つだ。
この溢れ出る神性が、その言葉の裏付けを担っている。
「お、オオヒメ様! 計画の失敗をお許しくださいませ! どうかお慈悲を!」
「って事はオオヒメ様がこの異変の主犯……?!」
ミズチは空中に土下座をし、泣きながらオオヒメ様に許しを乞う。
しかしオオヒメ様は戸惑った様に、ミズチにかける言葉を探している様だった。
「えっと……あの……」
「ヒィ!」
「……」
オオヒメ様は助けを求める様にこちらに視線を送る。
私は垂れたミズチの首輪に繋がった鎖を引き、オオヒメ様から引き離す。
するとオオヒメ様は、安心した様に息を吐いた。
「オオヒメ様、どういう事か説明してもらってもいいかしら?」
「……あ。……うん。えっと……」
オオヒメ様はもじもじと指を擦り合わせ、恥ずかしそうに視線を右往左往させる。
そして顔を背けながら、小さな声で話し始めた。
「幻想郷……が、楽しそうで……」
「……どういう事?」
「……私が説明いたしましょうか? オオヒメ様」
ミズチの申し出に、オオヒメが頷く。
ミズチは私の手からすり抜け、オオヒメ様の隣に立つ。
「では僭越ながら。オオヒメ様は大変高名なお方で、ある日幻想郷に興味を持ちましたわ」
「た、楽しそうだった……から……」
「そして私にその旨を相談してくださいました。なので私はオオヒメ様の望みの通り、幻想郷を手に入れて献上しようと行動していたのですわ」
「ち、違う……!」
オオヒメ様が大声を上げると同時に神性が爆発する様に溢れ出し、ミズチは吹き飛ばされる。
私達の防御結界は一瞬で弾け飛ぶが、神性が体を崩壊させる前に一瞬で結界を張り直す。
オオヒメ様は焦った様子で深呼吸を繰り返し、溢れ出した神性を押さえつける。
「わ、私は……ただ、幻想郷に行ってみたくて……友達、が……欲しかっただけなのに……」
オオヒメ様は苦しそうに胸を押さえつけながら、言葉を紡ぐ。
私はオオヒメ様に向かってしっかりと頷き、吹き飛ばされたミズチを引っ叩き起こす。
「ミズチ、どういう話をしたのか正確に教えなさい!」
「……げ、『幻想郷に興味がある』と」
「それで?」
「……『人見知りだから、先に行って私が自然に過ごせる様に地盤を整えてほしい』と」
「……それで?」
「それだけですわ。だから私はオオヒメ様が幻想郷でも何不自由なく暮らせる様に、この地を支配してその王座を献上しようとしたんですの」
「ち、違う……私はそんなつもりじゃ……!」
押さえつけた神性がまた溢れ出し、ゴリゴリと結界を削る。
「私はただ……友達が欲しかった……お任せあれって言ったから、力を渡して任せたのに……こんな、酷いやり方……」
「酷いやり方!? 私のやり方は昔っからこうですわよ!?」
「ちょっとあんたは黙ってて」
私はミズチの口にお札を貼り付け、魔理沙に投げ渡す。
そして防御結界を解き、オオヒメ様にゆっくりと近づく。
「オオヒメ様、あなたはこんなこと望んでなかったのね?」
「……うん」
「聞かせてくれる? オオヒメ様が、どんな考えだったのか」
「……うん。わ、私は人、人見知りで……」
オオヒメ様は言葉を詰まらせながら、私の服の端を掴む。
私はオオヒメ様の手を優しく包み、もう片方の手で優しく背中を撫でる。
「人見知りで、神様で……でも幻想郷だったら、神様にも友達が出来てて。私、私にも友達が出来たらって……」
「うんうん、幻想郷が素敵な場所に見えたのね」
「うん……でも人見知りだから……困った時は龍に頼れってお姉ちゃんが言ってたから……」
「お姉ちゃんって言うのは?」
「お姉ちゃんは、天照大神……私はお姉ちゃんの力の一片で、だからオオヒメって名前……」
「なるほどね。それで龍に、ミズチに相談したと」
「うん……ごめんなさい、こんな事になるなんて……」
私は優しくオオヒメ様を抱きしめ、頭を撫でる。
オオヒメ様は最初は私を突き放そうとしていたが、やがて落ち着いたのか体を預けてきた。
「ごめんなさい……」
「ううん、あなたは悪くないわ。大丈夫よ」
「違う……私の近くにこんなにいたら、もう……」
「大丈夫。私は博麗の巫女よ、このくらい何ともないわ」
「ほんと?」
「えぇ、神様に嘘付くわけないわ」
オオヒメ様は涙を流しながら、私を力一杯抱きしめた。
私はオオヒメ様を抱き返し、もう一度優しく頭を撫でた。
「霊夢、結局どうするんだ」
「オオヒメ様に悪気はないわ。神性にビビって勝手に早とちりして、幻想郷の支配とかいう物騒な手段を取ったミズチの責任ね」
「……!?!? ……!!」
「おーおー暴れるなよ、間違えて撃っちまうぜ?」
魔理沙がミズチの顎に、下から八卦炉を突きつける。
一瞬でミズチは大人しくなるが、オオヒメ様がその様子を見て私の服を引っ張る。
「ミズチさんに、あんまり悪くしないであげて……私の、わがままを聞いてくれようとしただけだから……」
「でもこいつが悪いから責任は取らなくちゃ」
「みんな! ……みんな誰も話を聞いてくれなかったの。でも、ミズチさんは聞いてくれて……だから、私も責任がある……」
「……まぁ天照大神様だもんね、みんな怖がるわけだわ」
私は目で魔理沙に合図を送る。
魔理沙はやれやれと言った様子で、八卦炉を離しミズチの口のお札を取った。
「オオヒメ様ぁ……!」
「わ、悪い事はダメ……ちゃんと言ってなくて、ごめんね」
「いいえ、いいえ! 私が早合点したばっかりに迷惑を……!」
「ちゃんと、二人で謝ろ?」
「はい! 申し訳ありませんでしたわ!」
ミズチは物凄い速度で頭を下げ、大声で謝罪の言葉を放つ。
オオヒメ様は少しだけその様子に怯みながらも、頭を深々と下げた。
「ごめんなさい……!」
「まぁ……これで一件落着か?」
「そうね、これで異変はおしまいね。……いや、太陽がずっと出ているのを何とかしに来たんだったわ」
「あ……ごめんなさい、今すぐ何とかします……!」
オオヒメ様が軽く手を振ると、太陽が消滅する。辺りは暗闇と静寂に包まれ、一瞬で気温が下がる。
「わー! 太陽は消しちゃダメよ!」
「あっ! あっ! すいません、今出します!」
オオヒメ様が手を打ち鳴らすと、空に太陽がいくつも現れる。
一瞬で周囲の温度が急上昇し、眩い光が周囲を照らす。
「ちょ、一つ! 一つでいいから! 普通の太陽を一つ!」
「あっ! あぁっ! はいっ、はいぃ!」
オオヒメ様はもう一度手を打ち鳴らすと、太陽は一つだけになった。
安堵から、深いため息が漏れ出る。
「ご、ごめんなさい……あんまり勝手がわからなくって……」
「……幻想郷で暮らすなら、まずは力の調整を覚えてからね」
「神奈子とかに頼むか?」
「それでしたら私が請け負いますわ。伊達に古の時代から生きておりませんことよ」
自信満々に胸を張るミズチに懐疑の目を向けつつ、小さく頷く。
「まぁあんたなら死んでも問題なさそうだし、変な事すれば首輪が【ボンッ!】だから大丈夫そうね」
「え? この首輪が何ですの? 【ボンッ!】って何ですの!?」
「紫にも話を通しとかなきゃね」
「……あ、あの」
オオヒメ様がスカートの端を引っ張る。
私はしゃがみ込み、オオヒメ様と視線を合わせる。
「どうしたの?」
「あの……えっと」
「何でも言っていいのよ」
「私にも、お、お、お友達……ここだったら、出来ますか?」
「出来るわよ。だって私達はもう友達じゃない」
「そうだぜ、私達は友達だぜ!」
「……! うん!」
オオヒメ様は嬉しそうに目を輝かせ、何かを取り出す。
それは不格好だったが、スペルカードだった。
「これ! ずっと、幻想郷を見てて……楽しそうだったから!」
「お! 弾幕ごっこか! よ〜し、私とやろうぜ!」
「うん! やる!」
魔理沙とオオヒメ様はお互いに和気藹々としながら、弾幕ごっこのルールを確認し合っている。
私は少し離れた場所で息を吐く。すると、ミズチが隣にやってきた。
「あなた、凄いんですのね」
「何が」
「いえ。あの神性を防御結界無しで受けても無事だなんて」
「……正直死にかけてるわよ。肉体に神様を降ろしてるから耐えれてるだけ」
「なるほど。巫女らしい解決法ですわね」
この異空間に魔理沙とオオヒメ様の弾幕が飛び交い、まるで花火の様だ。
「あんた、結構小心者なのね」
「えぇ、クソビビりですわ。だからこそ、神秘の失われたこの時代まで生きてこれたんですのよ」
「これも一種の生存戦略ね」
「はははははっ! 【恋符『マスタースパーク』】!」
「た、【太陽『サンライトビーム』】!」
二つのビームがぶつかるが、魔理沙のマスタースパークが一瞬で押し負ける。
魔理沙はオオヒメ様のビームを避け、目眩しの弾幕を放つ。
「あんた八人連れて来いって言ってたけど、どうするつもりだったのよ」
「……神様の頼み事を失敗すればどうなるか、分かりますわよね? なので……まぁ」
「はぁ……倒して失敗を帳消しにしようとしたのね。あんたは最低の極悪人ね」
「嫌ですわ、これが私のやり方ですのよ。まぁ非人道的なのは認めますが、私龍ですので。それに、流石に懲り懲りですわ」
「はぁっ! はぁっ! 【光撃『シュート・ザ・リトルムーン』】!」
「【光輪『サン・オブ・ザ・フラフープ』】!」
魔理沙の放った弾幕はあっという間に光輪によってバラバラに裂かれる。
魔理沙はヘロヘロになりながら、私の前にやってくる。
「も、もう無理! あいつ無茶苦茶強い、霊夢交代だ!」
「しょうがないわね」
魔理沙とハイタッチし、私も弾幕ごっこの準備をする。
オオヒメ様は嬉しそうに笑顔を浮かべ、両手を忙しく動かしている。
「弾幕ごっこって、こんなに楽しいんだね! いつも隙間から見ているだけだったから、とっても嬉しいの!」
「それは何よりよ。さぁ、遊びましょうか」
「うん!」
オオヒメ様は嬉しそうに飛び上がり、巨大な弾幕を次々と生み出す。
私はお札や陰陽玉、針やスペルカードを用意して構える。
「これ、お気に入りなの。受け取って! 【膨張『全てを飲み込む太陽』】!」
「……ちょっと規格外ね」
私の目の前には、本物の太陽にも負けず劣らずな太陽型弾幕が展開された。
「【霊符『夢想封印』】!」
_____________________
「負けた〜! とっても楽しかった!」
「それは……よかったわ」
オオヒメ様は頬の汚れを袖で拭いながら、屈託のない笑顔で私に笑いかける。
私は霊力も何もかもを出し切って、もはや燃え殻だ。
「次はもっと本気でやろうね! 霊夢お姉ちゃん!」
「えぇ……そうね。必ずね」
私は心の中で明日から修行を始めようと決心しつつ、オオヒメ様の頭を撫でた。
「それじゃあ魔理沙・ミズチ、一旦帰るわよ」
「あ……」
「どうしたの?」
「ううん……また来てくれる?」
「もちろんよ」
私が笑顔で返事をすると、ミズチが耳元に寄って来る。
「霊夢、オオヒメ様は太陽の中で一人ぼっちですわ。そんな可哀想な事を強いるのですか?」
「う……私が子供を見捨てられない事を逆手に……!」
「うふふ、私はずる賢い龍ですので」
ミズチは高笑いをしながら魔理沙の箒に飛び乗り、殴られて鎖で引きまわされる。
私はオオヒメ様の目の前にしゃがみ込む。
「えっと……良かったらうちに来る?」
「……! うんっ!」
オオヒメ様は、笑顔で返事をした。
~後日~
私は縁側に座り、庭先の二人をぼーっと眺める。
オオヒメ様はミズチの動きを模倣しながら、神性を抑える修行に励んでいる。
「懐かしいわね、霊夢」
紫が隣に座り、微笑ましくその姿を眺めている。
「あんな時代があったのよ、あなたにもね」
「私はあんまり覚えてないわ」
ぶっきらぼうに返事をするが、本当は覚えている。
幼い頃に、紫にこの庭で稽古をつけてもらった事を。
「その調子ですわオオヒメ様! この状態を継続できれば人前に出れますわよ!」
「う、うん! ……頑張る!」
ミズチは幻想郷の空気に絆されたのか、今ではすっかりオオヒメ様の保護者面をしている。
一日の大半は紫の元で色々な業務を行い、時間を設けてはオオヒメ様の力のコントロール指導を行なっている。
ミズチが紫の元で何をしているかは詳しく知らないが、私の元に藍がよく愚痴を吐きにやってくる様になった。
「ねぇ紫、あいつどうするの?」
「ミズチ? とりあえず今割り振ってる仕事を終わらせたら自由の身にしてあげようかしら」
「え? 随分と甘いわね」
「実際優秀で真面目、どんな仕事も嫌がらずにやってくれるんだけど……藍が嫉妬しちゃってね」
「あ、そう」
私は内心安心する。
これで愚痴を聞く必要もなくなりそうだ。
「はいそこで腕を上げますの!」
「こ、こう?」
「そう! そして微笑む!」
ミズチの動きを真似るオオヒメ様は、出会った当初の様なビクビクとした引っ込み思案な面影は見えなくなっていた。
子供の成長は早いものだ。
「霊夢お姉ちゃん! 見て!」
「それは何のポーズ?」
「ヨガ? のポーズだって!」
変なポーズをとりながら、私にそれを見せてくる。
この調子なら、きっとオオヒメ様にも素敵な友達ができるだろう。
幻想郷は全てを受け入れる。それは素敵な事でもあるのだ。
「ねぇ紫」
「なぁに?」
「また修行つけてよ」
「あら、珍しいわね。私の修行は厳しいわよ?」
「逆に厳しくなかったら承知しないわよ」
「ふふ、口の減らない子ね」
紫はケラケラと笑う。
今日も博麗神社は賑やかだ。
~END~