東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
魔理沙を抱えつつ、倒れる様に加速する。
頭上の針妙丸は百々世を振り翳し、石ころの様に投擲する。
「迎撃は任せろ!」
魔理沙が弾幕を張り、百々世を近づけさせまいとする。しかし百々世は体をくねらせ、弾幕の隙間を縫う様に走り抜ける。
「蜈蚣の機動性を舐めたな!」
「いいや、ルートは絞れたぜ!」
魔理沙が小瓶をいくつか投げ上げ、レーザーで撃ち抜く。
小瓶は爆発し、ばら撒いた弾幕に連鎖反応を起こし次々と爆発する。
「霊夢、少し右!」
「わかってる!」
魔理沙の言う通りに移動し、魔理沙を投げ上げる。
空中に放り出された魔理沙の目の前に、爆風を避けた百々世が飛び出す。
「よぉ、箒の仇を取りに来たぜ。【魔符『スターダスト』】!」
「うぉ! 蜈蚣共!」
魔理沙の星弾が落下してきた百々世を飲み込む。だが百々世は咄嗟に蜈蚣を自分の正面に集め、魔理沙の星弾を防いだ様に見えた。
私は自由落下する魔理沙を受け止め、百々世の反撃に備え急いで距離を取る。
その時、目の前に大きな壁が現れる。
「逃がさないよ! これが本当の『ウォールオブイッスン』ってね!」
「針妙丸……!」
「退け退け!」
巨大化した針妙丸が、大きく手を広げ私達の行手を防ぐ。
魔理沙は針妙丸に向かってレーザーを放つが、まるで効いている様子がない。
「【『千切れもがき苦しむ蟲の怨み』】……!」
「まずい! 後ろから来るぞ!」
防御に使われ散っていった蜈蚣達の破片が集まり、ゆっくりと大きな蜈蚣の形を取る。
百々世はその蜈蚣の頭に乗り、私達に狙いを定める。
「針妙丸! 行くぞ!」
「【小槌『お前が大きくなあれ!』】」
針妙丸が小槌を振り、百々世に光が降りかかる。
その瞬間蜈蚣は更に大きくなり、龍と対峙しているかの様に錯覚する。
「【
「魔理沙! 合わせて!」
「こうなりゃヤケだ!」
龍の様な大蜈蚣が大口を開けて向かってくる。
魔理沙が私の首にしっかり捕まり、私は自由になった片手でお祓い棒を取り出し印を結ぶ。
魔理沙は八卦炉を取り出し、側面のリミッターを噛み壊す。
「【大結界『博麗大結界』】!」
幻想郷を囲う大結界を最小サイズで展開し、龍の様な大蜈蚣と百々世を結界の中に収める。
素早く魔理沙の体を腕を回し、八卦炉を構える魔理沙を支える。
「【魔砲『ファイナルマスタースパーク』】!」
八卦炉から極太のマスタースパークが放たれ、龍の様な大蜈蚣を正面から粉砕する。
だが百々世はいち早く察知して、蜈蚣を乗り捨てていた。
「最強は俺達だぁ!」
ピッケルを振り上げ、百々世は勝ち誇る。
その瞬間、結界に跳ね返ったマスタースパークが背後から百々世を焼き尽くす。
そのままマスタースパークは結界を破り、針妙丸の顔に直撃した。
星の散る爆発を巻き起こし、気絶したのか針妙丸の体は小さくなって落ちていく。
「……ケホ」
小さく咳き込み、百々世も満身創痍でこちらを睨む。
すぐに目線を切り、落下する針妙丸を受け止める。
「針妙丸がこれじゃこっちの負けだな……」
「もういい?! 疲れたんだけど!」
「あぁ、俺の。いや、俺達の負けだ」
大きく上を向き、百々世はため息をつく。
そのため息に感化されたかの様に、百々世の手の平の上の針妙丸も同じ様にため息をつく。
「ごめんね、百々世。小槌の副作用を恐れなかったらもっとやれたんだけど……」
「いいんだよ。俺も結構楽しめたしな」
「それで、あんた達は何が目的だったの? 部屋とかなんとか言ってたけど」
「あぁ? あぁ……実は鬼人正邪って奴がなぁ」
突然言いようの無い悪寒が背筋を伝う。魔理沙も感じた様で、驚いた様に私の顔を見る。
「なんだ今の!」
「どこ!?」
幻想郷中の蝉の声がやけにうるさく感じる。
気温が上がる様に体が火照り、周囲の景色が蜃気楼の様に歪む。
「いやぁご苦労ご苦労。さすがは幻想郷、想像よりも早く現れる事が出来ましたわ」
歪んだ景色の中から、巨大な人影が浮かび上がる。
長い紫の髪をドリルの様に左右で巻き、その頂点からは二本の角が生えている。
「……誰だお前」
「ご機嫌よう魔法使い。それと博麗の巫女。それから幻想郷の全ての生命よ!
「って事はあんたがこの異変の主犯って事ね!」
「ご名答ですわ。さすがは博麗の巫女。飲み込みが早い事で感心ですわ」
ミズチは嘲り笑う様に口元を手で隠し、私を見下ろす。
そんなミズチの足元から、何百人もの実々美が飛んで来る。
「うわ! 姿形全員一緒で気持ち悪い!」
「ご苦労実々美、約束通り幻想郷の下半分は差し上げますわ」
「ふん。私達の働きとして正当な報酬だな」
「ですが邪魔者がいては支配も出来ません。屈服させ、支配しなければ真の目的達成とは言えませんね」
何千何万もの実々美が一斉にこちらを向く。幻想郷の空を実々美の大群が覆い尽くし、渦を巻いて旋回する。
「ですが
ミズチは懐から時計を取り出し、こちらに向ける。
「明日の昼、昼食をとり終わった十四時ちょうど。その時までには幻想郷の支配権を
「誰がそんな提案に乗るかっての!」
「おほほほほ! 拒否するならば更に気温を上げ、この地を焼き尽くす事もやむなしですわ! よくお考えなさってくださいまし! お〜っほっほっほっほっ!」
ミズチは高笑いを残し、煙の様に景色に溶けて消えてしまった。
空に渦巻いていた実々美達も解散し、各々幻想郷に散らばっていく。
太陽の光が残された私達の肌を焼く。
「霊夢!」
「……紫」
スキマを開いて紫が慌てた様に顔を出す。そして私達の様子を見て、安心した様に息を吐く。
「とにかく無事でよかったわ。今から事態を纏めるから、一度集まってちょうだい」
「えぇ、そうね。色々と確認すべき事もありそうだし……」
体から急に力が抜ける。魔理沙を抱える腕にも力が入らず、落下する感覚だけが残る。
「おっと、こうなったのは俺のせいでもあるな」
「……」
「睨むなよ」
百々世が私を受け止め、私が首からかけていた水筒を開けて中身を飲ませてくる。
喉を生ぬるい水が通り抜けると、ぼーっとしていた頭がはっきりとする。
ある程度水を飲ませると、百々世は私の水筒の中身を勝手に飲む。
「なんで私のばっか飲まれるのよ……」
「重い〜!!!」
「あと少し! がんばれ針妙丸!」
魔理沙を支えながら足をばたつかせ、針妙丸はスキマの中に入っていく。
百々世も私を肩に担ぎ、紫の作ったスキマの中に入っていった。