東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
早苗&はたて編 一話
私は日陰で日焼け止めを手に出し、露出している肌部分に塗る。
鼻息混じりの私の様子を見て、はたては渋い顔をする。
「……どうしてそんなに楽しそうなんですか?」
「え? 妖怪退治って楽しいじゃないですか!」
「帰りたいよ〜!」
はたては目を【><】の形にして、携帯をぽちぽちと触る。
私は改造した巫女服と麦わら帽子の角度を直し、幻想郷を見渡す。
妖怪の山に構えられる守矢神社。ここからなら幻想郷を一望できるが、見たところ怪しい所は何ヶ所か見える。
「あの……」
「はい! どうしました?」
「えっと……どこ行くんですか? 最初に……」
「……どこ行きましょうか!」
はたては静かに顔を下げ、大きなため息をついた。
この幻想郷を騒がせる今回の異変、あのスキマ妖怪から何の情報を得られていない。
実質手掛かりなしだ。
「そういえばはたてちゃんは何ができるんですか?」
「ちゃん……!? えぇ、と。念写……です」
「念写! じゃあこの異変の首謀者とか念写できるんですか!?」
「あ……出来ないです……」
「そうなんですか。その携帯で念写するんですか?」
「は、はい……そうです」
はたては携帯を握り、胸の前で隠す様に持つ。
私ははたてに近寄り、手を差し出す。
「ちょっと貸してください」
「……え?」
「大丈夫です! 私も外の世界で使ってましたから!」
「え? え?」
はたては混乱しながら、携帯を差し出す。
私はそれを受け取り、両手で包んで軽く奇跡の力を流し込む。
「これでいいでしょう!」
「あの……何を?」
「奇跡の力を与えました! これで事件解決の手掛かりが念写できます!」
「……どう言う原理ですか?」
「奇跡の力です!」
はたては携帯と私の顔を互いに見比べ、携帯を念入りに調べる。
「何も変わっていませんけど……」
「まぁまぁ、一回念写して見てくださいよ! はたてちゃん!」
「ちゃん……はい……」
はたては携帯を両手で握り、祈る様に構えて写真を撮る。
カメラのシャッター音と共に、携帯が電子音を鳴らす。
画面を覗き込むと、そこには赤いレンガの壁が映った写真が表示されていた。
「これは……?」
「紅魔館ですかね?」
「いや、赤いレンガだからと言う考えは早計です! もっと思考を柔軟にしましょう!」
「……いや他にどこかありますか!?」
「あります! 旧地獄でも見た様な気がしますし、人里にも多分あります!」
「じゃ、じゃあこれはどこなんですか……?」
「……どこではありません! きっと、他の何かを暗示しているんです!」
私は自信満々に脳を働かせ、この写真が何を表しているのかを考えた。
赤いレンガ。常識的に考えれば紅魔館だ。だが、奇跡の力を使った念写。異変解決の手掛かりを表しているのは間違いないとして、直接的な場所のヒントなど与えてくるはずがない。
「……奇跡は、そう簡単には起きません!」
「……何です?」
「わかりました。この写真の表す場所が!」
「やっぱ場所なんですね」
「色々な場所に赤いレンガは存在しています。紅魔館、人里、旧地獄、魔法の森、妖怪の山。ですが、唯一赤いレンガとは無関係な場所があります!」
「……どこです?」
「それは……!」
幻想郷の人里、その少し奥を指差す。
「命蓮寺です!」
「……そんな事無くないですか?」
「チッチッチッ! あのお寺、かの宝船異変時の宝船が変形した姿なのです」
「……それで?」
「あの宝船は木造、つまりレンガは使われていません! それに妖怪がいっぱい集まってるし信仰を横取りする悪ですし、めちゃくちゃ怪しいです!」
「ほとんど私怨じゃないですか!」
「場所が分かれば
私ははたての腕を引っ張り、風を掴んで加速する。人里を飛び越え、あっという間に命蓮寺の前に着く。
しかし命蓮寺の門は固く閉ざされ、その表には【猛暑につき閉鎖】と書いた張り紙が貼り付けてあった。
はたてはそれを写真に収める。
「閉鎖してますね」
「やましいことがあるから門を閉ざすのです!」
私は拳を振り上げ、門に何度も叩きつける。
「ごめんくださ〜い! 異変解決に来ました、早く開けてくださ〜い!」
「ちょ、ちょっと!」
はたてに止められそうになった時、門の小さな扉が開いた。
中から怯えたような顔をした妖怪ネズミ、ナズーリンが顔を出した。
「……張り紙が見えない?」
「妖怪退治に来ました!」
「何もしていないのに!? こっちだって困ってるんだよ」
「ふむ。じゃあ中に入れてください!」
「……門前払いには応じて来れなさそうだね。くれぐれも急に暴力振るわないでくれたまえよ」
ナズーリンは門を開け、私達を中に招き入れる。
命蓮寺の敷地内は日を遮る木もない上、地面が石造りだから熱が反射して外よりも暑い。
サンダルの裏が少し地面にへばり付く感覚がある。
「暑くないですか?」
「え? 下駄なんで」
「修練で大抵の暑さは耐えれるさ。でもこの暑さにはちょっと堪えるね」
「アッ私じゃない……」
「いえ、意見は多い方がいいですからね」
命蓮寺の柱の影から妖怪達がこちらを窺っている。蝉の鳴き声に紛れて、こそこそと話し声も聞こえる。
私達はナズーリンに案内されるままに、命蓮寺の本堂の中に入る。
扉を開けた瞬間に、熱波が溢れ出る。
「いつもこんなに暑いんですか?」
「今日はちょっとマシだね。いつもは修練をやっている者達の熱気がすごいから」
「なるほどなるほど! お邪魔しますね!」
私はサンダルを脱ぎ、本堂の奥に進む。
焼けた床が足の皮膚を焼く様な感覚がある。奇跡でカバーしつつ、キョロキョロと見回す。
何か変な魔力を感じる。
「何か感じますか?」
「……え、私? 何も感じませんけど」
「そうですか。……ふむ」
私は疑問符を浮かべる二人を放って、魔力探知を行う。
命蓮寺の中央。その床から妙な魔力の残り香を感じる。確実にこの幻想郷中にばら撒かれている魔力と同じ形の魔力だ。そしてその魔力は、異変が始まった時から感じ始めていた。
「ナズーリン。この命蓮寺に、異変に関係している者がいますね」
「何を言っているんだ、私達だって仲間が一人暑さにやられて入院中だ。あまり調子に乗るな、我々はみんな大切な家族だ」
「ふむ。恐らく無自覚、又は上手く隠しているのでしょう。いいでしょう、はたてさん!」
「は、はい!」
「この命蓮寺にいる妖怪全員をここに集めてください! 今すぐに!」
「わ、わかりました!」
はたては下駄をカタカタ言わせながら、命蓮寺を駆け回る。
ナズーリンは私を睨みながら近寄ってくる。
「私達の中に裏切り者がいるとでも言いたいのか、人間!」
「えぇ、います」
「黙れ! いくらお前達人間が妖怪の事を忌み嫌っているとしても、我々の絆は絶対だ!」
「あ、集めました!」
「よろしい!」
私はくるりと周り、集まった面々を見る。
船幽霊、妖怪尼、毘沙門天の化身、妖怪蝉、みこし入道、妖獣鵺、鴉天狗。
そして、私に掴みかかろうとしている妖怪ネズミ。
「今日お集まりいただいたのは他でもありません! この中に、今回の異変に関わっている関係者がいます!」
一度言ってみたかったセリフを、大声で叫ぶ。
集まった妖怪達は驚いた様子で私に注目し、その場の空気に緊張が走る。
「な、何を言ってるんだ!」
「村紗の言うとおりよ! あんまり舐めてるとぶっ飛ばすわよ!」
「私達の中に裏切り者がいるって? やってられるかよ、私は帰らせてもらうぜ」
「動くな!」
逃げようとするぬえに向かって、奇跡で作り出した矢を放つ。矢はぬえの頬をかすめ、本堂の入り口の柱に突き刺さる。
結界を張り、この場から誰も逃げられない様にする。
「犯人が見つかるまで、ここから逃げる事は許しません!」
「無茶苦茶だ……」
「ご主人、こいつは正気じゃない。力づくでもねじ伏せるべきだ」
「やれるもんならやってみろ! こっちは妖怪退治の専門家ですよ!」
お祓い棒を取り出し、奇跡の力を込める。
神々しい輝きを放ち、お祓い棒を見て妖怪達はビクリと体を震わせる。
一匹一匹に見せつけ、わざとらしくお祓い棒をしまう。
「いいでしょう。立場を弁えてくれた様で感心です」
「脅して大人しくさせたの間違いだろうが」
「ここ、命蓮寺の床に魔力が残っていました。その魔力は異変が始まった時から幻想郷中にばら撒かれていた、いわば異変に使われている魔力と同じ物です」
「……だから早苗さんはこの場に関係者がいると?」
「その通り! さすがは私のワトソンです!」
「わと……?」
「では一人一人尋問します。まずはあなた、ナズーリンからです」
ナズーリンは大きなため息をついて、前に進み出る。
「それで私に何を聞くんだ? えぇ?」
私はメモを取り出し、早速ナズーリンに犯人ポイントを三点つける。
探偵に反抗的な態度を取る者は犯人の説があると、よく読んでいる推理小説にも書いてあった。
「ふむ。では事件当時の行動を話してもらえますか?」
「事件当時……?」
「この魔力の残り方からすると、およそ今から三時間の間につけられた物。調べてみたところ、何か水を溢し拭き取った。しかしその水に染み込んだ魔力だけが残ったのでしょう。心当たりは?」
「液体……? いや、私は知らないな。三時間の間本堂には近寄っていないからな」
「その間は何をしていたんですか?」
「ご主人。寅丸星指導の元、命蓮寺を閉鎖していた。信者を返したり、戸締りをしたりと忙しくてね」
「ふむふむなるほど。信者の方達が本堂に近寄った様子は?」
「……分からない。私はそこまで見れていないな」
ナズーリンは首を振る。
私はメモに今聞き取った情報を記し、眉を顰める。
「では次。そこのあなた」
「え、私?」
「そうです。まずは名前を」
「あ、あぁ。村紗水蜜。聖輦船の船長をやっている」
「では三時間の間に何をしていましたか?」
「いや、普通に私達も戸締りの準備を……」
「ふむ。主に何をしていましたか?」
「……貢物とか奉納品とかを倉庫に運んでました」
「なるほどなるほど。ちなみに品物は何ですか?」
「……米とか水とか、あとは野菜とか工芸品ですかね」
「その工芸品は何でしたか? 詳しく説明してください」
「……玉ガラスのネックレスと、紐を編み込んで作った腕飾りが三つです」
私は村紗の首根っこを掴み、お祓い棒を首に押し付ける。
首とお祓い棒の接触部がジリジリと煙を出し、村紗は苦悶の声を上げる。
ナズーリンと一輪が私の腕を掴み、村紗を助けようとする。
「何するんだ! 離せ!」
「そうだ、イカれた巫女! 質問には答えたはずだ!」
「いいえ、人は嘘をつく時には頭の中で設定を作ります! 普通では覚えていない様な事でも、嘘をついた時には事細かに説明出来る! こいつは嘘をついています!」
「やめ……て……」
私は村紗から手を離し、地面に手をつく村紗を見下ろす。
顔を覗き込み、緊張がほぐれる様に笑顔を見せる。
「正直に話しますか? それとも痛めつけられないと喋れない
「うぅ……話せない……」
「へぇ。村紗さんはそういう
「やめて! 嫌だ!」
村紗は頭を抱え、小さく震える。
そんな村紗の前に、寅丸星が庇う様に割って入ってくる。
「私は聖にここの留守を任された。あまり度が過ぎると、私も我慢の限界を迎えるぞ」
「……嘘つきさんに慈悲は必要だと思いますか? そしてそれを庇う愚かな妖怪達にも」
「……少し時間をくれ。私達で話す様に説得する」
「いいでしょう、十分間の休憩を設けます! はたてちゃん、口裏を合わせたりしないように監視していて下さい」
私は本堂の端に積まれていた座布団を抜き取り、地面に敷いて正座する。
妖怪達は集まって、何かを話している。
私にはわかる。命蓮寺の妖怪達は、何かを隠しているという事が。