東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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早苗&はたて編 二話

「では、十分経ちましたので尋問を再開します!」

 

私は少しうとうとしていた目を擦りつつ、妖怪達に呼びかける。

命蓮寺の妖怪達はまるで村紗を守る様に陣を組み、私の一挙手一投足に警戒している。

 

「尋問の順番を変えてもらえるか」

「ほう。何か口裏を合わせる時間が欲しいと?」

「違う、村紗はまだ落ち着いていない。それにお前につけられた首の傷も再生が追いついていない」

「なるほど。では次はあなたにしましょうか、毘沙門天代理さん」

 

私の前に立ち塞がる寅丸星は、牽制する様に一歩前に出る。

住職の代理を任されるだけはある。変な動きをすれば見逃さないという気迫を感じる。

 

「ではまずお名前と、三時間の間に何をしていたかを」

「聖の留守を任されている、寅丸星だ。三時間の間ナズーリンと共に信者を帰し、戸締りをしていた」

「なるほど。はたてちゃんに呼ばれた時には何をしていましたか?」

「何って……離れでナズーリンと水を飲んでいた」

「ふむ。ではその直前は?」

「……信者が帰ったかの確認作業だ」

「なるほど。では次の方!」

「おい、私にはそれだけか?」

 

星はまた一歩近づいてくる。その思惑が手に取る様にわかる。

コイツは私が先に手を出したと言う口実の元に、私をここから叩き出そうとしている。故にこんな挑発に乗るわけにはいかない。

私は涼しい顔で、一歩も引き下がらずにメモを取る。

 

「はい、以上です。次の人」

「……」

 

星は私を一度睨み付け、また村紗達の元に下がっていった。

誰も前に出ない様子を見て、蝉の妖怪が前に進み出る。

頭には古い飛行機乗りのゴーグルを掛け、服は軍服。背中には透明に近い羽が生えている。見た記憶のない妖怪だ。

 

「じゃあ次は私ですか……?」

「はい。では名前を」

「えっと、油熊実々美(ゆうぐまじじみ)です。近くを通りがかったら鴉天狗の人に引っ張られてきました……」

「なるほど、こことは無関係ですね」

「そ、そうなんです! 私は全くの無関係なんです!」

 

私は首を伸ばし、実々美の後ろの妖怪達に視線を送る。

それに気づいたナズーリンは私の聞きたい事を理解したのか、大きく頷く。

 

「なるほど。本当に無関係な妖怪の様ですね」

「そうなんです……もう帰っても?」

「ダメです。犯人が見つかるまで、誰一人としてここから出られません」

 

しょげた顔をしながら、実々美は少し離れた場所で一人膝を抱える。

すると私の目の前に誰かが立つ。視線をやると、雲居一輪と雲山が腕を組んで立っていた。

 

「何か?」

「次は私達だろ」

「そうですね。いいでしょう」

「雲居一輪、こっちは雲山。二人共仲間に手を出す奴には容赦しないタイプだよ」

「へぇ、それはいい事ですね。それで三時間の間は何を?」

「命蓮寺の外を見回ってた。誰か倒れていないかとか、正面門の張り紙とかね」

「ふむふむ、なるほど。ではその間のアリバイは誰も保証してくれないと……」

「雲山がいるだろ」

 

雲山は硬い表情で何度か頷く。

私はその様子に、少し笑いが出る。

 

「いえ、いつも一緒にいるのなら参考になりませんので」

「喧嘩売ってるのか? 雲山だって一人の妖怪だぞ」

「おっと、そんなつもりは。ただ自身の体の一部に証言させる人はいないので」

「……あんた覚えてなよ」

 

舌打ちをしながら一輪は妖怪達の元に帰っていく。

私は残った面々に目をやる。全員に話を聞いた。

メモの内容と、メンツに差異は無い。

だけど、何か違和感を感じる。

 

「誰かいなくなりました?」

「……」

 

妖怪達が口を閉ざし、硬い視線でじっと睨む。

その中で実々美だけが、私の後ろをチラリと見た。

 

「な〜んだ。はたてちゃんですか」

「あ、あはは。どうしたの?」

 

私の後ろに、ピッタリとはたてが立っていた。

はたてに尋問していない事に気づき、私はメモを取り出す。

 

「はたてちゃん、はたてちゃんは何をしていたの?」

「え!? 私に聞く必要ある?」

「一応ね。一応」

 

つま先から頭のてっぺんまで、はたてを観察する。

立ち姿、姿勢が違う。

はたての偽物は考える様なそぶりをし、指を顎につけて目を瞑る。

私はお祓い棒を振り上げ、思い切り偽物に叩きつけた。

 

「うぉっ! 嘘だろ!?」

「ふむ、鵺ですか」

 

煙の様にはたての姿が消え、ぬえが姿を現す。

奇跡を使い私の後ろから不意打ちをしようとしていた妖怪達を縛り上げる。

 

「それで、何をしていましたか?」

「テメェをここから叩き出す案に舵切ったってのに、私の役目はいつもこうだ!」

 

ぬえは三叉槍を取り出し、私にその矛先を向ける。私はその三叉槍を踏みつけ、ぬえの首に腕を回そうとする。

ぬえはするりと軟体動物の様な動きで腕を抜け、逆に私の首に細くした体を巻き付ける。

 

「少し眠っててもらおうか!」

「私相手に蛇になるとは……愚策ですね」

 

動き回る蛇状のぬえの首を掴み、地面に叩きつける。

首と頭の中間地点にお祓い棒を打ち込み、そのまま下に引っ張りぬえの体を開く。

中にはぬえが驚いたような顔をして私の事を見上げていた。

腕は頭上で重ねてお祓い棒によって抑えられ、身動きはもう取れない。

 

「どうして本体をピンポイントで抑えられるんだよ……」

「経験と勘。洞察と実力です」

「意味わかんね……」

 

ぬえの腕を縛り上げ、寅丸星に向けて転がす。

ぬえの術が解けたのか、座布団で巻かれたはたてが地面に転がっている。

拘束を解き、また妖怪達に向き直る。

 

「一つ言っておきましょう。私は妖怪退治に来たんです」

「だからなんだ。それは命蓮寺に対する宣戦布告か?」

「私はそうして、ここの妖怪達を全員退治する事も出来るんですよ。でも、たった一人の犯人を探して犠牲を最小限に抑えようとしているんです。それは分かってくださいね」

 

村紗をじっと見つめながら、そう呼びかける。

村紗はしばらく黙り、妖怪達の顔を見上げる。

何か決意を固めた様に私に向き直り、前に進み出る。

 

「聖、星。先に謝っとく、ごめん」

「え……?」

「はい。それでは何をしていましたか?」

 

村紗は大きく息を吸い込み、大声を出そうとする。

しかしすぐに息を吐き出し、顔を背ける。

 

「……した……」

「はい?」

「お酒……飲んでました……」

「もう一度大きな声で!」

「もらったお酒、隠れて倉庫で飲んでました!」

 

村紗は涙目で大声を上げる。

その様子を見て、命蓮寺の妖怪達は自分の顔を抑え大きなため息をつく。

 

「はい、そうでしょうね。ちなみにどれくらい飲んでいたんですか?」

「三本……」

「本当は?」

「……十本」

「本当に?」

「本…………十二本、です」

 

ナズーリンは大きなため息をつき、地面に座り込む。

私は村紗の肩に手を置き、顔を覗き込む。

 

「どうして飲んだんですか?」

「……一輪が、お酒が蒸発したとか言ってたから。蒸発して無くなるんなら飲んだほうがいいなって、思って」

 

その発言は聞き、星は目頭を抑え額に青筋を浮かべる。

 

「一人でその量飲んだんですか?」

「……」

「二人?」

「……」

「誰と飲んだんですか?」

「ひ、一人……」

「もういいよ」

 

一輪が村紗の肩を優しく叩く。

そして頭巾を取りその場で星達に頭を下げる。

 

「私も飲んだんだ。倉庫に誰かいるなと思って、村紗から口止め料として少し分けてもらった」

「少し?」

「一本まるまる! その場でラッパ飲みして、すぐに雲山の元に戻ったよ!」

「なるほどなるほど。その時の村紗さんの様子は?」

「え? ……完全に出来上がっていて、泥酔していたけど」

「村紗さん、本当に十二本。いや、一本引いて十一本飲んだんですか?」

「いや……途中から誰かと一緒に飲んだ気もする……」

「なるほど。村紗さんは酒豪ですか?」

「妖怪としては普通だけど、十本は飲めないと思う。いつもは六、七本で潰れるから」

 

泣き出す村紗を一輪が慰めている。それに寄り添う様に呆れた表情のナズーリンと星。

どうやら全員嘘は付いていないようだ。

これでここにいる者から取れるだけの証言は取れた。

私ははたての方に視線をやり、笑顔を向ける。

 

「ワトソン君。犯人がわかるかね?」

「……え? 私ですか?」

「君のことだよ、ワトソン君」

「はぁ……やっぱりここに犯人はいないんじゃ無いですか? 普通に隠れてお酒飲んでただけですし……」

「ふむ。だが、君に奇跡を掛けて人を集めさせたんだ。この中に犯人は必ず存在するよ」

「そうなんですか……?」

「それをワトソン君にも証明して見せよう」

 

私は精神を集中させ、両腕を大きく開く。

自分の真正面で大きく手を打ち鳴らし、奇跡を発動させる。

すると、みんなに囲まれていた村紗の顔が赤くなる。

 

「あ、あの! これいつ終わるんですか!」

「効き目アリですね。もちろん犯人が見つかるまでです」

「……あの、トイレ行きたいんですけども」

 

背後からはたてが私の肩を軽く叩く。顔を見ると、こちらも同じ様に我慢している。

妖怪達の顔を見るが、様子がおかしいのは村紗とはたてだけだ。

 

「お酒を村紗さんと大量に飲んだ最後の一人は名乗り出ていません。ですが一本だけ飲んだ一輪さんは白状しました。白状するタイミングを逃してもなお、秘密にする。それはつまり、私が探す犯人だからです!」

「……それと村紗のトイレに関係が?」

「犯人は大量にお酒を飲んでいます。私は今、奇跡で尿意を二倍にしました。三時間……トイレに行ったとしても尿が溜まるにはいい時間です」

「じゃあそこの鴉天狗が犯人って事かい?」

「いえ、はたてちゃんは私といたので犯人ではありません。それに……犯人はもうそこで白状しているじゃ無いですか」

 

私は本堂の隅を指差す。

恍惚とした表情で、実々美は股から水を垂れ流している。

 

「蝉の妖怪にトイレを我慢するという知能はない!」

「あるでしょ多分」

「犯人はお前だ! 油熊実々美!」

 

私が指を刺すと同時に結界が外から破られる。蝉の大合唱と共に、夏の熱波が部屋の中に流れ込む。

実々美は顔を伏せて笑い出す。

 

「とんだ名探偵だ! 私が犯人だと!? 冗談もほどほどにしたまえ!」

「いいえ。今漏らした尿から、ここで最初に感じたのと同じ魔力を感じました。あなたが犯人です」

「ふん、偶々似ていただけだろう。生意気な小娘よ」

「いいえ。奇跡は、そう簡単には起きません!」

 

決めポーズと共に、お祓い棒を抜く。

その瞬間実々美は本堂から飛び出る。

私も追いかけ本堂を飛び出す。

 

「同士よ! この寺ごと巫女を仕留めよ!」

 

実々美の声に反応し、周りの木々に止まっていた蝉達が一斉に飛び立つ。その中には実々美と同じ姿をした蝉の妖怪も見える。

 

「妖怪退治開始です!」

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