東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
蝉の大群が黒い塊となって、一斉に私に向けって突撃してくる。
地面を蹴って飛び上がり、結界を張って蝉を正面から受け切る。
蝉達は口を結界に突き刺し、力尽きて次々と地面に落ちていく。
「おい同士よ、これはどういう事だ?」
「なぁに同士よ。ターゲットは既にここを去った後だっただけだ。こいつを倒してすぐに後を追うさ」
「同士よ! 酒飲んでたってなんだ! 私にも飲ませろよ!」
実々美達は空中で、私を放って言い合いを始める。
そこを目掛けて弾幕を放つが、綺麗に避けられる。
「無駄だ無駄だ!」
「我々の共鳴の前には誰も敵わない!」
「数こそ正義である!」
「へぇ。おもしろ〜い」
スペルカードを取り出し、天に掲げて宣言を放つ。
「【奇跡『白昼の客星』】!」
実々美達の頭上に二つの星が現れ、実々美達に向かって弾幕を放つ。
だが実々美達は視線すらやらず、その弾幕達を華麗に避ける。
「無駄だと言っただろう」
「我ら油熊実々美とは、この世で最も力を持つ妖怪」
「人間の巫女如きが、勝てると思うなよ?」
「全員一緒で判別つきませんね。どれが本体でしょうか」
「間抜けが!」
背後から何かが飛んで来るのを察知する。
身を翻すと、槍を構えた四人目の実々美だった。
「外した!?」
「まずは一匹」
お祓い棒で頭を叩き割ると、実々美は苦しみながらチリとなって消えた。
「貴様ぁ!」
「よくも我らの同士を!」
「恨み晴らさでおくべきか!」
「【秘法『九字刺し』】」
三匹のうち一匹を串刺しにする。串刺しにされた実々美は爆散し、残された実々美は何が起こったか一瞬理解できなかったようだ。
「もう一匹」
「貴様ぁぁ!」
「集まれ同士よ! 優先排除対象だ!」
そこら中の木々が揺れ、一斉に蝉達が集まってくる。離れた場所の木々からも蝉の妖怪や蝉の塊が集まってくる。
私は麦わら帽子の中からスペルカードを取り出す。
「いくら集まろうとも無駄です! 【奇跡『ミラクルフルーツ』】!」
「食い尽くせ!」
実々美の号令に従い、蝉達が弾幕を次々と打ち消していく。
あっという間に私の放った弾幕は消滅し、蝉の大群が私に向かってくる。
「【転覆『撃沈アンカー』】!」
「【大喝『時代親父大目玉』】!」
「【視符『ナズーリンペンデュラム』】!」
地上からアンカーが飛び蝉を散らす。
散った蝉達をレーザーが焼き払い、向かってくる蝉から巨大な宝石が私を守る。
「命蓮寺の代表代理として命じます! 守矢の巫女を援護して、あの蝉の妖怪を撃ち滅ぼせ!」
「「「はい!」」」
「みなさん……!」
大量の蝉が旋回し、左右両方から一気に迫ってくる。
「【遠眼『天狗サイコグラフィティ』】!」
シャッター音と共に右の蝉の動きが止まる。
そこに雲山の拳が振り下ろされる。
「はたてちゃん!」
「一応任務ですから。守りは任せてください」
「じゃあここよろしく!」
「え! 私強くないんですけど!?」
嘆くはたてに蝉達の相手を任せ、さらに上で私を見下ろしていた実々美の前に躍り出る。
いつの間に増えたのか、実々美は八体に増え私を囲む。
「仲間がいた所でなんになる」
「我々のようなコンビネーションも出来ない、そんな仲間など足手纏いだろう」
「元より貴様らは我らよりも劣る種よ」
「人間如き、敵ではない」
「では私が加われば話は変わるだろうな」
私の背中に誰かがピタリと付く。
振り返ると、寅丸星が宝塔を手に実々美に向かい合っていた。
「守矢の巫女、お前にここで死なれては困る」
「えぇ、謝罪と説教は後で受けますとも」
「……やはり巫女の考える事は分からんな」
背中を預け、正面の実々美にお祓い棒を向ける。
地上では蝉の大群を相手に、みんなが奮闘している。私は気を引き締め、祈りを始める。
「……【奇跡『神の風』】!」
私と星の体を優しい風が包み込む。これで多少の被弾は許容されるだろう。
「いざ南無三!」
「参ります!」
星と同時に飛び出し、実々美のうち一体に切り掛かる。
だがするりと避けられ、実々美は四体の編隊を組んで私を囲う。
「【蛇符『神代大蛇』】!」
巨大な大蛇が雲を突き抜け、頭上から実々美に襲いかかる。
実々美の一体を咥えながら、大蛇は私の周りを回る。
「離せ! 助けろ同士達!」
「殺さないでくださいね、じっくり苦しめてください」
「外道が!」
実々美の一体が槍を取り出し、私に向けて突進してくる。
槍を片手で掴み、腹に刺さる寸前で止める。
そして空いた手でお祓い棒を振り、実々美の四肢を裂く。チリとなって四肢がもげるが、胴体と頭は苦悶の声を上げる。
その様子を見て、実々美の一体が苦しそうにうめき出す。
「おえぇぇぇ……」
「おい! 共鳴を切れ馬鹿ども! 死ぬ時は一人で死ね!」
「まだ死なない……! 私はまだ死んでない! 助けろ!」
「いてぇよぉ……いてぇよぉ……!」
「なるほどなるほど。仮説は繰り返される実験により真実となります」
槍にぶら下がっていた実々美を、奇跡を使って一瞬で祓う。
その瞬間、残った実々美達の顔色が一気に黒くなる。
「やはり……! あなた達の能力は『共鳴』! 全ての感覚を繋げ、意識を共有する。そんな所ですね!」
「く……わかった所でそれがどうした!」
私が合図すると、大蛇は咥えていた実々美を飲み込んだ。
「ここから蝉を一匹でも逃せば、私がそれに気付いたという事実があなた達のお仲間にも知れるという事です! 殲滅です!」
「やれるものならぁ!」
「しゃがめ!」
私は星の言葉に合わせて上体を逸らす。
飛びかかってきた実々美達は宝塔から放たれたレーザーによって真っ二つになる。
レーザーがかすったお腹あたりをさすりながら、星の方に顔を向ける。
最後の実々美もチリとなって消える所だった。
「早いですね」
「毘沙門天の代理だ。実力が低くては話にならん」
「それはいい事ですね。話は聞いていましたか?」
「あぁ、一匹も逃すな。だろ?」
星と顔を見合わせ、頬を緩める。地上付近で戦っている蝉達のうち、異変を感じ取ったのか小さな蝉の塊が戦線を離脱する。
「【光符『アブソリュートジャスティス』】!」
星が掲げた宝塔から出た光の道が、逃げた蝉達を焼き尽くす。
「ぬえ! 蝉を一匹も逃すな!」
「はいは〜い! 【『遊星よりの弾幕X』】!」
ふよふよと軌道のはっきりしない弾幕達が、はぐれ蝉達を囲んで撃ち落としていく。
しかし地上付近では蝉の大群によって地面が埋め尽くされている。あまりにも数が多い。
「となるとこれですかね。【奇跡『ファフロッキーズの奇跡』】!」
私が奇跡を発動すると同時に、小さなカエルが手のひらの上に降ってくる。
次々とカエルが降り注ぎ、蝉達を食い尽くしていく。
「数には数ですね」
雨の様に降るカエル達はものすごい速度で蝉を平らげていく。
流れ弾が当たりそうなカエルには奇跡で防御を施しながら、お祓い棒で蝉達を叩いていく。
十分もすれば蝉達は綺麗にいなくなり、満腹になったカエル達は帰っていく。
私は最後のカエルを見送り、大きく伸びをする。
「殲滅完了ですね!」
「お疲れさん」
少し疲れた様子の星が、隣にやってくる。
本堂の階段では妖怪達が休息をとっている。蝉の妖怪達はチリになり跡形も残っていない。色々と調べたい事があったが、仕方がない。
蝉の声は全くせず、森の中は不気味なほど静まり返っていた。
「今回は申し訳ありませんでした。強引な調査と、村紗さんに手をかけたこと」
「おや、守矢の巫女は妖怪退治を趣味にする恐ろしい奴と聞いていたが……その謝罪は村紗にしてやってくれ」
「えぇ、でも今不在ですし」
「ほんとだ。どこ行ったんだ?」
「セーフです……マジで早苗さん急にやるのやめてください……」
はたてがスッキリした顔で戻ってくる。
ちょうど探していた所だったので、はたてを近くに呼ぶ。
「次の調査のために携帯貸してください」
「え!? ……また念写ですか?」
はたては渋々と携帯を差し出す。
私はまた携帯に奇跡を与え、はたてに念写させる。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「なんか調子悪いかもです」
はたてが見せてきた携帯の画面には、目の前の景色が映っていた。
命蓮寺の本堂が見切れ、画面の中央には薄暗い森と墓場が。携帯の画角と合っているところを見ると、普通に写真を撮っただけのようだ。
「普通の写真ですね」
「あれ〜? ちゃんと念写の感覚はあったんですけどね」
「そういえば妖怪達が映ってませんね」
私は携帯の画面をよく見てみる。見切れてはいるが、本堂の妖怪達が映っていてもいい角度だ。
そこを加味し、現実の風景と見比べる。
「……なるほど、わかりました!」
「何がわかったんですか……?」
「次はあの墓場です!」
私は命蓮寺の墓場を指差す。
すると、星が何かを思い出したかの様に手を叩く。
「あの墓場の地下には神霊廟への通路がある。もしかしたらそこを表しているのかもしれない」
「なるほど。神霊廟ですか! 次の目的地に決定です!」
私は奇跡の残量を確認し、お祓い棒をしまう。
そこにちょうどスッキリした顔の村紗が帰ってくる。
「村紗さ〜ん!」
「うぉっ……何?」
「さっきは申し訳ありませんでした! 聞き出す為とはいえ、強引な手を使ってしまいました!」
「あぁ……私も嘘ついて紛らわしくしてしまってすまなかったな」
「お詫びと言ってはなんですが……」
私はポシェットに入れていた、予備の守矢印の日焼け止めを渡す。
包装も解いていない新品だ。
「えぇ……」
「日差しが強いので、気をつけてください! まぁすぐに私が解決するので大丈夫だと思いますが!」
「そうか、この異変解決を解決してくれるのか」
強力な日差しには妖怪も人間も倒れる者が出ていると聞く。このままではいずれ死者も出るだろう。
そうなる前に異変を解決しなければならない。いわばスピード勝負だ。
「守矢の巫女、どうかこの異変を解決してくれ。聖も解決に向けて出て行ったが、心配なんだ」
「ほう、あの人に心配する様な要素が?」
「……この暑さの中で聖はずっと祈っていた、不眠不休でだ。流石に疲労が溜まっているだろうに……どうか途中で出会ったら、体調を気にしてやってほしい」
「わかりました! 守矢の名にかけて、そのお願い事聞き入れましょう!」
星と握手し、私ははたてを連れて墓地に向かう。
墓石を退け、地下に続く階段を覗き込む。外とは違い、地下特有の湿気と寒さを感じる。
私とはたては命蓮寺の妖怪達に見送られながら、地下に続く階段を降りていく。