病める時もすこや物語 作:足洗
「やあやあ久しぶり薄情者よ」
「おばさんが愚痴ってたよ。バカ息子が全然帰って来ないって」
「元気そうだね」
「やっぱり忙しい? 仕事」
「すっかり社会人さんだぁ」
「けど私の成人祝いにはちゃんと来てくれるんだ?」
「そりゃ可愛い妹分の為だもんねぇ?」
「……おかえりなさい、おにいちゃん」
「お姉ちゃんは直接お店の方に行くって」
「って言っても予約の時間まで結構あるけど」
「ごめんね」
「早く会いたかったから」
「んー?うん、そうだね」
「寂しかった」
「だって、気付いたら二人とも卒業して就職して地元から出て先に先に行っちゃってさ」
「私は置いてけぼり」
「寂しかったよ」
「困った顔してる」
「罪悪感?」
「……じゃあさ。申し訳ないって、思ってくれるならさ」
「ちょっとだけワガママ聞いて欲しいな」
「おぉ、強気だ。社会人の余裕? まあ別にお金の掛かることでもないんだけど」
「簡単だよ」
「私、あそこに入りたい」
「目の前」
「とぼけなくていいよ」
「ホテル」
「ふざけてないよ」
「あぁふざけてた方がいい?」
「そんなに意外かなぁ」
「知ってると思うけど私成人してるんですよー」
「なんで、って」
「それ私の口から言わせるの?」
「おにいちゃんのえっち」
「……ふふ」
「私、もう子供じゃないんだよ」
「お姉ちゃんと同じように、ね」
「初めてじゃないよ」
「お姉ちゃんもそうだったでしょ?」
「私、知ってるよ。お姉ちゃんの初めての相手」
「知りたい?おにいちゃん」
「教えてあげよっか」
「お姉ちゃんが誰と、どんな風に」
「してたか」
「……なんで? 気にならないの?」
「……変わるよ」
「変わってくよ」
「二人とも」
「……ごめん」
「変なこと言った」
「ごめん」
「ごめんなさい」
「……寂しかったのは本当」
「誘ったのも……本気だから」
「もう今夜しかチャンス、ないと思ったから」
「ごめんね」
「忘れて」
「行こうよ。お姉ちゃん待ってるよ」
「あ……それから」
「結婚おめでとう。義兄さん」
「……ぷっ、タキシードぜんっぜん似合ってないね」
「ごめん、ごめんて!」
「もぉ義兄さん表情固い」
「しっかりしろよ新郎!」
「今日一番ナイーブなの新婦さんなんだから」
「背筋伸ばして」
「ほら、来たよ」
「……お姉ちゃん」
「あぁ綺麗……本当に、綺麗……」
「……写真! ほら撮ろうよ!」
「義兄さんも固まってないで早く! 二人並んで!」
「腕組んでー」
「はい笑って、二人とも。そうそう」
「あははっ」
「…………あーあ」
「とられちゃった」
「……義兄さん」
「義兄さん」
「寝るなら布団で寝なよ。蝋燭の番、私が代わるから」
「……無理しないで」
「嘘、強がり」
「……これが普通なの?」
「いきなり連絡が来て、遺体を引き取って、流れ作業みたいに葬儀の段取りして」
「明日の午後には焼かれちゃうんだ、お姉ちゃん……」
「……っ」
「ごめん」
「ごめんなさい……私ばっかり」
「義兄さんだって辛いのに」
「……義兄さん」
「泣いてよ」
「今くらい」
「誰も見てない」
「ここには私と義兄さんだけ」
「私が……抱いてあげるから」
「泣いてよ義兄さん」
「私で泣いていいんだよ……?」
「私を使って……慰められてよ」
「っ! ご、ごめん、私」
「ど、どこ行くの?」
「義兄さん、義兄さん待ってお願い、ごめんなさい私ただ……置いて行かないで……!」
「えっ、ト、トイレ?」
「そ、そっか」
「うん、わかった。ちゃんと見てる」
「……見てるから、お姉ちゃんのこと」
「…………お姉ちゃん」
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん」
「やっぱりダメ?」
「あの人だけはダメなんだ?」
「なんでも一緒だった」
「お姉ちゃんは私になんでもくれた」
「綺麗で優しくて大好きな人」
「だから私も全部捧げてきたのに」
「どうして?」
「今更、一人占め?」
「私を置いて行ったくせに」
「まだ手放さない気なんだね」
「でもね」
「私、諦めないよ」
「諦められないよ」
「もう私、後戻りできないから」
「……に、い、さぁん」
「扉の前にいるんでしょ?」
「入ってきなよ」
「どうして? 遠慮しないで」
「ここは義兄さんとお姉ちゃんの家で」
「ここは二人の部屋で」
「夫婦の寝室」
「ねぇ」
「知ってるんでしょ」
「私が毎晩、ここで、このベッドで、なにしてるか」
「怒っていいんだよ?」
「というかそれが当然」
「私もね、叱られたかったのかも」
「だからわざと大きな声出して、シーツも汚して、臭いも残した」
「義兄さんとお姉ちゃんの匂いを汚した」
「ふふ、すっごく興奮した」
「どう? 呆れて怒る気も失せた?」
「それとも気持ち悪くて吐きそう?」
「……どうして?」
「どうしてかなぁ」
「最初は憎しみ、かな」
「お姉ちゃんを奪った貴方が殺したいほど憎かった」
「大好きなお姉ちゃん」
「この世でたった一人の家族で」
「私の半身」
「私達、愛し合ってた」
「お互いに初めてを捧げ合った」
「嬉しかったぁ」
「これで一生離れないんだって安心できた」
「なのに」
「貴方が現れてお姉ちゃん変わっちゃった」
「……ううん、そうじゃない」
「変わらなかった」
「変わらないまま貴方を見るようになったお姉ちゃんが」
「悲しかった」
「でも……あはは、やっぱり姉妹だからかなぁ」
「いつの間にか私も、貴方を好きになってた」
「こんなただの普通の、ただの善良な」
「優しい人が私達の理想だったなんて」
「それが一番ショックだったな」
「お姉ちゃんが大好き」
「愛してる」
「貴方をくれないお姉ちゃんが嫌い」
「憎くて、憎くて憎くて」
「こんなに愛しいのに」
「憎くて!」
「…………殺しちゃった」
「おにいちゃん」
「抱いて欲しかった」
「でも貴方はまともな人だからそんなことしてくれなかった」
「なら、これは?」
「愛した人を奪われた時のこれは」
「どう?」
「今度こそ」
「私の方を見てくれる?」
「鍵は開いてるよ」
「来て、憎くて愛しい人」
「どうか私を────めちゃくちゃにしてください」