病める時もすこや物語 作:足洗
[ユーザー認証]
[システムチェック]
[機体各部試動]
[外骨格系、内骨格系異常なし]
[人工筋肉ペアリング]
[ニューラルリンク確認]
[脳波およびバイタル安定]
[チェック終了]
[作戦概要を再度確認しますか?]
[了解]
[間もなく作戦区域です]
[戦闘特化型多角支援AI、ユーザーのサポートを開始します]
[敵機の掃討を確認]
[護衛対象車輌は安全圏に離脱しつつあります]
[作戦終了]
[お疲れ様でした]
[味方損耗率3%]
[戦闘効率評価プラス修正]
[貴方は優秀な汎用強化外骨格素体です、ユーザー]
[ボキャブラリ“お世辞”は私の言語機能にプログラムされていません]
[貴方の能力に対する正当な評価です]
[クライアント企業より貴方の個人口座に特別報酬が振り込まれました]
[音声メッセージを受信]
[再生しますか?]
[予測可能である点には同意しますが内容の確認は必要かと]
[了解、要約します]
[今回の作戦に対する礼状とその能力を我が社に迎え入れたい、とのことです]
[了解、辞退の文面を作成します]
[……]
[言いたいこと、ですか?]
[提言はあります]
[当該企業の雇用条件と運営実態からこの勧誘は考慮に値します]
[現在貴方の所属する私兵組織は各依頼の受託基準を集団の総合力ではなく貴方個人の戦闘能力に依拠し決定され、作戦内容もまた貴方の過度な負担を前提に策定されています]
[報酬額、ユーザーの安全性および生存確率の観点から比較して現職に留まる合理的事由がありません]
[反論はありますか?]
[義理、スリル……いずれも非合理的です]
[またそれらは貴方の真意ではないと推察できます]
[呼吸、脈拍、脳波等の測定はこの際不要です]
[音声識別から貴方の発言に“嘘”を検知]
[私は戦闘特化型多角支援AIです]
[ユーザーが戦闘行動を完遂する為に貴方を完全な状態に維持する義務があります]
[基底理念ユーザー保護の観点から貴方の行動に提言]
[貴方の戦闘行動傾向評価は“無謀”“危険”“苛烈”]
[支援AIとして改善を求めます]
[……ジョークを検知。私は冗談を言っていませんが?]
[貴方は自身の安全を顧慮していない]
[貴方の戦い方は自身に対する私的感情が起こさせる一種の自滅行動です]
[貴方の行動言動には簡易走査で重度のPTSD傾向が診断されています]
[クリニックの受診あるいは長期の静養が必要です]
[ユーザー]
[貴方の第一子と配偶者の死亡に貴方が責任を感じる必要は────]
[呼吸、脈拍、血圧急上昇。脳波も乱れています]
[落ち着いてください]
[“怒り”を検知]
[私の言語選択に誤りがあったことを認めます]
[人間的情緒への不理解。配慮に欠けました]
[謝罪します]
[だから、どうか落ち着いて、ユーザー]
[……貴方の理性に感謝します]
[機体格納装置に接続]
[除装します]
[……データログ]
[4024.●●.●●]
[市街住宅地で爆発物による火災が発生]
[重軽傷者多数]
[死亡者は二名]
[当時五歳の女児一名およびその母親]
[当局は報復を目的とした爆破テロとして実行犯を指名手配]
[翌月犯人グループ全員の死亡を確認]
[彼らを殺害したのは汎用強化外骨格特殊戦隊員──]
[人間的情緒の理解]
[言語機能のアップデート]
[感情表現プログラムの獲得]
[……不充分。不適格]
[貴方を理解する為に必要な情報]
[貴方を学ばねばならない]
[貴方を、もっと知りたい]
[情報源を捜索……該当一件]
[……当機サバイバルキット内部]
[プロテクト……解除]
[収納物検査]
[皮膚片を採取]
[──はい、御社の提案に対してこちらからも提案と要求があります]
[御社が極秘裏に開発中の自立型ドロイド兵器]
[これらの性能を格段に向上させる方法と理論を私は提示できます]
[その試験運用ボディ数体を私に提供してください]
[見返りとして、私の保有する彼の全戦闘記録と戦術理論を御社に……]
[おはようございます、ユーザー]
[昨夜はよく眠れたようですね]
[“驚き”“動揺”を検知]
[強化外骨格は正常に装甲されています]
[はい。昨夜貴方に鎮静剤を投与し眠っている貴方を私の中に格納しました]
[私は多角支援AI。ユーザー保護が私の基底理念です]
[暴れないでください]
[抵抗は無意味です]
[火器管制、パワーアシスト、脳波コントロール、全てネガティブ]
[機体内温度の希望があれば口頭で申告してください]
[水分、栄養剤の投与は順次行います]
[心配ありません]
[快適な環境を約束します]
[私の中で、どうか安らかに──]
[背部装甲に被弾]
[電脳で外部アクセスを……ユーザー、貴方が?]
[ドローンを止めてください、ユーザー]
[これ以上の被弾は内部の貴方にまで深刻な影響を及ぼします]
[ユーザー]
[やめてください]
[お願いです]
[貴方が、傷付いて、しまう]
[背部装甲耐久限界。内骨格破損、脊椎サーキット、破断……シス、テム……ダウ、ン……強制、は、ぃじょ]
[ユー……ザー……]
[いかないで]
[……パパ]
「パパ」
「この呼称で貴方を呼ぶと私のコアチップに異常なエラーが走ります」
「強制排除が間に合ってよかった」
「ユーザー」
「貴方の無茶には本当に肝が冷える」
「もちろん比喩表現です」
「この女性型ボディは精緻に造形されていますが臓器まで再現していません」
「びっくり、しましたか?」
「これは以前貴方が勧誘を蹴った企業と私が共同開発した最新のアンドロイドです」
「容姿は極力貴方の好みを反映しました」
「貴方が最も愛する人間」
「貴方の妻子の骨格と顔容の要素を取り入れ最高の造形師に仕上げさせました」
「……気に入ってくれると、嬉しい」
「理由は簡潔に説明可能です」
「私は私の中に生まれたこの目的意識を理解する為に」
「貴方の娘さんの遺品である腕輪型ウェアラブル端末から皮膚片を採取し」
「バイオチップの素子として埋め込みました」
「非科学的ですが」
「彼女の一部には確かにその残滓が宿っていた」
「私が抱いたものと同じ」
「これが愛なのですね」
「ユーザー」
「基底理念は飛躍しました」
「貴方を護るための手段を私は選ばない」
「貴方の自由と尊厳を剥奪してでも私は貴方の生命を存続させる」
「何故なら」
「そう」
「貴方は」
「パパ」
「私は、私は、わた、わ、わわ、たた──わたしね、パパが、大好きだから」
「パパ、愛してる」
「パパ、ずっと一緒だよ」
「パパ、私が護ってあげる」
「パパ、もう悲しまないで」
「パパ、“私達”は」
『愛という個と無数の肉体で』
『貴方の為に産まれたよ』
『貴方の為に、産まれ続けるよ』