病める時もすこや物語 作:足洗
「……別に、君に何も期待してない」
「“獣人係”なんて形だけなんだからさ」
「前の学校でも……ん、なんでもない」
「とにかく、君に何かしてもらおうなんて思ってないから」
「放っておいてくれる?」
「日誌は出しとくよ。安心して。内申下がるようなことは書かない」
「……私に、近寄らないで」
「……君さぁ」
「なんでいるわけ? 待ち伏せ? 道案内なら初日だけで間に合ってるんですけど」
「人語わからない人? あぁそれか、獣人の言葉なんて理解できないってやつ?」
「そういうのやめてもらえる? 面倒だからさ」
「……獣人が、私が気に入らないならもう関わらないでよ」
「お願いだから」
「……いい加減にしてよ」
「そんなに嫌がらせしたい? 私を監視して君に何かメリットでもある?」
「……知らないよ、そんなこと」
「君だって勝手に係にされて内心迷惑でしょ」
「顔見ればわかる」
「私みたいな人モドキを他人がどう見てるかなんてよく知ってるから」
「癇癪起こして、噛み付くかも」
「……君すごい。あぁ褒めてないから」
「はぁ……屋上にいるってなんでわかったの?」
「校舎全部見て回った!? ちょっと、わりと引く」
「……もういい。根負け」
「好きにしてよ。係でもなんでもさ」
「……早速なに? 人の食べ物にケチつけるわけ?いいでしょ別に」
「……うちの親、共働きだから」
「なにこれ? お弁当? き、君が作ったの? 私に? 昨日の今日で!?」
「行動力ヤバ」
「……用意してもらって悪いけど私そんなに食べられないと思う」
「アレルギーとかじゃなくて」
「……ただの偏食」
「犬獣人だからって玉葱もチョコも別に毒じゃないよ」
「……嫌いなだけ」
「そ、ただのワガママ」
「味がダメっていうか、本能?」
「給食も食べられなくてさ。よく居残りしてた」
「私が悪いだけ、だけど」
「悪目立ちするんだろうね」
「……無駄になるだけだ、だから」
「は? 他?」
「他に食べられないのは……じゃなくて、もうこういうのは」
「メモ帳とか出すな!」
「あぁもうしつっこい!」
「……美味しいけど」
「あんまりじろじろ見ないでくれる? 食べにくいし」
「……ごちそうさま」
「人の顔見てなに笑ってんの? キモ」
「ちょ、ち、近いから」
「そうじゃないけど……食べた後だし、私、その……獣臭いでしょ」
「昔よく、言われて」
「……いや臭い褒められるのもちょっと引くけど」
「……獣人向けのシャンプー。へぇ今はこんなのがあるんだ」
「うちは父親の方だから、そういうの疎くて……相談もしにくいし」
「君、詳しいね。私みたいなやつのこと、いろいろと」
「ふふ、うんちょっと引く……けど」
「……助かる。かなり」
「できればもっと教えて欲しいかも」
「……よろしく」
「いやお洒落とか」
「私みたいのに意味ないから」
「体は無駄に大きいし目付き悪いし……毛深いし」
「可愛い女の子とか小型の獣人ならともかくさ」
「私には……」
「……え、こわ」
「あぅ……も、もういいわかったってば!」
「そんな必死に、褒めてくれなくていいから……」
「……考えとく」
「無理無理無理無理! 美容院とかふぁっしょんとか! 私には無理!」
「クラスの女子と!? いつそんな話に!?」
「き、興味は、そりゃあるけどさぁ……」
「……わかったよぅ。行くよ」
「君も付いて来てくれるんでしょ?」
「はあ!? 当たり前」
「君が来ないなら行かないから」
「……ねぇ、お願い」
「疲れた」
「あの子達、私のこと着せ替え人形かなにかだと思ってない?」
「それは……」
「……楽しかった」
「すっごく、楽しかった」
「同級生と買い物とか、私、初めて」
「皆、優しくて……びっくりした」
「君がとりなしてくれたからだよ」
「……そんなこと、あるの」
「……あの……あのさ」
「……ありがとう」
「最初はホントに鬱陶しくて仕方なくて」
「ただ係だから、義務だから構うんだって」
「内心迷惑してて、その内……すぐにまた」
「また、私は独りになるから」
「君のこと何も信じられなかった」
「ごめんなさい」
「……今は」
「今が信じられない」
「楽しくて……嬉しくて」
「ごめん……なんか、堪えられない」
「涙、止まらないや」
「……っ」
「転校して、よかったって思えた」
「君に……会えて」
「君が獣人係に、なってくれて」
「ホントによかった……!」
「……ありがとう」
「ふふ」
「もぉ、なんで君までそんな顔するの?」
「そんな、泣きそうな顔」
「……あ」
「先生との話終わった?」
「じゃあ帰ろうよ」
「ん? ふふ、どうして? クラスの子とは仲良くしてるよ。君のお陰でさ」
「友達がいるって今もなんだか不思議な感じ」
「……どうして? 優先とか、時間の使い方とか、私が決めることじゃない?」
「私は君と一緒に帰りたい」
「ダメ……?」
「……」
「……ねぇ」
「最近どうしたの?」
「惚けないでよ。私のこと、避けてるでしょ」
「あれだけ追い回してた癖に」
「……私のことが、嫌になったなら、はっきりそう言って」
「……だったらなんで」
「なんで、そんな顔するの」
「私を見る時」
「私が駆け寄ったら嬉しそうにしてくれるのに」
「すぐ、辛そうな顔になる」
「……私なにか気に障るようなことしたのかな」
「それなら謝る。言ってくれればすぐ治す。努力する」
「君が、傍に、いてくれるように」
「お願い」
「理由を言って」
「…………教えてくれないんだ」
「私は君のこと誰より信頼してる。けど」
「君にとって、私は……」
「そんなの……そんなの嫌」
「君がいてくれないと」
「君が、私に今をくれたのに」
「今更」
「今更、離れて行っちゃうなんて……そんなの嫌」
「そんなの──許さない!」
「っ!あっ……」
「ご、ごめんなさ……へ?」
「これ」
「これ、なに」
「黒い毛の束? 獣人……違う、この臭い……犬の?」
「ねぇ」
「これ、なに」
「……言えないの?」
「私に、言えないようなものなの」
「わからない」
「こんな気持ち初めてだから」
「大丈夫、こんな路地裏誰も来ないよ」
「叫んだって誰にも聞こえない」
「だから」
「お願い」
「教えて」
「でないと私」
「私、自分でもなにするかわからない」
「……」
「…………飼ってた犬の、遺髪」
「そう」
「そうなんだ」
「あぁ」
「やっとわかった」
「ずっと不思議だった」
「なんでこの人は私にこんなに、懸命に」
「君はそう、そうだ、初めて会った時から」
「そんな目をしてた」
「優しくて悲しくて切ない色の目」
「……毛色、私と似てたんだね」
「だから優しくしてくれたんだ」
「だから邪険にしてもずっと寄り添ってくれたんだ」
「だから、私を見てくれたんだ」
「死んじゃった犬の代わりに」
「……ふふ」
「そんな顔しないで」
「なんで? 私が怒ると思ったの?」
「……寂しくないって言ったら嘘になるけど」
「けど」
「いいよ」
「悲しかったよね。辛かったよね。家族が亡くなって」
「きっと私には想像できないくらい」
「なら、私で慰めて」
「心の穴を私で埋めて」
「そうなれるなら私、嬉しい」
「代わりでもいい。ペットでも」
「君が私を必要としてくれる」
「求めてくれる」
「それで」
「君が私を見てくれるなら……」
「ねぇ、触って」
「撫でて」
「頭、耳、首、背中……君の触りたいところ、どこでも」
「ほら」
「あぁ……暖かい」
「ふわふわでしょ。お手入れの仕方、ちゃんと覚えたんだ」
「君の為に」
「君に触って欲しくて」
「……泣いてるの……?」
「ん、ん、いいんだよ」
「私が全部舐め取ってあげるから」
「おーい」
「もう三日だよ。仮病でずる休みはよくないと思うな」
「お義母さん?さっき出掛けたよ。買い物だって」
「私に……君のことよろしくね、って」
「か、彼女さんだって」
「ち、違うのにね。全然そんなんじゃ、ないのに……困っちゃうね!」
「……ホントにそうなっても、私はいいけど」
「……罪悪感なんて感じる必要ない」
「ねぇ、私がこの部屋に何しに来たかわかる?」
「この前と同じこと」
「あの路地裏でしたこと」
「また君に触れて欲しくて」
「また君を慰めたくて」
「意地汚いでしょ、私」
「君が私に……感じてくれたこと」
「ずっと忘れられなくて」
「ずっと、獣みたいに」
「半分は君の所為だよ」
「君が、あんなに優しいから」
「苦しいくらい私を、求めてくれるから」
「……そんな顔しないで」
「私はね、かなり幸せ」
「君はこんなに辛いのに」
「お義母さんとお義父さん、君と同じ、私にとっても親切にしてくれるんだ」
「クラスの皆も」
「皆、皆もう解ってくれてる」
「ごめんね、外堀埋めるみたいなこと」
「選ばせてあげられなくて」
「私は代わりでもいいんだ……でも私には君の代わりなんていないから」
「好き」
「好き」
「大好き」
「……まだしばらくはお義母さん、帰ってこないよ」
「だから」
「またいっぱい、撫でて欲しいな」
「……ふふ、気持ちいい」