病める時もすこや物語   作:足洗

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もう、戻れない(※台本形式)

 

 

 

「先生」

 

「うん、また教えて欲しいとこがあって」

 

「時間ある?」

 

「よかった」

 

「空き教室行こ」

 

「先生の教え方、解りやすいから」

 

「うちのクラスの担任、先生ならよかったのに」

 

「そしたらもっといっぱい、いろんなこと教えてもらえるのに」

 

「……勉強以外も」

 

「なんでもない」

 

「早く行こ」

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

「今日も、いい?」

 

「よかった……忙しそうだね」

 

「迷惑、だった……?」

 

「ん……熱心ってわけじゃ」

 

「……放課後じゃないと独占できないから」

 

「先生の時間」

 

「変な意味じゃないよ」

 

「そのままの意味」

 

「からかってない」

 

「本音」

 

「本心」

 

「……私、本気だよ」

 

「ふ、困ってる」

 

 

 

 

 

「先生」

 

「……それ、お昼?」

 

「最近コンビニ弁当ばっかりだね」

 

「前まではちゃんと、あ……ごめん」

 

「無神経なこと……」

 

「でも、そっか」

 

「そうだよね。用意してくれる人、いないもんね」

 

「じゃあ明日は私、やるね」

 

「なにって、お弁当」

 

「他の物買わないでよ。勿体ないから」

 

「それじゃ」

 

 

 

 

 

「先生」

 

「ネクタイ緩んでる」

 

「ちょっと、逃げないで」

 

「ん、Yシャツもしわしわ」

 

「アイロンかけなよ」

 

「意外とだらしないよね。勉強教える時はシャキっとしてるのに」

 

「ふふ」

 

「私、今度家に行ったげようか」

 

「どうせ掃除とか、あんまりできてないでしょ」

 

「……遠慮しなくてもいいのに」

 

 

 

 

 

「先生」

 

「きぐーだね」

 

「そんなにびっくりしなくても」

 

「私は予備校の帰り」

 

「先生は、買い物?」

 

「……また出来合い?体に悪いっていつも言ってるのに」

 

「先生の家ってこの辺だよね。じゃあ行こ」

 

「作ったげる」

 

「ね? いいでしょ。夕飯作るだけ」

 

「ほんの少しの時間」

 

「それで十分だから」

 

「…………そう」

 

「ん、別に」

 

「でも、うん、そんな真剣に拒否られると流石に傷付くかな」

 

「……そういうとこが……」

 

「なんでもない」

 

「でも、気が変わったらいつでもいいよ」

 

「呼んでくれたら」

 

「すぐに」

 

「会いに行くから」

 

「……ホントにいつでもいいから。早朝でも真夜中でも。待ってる」

 

「じゃあね、先生」

 

 

 

 

 

「先生」

 

「どうしたの? こんなに散らかして。これ全部鞄の中身?」

 

「探し物? ふーん、ハンカチ、なくなったんだ」

 

「落としたんじゃない?先生そそっかしいから」

 

「身の回り、もうちょっと整理しなよ。でないとまた何かなくなるかも」

 

「使ってないペンとか」

 

「飲みかけのお茶とか」

 

「鍵、とか」

 

 

 

 

 

「先生」

 

「おかえりなさい」

 

「そんなとこ突っ立ってないで上がりなよ」

 

「ここは先生の家なんだから」

 

「お夕飯できてるよ」

 

「それとも先にお風呂にする?」

 

「ふふ、恐い顔」

 

「どうって? 合鍵でだけど」

 

「…………だって、私、先生の役に」

 

「いっ、先生、痛いよ。引っ張らないで」

 

「先生待って! お願っ……」

 

「……先生」

 

「ねぇ先生……」

 

「ごめんなさい……私が悪かったから……反省する。もう勝手に入ったりしない……だから、許して、先生」

 

「ここ、開けて」

 

「顔、見たいの」

 

「ごめんなさい」

 

「ごめんなさい」

 

「先生」

 

「先生……?」

 

「……わかった。帰るよ」

 

「先生……」

 

「……私、諦めないから」

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

「また教えて欲しくて……え」

 

「……今忙しいんなら、仕方ないよ」

 

「は? ど、どうして」

 

「他の教師じゃダメだよ」

 

「先生でないと」

 

「どうして、そんなこと言うの」

 

「わ、私のこと嫌い?」

 

「迷惑ばっかり掛けてるから」

 

「せ、先生、どこ行くの?」

 

「待って。あ、謝るから。お願い……お願いだから」

 

「……見捨てないで……」

 

「先生……!」

 

 

 

 

 

 

「……先生」

 

「今日も、会ってくれない」

 

「……」

 

「……」

 

「……じゃあ」

 

「しょうがないよね」

 

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

「なんかすごい騒ぎだね」

 

「授業も中断しちゃったし」

 

「女子の体操着、盗まれたらしいね」

 

「酷いよね」

 

「盗られた子、泣いてた」

 

「生徒も教員もみんな手荷物検査されるんだって」

 

「これで犯人、見付かるといいけど」

 

「先生、どうしたの? 顔色悪いよ? 保健室行く?」

 

「……その鞄の中に」

 

「何か入ってるの?」

 

「手荷物検査して見付からなかった時は警察呼ぶんだって」

 

「きっとすぐに犯人、捕まるだろうね」

 

「終わりだね。その人の人生」

 

「女の子の体操着を盗むような変態だもん」

 

「仕事もできなくなる」

 

「刑務所行きだ」

 

「ねぇ」

 

「先生」

 

「今ならまだ、悪戯ってことにできるよ」

 

「先生、どうする?」

 

 

 

 

 

「せーんせっ」

 

「一緒に帰ろ」

 

「…………嫌なの?」

 

「約束、忘れちゃった?」

 

「うん。覚えててくれてるならいいよ」

 

「一晩だけ。夕御飯、一緒に食べたいだけ」

 

「先生の家で」

 

「そうしたら、またいつもの関係」

 

「先生と生徒に戻ったげる」

 

「よかった。もし約束破られたら私……先生でも許さない」

 

 

 

「は?うちの親?先生も知ってるでしょ」

 

「お父さんは出張先で愛人さんと仲良くしてる。お母さんはセミナー?宗教かな?そこでできた友達と旅行中」

 

「私を心配する人なんて誰もいないよ」

 

「……先生以外、いないよ」

 

「買い物してこ」

 

「先生は今晩なに食べたい?なぁんでも作ったげる」

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

「先生は、優しいね」

 

「優しくて甘くて、お人好しの、バカな人」

 

「よく効いてる」

 

「結構きつめの眠剤でさ。まあ私には全然だったけど」

 

「ずっと眠れなかった。不安で、自分がこれからもどうしようもなく独りなんだって思うだけで、吐きそうなくらい怖かった」

 

「先生と話せた日だけだよ」

 

「目を瞑って先生の顔を思い浮かべるとね、安心した。少しだけ眠れるようになった」

 

「先生……寝顔、可愛いなぁ」

 

「……指輪、まだしてるんだ。一途なんだね……もう、要らないよね? 私がいるもんね?外すね」

 

「んふ、ははっ」

 

「これで、この人は私の」

 

「……こんな」

 

「こんなやり方でしか、私」

 

 

 

 

 

「ほら、先生」

 

「たくさん撮ってあげる」

 

「夫婦の寝室で」

 

「思い出」

 

「記念」

 

「私の初めても恥ずかしいところも」

 

「先生の逞しいところも」

 

「全部」

 

「先生の全部、私がもらうよ。だから」

 

「私の全部を先生にあげる」

 

「先生……愛してる。愛しています」

 

「……あっ、は、ぁ、おっき、ぃ……!」

 

「はぁっ、はぁ、はぁ、はふ、ふふ、これで、これで、これ、で」

 

 

 

 ────もう戻れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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