病める時もすこや物語 作:足洗
「親戚の集まりって苦手?」
「君にとっては針のムシロかな」
「村社会の闇だねぇ」
「あっ急に動いたら危ないよ。足下ふらふらじゃん。もぉ無理して飲むから」
「飲んで誤魔化そうとしたんだろうけど体に良くないよ」
「おトイレ? 付いてってあげよっか?」
「……ふふ、恥ずかしがらなくていいのに」
「立派なお仏壇だよねぇ。流石地主さんの家だね」
「盛り塩変える? お清めのやつ、そっちの戸棚に入ってるよ」
「あはは、君の実家なのに私の方が詳しいんだ。おっかしい」
「まあしょうがないか。君が帰ってくるの、十年と四ヶ月と五日ぶりだもん」
「忘れちゃうよね。でも……」
「何も変わってない」
「何も変わらないよ」
「君がいなくなった後もずっと」
「ずっと」
「どこ行くの? お外? え、こんな時間に?」
「酔いざましにはなるかな。うん、お散歩行こ」
「歩くの早いよー」
「もっとゆっくり見て回ろうよー」
「懐かしいでしょ。なーんにも変わってない」
「ほら、あそこの林道もあの蔵も手付かずでそのままだよ」
「……寄ってかなくていいの?」
「ふむ、そっか。じゃあ先に君の用事済ませちゃおう」
「お墓参り? 朝も来たのに」
「ご先祖様、きっと感心してるよ。偉い偉いって」
「真剣だねー。そんなに必死に拝んじゃって」
「願い事してるみたい」
「墓石に何をお願いしてるの? それとも祈ってるのかな」
「無駄だと思うなー」
「どんなに祈ったってお願いしたって、泣いて謝っても」
「私は成仏なんてしないよ?」
「ぷっ、ふふ、はははははははははは」
「……そんなに嫌い?」
「この村、親戚の人達、跡継ぎ……私のこと」
「あぁ君は嫌で嫌で仕方なかったもんね」
「この村を出たくて出たくてしょうがないって言ってたもんねぇ」
「だから」
「全部見限って、私を捨てて外の世界に行っちゃった」
「私には君しかなかったのに」
「外なんて行きたくなかった。この村の中で全部事足りた。他に何も要らなかった」
「君さえ、君だけいれば、よかったのに」
「ただ君と」
「この村で朽ちていければそれでよかった」
「だから
「私の初めて」
「恥ずかしいところも苦しいことも、君のしたいこと全部全部」
「気持ちいことも全部」
「全部」
「嬉しかった」
「赤ちゃんみたいに私にしがみつく君が可愛くて、愛しくて」
「あの蒸し暑い蔵の中で体が溶け合うみたいに、一つに」
「幸せだったなぁ」
「幸せ、だったのに」
「あの十年前の夏、本当に溶け合って……一緒に死ねばよかった」
「ねぇ」
「ねぇ」
「聞こえてるんでしょ?」
「見えてるよね?」
「がんばって無視しても無駄だよ?」
「聞こえるのも見えるのも怖くて耐えられなくてもう許して欲しくてだから帰ってきたんでしょう」
「ねぇったらー」
「もー、往生際悪いよー?」
返事くらいしろ