病める時もすこや物語   作:足洗

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※TSモノ
※軽い性描写



お前の舌

 

 

 

 TS症、突発性転換、裏返り。

 いろいろ呼び名はあるけど要は性別が変わる病気らしい。

 ありえねぇ、どんな理屈だよ、なんてアイツと駄弁で笑っていられたのも昨日までで。朝起きたらあった筈のものがなく、ない筈のものがあった。

 鏡に写ってる女の自分。

 それと対面した最初の感想は、大して変わってねーだった。

 

 中性的、女顔、美人。

 男だった頃の俺の評価。正直そう言われて悪い気はしなかった。

 女子受けは良いし、不思議と男同士のメンツの張り合いみたいなものからも免除されてるっぽいし。

 人生で損を感じるってことが少なかったように思う。

 アイツには贅沢野郎なんて笑われた。

 胸を張ってドヤ顔かますと殴って来やがるし。

 

 まあだから今朝鏡を見た時が俺が顔で損した初めての瞬間だってことになる。

 ネタになんねぇじゃん……。

 実際つまらなかった。

 シャツの下のわりと平坦な胸もこのつまらなさに拍車を掛けてた。

 前カノくらいとまでは言わないが、ペチャパイ自虐がちょっとウザかった前の前カノより小さいのは地味にショック。

 

 髪を整えて、心なしか乗りの良くなった肌に化粧を施す。

 男の頃から歴代彼女やら女友達に伝授されたメイク技術がめちゃくちゃ役立ってる。

 鏡台の中に垢抜けた美少女が出来上がり、ちょっと満足感。

 スマホを弄くる。

 家族に相談とか学校への連絡とか忘れてた。

 とにかくまず真っ先にアイツを脅かしてやらないと。

 

 その日の内に期待通りびっくりギョウテンしてくれた幼馴染に満足してから、俺は帰って母さんに服の下を見せた。

 気付いた時点で言えって殴られた。

 

 病院、役所で手続きして、そんで学校に連絡して。

 一週間休みがもらえてラッキーなんて思ってたら、身の回りの準備だの健康診断だのであっという間に登校日が来てた。

 

 教室入った途端めっちゃ沸いた。

 ちょっとしたアイドル気分。女子はキャーキャーうるさいし男子もすげぇ興奮しててキモい。

 クラスも学年も跨いでそれが伝播する。

 男の時だって持て囃されてる自覚はあったけど桁違い。

 性別変わっただけなのに。

 ぐんぐん満たされる承認欲求。

 学校の姫じゃん。

 ヤバい。

 TSマジヤバい。

 

 そうやって学校生活の有頂天でふんぞり返る俺を、アイツはちょっと引き気味に見てた。

 男の嫉妬キモーいなんて煽っても「あんま調子乗んなよ」なんて冷静に返して来やがる。

 つまんねぇ。

 初日のしどろもどろなアイツは最高に面白かった。

 少しシャツを捲っただけで大慌て。

 耳まで赤くなったアイツに俺は、何故か────何故か、気まずくて。

 TSしてから俺達はあまりつるまなくなった。

 いやまあそれまでが近すぎただけなのかもしれないけど。

 知り合いも付き合いも増えて多忙な俺に気を遣ったのか気後れしたのか、アイツからの誘い文句が減って俺の方もなんとなく催促する機を逸して。

 当たり前だった一緒の時間はどんどんなくなっていった。

 

 その日も俺は呼ばれてた。

 友達の友達の知り合いの先輩の……要は他人にだけど。

 知り合いに可愛い子がいる、紹介しようか? って具合に交遊関係が広がる。珍しくもない。

 紹介で会った女子となんか付き合うことになりました、なんてのもザラだ。

 ただ今度のそれが大学生相手のコンパだと知らされたのはカラオケの個室に入った後だった。

 

 やたら体を触られるな、なんて気付いた時にはもう遅い。

 上着を剥ぎ取られ、ブラウスは破かれた。

 慣れた手付きだった。

 こうやって女の子を囲んでヤるのがいつものやり口なのだろう。

 高圧的だとか暴力的なものはあまり感じなかった。

 馴れ馴れしいというか、変に気安い態度。

 それは俺が元男だからなのかもしれない。

 

 男の性欲、お前ならわかるだろ、お前だって興味あるだろ。そういう空気。

 実際に目の前の香水臭いツーブロはそんなような言葉を吐いた。

 下着をずらされながら変に納得する。

 恐いとかキモいとか思うよりやらかしたなーって萎え。

 女子の警戒心の意味を今更実感。

 何故か一抹の申し訳なさ。

 浮かぶのは、どうしてかわかんないけど……アイツの顔。

 

 ────弾けるように扉が開いた

 本当に、磨りガラスの扉が吹き飛んだように見えたが気の所為だ。

 それほど乱暴で荒っぽくて余裕がない。

 そこに立っている幼馴染の姿に俺は安堵も嬉しさも感じない。

 ただ、初めて見る顔だと思った。

 鋭く吊り上がった目。

 ごりごりと奥歯を軋ませる音。

 炎が上がりそうなくらい肩を怒らせて。

 

 なんだよ。

 どうしたよ。

 お前なんでそんなキレちらかしてんの?

 

「ぶっ殺してやる」

 

 低い、犬の唸りのような声で、怒らない筈の幼馴染は言った。

 そのまっすぐな殺害予告を聞いて俺は、何故か。

 何故かわからないけど。

 なんでこんなものが。

 こんな気持ちが湧いてくるのか。

 わからない。

 どくどくと、それは湧いた。

 

 

 

 

 

 大の男五人がいなくなると個室の中はやたら広々として見えた。

 結果だけ見れば一人が五人を追い払った訳で、素直にすげぇとかカッケーとか快哉を叫んだりすべきなのだろう。

 そういう気になれないのは、目の前のこいつの顔がこうな所為だ。

 痛そうで辛そうで苦しそうで。

 こっちまで痛くて辛くて苦しくなる。

 

 拳が痛い訳でも反撃を食らった体が傷む訳でもなく。

 こいつは本気で俺の痛みを感じてる。

 いや厳密には痛みを勘違いしてる。

 服は酷いことになったけど俺自身は無傷だ。

 もちろん貞操の方も。

 だからこいつが感じてる苦痛は紛れもなく勘違いなのだ。

 必要がない。思い過ごし。

 そう教えてやろうと口を開きかけた時。

 

 ヤツは自分のブレザーの上着をそっと俺に掛けて、泣きそうな顔で言うのだ。

 

「遅かったか……?」

 

 って。

 大丈夫か、じゃなく。

 遅れてごめん、でもなく。

 こいつはまずなにより先に俺が乱暴されたかどうかを気にした。

 穴の無事を確認した……とかいうと流石に俺の性格が終わってる。

 でも。

 部分的には正解してると思う。

 

 その言葉の意味するところを俺は正しく表現できる。

 独占欲。

 こいつが俺に向ける感情、欲望。

 誰でも、誰に対しても持ってるものだ。

 珍しくもない。

 普通の…………普通だろうか?

 友達一人を助ける為に拳から血が出るくらい他人を殴り飛ばすようなこと。

 強く、強く、誰かを求める。

 求められるということ。

 どくどく、どくどく。

 

 熱い。

 こいつの顔を見ているとそれはどんどん溢れてくる。

 液状をした熱は腹の底の方に溜まっていった。

 それの名前ももうわかってる。

 俺の為に怒ったこいつ、俺の為に人を殴ったこいつ、俺の為なら人を■せるこいつ。

 こいつの強くて熱くて恐い想いが、全部全部、俺の為なんだって理解する。

 あぁ、これ、これは優越感だ。

 ひたすらに俺を求めて、自分以外の誰にも触らせない交わらせない。

 発情した獣がメスを死守するのと同じ。

 メス。

 お前にとって、俺はもうメスなんだ。

 俺はこいつが求めて止まない極上のメスなんだ。

 それは。

 なんて。

 

 カラオケの待機画面でよく知らないアーティストのトークがぼそぼそと流れ出す。

 意識が現実に戻る。

 しみったれた現実にヤツは飛び付いた。

 ヤツ自身の動揺を静める為だ。

 ヤツが俺に何を感じたか。

 今も、伏し目がちに、盗むように俺を見るその視線が擽ったい。

 鳩尾にくる。

 喉と下腹に流れる。

 快感。

 俺は立ち上がったヤツの裾を引っ張った。

 なるべく痛々しく、恐怖を押し殺した風を装って。

 憐れを誘って。

 

「なぁ、俺さ。酷いことされたんだ」

「っ」

 

 ただ息を呑む音。上下する喉仏が異様にセクシーに見えた。

 ブレザーの前を開く。

 下はほとんど裸みたいなものだ。

 ヤツは顔を背けようとしたが俺はそれを許さない。

 両手で包んだヤツの顔を正面から見詰めて、淡々と笑みさえ交えて俺は伝えた、事実を。

 

「汚れちゃった」

 

 ヤツが深く傷付いたのを感じる。

 目の奥に走った亀裂のような光。それ全てが痛みと悲しみと、そして。

 俺への愛情みたいなものなんだと。

 それが。

 その事実が。

 熱い。

 熱くて、じんじん響く。下腹に。

 内腿のさらに奥の方でそれは極点にある。

 俺はどうしたんだろう。

 俺の体はどうなってるんだ。

 そう、お前を感じる時はいつも。

 

「舐めて、綺麗にしてよ」

 

 願望は一言目、二言目は言い訳だ。

 俺はただ目の前の友達にそれをしてほしくて。

 ほしくて欲しくて欲しくて堪らなかった。

 上着を開いて裸をさらけ出す。

 まるきり変態だ。

 変態行為に違いないならもう。

 これも大して変わらない。

 俺はぬ、と足を差し上げた。

 足の指先をヤツの唇へ。

 

 俺は信じていた。

 浅ましく確証を持っていた。

 こいつは拒まない。決して。

 今の俺を全部受け入れてくれる。

 足の親指の爪先がまず触れた。

 それをヤツは唇で包み込む。

 暖かな粘膜質に包まれた指の腹にそっと舌が絡み付くのを感じた。

 ざらりとした味蕾の粒に撫で擦られ擽られ、丹念に愛撫される。

 背筋に電流が走った。

 指の股を舌先がなぞり上げた時。

 内腿の間からどろりと遂にそれは溢れ出してきた。

 熱い。

 あぁ熱い。

 俺の卑しさの液状。

 お前を俺のものにできるという傲慢な優越感。

 

「……もっと、奥も」

 

 両足を開く。

 花弁を開き、蜜で虫を誘き入れる食虫花として。

 どこも違わない。

 俺はお前を。

 俺にはお前を食う権利がある。

 お前には、俺に食われる義務がある。

 

「お前の舌、お前の唾液で全部、塗り替えて、隅々まで……一番奥も」

 

 舌が這い上ってくる。

 脹ら脛、太股、内側の柔肉を擦り上げられた時、ぴゅっと液が飛び散った。

 それはヤツの顔にへばり付く。

 まるで見慣れた精液みたいに粘ついて絡んで。

 その様を見て血が沸騰した。

 

「は、早く」

 

 腰をカクカクとさせてみっともなくおねだりする変態女。

 それは俺だった。

 親友の悲しみや戸惑いや罪悪感や……愛情を利用して。

 それら全てを使ってでも俺は。

 お前を束縛する。

 お前は俺の。

 お前が見るのは、喋るのは、触るのは、俺だけ。

 俺だけでなきゃいけない。

 ゆっくりと労るように内腿を滑る唇と舌が、遂に。

 一番奥、深みに到達する。

 熱気と淫臭が部屋に満ちていた。それは紛れもなく俺の欲望を言い表していた。

 早く、早く。

 お願い。

 親友の頭を抱える。ちくちくと硬いこの髪質さえ愛しい。

 舌が、口の周りの(ひだ)()ぶった。

 全身の肉が震え骨に響く。

 たったこれだけで。

 液状の想いが際限なく垂れて流れて男の顔を濡らした。

 

 征服感ではなく庇護欲が充足する。

 俺の股座で必死に舌を動かし、強姦の汚れを上書きしようと懸命な姿。

 滑稽だ。

 騙されてるとも知らず。

 俺の、女の言葉を鵜呑みにするなんて。

 馬鹿だこいつ。

 どうしようもない馬鹿。

 どうしようもなく愛しい、ばか。

 

「ばっ、か……そこ、いい、やばっ、ダメ。待って待ってヤバい」

 

 ぐちゃぐちゃに掻き回される脳内で欲望と快楽と愛と嘘がグラデーションする。

 こいつの愛に俺もいつか応えないと。

 応える準備はここにある。

 俺の言葉が嘘だったとこいつが知るのはこの交合のきっと最後、俺の最初を捧げる時だろうから。

 お前は驚くか、呆れるか。

 どっちでもいい。

 その時にはもう遅い。

 

 お前はもう俺のものだし。

 俺はもうとっくにお前のものだった。

 

 ────女になれてよかった。

 

 幼馴染の、友達の、大好きな(ヤツ)の口淫で絶頂しながら俺は、その喜びを知る。

 

 

 

 

 

 

 

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