いいですか?落ち着いて聞いて下さい
その日、私は消える筈だった。この荒野の風に吹かれて散逸すると完全に信じていた。
だが。
(ん、んん……)
瞼が重い。何故?そんな事はありえない。暗闇にさっきまでの記憶を映そうと混濁した意識を締める。
砂 光 熱 白い蛇 機械 後輩 アビドス
ああ、そうだった。
(ふぁ……)
気合いと根性で瞼を開けると、トタン屋根が視界いっぱいに広がっていた。眼球を動かしてみるとどうやら何処かのボロ小屋で目覚めたらしい。
アビドスにはこういう建物も多いから珍しくは無い。ただ……気がかりなのは誰が運んで来たかだった。
(ん?)
左手に力を込めると、やや抵抗がありながらもしっかり動いた。火傷の跡も無さそうだ。あれほどの熱線を浴びたのに溶けなかったのが不思議だな。
しかし右腕は少し違う。外見上は左腕と差異は無いが、感覚で分かる。
(私の……じゃないね)
皮膚が被さった義手が二の腕から下に嵌められていた。まさかミレニアムが作ったのだろうか?だとしてもオーバーテクノロジーだが。
(ふぅん)
試しに力を込めてみると右手がギチギチ、と人体にはあってはならない音を鳴らした。どれ程の性能かは知らないけど普段使いには充分使えそうだ。
(ちょっと、ちりちりするな)
元々指先があった所が妙に熱い。痺れたようなそんな痛み。
それは幻肢痛だと、遠い記憶のページが教えてくれた。
(服は元のままか)
破れた箇所が幾つか散見されるが、まだ人前に出れるレベルには制服は原型を留めていた。元来キヴォトスに所属する学園の服は防弾仕様である。耐久性もそんなに悪くない。
ふとそこで顔の右側に違和感を感じた。手で触れてみるとガーゼらしきものが貼り付けられていた。
(あちゃ〜)
まさかとは思うが。最悪の結果を想定しながら少し急ぎ気味に起き上がると、小屋の中にはテーブルと椅子、今寝ていたベッド。後はかなり古いパソコンが置かれているのみだった。
自衛用の銃もないし、食糧や水も隠されてはいなさそうだ。
床に足を下ろし久々に歩く。どれ程眠っていたのかは分からないけど、身体機能はそれ程衰えていなさそう。
久しぶりに筋肉を動かすと、なんだかロボットを操縦しているような、俯瞰した気分だな。
(よいしょっと)
少し小さな木製の椅子に腰掛けると、それだけで疲れたのだと実感する。
かなり古めのジャンクみたいなパソコンに目をやると、箱みたいな薄緑のディスプレイに自分の顔が写った。
長かった薄い青緑の髪は短くなり、ヘイローはひび割れている。割れた箇所には何やらぼやけたモノが巻きついてる気がするが、イマイチよく分からないので気にしないことにする。
しばらく自分の顔を観察していると、ブォンと音が鳴って画面に明かりが付いた。
──────
修正プログラム 最終レベル
全システム チェック終了
回線再接続
ターゲット確認
──────
黒い画面に緑のテキストで何やら難しそうな文言がずらっと並べられる。私にはちょっと厳しいかな?スマホがあればホシノちゃんと連絡を取りたいんだけど……
『ユメ』
(!)
その単語に私は少し驚いた。このパソコンは何か知っているのだろうか、いてもたっても居られずキーボードに手を伸ばす。
仕組みとしてはモモトークのような普通のチャットアプリの様で、直ぐに私は返事を返した。
『あなたは何者ですか?』
『私はHSL-1。君をこの場所まで運んだものだ』
『なんの為に?』
『私は使命を果たす為作られた。君にも使命がある筈だ』
私の使命……と言っていいのだろうか。元々は押し付けられたに過ぎない。でも可愛い後輩達を思うなら、これはきっと私にしか出来ない事。私のやるべき事なんだろうな。少し震えた指先で私は、私の意思で、それを選ぶ。
『私の使命は、荒廃したアビドスを、学校を再生する事だよ。つまり借金の返済って事』
『了解』
これが一体なにを示すのか、私には分からなかった。
『では1つ、私にいい考えがある』
なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。
『独立傭兵になる気はないか?』