依頼主 セイントネフティス
目標 補給基地の制圧
近々、ヘルメット団が大規模な襲撃を計画しているという情報が入ってきた。連邦生徒会長が失踪したという噂に乗じて各地で勢力を伸ばそうとしているに違いない。
そこで、奴らの補給基地にある燃料タンクや火薬庫を軒並み破壊してきて欲しい。破壊すればする程、報酬は上乗せしよう。
悪い話では無いはずだ、連絡を待っている。
──────
「!?」
「爆発だ!退避しろ!」
深夜、突如爆発を起こした燃料タンクによる混乱に乗じ、私は補給基地に潜入した。物陰からこちらに走ってくる三人へ向けて発砲。
「ああっ!?」
「うっ!」
「おいどうした!」
一人を残して弾切れしたので今度は横から接近。腕を掴み、顔面を拳銃で数回速やかに殴りつける。何が起きたのか分からない様子でいる相手に声を出させぬよう首へ手を回し、気絶させる。
それから建物の屋上へ飛び上がり、再装填した後残りの燃料タンク全てに発砲。再度轟音を鳴らし爆発すると、補給基地内には燃えた燃料の匂いと、アラートが充満する。
「一体誰が!?」
屋上の縁に立ち、真下を見やると四人のヘルメット団が固まっていた。チェストリグからグレネードを一つもぎ取り、投げ入れる。丁度地面に着いたと同時に爆発し、破片と煙が舞い散る。これを受けてもまだ立っているが、まあ破片で仕留めることが目的では無い。
「げほっげほっ」
再装填。そして四人が咳払いしてる間に飛び降り、一人をクッション代わりに踏みつけて手首を捻る。握っていたライフルがフリーになり、それを近くにいた一人に投げつける。
「あだっ!?」
頭部に来た衝撃に驚いた隙を狙い懐へ潜り込む。がら空きの腹に銃口を押し付け、一回引き金を引く。体勢が崩れた所でそこから流れる様にアッパーカットを決め、頭にもう一回発砲。
「何者だ!?」
「敵!?」
ようやく気づいた二人。片方に速射で2トリガー。気絶したのを確認した後、残る一人に走って近づく。
「く、来るな!」
小ジャンプで相手に飛びかかり、こちらが押し倒す姿勢になる。脚で相手の腕を抑え込み、弾丸を再装填。頭部に二回引き金を引く。
「く、くそ……」
さっきクッション代わりにしていた奴が上半身を起こし、こちらを睨みつけてくる。だが私の踏み台にされた事による体への負担が凄まじかったのか、そこでパタリと再度気絶してしまった。
四人から拳銃用の弾を回収し、燃え盛る瓦礫や倒れたヘルメット団を避けながら基地内を警戒して進む。
やがて弾薬庫に着いたので、グレネードを一つ投げ込み、退避。
爆風でドアがふっ飛ばされ思わず冷や汗をかいたが、問題無し。
ガッツポーズをしている所で通信が入ってきた。
『ミッション完了だ。手馴れてきたものだな君も』
(始めてから結構経ったしね〜。……にしては未だにゴールが見えないけど)
私の襲撃により跡形も無くなった基地を見渡しながら、本来の目的地へと向かう。
『それについては謝罪しよう』
(いいよいいよ。気にしてないし)
指揮所だったであろう場所だが……燃料タンクに近かったせいか、ガラスは吹き飛び建物も煤だらけになっていた。しかし目的のものが無事なら特に支障はない。
入口の瓦礫をどかし、指揮所内部へと入る。
「はぁ……!」
爆発に巻き込まれたであろう子が震える足で私の前に立ちはだかる。ライフルを片手で保持し、こちらに銃口を向けてきた。
心は痛むが、それも承知の上だ。
適当に撃って気絶させ、さらに奥へと進む。
最近、アビドス高等学校へのヘルメット団の襲撃が頻繁に起こる様になってきた。私も彼女達が学校近辺へと進行することがあれば直ぐに撃退に当たっているが、全てを賄う事は出来ない。
後輩達には不甲斐なくて申し訳無いと思う。
だが、ヘルメット団はそこまで統率の優れた組織では無い。元が社会に適合出来ない子達の集まりだからだろうか。それに加え、彼女達の使っている武器や兵器はどれもブラックマーケットでしか手に入らない違法な物や、さほど手が入っていない新品のような物まであった。
ラナによると、誰かがヘルメット団に支援をしているのではないかという考えだった。曰く、よくあることらしいが。
そこで丁度いい依頼が入ってきた。セイントネフティス社からの、補給基地制圧の依頼だ。運が良ければ、カイザーが何処に何を運んでいるかが記録された資料が見つかるかもしれない。
奥へ進んでいくと、資料室と書かれた赤色のドアが目についた。グレネードを置き、ドアを破壊する。
屋内に響く爆破音に顔を顰めながら中に目をやると、様々なファイルが棚に隙間なく詰められていた。
(ひぃん……これじゃ探すのは骨が折れるよ〜)
『こういう場所には何処に目的の資料があるかを記載しておくコンピューターが設置されている筈だ。探してみろ』
電力が不安定になっているのか蛍光灯がチカチカと震える中、部屋の隅で青い光がぼんやりと見える。恐らくあれがコンピュータだろう。
天井から滴る火花や足元の破片に注意しながら近づくと、薄いディスプレイの見た限りでは新しめの機種のパソコンが置かれていた。
ラナのオンボロとは比較にもならない。
『おい、今何か余計な事を考えなかったか?』
(いやっ何も!?)
もしかしてそこまで読めるの?だとしたらプライバシー侵害もいい所だよ!
画面に目をやると、幸いパスワードを入力するまでもなく既に起動しているようだ。
マウスに手を伸ばすと、視界の端に倒れた人影が映る。暗いからすぐには分からなかったが蛍光灯の光で一瞬その姿が現れる。
その人影はカイザーの社員だった。胸元の社員証が証明している。
……やっぱり、そうなのかな。
『では早くしろ。敵の増援が向かってきている、悠長にしている暇はないぞ』
(ヘルメット団にしては早いね)
『いや、カイザーのPMCだ』
その言葉に私は一瞬言葉を失った。マウスを握る手に力が入る。
私の頭は怒りに支配されることなく、冷静だった。いつもよりも三倍早く思考は回転し、手元もミシン顔負けの精密さで動きを繰り返す。
監視カメラのようにじっくりとファイルの名前を追う。
やはり、そうだった。
『目標のものは見つかったな』
出来ることなら今すぐにでも傍で気絶しているカイザーの社員に問い詰めたいところだが、私はそんなに便利な道具は持ち合わせていない。
いつもより一歩一歩の歩幅を大きくしながらゆっくりと目標のファイルが詰められた棚へと向かう。
さっきまでは気が付かなかったけど、あると分かれば見つけるのは容易かった。
白いドレスに赤ワインを一滴垂らしたみたいに、目立って見える。
手に取り、中身をパラパラと捲る。すると、眼帯につけられたカメラで視界をモニターしているラナが独り言を呟く。
『資金洗浄に……ブラックマーケットからの横流し、か』
(………………)
『ひとまずそれを持って撤収だ』
倒れている社員に一瞥した後、私はファイルを左手に抱え、その場を後にする。
つまづきそうになりながらも走って逃げる道中、炎でゆらりとした視界の中、プロペラの音が聞こえる。
(ラナ……?)
おかしい。ラナとはランデブーポイントでの回収の筈だ。通信もせず作戦変更をするような性格もしていない。であればこの音の主は?
倒れたフェンスに身を寄せ、眼帯でズームする。灰色の機体色で夜闇に紛れるせいでかなり見つけづらかったが、燃料タンクで高く天へと舞う炎により、歪みながらもそのヘリの所属が顕になる。
(SRT……まさかFOX小隊!?)
ヘリからのファストロープで降りてきた四人組。あの最新鋭の特殊装備に特徴的な耳は間違いない。
かなり面倒な状況だ、プロフェッショナル相手では分が悪い。
(これはひとまず、逃げるしかない!)
相手の目的が分からない以上、こちらにメリットは無い。
私は脱兎のごとく逃げた。
リズム良く地を叩き、ただひたすらにファイル片手に走る。なんか車より速い気がするが、気のせいだろう。なんだかよく分からない感情のままがむしゃらに走り抜けると、そこはランデブーポイントだった。
とりあえず迎えのヘリが来るまでは休憩だ。
倒れた電柱に腰を下ろし、強く握ったせいか曲がったファイルを読み込もうとした所でラナから通信が入った。
『運が良かったな。もう少し遅ければ見つかっていただろう』
(こんな任務は勘弁だよ)
『私から依頼主に言っておこう。……カイザーについてだが』
その単語を聞くと、自然と右腕の痛みが強くなってしまう。別に、甘い話に乗った私の自業自得と言われればそれ迄かもしれない。
でも私は……
『……物騒な事は考えるな。落ち着いて聞け』
(……うん)
生唾を飲み込み、意識を纏める。
『私の考える限り、アビドス高等学校への返済義務は金が目的ではない。第一、カイザーは元々かなりの資産を有していた。固執してまで金がいる訳ではないだろうしな』
(じゃあ、何がしたいの?)
悪趣味だ、全く。
『思い出してみろ、過去の生徒会がカイザーに差し出していったものを』
(まさか……土地?)
『そうだ。現在のアビドスの土地は元の面影もないくらいやせ細っている。そこで最近のカイザーの動きだ。まるで焦った様に土地を巡って日々争っている』
……私達がカイザー以外の企業からの依頼を多めに遂行しているからな気がするな。
『カイザーの目的は恐らく、この土地に眠るなにかだ。言っては悪いが、アビドスにはそうまでして得られる何かがない』
むむむ。言われると反論しにくいぞ……。アビドスにだっていい所はある筈だ……ラーメン屋とかね。
『他の企業もそれを狙っている可能性はある。誰かがリークしたのだろう。主に、ムラクモは知っていてカイザーの妨害に動いている可能性が高い』
(でも、アビドスに何があるの?一攫千金のお宝とか?)
昔はよくホシノちゃんと一緒にお宝探しに行ったなぁ。
『そこまでは分からん。だが一先ず今回の任務で確証は得られた。とりあえず私はこの情報を売りに出すとしよう』
(……ラナって人の心無いの?)
『……それからFOX小隊についてだが』
(ラナ?)
無視したね。
『彼女達については分からない事が多い。だが、彼女達がカイザーの手先に堕ちたという事は考えられない。過去のこともある』
昔、彼女達FOX小隊はカイザーの不正を暴いた事もある。ラナが言っているのはその事だろう。
『これは根拠の無い推測だが……FOX小隊が狙っていたのは君かもしれない』
(私!?)
『今までの実績があるからな。狙いが抹消であるか、もしくは勧誘であるか。だとしても最大限注意を払う必要がある。これからの任務には気をつけろ』
(ひぃん……)
どうして私なのだろうか……。依頼を全部完了させていっただけなのに。
迎えのヘリが来るまでの間、明かりひとつ無い事で生まれる星たちに後輩ちゃんを重ねながら、私はアビドスの未来を憂いた。
この世界は三週目なのでFOX小隊とは戦いません。