依頼主 ランバージャック
目標 傭兵の排除
ある傭兵を消すのに協力して欲しい。目標は依頼達成率トップランクの独立傭兵レイヴン。正直な話、1対1ではかないそうもない。
しかし奴が消えない限り、私の生活に安定は来ない。この際なりふり構っていられない。
奴はアビドス砂漠地帯近辺で任務中だ。任務が終わって帰還しようとするところを共同で叩く作戦だ。
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「はあ……わざわざこんな僻地まで来るなんて」
「でも相手はあのレイヴンよ!私たちとしてもレイヴンを倒せたなら箔がつくじゃない!」
「それ、アルちゃんがレイヴンに会いたいってだけじゃないの?」
「アル様!わっ、私、頑張りますから!」
ランバージャックと名乗る傭兵からの依頼を受け、私達便利屋68は目標地点であるアビドスの荒野にたどり着いた。
周りにはビルの残骸や、回収されなかった薬莢が散らばっている。
一先ず依頼主に連絡をとった所、自分が来るまでは待機との事だった。
まあムツキの言う通り、会えるのであればレイヴンに会いたいというのも少しはある。
「だってレイヴンよ!何もかもを達成する凄腕の傭兵!しかも誰も素性を知らず、姿だって露見してないのよ!かっこいいじゃない!」
「分かったから、そんなに早口でまくし立てないで」
「アルちゃんはすっかりレイヴンにハマっちゃってるからね。一種のアイドルみたいなものじゃない?」
「アル様、目がキラキラしてます……」
「聞いた限りじゃカイザーの補給基地を一人で焼き尽くしたとか言われてるけど、実際がどうかは分からないよ?尾ひれが多く付いただけかもしれないし」
カヨコはレイヴンについて懐疑的なようで、この任務を受ける際も唯一拒否をしていた。
「今回の任務地は砂漠のど真ん中で、情報も他の依頼より少ない。どう考えても怪しいと思わない?」
「それはそれ、これはこれよ!この前アビドス襲撃に失敗しちゃったんだから、これはまたとないチャンス!」
「もしかしてカヨコちゃんビビってるの〜?」
カヨコにイタズラな笑みを浮かべるムツキ。
「そういう訳じゃないけど……私が言いたいのは不測の事態を予測した方がいいって事」
カヨコの言い分にも一理ある。
「それじゃあ依頼主が来るまでの間にトラップを仕掛けておきましょう。あのレイヴンがただ捕まる訳ないし」
「わ、わかりました、アル様!私張り切っちゃいます!」
そう言ってハルカは手際よくトラップの設置に取り掛かった。こと爆弾関係についてはハルカは非常に頼りになる。ハルカの作った爆弾トラップであればレイヴンも一筋縄ではいかないだろう。
(……効くわよね?)
「アルちゃん、今回の依頼主ってそのレイヴンとまともに戦えるの?」
「そこまでは分かってないけど……きっとなにか手がある筈よ」
カヨコが調べた所、今回の依頼主であるランバージャックは傭兵としては新参に当たるものの、元賞金首という事もあってかそれなりに実績を積み重ねているらしい。それと、どうやらレイヴンに対して並々ならぬ感情を抱いているのだとか。
「ま、私達がそう簡単にやられるわけないしね」
「その意気よムツキ」
などと話していると、トラップを設置し終えたハルカが帰ってきた。
適当な瓦礫に腰掛け、依頼主が来るまでは四人で雑談をしながら過ごすことにする。
やがて持ってきた水筒の中が空っぽになった頃、ようやく依頼主らしき人物がやってきた。ヨレヨレの赤い服に、手入れが行き届いたライフル。どうやら情報通り、新参にしては腕が立ちそうだ。
「遅かったじゃない、なにかトラブル?」
「ああ、よく来てくれた」
「で、作戦は?」
カヨコがいつもより低い声で威圧する様に問いかけると、依頼主は銃口をこちらに向け……。
(!?)
「残念だが、目標など初めから居ない」
「ちょ!ちょっと!」
「やっぱり……。アンタの狙いは私達便利屋……」
「呼び出しておいて遅れてくるなんて酷いよね〜。ま、それもここまでだけど」
カヨコとムツキも依頼主に銃を向け始めた。
「あ、あの……これは、一体どういう事なんでしょうか……」
「だまして悪いが、仕事なんでな。死んでもらおう」
(……?)
依頼主からのその言葉に頭が真っ白になる。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーー!!!???」
「敵……?アル様が騙された……?」
「ハルカちゃん?」
「そんなの、許せません……」
「ハルカ、ちょっ、ちょっと待っ……」
私が混乱している内に、今度はハルカが懐から先程のトラップの起爆装置を取り出した。
(待って待って待って、状況が一切分からない!?裏切られたの!?まさかカイザーからの差し金!?思い当たる節しかないわよ!)
だがハルカが起爆装置のボタンを押そうと親指を掛けた瞬間、依頼主の立っていた場所が何故か派手な音を立てて爆発を起こす。
「へ……?」
ハルカの手元を見ても、起爆スイッチはまだ押されていない。では今の爆発は?
とりあえず爆破地点に向けて銃を構え、様子を伺う。
「嘘でしょ……」
待っていた砂煙が晴れると、地面に倒れている依頼主の姿が現れた。どうやら気絶しているらしく、指一本動く気配すらない。
「社長!警戒して!」
これはかなりマズイ状況かもしれない。すぐさま四人で背中合わせに固まる。
「ハルカちゃんがやった訳じゃないんだよね?」
「はい……」
「じゃあ一体誰が……」
倒れた依頼主の方を警戒していると、赤く染まる空からなにか人影が降りて来るのが見えた。
「西の方角!誰か来るわ!」
音もなく地面に降り立ったその人影は、夕焼けの逆光のせいでシルエットしか確認できない。唯一分かることは、手元に拳銃を握っていることと、上着であろうものに着けられた9に光るワッペン。
だが見ただけで私には分かる。
(この圧力……ただものじゃないわね……!)
ゲヘナ風紀委員会委員長 空崎ヒナ。彼女と同じ系統の、相手に有無を言わさぬプレッシャー。
ゆらりと亡霊の様に立ち上がり、その人影は依頼主の首根っこを掴んだ。
「……ま、待ちなさい!」
混乱と恐怖が混じるなか、たった一つ言葉を絞り出し、問いかける。
動きを見る限りでは人影は依頼主を何処かに連れていくつもりのようだ。
どう立ち回るか思考を回転させていると、人影は首を回しこちらを向くと、その赤い一筋の私は眼光に射抜かれてしまう。
その視線は人とは思えない程機械的で
その視線は機械とは思えぬ程熱を宿していて
その視線は怒りと、悲しみと、後悔と
その視線は一人にも、二人にも見える。
私は目の前のこの人影の事を全く知らない筈なのに……目が離せないでいると、何者からか通信が入ってきた。
『私を追っているらしいな…誰であろうと私を超えることなど不可能だ』
それは冷たい、無機質な男性の声であった。
それだけ言い残し、通信は途絶える。依頼主を片手に掴んだ人影も、何処かに跳んで消えていってしまった。
まさかあの人影からの通信とは思えないけれど……それでもやはり、根拠はないが、確信を持てた。
「……なんだったの、今の」
「さあね。多分傭兵だと思うけど……」
「あ、あれは……かなり危険でした…」
「危険?」
いつもより倍増しで怯えるハルカにムツキは問いかける。まあ怯えても仕方ないだろう、あれは刺激が強すぎる。
いわば、濃縮しためんつゆをストレートでいくような、それ程までに強い恐怖の象徴が現れたのだから。
「とにかく……全員撤収ね」
もうここに用はない。依頼どころか依頼主が攫われてしまってはどうしようにもない。追うにも、私達には手段がない。
とりあえず警戒を解き、興奮と恐怖が冷めやらぬまま、帰る為に歩を進めようとする。
「社長、アレが何か気づいた?」
流石、カヨコは鋭いわね。
「ええ……きっとあの人物こそがレイヴン……私達の目指す相手よ」
次回の投稿までまあまあ伸びるので気長にお待ち下さいね。