☆10評価、ありがとうございます。
(ん〜、おいしい〜♪)
長かった連勤生活もようやく鳴りを潜め、私は久々の休日を謳歌していた。
長く苦しい日々だった……味気ないレーションを食い(ラナ作)、意外と美味いコーヒー(これもラナ作)を啜る毎日……。
毎回食事がドローンで運ばれてくるのも、最初は驚いた。ヘリとかシュトルヒもそうだけど、一体どこから飛んできてるんだか。
というか何あのレーション、絵の具パレットじゃないの?
でもコーヒーが美味しいのは意外だった。私みたいな素人が淹れるよりも全然深い味わいだ。しかも味が毎日変わらない。明らかにコーヒーマシンでしょ、と思って聞いてみたけども
『自分で淹れてるぞ』
としか返ってこなかった。
喫茶店とか開いた方がいいんじゃないの?と提案したが
『私に愛想があると?』
答えづらいよ。
それと、ならなんでレーションは不味いのって疑問に思うよね?
『味など意味を成さない』
意味あるよ!
『うんざりするが……それこそが傭兵だ』
諦めちゃ駄目でしょ!
そんな訳で酷い食事の連続だった。自分でコンビニ弁当でも買いに行こうかと出向こうとしたこともあったけど、そんな空いた時間は無かった。
まあ、過ぎた話である。私は折角の休日なのだからとボロ小屋を飛び出し、ブラックマーケットに買い物に来ていた。その途中でホットドッグの出店を見つけ、こうして今食べている次第である。
(こんなに美味しいならラナの分も買っておけば良かったかな?)
というかラナはどうやって暮らしているんだろうか。持って帰ったとしても受け取ってくれるのかな。
片手に持ったホットドッグを更に齧ると、柔らかなパンにソーセージの肉汁。酸味の効いたケチャップを、まろやかに味付けされたマスタードが支えてくれる。
こういう出店の物は大抵美味い物だ。特にこのブラックマーケットにおいてはね。下手に不味い食事を出そうとすれば、面倒な客に荒らされてもおかしくは無いから。
だからここで生き残っているのは、そういう淘汰から勝ち上がった者たちだ。ゲヘナにもそういった文化?じみた事があるらしいけど、詳しくは知らない。
私が主に依頼をこなすのは大抵アビドス内だ。地理はある程度既に把握しているし、今の依頼のホットゾーンがカイザー関係であるから、必然と多くなる。
それに、他の学校の自治区内で依頼をこなすと厄介な問題を招きかねない。特に今はエデン条約が締結されようと、トリニティとゲヘナは互いに監視しあっている。
そんな中で下手に動けば、全面抗争も遠くは無いだろう。
もし私がゲヘナの依頼を受けてトリニティ自治区で行動したとして、それが治安維持組織にでも見つかった場合、依頼内容にもよるけど、ゲヘナからのトリニティに対する妨害行為として見られることもありうる。
例外として、この前はD.U.自治区で任務を行った。セイントネフティスの見立て通り、ヘルメット団や不良生徒達による大規模な襲撃作戦が行われたのだ。
依頼内容は自治区内倉庫に保管された物資保護の為の武装解除だった為、やるせないがヴァルキューレに捕捉されることも考えた。
しかし、特にこれといった私を追うような情報は公に確認出来ていない。
結局傭兵は流れてくる依頼を拾う他ない。学校で借金返済の為動いていた時もそうだけど、任務の場所も内容も、向こうが決めたものに従うのが基本だ。
私の所に来る依頼はラナが選別しているらしいけど、どんな基準で選んでくれているのだろうか?
(しばらく歩いて疲れちゃったし、座ろっかな)
路地裏に目をやると、使われなくなって久しいであろう箱になったダンボールが幾つか積まれている。
近づいて表面を押し込んでみると、意外にも固くちょうど良く座れそうだ。
(このくらいなら大丈夫でしょ。よいしょっと)
もう片手に持っていたレジ袋入りの荷物を地面に置き、ドサッと腰掛ける。
(む、ちょっと太った?)
先程押し込んだ限りでは不安なく座れると思ったが、いざ体重を預けてみると少し座面が凹んでしまった。
(おかしい……それ程食べてない筈なのに)
そういえば、目覚めてから自分の体重を測ったことも無い。
(あの絵の具パレットにそれほどのカロリーが……?)
もしそうだとしたら由々しき事態では。確認したくは無いが……恐る恐る自分の腹を指でつまんでみる。
(……ん……?)
嬉しいニュースだ。ほとんど変わらない。というかむしろ減っている気がする。昔はよくお菓子も食べてたからね。その度ホシノちゃんにお預けされてたけど。
(んー、もしかしてラナの手術の所為かな?)
私の身体はラナが発見した時には既に死にかけの状態だったらしく、様々な身体的機能や部位が欠損してしまっていたらしい。
その失った機能を補うべく私の身体には様々な生体パーツや機械が埋め込まれているのだと。
多分その部品達が重いのだ。そういうことにしておこう。
勝手に人の身体を弄くり回さないで欲しいけど、こうして生きてるんだし感謝するべきだろうな。
ついでに、やはり私の身体が強化されているというのは当たっていた。具体的に言うなら心肺機能、骨格、筋肉組織の強化を施したとの事だ。
まあこれは実際に依頼をこなす上で役立ってくれている。
因みに老化を抑えたり、若返らせるのも可能ではあるとも言っていた。今の私には必要ないけど。まだ若いんだし。
ラナの素性はドクターか科学者なのかな。本人はマネージャーとしか言わないけど。
あとはこの右腕と右眼さえ戻ってくれれば良いんだけど、ラナはその辺りのノウハウを持ち合わせていないと語っていた。
こんなハイスペックな眼帯を作れるなら出来そうな感じはするけどね。
私は新たな眼をコツコツと人差し指で叩きながらそう考える。
(…………)
目を落とすと、自然に右腕が視界に入ってきてしまう。あんまり見続けていると、良くない考えが浮かんでは消えていく。
別に、私の目的はそこでは無い。ソレには意味が無いということは分かっているつもり。
それでもやはり……悪い夢は見てしまうみたいだ。
しかし私の脳は単純なようで、右手に持ったままのホットドッグを見ると真っ先に食欲が私の黒い思考を塗り替えてくれる。
(あーダメダメ!そんな事考えちゃ!)
頬をペチンと叩き、すぐさまホットドッグを口に押し込む。
こういう時はなにか別の行動をして紛らわした方が良いのだ。
(よし!)
なまじ勢いで入れたばかりに少々口へ含みすぎたが、噛めば大抵何とかなる。噛んでいる間であれば思考の何割かは考えなくて済む。これで太らなきゃ最高のストレス解消法なんだけどなぁ。
でも飲み込むのは別。
(!!!!!)
ラナが見ていたら呆れてしまうだろう。慌てて胸を叩き、無理やりにでも胃に流し込む。
こんなので窒息するとかまったくもって笑えないが、幸いにもパンだったからか十秒くらいですんなり落ちてくれた。
ちょっと冷や汗もかいたけど、問題なし。
(ふぅ……)
変な所で命の危機を感じてしまった。気を取り直して買った物の確認でもしておこう。
ボロ小屋には電気こそ通ってはいるが、ガスなんてものは無い。キッチンもないからするつもりのない自炊なんて、選択肢から除外される。
ならもう弁当に頼るしか……!。でも水周りは通っている。砂漠なのに。
ドラム缶風呂は実際にやってみると意外に心地よかったね。砂漠の唯一のメリットである星空を楽しむには丁度リラックスできるし。
弁当以外には保存食や調味料とかもレジ袋に入れてある。味変は大事だ。
(思ったより高かった……!)
いちばん底の方から取り出したのは今日新しく買った銃だ。木製のグリップに、切り詰められたバレルが特徴的な上下二連のショットガン。
今持っているハンドガンだけでも苦労はしてないけど、カードは多く持っていた方がいざという時対処しやすい。
高かった理由は二つある。試しにトリガーを引いてみると、シングルにしては重い感触がかかり、力を入れて引き切るとハンマーの落ちる音が二つ鳴る。
つまり、これは二連同時発射ができるように改造されている。代わりに撃つ度毎回再装填が必要だけど。
もうひとつ、底から引っ張り出したのは四角い紙の箱。中身は12ゲージのスチール弾。俗に言うスラグ弾の一種。
この弾、値段がまあ少し高い。防弾も貫くし、威力も高い部類に入るとはいえ無駄撃ちは厳禁かな。金はなるべく借金返済に当てなきゃだし。
(……私はやるよ)
至極単純な話。依頼をこなして、お金を全て返して、後はのんびり後輩達と過ごす。それだけ。
私はそれだけでいいから。
銃の動作確認をし、再度荷物をレジ袋に詰め込んで路地裏を後にする。やっぱり光が当たっている所の方が息苦しくなくていいや。
次はどこに寄ろうか考えていると、けたたましいベルの音が辺りに響き渡った。音のなる方に首を動かすと、どうやら銀行でトラブルがあったらしい。
(きっと、強盗かな?)
銀行を襲えば確かに大金は手に入るし、明日にでも借金は返せるだろう。今の私ならマーケットガードに苦戦を強いられる事も無い。
でもその一線を超えてしまえば、きっとまた金に困った時、同じ手を使うだろう。
日常生活に他人から奪うという選択肢が意図せず入り込んで来るのだ。その選択を前にどれだけの時を我慢できるか?。
私が恐れる慣れとは、そういうもの。この仕事を始めた時にも同じことを考えたけど、いざその現場を目の前にすると有り得たかもしれない自分の姿を幻視してしまう。
しかし、私には後輩達がいるのだ。ホシノちゃんにも似たような事を言った手前、そんな選択は許されない。
先輩は後輩の手本になるべきだ。
(……とは言っても、私もあまり変わらないけどね)
強盗と傭兵、このふたつを分ける仕切りはなんなのだろうか?
ラナはどんな答えをくれるだろうか?
悩まずに済むなら苦労はしないだろうけど、悩むから私は私でいられるのだろうか?
疑問は尽きない。
今日みたいな日はきっと必要だね。ずっと仕事を続けてたら、こんな風に考えることもなくなかったし。
それはそれとして、社会正義で言うなら強盗を止めた方がいいのは確実。でもヴァルキューレに突き出すとして、私には学籍が無い。ついでとして私は矯正局送りが妥当かな。
ブラックマーケットの住人に代行は無理だろうね、マトモじゃないから。
(てなったら……見逃す他ないかな)
悲しいかな、ここはブラックマーケット。というかあそこ闇銀行だし。
(私はレイヴン……)
今の私は傭兵なのだ。依頼でなければ干渉はしない。
とりあえずそう言い聞かせておくとしよう。
一人で納得してうなづいていると、犯人達が正面から出てきた。複数犯らしい。
(……?………あれ?)
なんか見覚えある服装だな。どう考えてもあの制服はアビドス……。いやそんな訳無いよね。
そもそも今私が着ているみたいに、よく似た別の服装という事も考えられる。
それに私の後輩達はこんな事しない筈だ。
(あの怪しい覆面に手馴れた手つき……素人じゃない)
特に青い覆面と紙袋の子。前者の動きはまるで数ヶ月前から準備してきたかの様に用意周到だし、後者は動きこそ自信なさげだけど身に纏うオーラが違う。
アウトローだ……。
(よし、見なかったことにしよう)
あれが大規模な犯罪集団だとして、揉め事は起こしたくない。ただでさえ私は狙われる立場なのに。
店から出てきた野次馬達とマーケットガードの群れに紛れながら、私はブラックマーケットを後にした。
ユメパイセンの倫理観はマトモだと信じたい。でなきゃ爆発してしまう。