「夢が残した足跡」part1が来ると知って狂喜乱舞しました。セトやハイランダーにこの小説が爆破されないよう祈るばかりです。
今回は戦闘メインです。原作でのユメ先輩の戦闘力が未知数なのとラナの存在もあるのでまあまあ難しかったです。もし良ければ感想待ってますね。
「……ちょ、ちょっと待ってください。シャーレの先生があっちにいるとしたら……」
遠距離からの砲撃により発生した瓦礫達を踏みつけながら、私達風紀委員会は便利屋68を捉えるべくアビドスに来ていた。
前方の小隊に指示を出し、私も歩を進める。
しかし妙に霧が濃いな。目標地点に近づくにつれ、10m先すらも見えなくなってきている。
「……この戦闘、行ってはいけません!」
「どういうことだ?」
先程からチナツが色々思考を巡らせていたようだが、いきなりそんな事を言われても困る。
やっとあの便利屋を捕まえられる絶好の機会だ。逃す手は無い。
「アビドス、こっちに接近中。発砲しま……」
その時だった。
弾ける銃声が、濃霧の中にただ響き渡る。明らかに私達風紀委員会で使われている銃の音でないのは分かった。
小隊の声が途中で途切れてしまった事から推測するに、アビドスの連中が邪魔してきたに違いない。
「ちっ、仕方ない。行くぞ!」
そのまま私はチナツを置いて濃霧の中へ走り出した。
聞こえた銃声が推定アビドスの物以外聞こえなかった事からして、まさか小隊の内の誰一人にも撃たせず一瞬で制圧するとは。
並大抵の腕前では無さそうだ。
(視界が確保出来ないな……フラッシュライトを装備しておくべきだったか?)
霧に紛れての奇襲を考え、慎重に前へ進む。霧の視界の中では方向感覚が酷く低下する為、電光掲示板が目立つビル等の建物を目印にし、躓かぬよう気を配る。
(交戦箇所はもう少し先か……)
クラックショットを構えながら通信機を操作し、もうひとつ潜らせていた小隊に繋ぐ。
「……ッ!ジャミング!?」
これでは第1小隊とも連絡が取れない。1個中隊級の兵力も、扱えないのでは意味が無い。
試しにチナツとも通信を繋いでみるも……。
(駄目か……)
砂嵐に似た音声に阻まれ、マトモに使えない。
下がって合流しようにもこれだけの霧だ。位置共有も出来ない以上、悪手と考えるべきだろう。
(ひとまず前に進むしかなさそうだな。誰か生き残りがいればいいが……)
湿った空気が段々と肌を濡らし、気持ち悪い感触が滲み出てくる。
肌についたこの水分が霧によるものか、それとも焦りや緊張からくる自分の汗なのか、確かめる方法は無い。
コツコツとブーツが鳴るのを抑えながら、目印にしていたビルの一つへと辿り着く。
すると、見知った影が倒れていた。
(……第2小隊所属か)
倒れていたのは、気絶した風紀委員会の生徒だった。
しゃがんで外傷が無いか確認すると、頭にのみ銃弾の跡が残っていた。見る限りでは拳銃弾を用いた集中攻撃と考えられる。
サブマシンガンか、改造したアサルトカービンによる射撃だろうか。
妙なのは跡に焦げたような黒いなにかが付いていた事だ。
(頭だけを狙ったのか……更に警戒が必要だな)
突然カランカランと、静かだった周りに物音が散らばる。
反射的に私はビルの中に飛び込み、受付の机へと身を隠した。
「今の音、グレネード……?」
上体を伏せてカウントを心に刻むが、いくら経っても爆発音は聞こえてこない。
自然とクラックショットを握る手が強くなる。
顔を半分だけ机から出し、自分がいた位置を確認するが特に変わった点は見受けられなかった。
ポタポタと、地面になにかが滴る音。
目線を下に向けると、床に透明な液体が広がっていく。
まさかと思い左手の指先を顔に当てると、生暖かい感触が肌に伝わる。
知らずのうちにどうやら汗をかいていたようだ。
それほど緊張しているという事の現れ。
通信は使えず、視界もままならない。しかも相手は相当の腕前で、まだ視認する出来ていない。
ハッキリいってかなりホラーな状況。
垂れていた汗もかなり多かったのか、コンクリートの床に水溜まりを……。
「……ッ!?」
咄嗟に右足を全力で蹴り、その場から位置をずらす。
あろうことか思考の余地を与えず、私はその行動を本能の赴くままに実行した。
それが何を意味するか、一言で言おう。
恐怖だ。
『何故、ここにいる』
私は、信じられないモノを見てしまった。
(なんだ……コイツは!?)
ソレは私のいた位置に寸分の狂いもなく上空から襲いかかってきた。
着地の衝撃によるものとは思いたくないが、現に目の前の人影が降り立った瞬間、土煙と轟音が霧の静寂から支配を取り戻してしまった。
パラパラと服についた小さなコンクリの破片をはたきながら、その得体の知れない人影が立ち上がると、足元の床には2m程の亀裂が入っている。
私がこの攻撃を回避できたのは、運によるものが大きい。
あの小さな水溜まりに映る姿を捉えていなければ、どうなっていた事やら。
多分、捕まってしまえば逃げられない事は予想できる。
「───何者だ!!」
目の前の人物に、私は心当たりがない。今回の作戦前のブリーフィングでアビドスと便利屋の連中の顔については知っている。
しかし、右目に眼帯染みた機械を取り付けた生徒の事など今までで初めて目にした。
私の問い掛けにも答えず、ただこちらへとじっくり距離を詰められていく。
その右手に拳銃が握られている事を確認すると、私は自分が思っていたよりも早く引き金の指に力を入れ、大した狙いもつけず発砲してしまう。
(躱した!?)
もとより当てるつもりのない射撃だったが、相手はこちらの撃つタイミングを見計らったかのように横へステップを刻み、避けた。
もし、偶然であれば良かった。
銃口をこちらに向け、何も言わずこちらへ走ってくるその姿に私はまるで人間味を感じなかった。
引き抜いたボルトを押し込み、次弾を再装填。真っ直ぐに目に入った頭部に狙いを定め、今度はしっかりと狙い撃つ。
(駄目か)
だが思いも虚しく、また銃弾は避けられてしまう。
私の持つクラックショットは単発式のボルトアクションライフルである為、理論上は避ける事も可能ではある。
あくまで理論上はだ。
実際の所は銃口が向いたところで、いつ発射されるまでは気にしていられない。
引き金を引く前にステップで移動しても、少しこちらが動くだけであっさり移動先へ撃たれるからだ。
敵の射線に入ったら物陰に隠れてやり過ごし、そこから様々な反撃の種類から選択していくのがセオリーである。
つまりは、相手がこれを意図してやっているなら恐らくこちらの発射タイミングが完全に分かっているという事。
そして銃弾を避ける方法はもうひとつある。
(そう来るか!)
再度撃つが、今度はなんと上へ飛び上がり、弧を描いて私の頭上へと回り込まれてしまう。
もうひとつの方法というのは、射線に入らないやり方。
それが出来るなら一方的に相手を打ち負かすことが可能になる。
私は向こうの拳銃による射撃をバックステップで右に躱し、その間に再装填。
(バースト射撃!これが原因か……!)
六連バーストによる集中的火力。一箇所に叩き込まれれば、拳銃弾とはいえそれなりに威力はある。
だがあくまで拳銃。あの小隊をこれ一本で制圧などとは。
更に、青く光る弾丸。初めて見る代物であるが故に警戒心が高まる。
「柱をッ!?」
てっきり床に着地するかと思い、狙いを絞っていたが、相手は空中で姿勢を変える事でビルの柱へと両足を接地。
そしてそこから重力でずり落ちる前に脚を曲げ、バネの要領で私の方へ突っ込んできた。
もう片方の手に鋭い光が反射するのを確認し、私はサイドステップで間一髪避ける。
(速いな……だが!)
今度は目の前で着地した為、衝撃から生じた土煙の中に速射を意識して一発。
しかし、発射したと同時に灰色の煙を切り裂いて黒い影が再び飛びかかってくる。
着地後にも隙がないとは、向こうの身体能力はかなり高い部類だ。
上体を右にずらし、振り下ろされたナイフを避ける。
私と相手との交戦距離が酷く縮まってしまう。
別に近接戦が出来ない訳では無いが、持っている武器が武器だ。拳を交える事さえ可能なこのレンジなら拳銃を装備した相手の方が有利。
(これなら!)
カウンターに転じ、腕を回しで左手に握っていたナイフを落とさせる。
続けざまに左足を支点とし右足を上へ振り抜く。ブーツ越しに相手の肉体に食い込む感覚が伝わってくる。
ハイキックで距離を稼ぐと同時に、硬直させることに成功した。
弾倉内最後の一発をようやく撃ち込み、胴体にヒットしたのを確認。
分かっていたことだが、これだけでは気絶に届くはずもなく仰け反らせるだけに留まる。
(───今だ!)
即座にリロードし今度は頭部に一発。鈍いながらも反撃に移行し、こちらへと撃たれる弾丸をサイドステップで避け、更に二回同じやり方で攻撃を叩き込む。
奇しくも相手と似たようなやり方であるが、総じて三連射によるダメージは確実に蓄積したようで、少しふらついている。
更に撃とうと、引き金にかかる指に力を入れるがそれよりも早く向こうが復帰し、再度ジャンプの後、空へと場所を変えてしまう。
(やりづらい……)
また来るであろう突撃に用心し、相手のいた位置とポジションを交換する形に移動する。
それがミスだった。
「なっ……!」
突如足元が爆発し、熱い衝撃が駆け上がってくる。
霧で見えにくい上に、そもそも注意しなければ気づきにくい物。
相手はこの位置に私が移動することを見越して、飛び上がる前にピンを抜いたグレネードを落としていたのだ。
突然の事態に思考が一瞬奪われ、隙を晒してしまう。
意識を戦闘状態に取り戻した時には既に遅く、懐へ入られてしまう。
この瞬間になって初めて相手の顔を確認することになったが───。
正直、不気味だと感じた……。
途端に私の視界はスローモーションに移行し、ゆっくりと喉元に銃口が突きつけられていく。
ヒンヤリとした感触に寒気が走り、鳥肌が立つ。
まるで身ぐるみを全部剥がされたようで、心に直接来るような恐怖。
私は信じたくもない。
あれが生きている人間のまなざしであってはならない。
赤く光るレンズと、濁った黄色い目。端的に言えばそういう容姿である。
だがそれ以上に、奥にあるナニかが私へと言葉ではないモノを語りかけてくる。
生あるものでは無い、私は今、亡霊と戦っているのだと、実感した。
ならば私にできるのは、抵抗のみだ。
「────ッ!」
拒絶心そのままにクラックショットを撃ち、幸運にも亡霊の右手へと着弾。
外れた銃弾達は私の左腕に四発程ヒットし、拳銃弾とは思えぬその激痛に歯を食いしばる。
アサルトライフルと遜色ない威力とは……所持しているのがただの違法銃器では無いと今更になって分かった。
一発撃ってしまったゆえ、連射しようにもこんな近い距離でボルトを引くのは無理だ。手をかけた瞬間には相手の射撃の方が数秒早く実行される。
であればやることは一つ。
私はクラックショットをバットの形に持ち替え、ストックを思いっきり頭へ振りかぶった。
大きな手応えに痺れるも、首がグリンと強制的に回る。
「………」
(嘘だろ……)
だが声のひとつも挙げず、痛みに震える様子も無く、無表情にまたこちらへと顔を向けられ、血のように赤いレンズに私の驚愕した表情が映る。
その隙にクラックショットを掴まれ、なんと空中に私ごと放り投げられてしまった。
一瞬の無重力に訳が分からないでいるまま、背中に車ではね飛ばされたのと同等の大きな痛みと衝撃が襲う。
ビルの壁に叩きつけられたのだと理解し、追撃を回避するためローリング。
特徴的な銃声と光が耳のすぐ横を突っ切る。
ライフルがどこかに飛ばされた以上、私に残された武器はもはや拳のみ。
(情けないけど、やるしか……!)
スライディングとステップを繰り返し、遮蔽物間を移動しながら着実に相手へと近づく。
時折回避先に投げ込まれるグレネードに当たらぬようタイミングを見極める。
火薬の熱が頬を撫で、私の思考もより鋭くなる。
相手の視界右側から飛び出し、ハンドガンが握られた腕を軸に身体を捻らせ、足払いを起点として姿勢を崩す。
握る力が一瞬抜けたのを好機とし、今度は無理やりハンドガンを奪い取る。
「うわっ!?」
焦っていたからかしっかり握らなかったせいもあるだろうが、追撃にハンドガンで畳み掛けようとするも反動がキツく、手の中で暴れてしまう。
私ではマトモに使えたものでは無さそうだと一発で理解し、遠くに投げ捨てる。
「ぐっ!」
起き上がった相手の右ストレートを左手で逸らし、右腕で肘打ち。顔にヒットし、若干狼狽えている。
今度は私が拳を振るうも左の手のひらでキャッチされ、右手で私も手痛い一発を貰ってしまう。
(この感じ……機械か!)
恐らく相手の右腕は義手であろう。食らうまでは分からなかったが、表面は柔らかな皮膚の下に、金属らしきフレームの質量が混じっているのが感じ取れた。
続けて打ち込まれる左アッパーを寸前に両手で押さえつけるが、力の向きを逸らされて一歩押し込まれると、そこから力任せにラリアットへ移行される。
また背中を打ちつけられ、うんざりする思いだ。
チカチカする視界にぼんやりと、ジャケットに右手を突っ込んでいる姿が見える。
(まさか───)
避けようと身体を動かそうとするが両足で組み付かれ、ままならない。
あの義手によるパンチより鋭い衝撃が、眉間に二発突き刺さる。
この相手、もう一丁の銃を隠していたのだ。
(……駄目か)
この状態では反撃も無理そうである。悔しい所だが、相変わらず通信を繋いでみても砂嵐ばかりで応援は望めないし、奥の手というのも持ち合わせていない。
気になるのはコイツが一体何者で、何の為に私達を襲って来たのかだが……。聞いたところで教えてはくれなさそうだ。
狭い屋内にまた同じ銃声が反響し、そのままの姿勢で私は意識を刈り取られた。
「まあいい、私も戦うためにここに来たわけじゃないから」
その一言に私は安堵する。風紀委員長であるこの子がそう言ってくれるなら、一安心だ。正直便利屋や対策委員会の子達も疲労が見え始めていた所だし。
「……チナツ、イオリはどこ?」
「それが、霧の中に入って以降行方が分から────」
チナツがそこまで言ったところで、遮るようにドサッとなにかが落ちてきた。空を見上げると、ビルの隙間にドローンが逃げていくのがチラッと見えた。
どうやら落下物は四角いダンボール箱のようである。しかもかなり大きく、人が一人入れそうな……。
「……先生は下がって。私が開けるから」
「委員長、流石に危険な気が……」
「大丈夫」
とりあえず言われるがまま、充分に距離を取り見守る事にする。
まあ爆弾とかが入ってたりしたら、かなり危険だから仕方ないか。
「…………」
ヒナがそーっと箱を開けると、怒りとも恥ずかしさとも言えない微妙な顔で硬直した。
多分爆弾じゃなさそうだね。
私も確認しようと、ノノミの忠告をやんわり受け流し、近づいて箱の中身を覗き─────絶句した。
「イオリ……」
箱の中にはイオリと呼ばれた子が気絶したまま丁寧に詰められていたのだ。
その後、色々あってイオリが目を覚ましたりヒナが謝罪したり、カイザーがなにか企んでいると話されたり。
今日は中々濃い一日だった。
……誰がイオリにこんな事をしたのかは知らないが、とりあえず写真は撮っておいた。