独立傭兵 それはキヴォトスにおいても少なくは無い職業である。様々な方面から受ける依頼をこなし、時としては昨日の味方にさえ銃を向ける。
大抵は学校に通えなくなったもの達や不良なんかがよくその道を選んだりする。
まさか私にこの話が回って来るとは思わなかった。
『君は今世間で死んだ事になっている。戸籍も既に失効済み。金稼ぎが出来、出自を問われないこの職業は今ある中で最もベストだ』
『待って、私死んだことになってるの!?』
『そうだ』
う〜ん、行方不明じゃなくて死亡扱いなのか。なんだか少しショックだな。
『私がマネージャーとして対外的な交渉、依頼の選別などを行う。戸籍の偽造も任せろ』
『戸籍の偽造?だったら学校に戻れるんじゃないの?』
『君の学校はカイザーに目をつけられている。入ったところでカイザーに怪しまれるだろう。そうなったら何が起こるか。他の学校にでも行くか?それとも顔を変えるか?』
『ええ……それは嫌だけど……ホントに何なのあなた?』
『HSL-1だ』
『そういうことじゃないって!』
『どういうことだ』
もしかして意外とこのパソコンちゃんポンコツなのかしら。
『結局の所、何処の誰なのってこと』
見ず知らずの誰かについていっては駄目だとホシノちゃんが口を尖らせていた。
『まだ信用に値しないか?』
『うん』
『そうか』
文字越しだけど、なんだかしょんぼりしてるな。
『なら机の引き出しにある物を取ってくれ』
ガタガタと音を鳴らす引き出しを勢い任せに引っ張ると、中には1つの眼帯を模した機械が入っていた。取り出してみるとそれはカメラのレンズが3つ連なった形をしていて、いかにもハイテクだ。これもミレニアム製とかだったりするのだろうか?
『それは君の為に私が手掛けた物だ。右目に装着するといい』
少し不安ながらもガーゼを取り外すと、ディスプレイに私の瞳が写った。
色を失ったその瞳はまるでシャボン玉みたいで、自分のなのになんだか作り物みたいだった。
コンタクトレンズの経験がある訳じゃないけど、あれよりは怖くないだろう。目の中に入れるわけじゃないし。
バンドをしっかり締めて位置を固定すると、独特の起動音と共に視界が広がる。
(えぇっ!なにこれ!?)
失われた筈のそれは昔よりも何処か焼け焦げていて、何処までも澄んだ視界だった。
『どうだ?』
『うん、ありがとう。少しはあなたの言う事、聞いてみるよ』
嬉しさからかキーボードを叩く音が少し速い。
『そうか。話を戻すが、君には独立傭兵として働く事をオススメする。生きているということが世間に知られればろくな事にはならないだろう。君の使命を果たす為にはな』
私の知っているカイザーについての事をバラせば、世間の信用を失わせる事も可能かもしれない……。でもその後は?
今、私は揺れている。確かにこの相手の言う通り傭兵として金を稼いでアビドス高等学校の口座にでも振り込んでおけば返せるだろう。……いやホシノちゃんが手を付けるだろうか?まあそれは別にいい。
私は可能な限り在学中はクリーンな方法で借金を返そうと努力してきたつもりだ。しかし状況が変わった今ではそれは難しい。
傭兵はある意味、世界を敵に回すも同然。元のような青い日々には戻れないだろう。
再度ディスプレイに目をやる。
そこにもう、かつての私は居なかった。
道半ばに現れた幽霊と言った方が相応しいだろう。使命にしがみつき、欠けた体で動くこの私は。
意味はある。意義も。
果たして私はそれを選ぶのか。
『証明してみせろ、君達の有用性を』
これは契約だ。
天使か、悪魔、それとも神か。
私はその日、羽ばたくことを決めた。