戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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ストロボメモリー

 

 

灰色の廃墟、コンクリートジャングル、ゴーストタウン。

目を開いて最初に入ってきたのは、そんな寂れた景色だった。

 

直ぐに警戒して辺りを見渡すけど、オートマタやドローンどころか、ネズミの一匹さえ見当たらない。

いつも背中に背負っているショットガンに手を伸ばそうと背中に腕を回すけど、空振りに終わってしまう。肌身離さず肩から下げているはずの盾も無い。

 

空は曇天のようで、雨が静かに私の身体を濡らす。

 

(……そっか。私は……また大人に騙されたんだ)

 

混濁した記憶の中にある黒服とのやり取り。そこから推測するに、この場所は試験場かなにかだろうか?

 

(……)

 

でも、不思議である。ここがアビドスであるなら、あちこちが砂で覆われているのが普通だ。

なのにこの場所には一粒の砂や雑草みたいな、そういった自然に近い物は見受けられない。

……そんなこと、どうでもいいか。

 

(……ごめん、みんな。私のせいで、全部……)

 

目標も無く、武器もなく、行くあても分からぬまま私はゆっくりと両足を動かす。

建物の中で雨宿りする気分には……とてもなれない。

 

(シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん……)

 

ただひたすらに誰もいない無人の街を歩く。何をすればいいのか、分からない。

今まではただひたすらに、一つの目標に向かって進む事が出来た。

 

(……ユメ先輩)

 

あの人の背中を追って……教えてもらった事を守って……生きた証を……存在を証明したくて……。

 

(……)

 

なのに。

 

なんでなんだ。

 

何故私はここに居る?

 

(ごめん……)

 

きっと、後輩達には未来があったはずなのに。これから楽しい日々を過ごしてくれるはずだったのに。

こんなんじゃ……学校ごと消えてしまうなら、意味なんて無いじゃないか。

 

(私は……)

 

降る雨が強くなり、次々と私に糾弾する。

まるで拍手のようで、皮肉だ。

 

───何のために……私はここまで。

 

(…………)

 

私には、何も出来なかった。

私には、何も変えられなかった。

私には、何も……。

 

(先生……)

 

あの人なら、あの大人なら。

あの人が来てから、私達は変わった。変わることが出来たのに。

先生を信じていたから、変わる事が出来たのに……変えられたものがあったのに。

後輩達も信じていたのに……先生も……私を信じてくれていたのに。

 

それなのに、私は。

 

私は心の底から信じる事が出来なかった。

 

もし信じて……もしも、話せていたなら、こんな過ちを、繰り返す事はなかったのかもしれない。

 

「ホシノちゃん」

 

それか、ユメ先輩なら……先輩だったらどんな選択をしたのだろうか。

 

『ねえ、ホシノちゃん』

 

何度も再生したその声はもう既に擦り切れ始めている。

まるでカセットテープみたいに。

 

『私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったの』

 

夢だったなら……この辛い現実が夢だったなら……。

 

『ホシノちゃんみたいな、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて……』

 

強くなんかない……。私一人残ったって、なんにも出来やしない。

ただ事態を悪化させるだけ……だって、後輩達にも迷惑を……。

 

『うーん、上手く説明できてないかもしれないけど……』

 

ああでも……。

 

『ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの』

 

あの微笑みは……現実であって欲しいな。

 

綺麗に借金だけ無くなってて、先輩も、後輩達もいて、街に活気が戻って……。

皆で楽しく過ごして……。

 

【……毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか】

 

そう、一緒だったんだ。

ひとりじゃなかったから……。

 

【昨日も今日も、明日もそうです。こんな当たり前のことで、何を大袈裟なことを】

 

当たり前の日々だった。

ユメ先輩が騙されて、危険な目にあって、私が全部倒して。その繰り返し。

ここにしかなかった日々。

 

『はう……だって……』

 

今の私には……悪夢かもしれないけど、それでも手放したくなくて。

変なんだ。

 

記憶に潜る度……目覚めるとそれが無いことに気付かされて……。

もっと見たくても、そう上手く続きを見れなくて……続きなんてなくて。

いっそ見たくなくても……限界はあるから、必然とそうなる。

 

【「奇跡」というのはもっとすごくて、珍しいもののことですよ】

 

そうだったら、いいのに。

 

『……ううん、ホシノちゃん。私は、そうは思わないよ』

 

私は気づきたくなかった。認めたくなかったんだ。

こんな当たり前の日々が奇跡で成り立つだなんて。

だって認めたら……続かないじゃないか。

 

それでも……気づいてしまった。気付かされた。

 

『ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は──』

 

気づいたはずだったのに……なんで私は。

 

(なんで……また……)

 

「ホシノちゃん」

 

雨を吸収した制服が段々と重さを増していく。前髪から垂れる水滴が冷たく私の顔に触れる。

どうすればいいんだ。

 

(一体、どうしたら、私は……)

 

空を見上げても、天使や神様なんて降りては来ない。

埃みたいに積もった雲が、光を遮る。

 

その奥に無機質な壁が見えたように思えて、目を擦る。

 

───幻覚だろうか?

 

再度見上げると、もうその先は見えない。

 

私の行くべき道も、見えない。

 

見えないのに、歩いてる。

 

なんで歩くの?

 

歩いたその先に、何があるの?

 

私に何ができるの?

 

「……先………ぱ…い………」

 

溺れそうな意識で声を絞り出す。

街を見渡しても、何の返事も帰ってこない。

誰も……敵も、味方もいない。

 

もしここが未来のアビドスだとしたら、きっと、それは私のせいだ。

 

なんて、突拍子のない考えが浮かぶことに私は自己嫌悪する。

 

硝煙じゃなくて雨の匂いが、銃声じゃなくて雨音が、話し声じゃなくて独り言が。

 

私は嫌だ。

 

「……ここ……」

 

前を見ると、踏切がランプを赤く点滅させながら待ち構えていた。

頭を割るようなメロディーが、どうしようもなくうるさい。

遮断棒は既に降りているからもうすぐ列車が来るのだろう。

 

立ち止まって、列車が通り過ぎるのを待つことにする。

 

……不意に嫌な考えが浮かぶも、頭を振って否定した。

 

(それは……駄目……)

 

それだけは駄目だ。そんな事をしてしまえば、覚えている人がいなくなってしまう。

私以外に、もういないんだから。

 

そうだ……忘れたくなくて……守りたくて……伝えたくて……その為にここまで来たんだ。

 

一人で……ここまで来たんだ。

 

なのにそれが全部無くなるだなんて……そんなの……あんまりだ。

 

私は嫌なんだ。

 

認めない……そんな未来、私は認めない。

 

涙なのか、雨なのか。分からぬままただひたすらに小さな手で顔を拭う。

私から溢れるものを、止めることは出来ない。

ここには誰もいないから。

 

顔が熱くて、冷たくて、ぐしゃぐしゃで。

もう何も分からない。

 

口からこぼれる嗚咽も、聴くものはいない。

聞いてくれる人もいないんだ。

 

私は……ひとりだ。

 

拭えど拭えど、滲んだ視界が戻らない。

 

踏切の音がやけに長く感じる。

 

(…………………)

 

鯨を彷彿とさせる警笛が私の前を通り過ぎる。

鋭く切り裂かれた風が私に囁いてくるんだ。

 

(……行かなきゃ)

 

どこへ?

 

どう行けばいいの?

 

どうすればいいの?

 

「ホシノちゃん」

 

俯いた顔を上げると、列車の通り過ぎた先、踏切の向こうに、誰かが立っている。

陽炎みたいにゆらゆら揺れながら。

その姿にあの人を重ねて手を伸ばすけど……まばたきした途端に、その影は消えてしまった。

 

さっきから、私は止まっている。

 

いや、ずっと前から、進めないでいる。

 

あと一歩、踏み出せないでいる。

 

(……だれ……か………)

 

もしも、奇跡が起きてくれるなら。

もしも、誰かが私の願いを聞いてくれるなら。

もしも、この手が届くなら。

 

 

 

 

私は……もっと、知りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ〜れだ?」

 

そんな台詞が鮮明に私の耳に届くと同時に、私の視界は真っ黒になった。

この声の持ち主を、私は知っている。

後ろから私の目を手で塞ぐなんて、そんな事する人、一人しか知らない。

 

「……せん……ぱ……」

 

「当たり♪」

 

軽やかな声が私の思考を洗い流す。

返ってきたその返事に口元が震える。

 

「なん……で……?」

 

「……ホシノちゃん」

 

目を塞がれたまま、何が起きているのか分からないでいると、耳元を優しい風が撫でる。

ふんわりとした陽だまりの匂いが、懐かしい。

 

本人かどうか判断する材料なんて……充分だった。

 

「ありがとう……覚えててくれて」

 

「………当然です」

 

───くすぐったい。

 

「ありがとう……守ってくれて」

 

「…当たり前……じゃない、ですか……」

 

なんでだろう。

突然の事で頭が滅茶苦茶なのに、なにがなんだか分からないのに、バラバラになりそうなのに。

 

「ありがとう……探してくれて」

 

「…………」

 

ひび割れた心に、深く染み込んでくるんだ。

溶けるように、話せるんだ。

心から思う言葉が、そのまま、吐き出せるんだ。

 

「……ごめん……なさい……」

 

ずっと喉の奥につかえていた言葉が、零れ落ちた。

 

「ずっと……戦って……戦って、走って……それなのに……守れなくて……、なんにも出来なくて………ポスターだって───」

 

ストップをかけるように柔らかい感触が私を包み込む。

まぶたを開こうにも、思いっきり抱かれているこの姿勢ではろくに開けられない。

なにより、溢れて……止まらない。

 

「……私の……せいで、みんな……」

 

心臓の鼓動と、服の擦れる音。

何も言わずにただ、震える身体を抱き締めてくれるだけ。

それだけなのに、私の心は満たされている。

 

────繋がれている、あなたと。

 

「……本当に……ごめん、…なさい……」

 

あの時と変わらない動きで、頭を撫でられる。

次第に嗚咽も収まってきて、目元がヒリヒリするのみで、私の心は、これ以上ないほど透明に近づいた。

 

わしゃわしゃと撫でられて、すごく、嬉しい。

 

言えて、良かった。

 

「……顔、上げて?」

 

「………」

 

言われるがまま開けた視界には……踏切の先には、みんながいた。

シロコちゃんに、ノノミちゃん。セリカちゃんとアヤネちゃんが……。

そして先生も……。

 

「私には……無理ですよ……」

 

日が差している。

光の当たる場所でみんなが待っている。

 

「私には……あなたみたいに……」

 

「違うよ、ホシノちゃん。それは違う」

 

否定するその言葉に、私は射抜かれる。

 

「私じゃなくて……ホシノちゃんだったから。ホシノちゃん自身の選択があったから……みんなここまで来れたの。それは誇っていいことなんだよ」

 

「私だから……?」

 

「そう。自分の選択なんだから、もっと胸を張って!」

 

「でも……私のせいで、みんな……」

 

脳裏に一瞬、黒服から見せられた映像がフラッシュバックする。

 

「あの子達の強さは、一番よく知ってるでしょ?」

 

確かに、強いよ。けど私には……戻れる資格なんて……。

恐怖が、私の足を止めているんだ。

そんな子達じゃないって知ってるのに。

 

信じることが、怖いんだ。

 

そのことを見透かしたみたいに、ゆっくりと横から語りかけてくる。

 

「ホシノちゃんは……私の事、信じてくれるよね?」

 

「………はい……」

 

「じゃあ、信じてあげて……。あの子達が、受け取った物を。あの子達自身の可能性を」

 

「………」

 

「もし傷ついたり、心が折れそうになった時は頼ってあげて。ホシノちゃんはもう……独りじゃないから」

 

ああ、そうか……。

 

そうだった。

 

私には、帰るべき場所があるんだ。

 

信じられる人達のいる所が。

 

疑念も、不信も、暴力も、嘘も、この場所には無いんだ。

 

自分自身の意思で、私は……。

 

「私は……帰ります」

 

「……♪ じゃあこれ!」

 

そう言って私の前へ肩越しに突き出されたのは、しわしわで色褪せたアビドス砂祭りのポスターだった。あの時破いた、破いてしまったそれではなく、新しいもの。

 

「また見つけちゃったんだ、凄いでしょ……? だからさ、もう大丈夫だよ」

 

なんでだろう。

さっきまではあんなに言いたいことがいっぱいあったのに。

前から色々考えてたのに。

 

「……ごめんね。色々、言えなくて」

 

余計な言葉じゃなくても、互いに伝わってしまうものだ。

 

「……こっちもです。───ごめんなさい」

 

沈黙を許さず再度抱き締められ、呼吸が苦しい。

どうやら私の頭に顔を埋めているようで、ちょっとした鬱陶しさが心地よい。

 

「……良かったら、伝えてあげてね」

 

「分かりました……」

 

制服のポケットに受け取ったポスターを入れると同時にまた耳元で囁かれ、身体が一瞬ビクッと反応してしまう。

恥ずかしい。

 

「この踏切を渡って行けば、戻れる筈。でも渡りきるまでは振り返っちゃダメだよ?」

 

「どうしてです?」

 

「まだ……ね?」

 

「そうですか……」

 

無理にとは言わない。

その言葉が伝えたい意図も、私には分かるのだから。

 

「きっと、戻ってくるから……」

 

「……本当ですよね?」

 

「うん。……だから、それまではまた……ね」

 

「……じゃあ、約束……して下さい」

 

「────うん、約束する」

 

顔の前に出された右手と指切りをして、私たちは約束を交わす。

神がいるんだとしたら、私は感謝するべきだろうか。こんなに素晴らしい奇跡を起こしてくれたことに。

 

……いや、案外君たち自身の手で掴み取ったのだと反論するかもしれないな。

ここまでの道のりを恨めばいいのか、感謝すればいいのか。

 

「……では、また……」

 

はらりと指が解けて、手の温もりも薄くなっていく。

 

さようなら、なんて言わない。

 

頬と目元を擦り、名残惜しくも一歩。

私は踏み出した。

 

いつの間にか空の雲は晴れていて、どこまでも青が……いや、赤と青が私を祝福している。

綺麗に変わっていく夕焼けが、私の行く末を照らしていく。

 

光を取り戻したビル群に、線路。小石の一つまで愛おしい。

なんて美しい景色なのだろう。

 

鉛のように重たかった身体が、すごく軽い。まるで翼が生えたみたいに。

 

光に近づくほど、声が聞こえる。

 

私は、歩き続ける。

 

私には、本当の使命があるから……。私なりの、私にしか出来ない生き方があるから。

 

やがて踏切を渡りきった所で、私は振り返った。

 

そこには陽炎でも、幻でもない、本物のユメ先輩が……眩しい笑顔で見送ってくれていた。

淡く夜明けを魅せる髪色に、キラキラとした二つの眼。

記憶の中ではない、鮮やかな貴方がそこに立っている。

砂漠の砂が混じったものでも、雨の匂いを孕んだものでもない。

優しい風の声が、私の背中を押してくれる。

 

「──────」

 

私も、それに応える。

残っていた涙を振り払いながら、心の底から弾けるとびっきりの笑顔で……私は次へと羽ばたきだした。

 

 

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