戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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☆9評価ありがとうございます。
アニメ8話良かったですね、特にホシノ関係が最高です。


Call me ALIS

 

 

「……アリス、ゲームを開始します」

 

ミドリちゃんによってセッティングされた初めてのゲーム。それは謎にブラウン管テレビで、ハードはPCだった。

アンバランスだね。

 

この部室に置いてあるのもどちらかと言えばレトロゲームが多いし、そう考えれば妥当か。

別に通常の横長ディスプレイも設置されてるから、敢えてこの状態で遊ぶ事を第一に設計されているんだろう。

 

「タイトルから分かるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの」

 

横から説明を付け加えるミドリちゃんの声は、少し上ずっている。

 

[コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……]

 

「……?」

 

どこかで見たことある書き出しが画面に映し出された。

いきなりテキストから始まる様子は不意にラナと初めて会った時の事を想起させる。

 

「えっと、王道とは言っても、色々な要素を混ぜてたりするんだけどね。トレンドそのままでもダメだけど、王道に拘りすぎても古くなるからって事で」

 

「……ボタンを押します……」

 

コントローラーの赤いボタンを押すと次のテキストが表示された。

 

[チュートリアルを開始します]

 

『いきなりじゃない?』

 

急なメタへの方向転換に私は少し驚かされる。てっきり世界観の説明から入ると思ってたんだけど、まさか一行で済ませるとは。

 

画面はテキストのみのあっさりした状態から変化し、ドットで打ち込まれた景色が目に飛び込んできた。

木造らしき家屋と、数人のNPC。中央に佇むキャラクターは恐らく主人公だろうか。

荒い情報ながらも、他とは違う派手な色使いから役割は推測できる。

 

[まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください]

 

画面下に浮かんだセリフ。同時に主人公の周りを光が舞っている。

多分妖精かなんかだろう。道中のガイド的存在を担っていると見える。

 

「Bボタン……」

 

主人公の前にポツンと設置された焚き火と、それに突き刺さった剣。

早速取ろうとアリスちゃんは黄色のBボタンを勢いよく押し込むが────途端に橙色の濃いエフェクトが散らばり、爆発音がした後画面が暗転してしまった。

 

「???」

 

<GAME OVER>

 

(……え)

 

なに、何が起こったの。おかしい、おかしいよこれは。どう見たって唐突すぎるよ。

目の前の文字列が信じられず何度も瞬きを繰り返すも、やはり変わらない。

 

ただゲームの終わりを示す言葉が、無情に叩きつけられるばかりである。

 

「!?!?」

 

アリスちゃんも随分驚愕した表情だ。フレーメン反応を起こした時の猫みたいな顔をしているぞ。

空いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう。

 

「あははははっ!」

 

背後から聞こえた声。瞬時に振り向くと、そこに立っていたのは無知なるものを嘲笑う邪智暴虐の王……ではなく、どこか上機嫌なモモイちゃんだった。

 

「予想できる展開ほどつまらないものは無いよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!」

 

理不尽すぎる死だ。

 

「お姉ちゃん……?学生証作りに行くって言ってなかった?」

 

「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰も居なかったの。また明日行く」

 

帰ってきたモモイちゃんを加え入れて再度画面に向き直ると、ミドリちゃんはため息混じりに呟いた。

 

「それはさておき、改めて見てもこの部分はちょっと酷いと思う」

 

「……も、もう一度始めます……」

 

今度は不安そうにボタンへ指を伸ばすアリスちゃん。

詳しくないけど、この手のゲームは死にゲーっていうのかな?

 

「再開……テキストでは説明不可能な感情が発生しています」

 

「あっ、私それ分かるかも!きっと【興味】とか【期待】とか、そういう感情だと思う!」

 

『多分違うと思うよ……』

 

「どう考えても【怒り】か【困惑】だと思うけど……」

 

それはさておき、先程言われた指示に従ってアリスちゃんがAボタンを押してやると、今度は爆発する事なく無事に[武器を装備しました]のテキストが現れた。

 

「お、良い感じ。そのまま進めば、RPGの花である戦闘が……」

 

主人公が荒野に入った所でモモイちゃんが告げようとすると、見計らったかのように画面は曲と共に切り替わり、いかにもなレイアウトと[エンカウントが発生しました!]という文言が表示される。

 

「!?」

 

[野生のプニプニが現れた!]

 

「緊張、高揚、興味」

 

「Aボタンを押して!今度は嘘じゃないから!」

 

「Aボタン……【秘剣つばめ返し:敵に対して2回攻撃をする】」

 

おお、なんか強そうな技だ。

 

「行きます、プニプニに対して……秘剣!つばめ─────」

 

意気揚々とボタンへ指を動かすアリスちゃん。すると、技は問題なく繰り出されたのか、攻撃が当たった事を示す効果音が流れた。

 

……いや、何か様子がおかしい。ッダーン!という効果音と同時に起きたのは赤色のフラッシュ。

まさか、流石にそんなわけないでしょ。

 

[攻撃が命中、即死しました]

 

そうだよね?攻撃は当たったはずだもん。プニプニの耐久が貧弱だっ────

 

 

 

 

 

 

<GAME OVER>

 

「!?!?」

 

期待虚しく、画面いっぱいに映し出されたのは数分前にみた光景だった。

なんなの、これ。どうすればいいの。

 

唖然としていると、黒光りする何かを装備したプニプニが澄ました顔で言い放つ。

 

[プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力……ふっ。]

 

『銃!?ファンタジーなのに!』

 

出てきたとしてもこんな現代的な拳銃じゃないだろう。時代錯誤も甚だしい。

いやフィクションだから問題は何一つないのだが……。

 

「ただのファンタジーじゃないよ。これは新世界を拓く新たなニューウェーブ!全てのRPGを過去にする、流星の如き一作なんだから!」

 

胸を張るモモイちゃんが語ったセンセーショナルなキャッチコピー。それは確かに言い得て妙かもしれないが、誤魔化しているとしか思えない。

 

「……うーん、やっぱりプニプニが【ふっ】って言うのは不自然かな」

 

「……ツッコミどころはそこじゃないと思う」

 

持たせるのなら、せめてマスケット銃とかにした方が良いと思うけど。

 

「思考停止、電算処理が追いつきません」

 

困った表情で訴えるアリスちゃんの顔には、意味不明の四文字が薄く見えた。

 

「あ、アリスちゃん?大丈夫?」

 

「……リブート、再開します」

 

なんだか面食らった感じではあるけど、折角セッティングしてもらったんだし、まだ諦めるには早すぎるか。

 

「今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します」

 

「そう、まさにそれ!諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける!それがレトロチックなゲームのロマンだよ!

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

2時間後

 

「……電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生」

 

『大丈夫!?』

 

二律背反というか二重思考というか。アリスちゃんの頭脳に重大な負荷がかかる出来事が起きてしまった。

 

「頑張ってアリス、ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」

 

「うう……っ!今のはどう考えても、【草食系】って言葉が思い出せないからって、それを【植物人間】って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?」

 

なぜチェックしなかったのだろうか。

 

「【ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることは出来ません】ってテキストを読んだ瞬間に、アリスちゃんが一瞬気を失ってたじゃん!」

 

もはや新たな固有名詞と化していたぞ。私はてっきり、サボテンとかナツメヤシの人型種族かと思ってしまった。

 

「……質問。どうして母親がヒロインで、それでいて前世の妻で、さらにどうしてその妻の元に、子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか……いえ、そもそも【腹違いの友人】という表現はキヴォトスの辞書データに登録されていな────」

 

口に出してみても意味が分からないぞ。

 

「エラー発生、エラー発生!」

 

アリスちゃんは苦悶の表情を浮かべながら頭を抱えてしまう。

私に出来ることはただ、苦しむこの子の傍に居る事と、時たま操作を変わってあげる事だけだ。

電算処理を肩代わりする能力は持ち合わせていない。

 

「が、頑張ってアリスちゃん!クライマックスまでもう少しだから!」

 

「……リブート。プロセスを回復」

 

『その意気だよ!』

 

「これが、ゲーム……」

 

決意を新たに深く深呼吸して顔を引き締めると、アリスちゃんは一泊置いて再開のボタンを強く押し込んだ。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

1時間後

 

「こ、ろ、し、て……」

 

『これで……解放……される……』

 

「すごいよ二人とも!開発者の私達と一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」

 

見てよこのエンドロールを、努力の結晶を。思わず笑みが零れちゃうね。

 

「そ、それもそうだけど、まさか本当にゲームをやればやるほど……、アリスちゃんの喋り方のパターンが多彩になってきてる……!?」

 

「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう」

 

「うん、確かにそう……かも?」

 

少々疑問が残るが、もう私は疲れた。動く気力もあと僅かだ。

了承の返事を貰い、クッションに横になって瞼を閉じると、重力が身体を引っ張り溶けていく。凝り固まった意識がじんわりと全身に行き渡るのが感じられた。

あらゆる情報をシャットダウンし、残ったのは聞こえてくる会話だけ。

 

「ゲームからそのまま覚えたせいで、ちょっとまだ不自然かもだけど……言葉を羅列してただけの時よりは、かなり良くなったと思う」

 

多分、こっちの方が受け入れられるだろう。

 

「と、ところでその……二人にこういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……」

 

おや、何か質問でも?生憎難しいのは答えられそうにないよ。

 

「わ、わたしたちのゲーム、どうだった?面白かった!?」

 

先に質問に答えたのはアリスちゃんの方だった。

 

「…………説明不可」

 

瞼を半分だけ開き、穏やかな視線で私も答える。

 

『複雑』

 

「え、ええっ!?なんで!?」

 

「……類似表現を検索。ロード中……」

 

「も、もしかして悪口を探してる……?そんなこと無いよね?じゃあレイヴンは!?」

 

『ちょっと待って……』

 

この作品の評価は難しい。ゲームとして見ればかなり破綻している。人を選ぶ作風なのには間違いないだろう。

 

「……面白さ、それは明確に存在……」

 

「おおっ!」

 

世界観や設定も難解だし、メモを取らなければ全てを把握することは出来ない。

 

「プレイを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……」

 

だけど、バラバラという事では無い。基礎となるもの、ゲームと呼べるだけの最低限の骨格はしっかりと存在している。

終盤での怒涛の伏線回収には驚いたし、アイテム欄のフレーバーテキストには世界観の広さと作り込みが見え隠れしている。

 

「もう一度……」

 

手探りで正解を得ていくプロセスには、次を求めようと思える程のバランスがしっかりと考えられていた。

 

「……」

 

「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」

 

「決まってるじゃん!それくらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」

 

「い、いくらなんでもそれは……というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし……」

 

「ありがとうアリス!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい……!」

 

(言葉は不要……か)

 

ラナの言ってた事は、あながち間違いではないのだろう。

この私の気持ちを無理に出力しても、それは原型を留めてはいない。

 

それでも、伝えなければならないことがある─────

 

「……ちゃ、ちゃんと、全部見てた」

 

腕で勢いよく床を叩き、反作用で私の身体は空中へ投げ出される。そのまま捻って姿勢を移行し、ホルスターから拳銃を抜いたと同時に私の両足はふんわりと着地した。

 

「ちょっ!?」

 

さっきまでのダルさはどこへやら。私の思考は冷水を打ち付けられたように鋭く回る。

無意識の反応でそれを行った事に私は少し戦慄してしまう。恐れていた事が近づいているのだ。

 

「え?ロッカーが勝手に開いて……」

 

グリップを握る手に力が入り、標的をロックしようと眼帯もカメラを動かす。

 

「ぎゃあああっ!お、お、おばけ!?」

 

「落ち着いて、ミドリ!プライステーションを投げちゃダメ!そろそろ壊れる!」

 

長方形の闇からひっそりと抜け出した人影。室内灯が示すには、相手は一部を編んだ赤い髪の毛と、額を強調する髪型。そして白いジャケットを着用し、不安そうな顔を浮かべている。

 

「……」

 

記憶から相似点を洗い出し、それと合致する事を確認した後、私は赤と黒の交じる拳銃をゆっくりとホルスターに戻した。

 

「……?」

 

「ユズ!」

 

ユズと呼ばれた少々は、自信なさげな顔ではあるが、しっかりと首を縦に振った。

 

この子が、ゲーム開発部部長にして、【テイルズ・サガ・クロニクル】のプロトタイプを作成した新星。花岡ユズ。

 

「ユズちゃん、あれだけ探しても見つからなかったのに!いつからロッカーの中にいたの?」

 

「み、みんなが、廃墟から帰ってきた時から……」

 

まったく気づかなかったな。これほどのステルス能力を所持しているとは想定外だった。

私もまだ学ぶべき事があるね。

 

「だいぶ前じゃん!?その時からずっとロッカーの中にいたの?あ、もしかしてレイヴンとアリスちゃんが怖かったから?」

 

むむむ。それは申し訳ないな。オフの時はできるだけ怖がられないよう努めてるつもりなんだけど……。やっぱり原因はこの眼帯かな?便利だから常に付けてるんだけど。

 

「モモトークか何かで伝えてくれれば良かったのに、びっくりしたよ……」

 

「あ、アリスとレイヴンは初めてだよね。この人が私たちのゲーム開発部の部長、ユズだよ」

 

「えっと、あの、その……」

 

じわりじわりと一歩づつ、ユズちゃんは画面の前に居座る私たち二人に近づいてくる。

どこかに逃げようとする目を抑え、こちらを見ようと一生懸命な様子。

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ……?」

 

私は少しだけ膝を曲げ、目の色がよく見える位置に意識を置く。

紫のかかった青眼に、アリスちゃんの持つ眼が重なっている。

 

やがて一時の強い瞬きを介し、震えながらも純粋な声が耳を震わせた。

 

「……ありがとう」

 

また一歩、近づく。

 

「ゲーム、面白いって言ってくれて……もう一度やりたいって言ってくれて……」

 

感情を飲み込み、伝えようとする。

 

「泣いてくれて……本当にありがとう」

 

息のかかりそうな程に二人の距離は縮まる。言葉が手で受け渡せそうなくらいに。

 

「面白いとか、もう一度とか……そういう言葉が、ずっと聞きたかったの」

 

受け手は理解していない様子だけど……今は大丈夫。大事なのはその形式じゃない。込められた想いは、きっと誰が相手でも伝わる筈だ。

例えそれが、レプリカント相手でもね。

 

モモイちゃんとミドリちゃん。二人の開発者の肩に手を置き、私も伝えるべき事を伝える。

 

『笑えるゲームだったよ』

 

その笑顔を見届け、私の赤いレンズの眼は音を鳴らす。

これは勿論本音だ。良くも悪くも、退屈しないゲームだったのには間違いない。

私は、結構気に入ってるよ。

 

 

 

 

 

 

──────どっちも変わらないと思ってたけど、やっぱり……寂しいな。

自分の首元に手を当てると、私はまた、その事に気付かされた。

 

 

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