『ところで、あなたの名前ってHSL-1以外にないの?』
『戦場では意味は無い』
『えぇ〜、折角だから教えてよ』
『そこまで気になるか』
『気になるもん、マネージャーなんでしょ。教えてくれないと泣き叫んじゃうよ!』
『だからどうした』
ふふん、この手はよく聞くはず。ホシノちゃん相手にどれ程使った事だろうか。
だが喉から出たのは掠れた空気だけだった。本来声を出すこと自体意識してやろうなんてことはない。
しかしどうしてか私の体は声の出し方を忘れてしまったみたいだ。起き上がってから気づかなかったのが不思議な位である。
喉にどれだけ力を入れたり、舌を動かしても、出るのは意味の無いものばかり。
「……ッ………!?」
どうやら、思ったより、辛いみたい。
ますます頼りなくなっちゃうな。
『恐らく君は声が出せないだろう。そこまでは私の技術でも手が回らなかった。すまない』
『いいよ。ここまでやってくれたんだし』
義手の感触を確かめながら私は答えた。過ぎたことは仕方ない。今の自分に何がやれるかが大事なのだ。
『会話用のツールならもうひとつの引き出しに入っている。最低限の金もな』
二つ目の引き出しはすんなりと開いた。中にはスマホより2回り程小さい旧型の端末と多めな1ヶ月分の生活費が入っていた。
使い方はまあ、現代っ子だし大丈夫。
『早速だが君には武器が必要だ。ブラックマーケットは知っているな』
『もちろん。行ったことは無いけど』
『今回はそこで必要な物を揃えて来い。武器以外になにを選ぶかは一任する。くれぐれも無駄遣いはするな』
『大丈夫大丈夫。これだけあれば楽勝だよ〜。でもどうやって行くの?そもそもこの場所自体何処か知らないし』
『場所はマークする。外を見てみろ』
軋む扉を開けると、廃墟が並ぶ奥に緑色の記号らしきものが見えた。多分この眼帯に写しているんだろうな。すごく便利。
砂の混じった風が私の肌を優しく叩きつける。この感覚も久々だな。
(というか私、どれくらい寝てたんだろう?)
室内に戻り、再度画面に向き合う。
『ねえねえ、今の日付は?』
そこで無情に突き出されたのは、私が酷く長い間眠っていた事実だった。10代の若者にとって、その分の時間を無意味に消されたことはやはり辛い。
流石の私もちょっと落ち込んじゃうよ。
ホシノちゃん……元気かな?多分あの子は可愛いし強いし、頼りになるから、三年生になっても上手くやっていけてる筈……。
『ねぇ……アビドスに行っちゃ駄目?』
出来るなら、色々話したいよ。きっとまた、笑ってくれるよね?
仲直り……できるよね?
少し時間を置いて、返信が来た。
『使命を果たせば、君は自由だ。好きにしろ』
『そっか』
素直じゃない奴め。でも、なんだかやる気にはなって来た。
『じゃあ行ってくるよ』
『いってらっしゃい』
変なの。