☆8評価、ありがとうございます。
遂にストーリー更新。そしてユメ先輩のボイスも既に来ましたね。また爆死するのか?この作品……。
今回は独自設定が多分に含まれています。拙い表現ですがご了承ください。
「とにかく、あらためまして。ゲーム開発部部長のユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん。これからよろしくね」
まだ少し赤みの残った顔のままではあるけど、落ち着きを取り戻したユズちゃんは簡単な自己紹介を行った。
「よろ、しく……?」
おや?私達の時とは違い、返答に迷っている様子だ。
[よろしく]という言葉自体は知っている筈だけど、やはり変化しているという事だろうか。
「……理解」
確か私が自己紹介した時もこんな感じの一言であっさりと終わってしまったな。
丁度良い機会だ。言語教育の成果を見るのにうってつけである。
「ユズが仲間になりました、パンパカパーン!」
(ああ……そう来る?)
満面の笑みで告げられたその一言に私は少し面を食らってしまう。
「……合ってますか?」
「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな?」
まあ……多分大丈夫だろう。個性的なのはいい事だし、仲間と言われて悪い気はしない。
「ふふっ、その様子だと、本当にわたしたちのゲームを楽しんでくれたんだね……仲間が増えるのは、RPGの醍醐味の一つだもんね」
そこまで言うとユズちゃんは私の方へと体を向け、瞳を揺らしながらも声を絞り出す。
「えっと、あなたは……」
目線を合わせた状態のまま、出来るだけ優しい表情を意識しながら私も言葉を返す。
『さっきはごめんね。びっくりした?』
「いえ、大丈夫……です」
次第にその怯えた様子は鳴りを潜め、真っ直ぐとした視線が貫いてくる。
『私は先生の付き添いで来たの。レイヴンって呼んでくれると嬉しい』
「分かりました……よろしくお願いします。ところで、もしかしてなんですけど……わたしたちの部活に入ったりとかは……」
非常に魅力的な提案ではあるが、私には無理な話だ。色々とね。
首を左右に振ってやんわりと断るものの、罪悪感が後を残してしまった。
「あ……でもレイヴンさんもアリスちゃんも、RPGを面白いなって思ってくれたなら……わたしが、他にもおすすめのゲームを教えてあげます」
一瞬しょんぼりした表情のユズちゃんだったがすぐに持ち直してみせ、新たな提案を投げかけてきた。
帰ってもどうせ暇だし、それならここでちょっと過ごさせてもらった方が良いだろう。
勿論首を縦に振り、了承の返事をする。
若干厚かましい事をしている気はするが無視しよう。
「ちょっと待ったぁ!二人におすすめするのは私が先!良質なゲームをやればやるほど話し方も自然になって、私たちの計画の成功率も上がるんだし!レイヴンにだってゲームの素晴らしさを布教できる!」
まず声を上げて主張したのはやる気に満ち溢れたモモイちゃんだった。
「さあ、まずは【英雄神話】と【ファイナル・ファンタジア】と【アイズ・エターナル】と……」
「何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!?【ゼルナの伝説・夢見るアイランド】から始めるのが一番だって!」
「これだけは譲れない、次にやるべきは【ロマンシング物語】だよ。あ、でも第3弾だけはちょっと、個人的には、やらなくても良いかなって……」
続いてミドリちゃん、ユズちゃんと、それぞれが思う様々なタイトルを述べていく。幾つかは私も広告で見た事はあるけど、やった事はないな。
アリスちゃんは三人の論争についていけず戸惑いを見せていたが、その目的が自分の為であると感じたのか程なくして優しい笑みを浮かばせ始めた。
「……期待。再び、ゲームを始めます」
──────
2時間後
「うわっ、アリス、読むスピード速くない……?会話が出力されると同時に読み終わってるみたいな……」
フルボイスの作品だから余計面白いことになってるよ。もはや可哀想に思えてくる。
「二人とも、次は【伝説のオークバトル】やろう!ターン制バトルの面白さを教えてあげる!」
ミドリちゃんの誘いに小さく頷くと、アリスちゃんは再び真剣な表情ですぐさま画面へと向き直る。
ボタンを無慈悲に連打してはいるが、こう見えてしっかりと集中してゲームに没入しているのが不思議だ。
──────
数時間後
(凄い……まだやってる……)
熟睡しているモモイちゃんに叩き起こされ、渋々眠たい目を擦りながら身体を起こすと、アリスちゃんは寝る前に見た時と変わらぬ様子でゲームを続けていた。
「ふにゃ……」
モモイちゃんのテリトリーから退いて部屋を見渡してみると起きているのは私とアリスちゃんだけのようで、三人と先生も皆すっかり夢の世界だ。
(…………)
積まれたソフトを見るに、丁度四本目に入るところだろう。
あまり長い時間画面を見続けたら目が悪くなっちゃうものだけど、この子には無縁な話か。
私はそっとアリスちゃんの隣に座り、肩をちょいちょいとつつく。
「!」
『どう?楽しい?』
「肯定。汝の言葉の通りだ」
おお……進化してる。朝になった時にはどうなっている事やら。
「提案。そなたも私と共に世界を救わないか?」
ずいっと鼻先にコントローラーが押し付けられる。二人でも遊べるのだろう。
画面を見てる内に目も覚めてきちゃったし、せっかくだから受け取るとしよう。
「さあ先代よ。我らで魔神を討ち滅ぼしに行くとしようか」
『先代?』
「肯定。レイヴンは先代の勇者です」
勇者か……、そう言われるとなんだか照れちゃうな。口角が上がっているのが自分でも分かってしまうぞ。
『なんで先代なの?』
「………エラー。深刻な負荷が発生しています。説明不可能な……感情……」
唐突に前の口調に戻ると、アリスちゃんは私の顔を覗き込みながらじっと考え込んでしまう。まだまだ言語学習の余地はありそうだ。
「……否定……これは……」
(?)
「先代よ、どうか私の頭に手を置いてみてはくれぬだろうか」
画面の光に照らされたその表情には冗談の文字は無く、至って真面目な態度でアリスちゃんは語った。
(……?……別に良いけど……)
小さな頭に優しく手を添えてみると、艶のある髪の滑らかな触感が手袋越しにも伝わってくる。
試しに指を通しても引っかかるところが一切ないし、ちょっと羨ましいな。
「検知……感情、及び生体情報の変化を確認……再構築中」
(……………)
ずっと撫で続けていればいいのだろうか。どうすべきか分からないし、取り敢えずは続けるか。
……こうしていると、また過去の記憶がフラッシュバックする。
この手触りも好きだけど、私はやっぱりホシノちゃんの方が良いかな。
完全な好みなんだけどね。
「結果を報告………この感情は安らぎと断定」
『安らぎ?』
「肯定。同系統の例としては親族等とのスキンシップが挙げられます」
親族?私は別にアリスちゃんと血が繋がってる訳じゃない筈だけど。
唯一共通点があるとしたら、身体の一部が機械ってことくらいだぞ。
「先代よ……そろそろ止めてもよいぞ?」
む。少々名残惜しいが……まあ充分か。
多分、会った時に言っていた説明不可能な感情というのはその【安らぎ】だろう。
しかし親族か。この子についての謎はまだまだ多くあるけど、今は放っておくとしようか。
私とアリスちゃんは画面へと向き直り、それから時間が経つ事にゲームへ没頭していくのだった。
──────
(ここは……)
仄かな光の中、気がつくと私は無機質な廊下に立っていた。
おかしいな、私はさっきまでアリスちゃんとゲームをしてたはずだ。
それも結構いい所まで行ってたんだけどな。
(夢……?)
考えられる最も有力な説はそれだ。夜明けも近かったし、疲れも溜まっていたから、多分寝落ちでもしてしまったのだろうか。
(でも初めてかも……こんなにハッキリ考えられるなんて)
私の見る夢は大体ぼんやりしてて、夢の中では流されるがまま。いわば観客席にいるだけの状態だ。
でもここまで考えられる程意識が保てているのなら、これは明晰夢というものかもしれない。
明晰夢というのは確か……夢の主導権を自分が握ることで、夢を思い通りにする事が出来るみたいな事というのが、私の記憶している情報だ。
(ん〜……)
これがその通りなら、折角だし何か想像してみるとしよう。
試しにホシノちゃんの姿を思い浮かべるものの、特に周りに変化は現れない。続いてアビドス高校について記憶の限り思い出すが……こちらも特に変わりは無かった。
規模が大きすぎるのだろうか?
簡単な物なら行けそうだと考え、食べ物だったり、ペンだったり。本だったりなんかを願ってみるけど、やっぱり何も現れなかった。
(あれ〜?おかしいな……)
何を想像したところで、この廊下は無表情を貫くばかりである。
身構えて一応頬をつねってみると、違和感はあったが痛みは全く感じられない。
やはり夢なのは間違いなさそうだ。
(どういうこと……?)
今置かれている状況がいまいち掴めず、何をすればいいかも分からぬまま私はその場に座り込んでしまう。
覚めて、とお願いしてみるがやはり意識は留められたまま。
まるで夢に監禁されたようである。
(………?)
さっき頬をつねった時の違和感。それが妙に心に引っかかる。
再度頬をつねってみると、またフニフニとした感触が指に伝わってくる。
伝わってきてしまう。
まさかと思いながら今度は左手で頬をつねる。こちらも痛みは無いし……マヌケな事をしている気はするけどそこはどうでもいい。
問題なのは感覚。
両方の感触が全く一緒。
そう、全く同じなのだ。
これが通常の、標準的で健康な身体なら当然の事だ。普通なら。
でも私はそれに当てはまらない。
私は例外だから。
私は、その感覚を持ち合わせているはずが無い。
あの布一枚隔てた様な感覚では無い、繊細な感触が────私の右腕が、完全に蘇っている。
それだけでは無い。
私の右目もまた視力を取り戻し、なぜ気づかなかったのか不思議な程、髪の毛は昔の頃まで伸びていた。
私はその事に酷く歓喜し、同時に少し震えた。だがしかし、喜びの震えだけではない。
私は再確認してしまったのだ。何を奪われてしまったのか、何を失ってしまったのかを。だからといって今更怒りに支配される訳では無いが……物悲しい感情からは抜け出せていない。
「……あ………」
そうか、声まで戻ってしまったのか。なんで、なんで全部……。
どうやら私はまだ、ユメのままらしい。
アビドス高校三年、生徒会長の梔子ユメ。
レイヴンでは無い私がここにいる。
相変わらずよく分からない。今まで見てきた夢の中でもそうだったのかは知らないけど……私は、私が思うよりも私のままらしい。
そう考えれば、むしろこれは実に良い機会だったと言えるか。言えるな、これは。
「……ホシノちゃん……エヘへ……」
やはり声に出すと感動が2000倍も違うな。夢の中ではあるが私は完全に私だ。
なんだかちょっとした全能感まで感じてきたぞ。
「………♪~~♫~♩♫」
かなり久々に鼻歌を歌いながら私は廊下を歩き続ける。コツコツと小気味よい音が反響し、空間を埋めつくしていく。
先の見えない廊下を歩いていくと、幾つかの既視感が浮き出てきた。というよりは、移り代わったというのだろうか。
まるで昼から夜になるみたいに、気付かぬうちにゆっくり変わり続けていた廊下の景色に気づく。
補助灯のみの光に、壁中に張り巡らされたパイプ群。特徴的な壁と床の作りから、アリスちゃんを見つけたあの工場と同じ物だと察することが出来る。
しかし、違う所も何点か発見できた。
どこも錆びていない。ヒビが入っていたり、歪んでいたり。そういった、年月を思わせるような箇所は一つも無い。
まるで在りし日のようだ。
「──────」
何かが、聞こえた。
私だけだったはずの廊下に、誰かの声が、響いた。
咄嗟に私は近くに置かれていた資材達の間に身体を滑り込ませる。
可能な限り最速で隠れたつもりだが、果たしてどうだろうか。
息を殺し、存在感を消し、相手の出方を伺う。
………一気に現実へ引き戻されたような気がしてままならないな。
「そちらの首尾はどうだ?」
「順調です。彼ら古典主義派は私程度の事など気にも留めないのでしょう」
聞こえる声は二つ。片方は低いバリトンボイス。もう片方は対照的に歳若い男性の声であった。
カツカツと、足音が近づいてくる。二人分の足音に一つの物音が付随している。
この音はなんだろうか?
「だがお陰でここまで漕ぎ着ける事が出来た。改めて感謝しよう、エラン」
「いえ、それはこちらの台詞です。貴方がいなければこの机上の空論は証明出来なかった。あなたこそが、生きた証人ですから」
「…買い被りすぎだ」
資材の隙間から歩いてくる人影を観察してみる。エランと呼ばれた人物は、白衣のような白い外套を纏っており、どこか達成感に満ちたような表情をしている。
そして一方、低い声の人だが────
(わ、私のジャケット!?)
その人物が身に羽織っていたのは紛れもなく私が普段常用している革のジャケットであった。しかも、しっかりと9のワッペンも備え付けられているでは無いか。
「残るは、あと一つ。広がり続けた概念に終わりを与える事のみです」
「………」
そのジャケットを着た人物の顔は、依然変わりなく厳しい表情のままである。白髪混じりの頭髪と顔に刻まれたシワからてっきり老人かと感じ取ってしまうが、よく見てみれば年齢的にはまだおじさんに片足を突っ込むくらいである。
尤も、杖をついていることに加えて、その身に漂わせる雰囲気がノイズになってしまってはいるが。
付随していた音は杖のものだろう。
「最後に、彼女にお別れをしなくてはなりません。………きっと、私たちの事など忘れてしまうでしょうけどね」
「……俺はそうは思わん。少なくともお前は彼女の存在に深く関与した。どこまでかは知らんが、存外小さい頃の記憶というのは長く覚えているものだ」
「それは経験ですか?」
「………かもしれんな」
「煮え切りませんね……。貴方はいつもそうだ。嫌いではありませんが」
この二人は一体誰なのだろうか。私は全く見覚えがない。というかキヴォトスにおいて、このような大人は先生以外見た事がない。
なぜ、知らないはずの他人が私の夢に?
またもや謎の事態に頭を悩ませていると、その二人組はいつの間にかすぐ近く、それこそ10m近くの距離まで近づいていた。
どんな相手であるにせよ、バレないに越したことはない。夢の中であっても、私の警戒心は鋭かった。
「………エラン」
二人が通り過ぎる。幸いにもそこまでは良かった。
しかし杖をつくこの人物は、あろう事か私の目の前で立ち止まってしまった。正直言ってこの隠れ場所は最善ではない。注意して観察したのならば、いとも容易く見抜かれてしまうだろう。
心臓の鼓動が大きく跳ね、冷や汗が背中に滲み出る。緊張と恐怖が血流を通り、得体の知れぬ気持ち悪さが私に襲いかかってくる。
(お願い……お願い……!)
私は必死に祈る。誰に対して祈っているかまでは考えなかったが、正直誰でもよかった。
一刻も早くこの状況から抜け出したい一心で祈ったのだ。
「なんです?」
「お前は……あいつを、アイツの正体を、知っているか?」
僅かにだが、その声が震えているという事だけはなぜか私に強く残った。
見ず知らずの他人であるはずなのに。
「……かつての管理者。名も無き神の一端。そこまでが旧版の内容でしたね」
「そうだ」
「新版では、かつての処刑人。ただ一つの生き残りであり、アーカイブでもあると」
「………」
「今では、苗床。最早元の姿は無いに等しく、信仰を糧とした概念の実体化は利用され続けています。恐らくは概念の宇宙がこの地を覆い、再生の時代は終わりを告げるでしょう」
「……お前はどう思う?」
「私個人の意見ですと、アレは過ぎたもの。今の人類にとって縋るべきでは無い力。さしずめ、黒い火と言った所ですかね」
「………そうか」
何処か、遠くを見つめた目でその男の人は呟いた。まるで何か決定的に違うものを見つけたみたいな、そんな感情が瞳の奥に光っていた。
「もうすぐですよ。時間はありませんので急ぎましょう」
「分かった」
深いため息の後、杖を再度、今度は重々しく下ろしながらその男の人は私の前を完全に通り過ぎて行ってしまう。
(……………)
なぜだか分からない。けど私は本能的に、その背中が気になって仕方なかった。
私には到底分からない。あの大人の人がこれから何をしようとしているのかを。
けど知らなきゃならない気がする。
誰に言われるでもなく、私は自然と、その背中を追ってしまう。
「身体の具合はどうです?」
「良好だ」
「でもその脚は……」
「慣れている。気にするな」
「慣れてる……?」
いつもより大幅に距離を置いて私は尾行する。時には横に伸びる通路に。時には中身の分からぬ物資の後ろに。
と、そこまでして私は新たな事に気づいた。
物が動かせないのだ。これは決して重いからでは無い。接着剤を用いたかのようにピッタリと、薬莢の様に小さな物までがくっついている。
なんとなく、私にはここにいる権利が無いのではと考えてしまう。
「これから死にに行く者に健康診断は必要ない」
「でも、万全を期すべきです。それと、敬意も」
「………敬意など、払うべきでは無い。俺の様な人間にはな」
「そうですかね?」
尾行している間も、意味の分からない会話が続いている。
余程会話に集中しているのか、それとも私があまりにも隠れるのが上手すぎるのか……いや、前者はともかく後者は無いな。
ともかくそうしていると、一つの広い空間に辿り着いた。
──────アリスちゃんのいた場所だ。
「ここまでの密航には大分苦労したんですよ。寄り道にしてはリスクが大きすぎました」
「ご苦労だったな」
「まあとにかく、プログラムの挿入は終わりましたし、幾分かはマシになる筈です」
「これで変わってくれるといいが……」
「祈りましょう。この子を託す未来に」
「………未来、か」
記憶とは違ってちゃんと大きな照明が天井に備え付けられている。瓦礫やスクラップも、生えていた緑たちは一欠片もなく、見知らぬ機械が壁中を埋めつくし、中央に鎮座する機械の椅子には──────未だ眠ったままの機械少女がいた。
「異なる二者による選択……記録の内では最も古いモデルですが、それがここに来て作用してくるとは思いませんでした。そこだけは彼らに感謝ですね」
実の娘に接するように、慈しむような目線でエランさんはその子の頭を愛おしそうに撫でる。
「今度こそは………俺の出番だ。俺自身が果たすべき……使命だ」
固く誓うその決意の声が私の耳に強く届き、何か大切なことを知ったような気持ちを感じて、不思議な世界は破れた。
──────
「ようやく気がついたか……」
暗闇の中、ハッキリとした声が掛けられる。私相手では無いみたいだけどね。
「無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな」
「え!?」
とはいえ、起きた方が良いのには違いない。私はのっそりと瞼を閉じたまま身体を動かし、重い頭を上げる。
「あ、アリスちゃんか……調子はどう?色々と覚えられた?」
「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ」
「な、何か偏った台詞ばっかり覚えてない……!?」
なんだか瞼を開けるのも億劫だと、そう感じるくらいには何故か、私の思考はふんわりしていた。
寝ぼけているともいう。
「ふぁ……みんな、おはよう……」
(……あ……おはよう……)
声は出ない。完全に現実世界か。
名残惜しい気はするけど、ずっとあんな所に居ても退屈だっただろうし別に良いか。
「おはよう!」
ぽわぽわと意識をじんわり纏めていた私ではあったが、不意にドアが勢いよく開き、準じてその音が脳を駆け巡る。
反射的に私の瞼は無理やり開いてしまった。
(ひぃん……ちょっと痛いよぉ……)
ぼやけた視界の中、音を出した張本人であるモモイちゃんは何か小型の物を片手にアリスちゃんの方へ大股で向かっていく。
元気なのは良い事だ。
「アリス、これ」
そう言ってモモイちゃんが渡したのは、ラミネート加工された一枚のカードだった。
中にはミレニアムの校章とバーコードを印刷した紙が封入されている。
「……?アリスは【正体不明の書類】を獲得した」
「おっ、またさらに口調が洗練されてるね。これは【学生証】だよ」
「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね……」
深夜に二人で遊んでた時よりもアリスちゃんの言語教育は進んでるみたいだ。
まさか私が寝ている時もやっていたのだろうか?だとしたらやはり凄いな。
「この学生証は、私たちの学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私たちの仲間だよ!」
「仲間……なるほど、理解しました」
これで晴れてアリスちゃんはここの所属になる。人数が増えることの喜びを、私はよく知っているつもり。
だから私は心の底から拍手する。
「パンパカパーン、アリスが【仲間】として合流しました!」
仲間という肩書きではあるが、実際はもっと深いものだ。少なくともアリスちゃんはここまでで三人の友達を得ている筈。
少し時間が経てばこの子ならきっと、さらに輪を広げるだろう。
「ねえ、今【ハッキング】って言わなかった?」
「大丈夫大丈夫!さて服装と学生証、それに話し方!この辺は全部解決出来たから……あとは……武器、だね」
む、そうか。よく考えたらアリスちゃんは非武装のままなのか。
ならば最初に行うべきはモモイちゃんの言う通り武器の調達だ。キヴォトスにおいてはこれが常識だからね。
「よし。アリス、せっかくだし案内するよ」
「案内……?」
「私たちの学校、ミレニアムを!」
張り切るモモイちゃんの声に叩かれ、私の意識は完全に覚醒した。
あとはこのモヤモヤを消せばオッケーだ。
『アリスちゃん』
「どうしました?レイヴン」
『パーティーへの合流、おめでとう』
「………はいっ!レイヴンも一緒です!」
笑顔が眩しいアリスちゃんの発言に私は虚を突かれる。
まさか、私も仲間認定なのか。嬉しいけど……まあ、私は傭兵。所謂助っ人的立ち位置だからね。
だからこういうことも仕事のうちだ。
『ありがとう、アリスちゃん』
エランさん。私はあなたのことを知らないけど、あなたに伝えるべき事があります。
彼女は今、未来に祝福されました。
アリスの学生証
モモイが手に入れてきた学生証。これを所持していればミレニアム内の施設を自由に利用する事が可能となり、学生の一員として認められる。
名付けとは概念に形を与える事であり、人間の持つ想像の力の一種。キヴォトスに住む生徒達にとってそれは神秘や恐怖の数あるルーツの内だという考えがある。彼女達がそれを知る事は無いが。
ではその逆はどうだろうか。元より形のあるものから名前を剥奪し、新たな概念を捩じ込んだならば……?