戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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メインストーリー更新が思ったより早くて驚愕しています。てっきり夏の終わりくらいに出るものかと。
まあ早い方が修正しやすいので助かるんですけどね。

完結までモチベを保てるか……?AC6のDLCが出る頃には最終回が出来るといいのですが、このペースで書いていくと一年はかかりますね。


犯人は現場に戻ってくるらしいよ

 

 

まだ完全に乾ききっていない、冷たさの残る髪を弄りながら私はゲーム開発部の部室へと歩く。

アリスちゃんがスーパーノヴァを手に入れた後、私は一時離脱してミレニアムのシャワーを借りていた。

まさか学校内に設置されているとは思わなかったけど、規模を考えれば当然か。

 

(アビドスにも欲しい……)

 

暑いし、砂は洗い落とさなきゃだ。絶対に必要な設備だと思うんだけどね。

元々の本館にはあったらしいけど私の頃には原型を留めていなかったし、今の別館にそんな便利な物は無いから。

 

(もう少し乾かしても良かったかもね)

 

ドライヤーもあったし、シャンプーやトリートメントなんかもちょい高めの種類だった。

人差し指で髪を摘み、試しに嗅いでみると清涼感のある香りがふんわりと鼻を抜けていく。

いい匂いというよりは、あくまで洗うという事にのみ重きを置くタイプの物だった。

ミレニアムらしい合理的なチョイスである。

 

もしそういうのを求めるのなら、トリニティが一番期待できるだろう。

キヴォトスいち高貴な所なんだし、きっとお高い物を使用しているに違いない。

 

(…………)

 

そういえば、前よりも髪が短くなったお陰で乾かすのに時間はかからなくなっていた。あそこまで長いと、一回一回洗う度に苦労してしまうのだ。

毛先の方まで完全に乾かない事もよくあった。

 

【まったく……貸してください。私が代わりにやりますから……】

 

呆れた口調ながらも、優しさで造られた言葉を私は反芻する。

大雨が降った時の事だし、かなり昔の記憶だ。

けど私は覚えている。

 

不器用ながらも私の髪を褒めてくれた事も。

扱いが分からずとも頑張ってくれた事も。

柔らかな手つきが心地よかった事も。

 

もしかしたら、心の底でちょっぴり期待しているのかもしれない。

このうっすら湿った髪がそう写している様に思えてくる。

 

(…………ごめんね)

 

届くとは到底思えないが、いずれは。今ではなくとも。

 

気を取り直して歩き続けていくと、やがて見知ったドアが目に入った。

ご存知ゲーム開発部の部室だ。

途中で道を忘れてしまったが、親切にも各フロア事に案内用の端末が配置されているので大した苦労はせずに済んで良かった。

 

ドアノブに手をかけガチャリと音を立てて回すと、曇った表情のユズちゃんが真っ先に目へと飛び込んできた。

次いで困った表情のモモイちゃんとミドリちゃんの姿も。

アリスちゃんと先生も真剣な顔をしているが、私が席を外している間になにかあったのだろうか。

 

「……ごめん。わたしが、部長会議に参加出来なかったせいで……」

 

「ゆ、ユズちゃんのせいじゃないよ!こういう場合って、お姉ちゃんが代わりに参加する事にしてたはずでしょ?」

 

「……仕方なかったの。だってその時はアイテムドロップ率2倍のキャンペーン中で……」

 

「やっぱりお姉ちゃんのせいじゃんっ!今すぐそのゲーム消して!」

 

今すぐに問題があるって訳じゃなさそうだけど、中々深刻そうなのは感じ取れた。

ミドリちゃんと先生に説明を求めると、どうやら無事アリスちゃんが部員として認められたはいいものの、依然廃部の危機は変わらず。

 

前までこの部活が廃部から逃れる条件は二つあった。

部員が規定数に達するか、もしくは成果を残すか。

偶然にもアリスちゃんを迎え入れた事で片方の条件をクリアし、廃部を免れる筈だった。

 

しかし現在ではその条件を両方満たさなくてはならないと、生徒会であるセミナーからの通達が先程あった。

本来であればこの通達はもっと早く届いていてもおかしくは無かったのだが、理由はまあ、そういうこと。

 

私としてもユズちゃんにはあまり気負わないでいて欲しいが。

 

そんな訳で、強制的にミレニアムプライスでの受賞を目指すことになったというのが事のあらましだ。

呑気に遊んでいる暇はないらしい。

 

「ミレニアムプライスで受賞できるような、すごいゲーム……って事は、結局G.Bibleが必要なんじゃん!またあの廃墟に行くの!?」

 

私としても吐き気の原因が分かっていない以上迂闊に近寄りたくはないけど……廃部に比べたら全然マシだろう。

もし気持ち悪くなったら私が我慢すれば良いだけだし。

 

「……責任、取らないと」

 

小さく垂らされた呟きが耳に届く。

私の耳は前より良くなった。その理由は、聞き漏らさないためである。

だからこそ、こういう時に役立つ。

 

声につられて私はユズちゃんの瞳を見る。そして、その奥に眠っていた覚悟が花開くのを直視した。

揺らぐことない輝く信念が深く根付いている事を目にしたのだ。

 

重荷を背負おうとする姿に私は一瞬重ねてしまうも、根本的な違いを確かに認識する。

あの瞳が、否定してくれる。

 

先輩とは後輩を守るものである、と私は考えている。

さて、この場合守るべきものはなにか。

今までとは違うそれが、明白になった。

 

たとえ他の学園の子だとしても、手を貸すか否かなんていうのは微々たる問題であるが。

 

……私にとってもこの気づきは学びかもしれない。やっぱり来て正解か。

 

「G.Bibleを探しに、また廃墟に行くなら……わたしも、一緒に行く」

 

キッパリと何かを振り払った表情で、大きくて小さな一歩が踏み出された。

ユズちゃんの発言を受け、モモイちゃんとミドリちゃんの二人は戸惑いを見せる。

 

「え、え!?嘘!?」

 

「ユズちゃん、もう半年近く校舎の外に出てないのに。授業もインターネット受講だけだし……」

 

私はこの子の事について多くを知っているわけじゃない。

けど、ミドリちゃんの語った事が本当ならば……。

 

それならば、この選択には多大な勇気が必要だった筈。

私はその意思に益々、尊敬の念を抱いた。

 

「……元々は、わたしのせい……だから。それに、この部室は……もうわたしだけのものじゃない」

 

眩しいな。眩しくて、強い。

力じゃない強さとは正にこの事だろう。

 

「……一緒に、守りたいの」

 

(一緒に、ね)

 

ねえラナ。ラナはきっと……そうでしょ?

目を伏せて私は想う。

遠い誰かさんに向けて。

 

「ユズちゃん……」

 

「パンパカパーン、ユズがパーティに参加しました」

 

おっと、気付かぬうちになんか一人で湿っぽくなっちゃったね。純粋に吹き飛ばしてくれたアリスちゃんには感謝だ。

私も同行の旨を伝え、装備のチェックをする。

弾薬の数だけ心許ないけど、幸いにもその辺で手に入る物だし、途中で買っていこうか。

 

「アリスちゃんも、武器とか装備持って!」

 

「アイテムを選択、【光の剣:スーパーノヴァ】を装備しました」

 

「よし、行こっか!今度こそ、G.Bibleを手に入れる為に!」

 

「…………うん!みんなで、部室を守ろう!」

 

ミドリちゃんによるレイド開始の宣言がなされ、私たちは廃墟へと向かった。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

「はあ、はあ……何とか成功、かな?」

 

空っぽになった弾倉を交換し、スライドを引くと小気味良い金属音が戦闘終了の合図を鳴らす。

正面から工場へ突入した割には、全員大した怪我も無くてなによりだ。

 

「侵入成功。ミッションをクリアしました」

 

以前と変わらず、薄暗い工場の道は闇に閉ざされたまま。ダンジョンとしての雰囲気は満点だね。

 

「ねえねえ、私たちってもしかして実はすごく強いんじゃない?C&Cとか、他の学園の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも?」

 

ほほう、言ってくれるねモモイちゃん。

 

「………お姉ちゃん?」

 

「え?………あ!い、いや違うんだよ!聞いてってば、ほら!言葉の綾って奴、ね!?だからそんな顔しないでよ、お願い!!!」

 

『別に怒ってないよ?』

 

「いや怒ってるよねぇ!?怒ってる時の話し方ぁ!!」

 

何を言う。本音に決まってるじゃないか。少々スタミナ切れが早いところはあるけど、基本の戦術は抑えているし、時折挟まれる戦闘テクニックにも目を見張る所があった。

遊撃として動いてたから少ししか把握出来てないけど、その辺のヘルメット団とかよりは全然強いといえるだろう。

 

ちょっとスーパーノヴァのインパクトが大きいかもしれないけどね。

 

まあそれはそれとして、私の後輩ちゃん達が負けるとは一ミリも思わないが。

私と違って、皆結構強いんだよ?

 

「少なくともC&Cとレイヴンは絶対に無理だと思うけど……確かに、自分でもちょっとびっくり。きっと、先生の指揮のおかげですね」

 

なるほど、先生か。確かにその存在もあるかもね。

冷静な第三者からの指令やアドバイスはかなり有用だ。私もラナに何度か助けられたし。

 

「わたしも、そう思う……先生がいると、安心感が全然違う……」

 

安心感。先生がどんな人物かを説明する時、多用されそうなフレーズである。

この安心感というのは、そう簡単に出せるものでは無い。

相手との信頼や、共に積み重ねた経験があってこそ成り立つのが筋だ。

 

私が知っている中で、安心感を得られる人物は二人いる。

 

片方は絶対的な力。もう片方は用意周到なプランの数々。

 

ベクトルは違うが、何があってもどうにかなると思える所は一緒だ。

根底に変わらぬ優しさが存在するというのもまた、共通している。

 

先生の場合は臨機応変か。状況に合わせた柔軟な思考を活かし、その場で最も最適な判断をするタイプの人だ。

大人であるという所もその安心感をもたらす印象に貢献しているだろう。

 

「ところで、みんな残弾数は尽きてない?」

 

「バッテリーがチカチカしてます……【マナが足りません】ということでしょうか?」

 

「そうかも、あと一回ぐらいしか持たなそう……」

 

本来スーパーノヴァは大型のジェネレーターに接続して運用する事を前提として設計された。アリスちゃんが使用する事になった際、エンジニア部の子達が緊急でバッテリー稼働が可能になるよう改造はしたけど、それでも流石に限界はある。

 

切り札という程少なくは無いけど、闇雲に撃つべき代物では無いね。

 

「レイヴンは……大丈夫そうだね」

 

前回の反省も兼ねて、今回は消耗戦の可能性が高いと踏んでいた。だからこそなるべく銃を使わないで仕留めて来たけど……過剰だったか。

 

手袋に染みこんだオイルの匂いが鼻につく。

 

銃を奪って使えるのならば最良だったけど、何故か私は引き金を完全に引くことは出来なかった。

ID認証でも必要なのだろうか?だとしたら厄介な仕組みだ。

 

「レイヴンにばっかり戦闘させるのも酷だし、ここからは出来るだけ敵を避けて行こっか」

 

別に気を使わなくても良いんだけどね。一人で遂行する依頼が殆どだし。

 

迷路の様に複雑化した構造のこの工場であるが、前回通って来たルートなどまるで覚えていないし、そもそも今たっている入口すらも別の場所だ。

だから当てずっぽうで道を選ぶしか無いのだけれど……アリスちゃんはなにか気づいたようで、適当に前へ進もうとする私達とは違う方向を見つめている。

 

「ここは………あ…………」

 

「アリス、どうしたの?」

 

「……分かりません……ですが、どこか見慣れた景色です。こちらの方に行かないと行けません」

 

そう言うと、アリスちゃんはスタスタと迷いなくその方向に歩いていってしまった。

どの道を選んだ所で、そこがお目当ての場所に繋がっているという保証はないし、ならば直感的に進んでも変わらないはずだ。

 

アリスちゃんについて行くと、景色が次々と流れる様に変わっていき、確かに別の場所へ移動していると実感する。

 

「アリスの記憶にはありませんが……まるで【セーブデータ】を持っているみたいです」

 

私があの夢で見た場所。恐らくあそこはこの工場で間違いないとは思うけど、アリスちゃんがもしルートを覚えているのなら、あの夢はやはり本当にあった出来事なのだろうか。

 

「この身体が、反応しています。例えるなら、そう、チュートリアルや説明がなくても進められるような……或いはまるで、何度もプレイしたことのあるゲームを遊んでいるかのような……」

 

「どういうこと……?確かに、元々アリスがいたところと似たような場所だけど……」

 

「あっ、あそこにコンピューターが一台……あれ?」

 

ミドリちゃんが指さした先にはミレニアムの案内用端末とどこかしら似た見た目のコンピューターが設置されていた。

これもまた、地図の表示機能を有しているのであればありがたいのだが。

 

「あのコンピューター、電源が点いてる……?」

 

全員で近づいてみると、発光した画面に次々と文字列が流れ、電子音を鳴らしながら一つの文章を形成していく。

一体どこから電気を引っ張ってきているのだろうか?

疑問に思っていると、黒い画面に緑のテキストが現れる。

 

[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]

 

その後に表示されたのは、検索エンジンの様なUIをした空白地帯であった。

 

「おっ、まさかの親切設計。G.bibleについて検索してみよっか?」

 

「いや、ちょっと怪しすぎない?それより【ようこそお越しくださいました】ってことは……【ディビジョンシステム】っていうのが、この工場の名前……?」

 

アリスちゃんは端末に手を伸ばし、引き出しの要領で画面の下からキーボードを出現させた。

まるで使い方を予め知っているかのような、自然な動作だ。

 

「キーボードを発見……G.Bibleと入力してみます」

 

カタカタと素早いタイピングで入力されていくと、それに準じて画面も変化していく。

 

「あっ、何か出た!」

 

ロード中を表すぐるぐるマークが消えると、様々な記号や数字が画面の端から端までを埋めつくし、やがてフリーズしてしまった。

正常な動きとは到底思えない。

 

「こ、壊れた!?アリス、いったい何を入力したの!?」

 

「い、いえ。まだエンターは押していないはずですが……」

 

戸惑う一同の事など気にも留めず、今度は文字の巣が軒並み焼き払われ、その向こうからたった一つの質問が大きく現れた。

 

 

 

あなたはAL-1Sですか?

 

 

 

怪しさ満点だ。絶対アリスちゃんの事知ってるでしょ。

どうやら、このコンピューターが何者か調べなくては無さそうだ。あの夢での二人の事も知っているかもしれないしね。

 

「いえ、アリスはアリスで……」

 

「ま、待って!……何かおかしい。アリスちゃん、今はとりあえず入力しない方が……」

 

[音声を確認、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]

 

「!?」

 

「音声認証付き!?」

 

ミドリちゃんの制止も虚しく、画面は次へと進んでしまった。

なんてハイスペックな端末なんだ。ラナのパソコンにもそんな機能はついてなかったぞ。

 

「えっと……AL-1S、っていうのは、アリスちゃんのことなの?」

 

「あ、ごめん。そういえばユズちゃんには言ってなかったかも」

 

首を傾げて疑問の表情を浮かべるユズちゃんにミドリちゃんが説明している間、アリスちゃんは一人呟く。

 

「……アリスの、本当の名前……本当の、私……あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」

 

問いかけられたコンピューターは未だ沈黙を保ったまま。数分間経っても反応は見せず、ただ時間だけが過ぎていく。

 

「反応が遅い……?」

 

やがて説明を終えたミドリちゃんが再度画面を見やるも、やはり変化は無く。

 

「何か画面もぼんやりしてきたけど、処理に詰まってるのかな?」

 

モモイちゃんが口を開くと、まるでそれに答えるかのように画面の動きが一気に活発化する。

まるでスキップを繰り返すかの様な、油をさしていない歯車の様なぎこちない動作である。

 

[そうで……@!#%#@!$%@!!!!]

 

明らかにエラーを発しているとしか思えない、意味の感じ取れぬテキストが表示された。

 

「え、え!?何これ、どういう意味!?」

 

「それは……」

 

[………緊急事態発生。電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]

 

なんと、立て続けに今度は消滅の危機とは。無情にも画面の隅っこにカウントダウンが灯り、私たちを焦らせる。

そこまで電力が底を尽きていたとは。まさか発電機からではなく備蓄したバッテリーから電気を得ていたのだろうか。

 

「ええっ!?だ、ダメ!せめてG.Bibleのことを教えてからにして!」

 

[あなたが求めているのは、G.Bibleですか?<YES/NO>]

 

「!」

 

「YES!」

 

なりふり構って居られず短く発したミドリちゃんの発言に応えたのか、先程までのフリーズが嘘のように、瞬時に画面へ情報が映し出される。

 

[G.Bible……確認完了、コード:遊戯……人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193、廃棄対象データ第一号」

 

「廃棄!?どうして!?それはゲーム開発者達の、いやこの世界の宝物なのに!」

 

モモイちゃんは嘆く。せっかここまで来たのに目の前で消えてしまうだなんて、あんまりだから。

廃棄すべきデータかどうか……残してはいけないものは確かにある。

私は演習場でそれを目にしたから。

 

けどゲーム開発に関わるものなら、別に廃棄される必要はなさそうだけど。

 

[G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを転送する為の保存媒体を接続してください]

 

「えっ……?G.Bibleの在り処を知ってるの?」

 

 

[あなたたちも知っています]

 

 

 

 

[今、目の前に]

 

 

 

「ど、どういうこと!?」

 

[正確には、私の中にG.bibleが存在します。しかし現在私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します]

 

「そ、そうは言っても急に保存媒体なんて……あ、【ゲームガールズアドバンスSP】のメモリーカードでも大丈夫?」

 

(あれ、保存媒体って言ったら……)

 

ジャケットのポッケを漁ると、いくつかのカセットテープが顔を出す。

全部手に取って見てみるものの、お目当てのアレは生憎その中には見当たらなかった。

多分部室に置いていってしまったのだろう、なんとも惜しい限りだ。

 

反省として、後で手持ちに加えておくとしよう。

 

[…………………まあ、可能ではあります]

 

ただのシステムにしては妙に感情がこもってない?まさかこの【ディビジョンシステム】というのも、何かしらのAIなのだろうか。

 

「な、何だかすごく嫌がってる感じがするんだけど……気のせい?」

 

「データケーブル……連結完了!」

 

ユズちゃんが手際よくケーブルを繋ぎ、ミドリちゃんが手に持つのゲーム機の画面が発光すると、データ移行の準備が整った。

それにしても、バッグに押し込まれていたのはゲーム機だったりケーブルだったり、依頼中の私では持ち合わせない物ばかり。

この状況を見越していたとは考えづらいけど、何が役立つか分からないものだね。

 

………私だって本当はお菓子とか一緒に持っていきたいんだけど……大体はラナに怒られるし、すっかりそれが習慣づいてしまったのかも。

 

[転送開始……保存領域が不足、既存データを削除します。残り時間9秒]

 

「え、嘘っ!?もしかして私のセーブデータ消してない!?ねぇ!?」

 

慌てふためくモモイちゃん。地団駄を踏んで抗議するものの、お構い無しに事は進んでいく。

 

[容量が不足しているため、確保します]

 

[だ、ダメ!お願いだからセーブデータは残して!そこまで装備揃えるのすごく大変だっ───」

 

[残念、削除]

 

「ちょっとおおぉぉぉぉおおお!?」

 

わざわざ残念と付け加える必要はあったのだろうか。

私には感情が発達しているように見えてしょうがない。

 

それから程なくしてコンピューターとゲーム機、両方の画面から光が消えた。

 

再度の沈黙が訪れ、試しにコンピューターの画面に手をかざしても何も反応は起きない。

 

「あれ……電源、落ちちゃった……?」

 

「ああぁぁ!私のゲームガールズアドバンスSPのデータがぁぁっ!!」

 

恐らく、完全にこの世からセーブデータが失われてしまったのだろう。

世界の終わりみたいな表情をするモモイちゃんの叫びが、聞いていてやるせない。

 

(私が忘れてなければ……)

 

直接的な責任が私に無いとしても、申し訳ないと思ってしまう。

モモイちゃんの努力の結晶はすっかり、電子の世界から消えてしまったのだから。

 

せめて、代わりにならないとしても、GBibleが期待に沿うものだと願っておく。

 

そう考えていた矢先、ピロリと可愛らしい起動音が鳴った。

モモイちゃんのゲーム機を見ると、起動を始めた画面が白く発光している。

 

「あ、待って!何かが画面に……?」

 

ミドリちゃんが発言すると同時に[転送完了]の四文字がハッキリと構築され、次に[新しいデータを転送しました]というテキストが表示された。

 

どうやらその新しいデータの名前は

 

 

<G.Bible.exe>

 

 

と、言うらしい。

 

「こ、これって!?」

 

真っ先に強く反応を示したのは、先程まで打ちひしがれていた筈のモモイちゃんだった。

 

「こ、これ今すぐ実行してみよう!本物なのか確認しなきゃ!」

 

ミドリちゃんからひったくるようにゲーム機を手に取ると、モモイちゃんは画面を素早く操作し始める。

 

「exe実行!あ、何かポップアップが出て……って、パスワードが必要!?何それ、どうすればいいのさ!?」

 

「……大丈夫。普通のパスワードくらいなら、ヴェリタスが解除できるはず……!」

 

「そ、そうだね。そうすれば……!」

 

(ヴェリタスって?)

 

初めて聞く単語だが、ユズちゃんもその言葉にコクコクと強く頷いてるし、文脈からしてハッカー集団とかだろうか?

どっちみちこの後に寄ることになりそうだし、その時に確かめようか。

 

もしハッカーなら、ラナとどっちが強いのかちょっと気になっちゃうな。

 

「これがあれば、本当に面白いゲームが……【テイルズ・サガ・クロニクル2】が……!」

 

「うん、作れるはず!よし!」

 

さっきまでの落ち込み具合が嘘のように、モモイちゃんの顔には希望と喜びが満ち満ちている。

切り替えが早いのは、いい事だ。

 

「待っててねミレニアムプライス……いや、キヴォトスゲーム大賞!私たちの新作は今度こそ、キヴォトスのゲーム界に良い意味での衝撃を与えてやるんだから!!」

 

「お、お姉ちゃん、声大きすぎ。そんな大声で叫んだら……」

 

ミドリちゃん、多分もう気にする必要はないよ。見てよ、あれ。

 

「ここにいるって、言ってるような、も、の……」

 

物音のした先。そこに仁王立ちする影がひとつ。

 

「あちゃー……」

 

グレーのボディに、流線型な形の見慣れない銃。所属を表すものは無し。

あのロボットの兵隊さんが、私達の事を遂に発見してしまったのだ。

てっきり来ないものかと油断していたが、いつの間に入ってきたのか。

 

「■■■ ■■!■■■!」

 

相変わらず意味のわからない言葉の羅列だけれど、パーティーに加入申請をしに来た風には思えないぞ。

 

「な、何だかものすごく怒ってる!?」

 

こっちの言葉を理解しているとは考えられないが、ユズちゃんの推測を肯定するかのようにロボットはこちらへと発砲してきた。

 

咄嗟に物陰に隠れた私達ではあるが、こうしている間にも相手は増援を呼んでいるに違いない。面倒な状況だ。

 

「わあっ、撃ってきた!早く逃げよう!」

 

「お姉ちゃん、その前に……!」

 

ミドリちゃんの意図を汲んだモモイちゃんが瞬時に飛び出し、さっき隠れた隙に落としてしまったゲーム機を回収する。

猫を彷彿とさせる素晴らしい身のこなしで再度物陰へと移ると、その手にはしっかりと大事な宝物が握られていた。

 

「うん、ゲームガールズアドバンス確保!ユズ、レイヴンと一緒に先生を守りながら進んで!私とアリスが殿を務めるから、全員でロボットを蹴散らしながら脱出しよう!」

 

「私も援護する!」

 

何気ないシンプルな作戦だが、この場所では最善手だろう。変にあちこち動き回って出口を見失ったら大変だし。

 

「ようやくG.Bibleを手に入れたのに、こんなところでやられるわけにはいかない……!」

 

弾薬の節約は、こういう時の為にある。ラナのアドバイスでは確か【不測の予測】だったっけ。

もっとも、本人がこの状況を見ればきっと【ミッション中に油断するとは……大層な自信だな】とか言ってくるに違いない。

 

「……みんなで無事に、部室まで戻ろう!」

 

モモイちゃんの気合いを入れた一言に一同が意思を通わせ、三者三葉に大きく決意の声を張り上げる。

私も声代わりとしてスライド内のチャンバーに弾丸が入っている事を確認し、金属音を鳴らす。

 

準備完了の合図と試合開始のゴング。両方を兼ね備えた音が鋭く響き、無人だったはずの静かな場所は瞬く間に煙と銃声に覆われる事となった。

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