戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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☆9評価ありがとうございます。
まさかプラス1週間してしまうとは……中々予定通りに行かないものですね。遅れてしまい申し訳ありません。
小鳥遊ホシノはやっぱりどの姿でも可愛い。私では到底表現しきれない域。

今回は少し長めです。


見えざる力

 

 

「三人共!ハレ先輩から連絡!アカネ先輩を閉じ込めるのに成功したって!」

 

無線での報告を聞き、作戦通りに事が進み始めた私達四人は、ほっと胸をなでおろした。

やや早歩きでミレニアム校舎内部を進んでいくと、窓から映る景色には未来的な摩天楼が視界いっぱいに広がっている。

 

「よし、指紋認証システムも正常に作動したね。生徒会の役員も全員隔離できたはずだし……これで今タワーの中を自由に動けるのは私たちだけ!」

 

「本来のエンジニア部製よりほんの少しだけ弱そうに見える、最新型のセキュリティ……上手くいったみたいだね」

 

「名前を隠してたし、多分あれもエンジニア部製だと思わなかっただろうね。その辺の塩梅も、流石はエンジニア部。さ、じゃあ堂々と行くとしよっか」

 

現在、私とモモイちゃん、ミドリちゃん、先生を含めた四人組は【鏡】を目指し、今いるミレニアムタワー最上部の西に存在する差押品保管所へと向かっている。

だけど皆が皆真正面から勝てる程強いわけじゃない。陽動や工作等、小細工を用いなければ。

 

現時刻より数時間前、アリスちゃんはミレニアムタワー内部へ単身突入。結果としてセキュリティシステムを破壊する迄にとどまり拘束されてしまったが、これで良い。

 

ミレニアムタワー内を移動するには、エレベーターを確保する必要が出てくる。このエレベーターシステムがなかなか厄介な物で、指紋認証システムが備え付けられており、アリスちゃんのように強行突破しようとすれば強固なシャッターで阻止されてしまう。

そこに連動して最上部も同じようにシャッターで区切られるという、なんとも厳重な警備だ。

442台の監視カメラと、3種の警備ロボットが52体いるというのも、少し面倒。

 

まあ……モモイちゃんがさっき言ったように、セキュリティは私達にとって正常に作動した。

破壊されたセキュリティシステムの代わりとしてセミナーに購入させたトロイの木馬が作動し、指紋認証システムを改竄。私達の指紋だけ通すようにしたのだ。

 

お陰でこうして余裕綽々と最上部を進めている訳である。

 

もうひとつ、別の刃も残してはいるがそれは後ほど。

 

残る懸念点はC&Cとの接敵だ。アカネちゃんとの戦闘で分かったけど、あれはキツイ。

一対一なら勝つ見込みはあるけど、それ以上は流石に私でも抑え込まれてしまうだろう。

 

この戦いの結果が分かっているとはいえ、本気でやらなければいけない事に変わりはないのだ。

 

そんな風にモヤモヤした考えでいると、モモイちゃんがシャッターの隣に設けられたタッチパネルに手をかざし、電子音が鳴る。

 

『──才羽モモイ、才羽ミドリ、先生、レイヴン、4名の承認が完了しました』

 

音声でそう伝えられると、シャッターがゆっくりと開いていく。

 

「なんか、デジャヴみたいな感じするね……?」

 

「あー、廃墟のあれじゃない?懐かしい、なんかもう随分前のことみたいな感じがする」

 

廃墟のあれと言えば、結局モモイちゃんのセーブデータは復旧の見込みがなかった。心底申し訳ないと思う。

お詫びとして秘蔵のお菓子を後であげよう。

 

「とりあえずアカネ先輩を封じられたのは良かった。どうせならアスナ先輩も一緒に閉じ込めたかったところだけど……まだ、居場所が分かってないんだよね?」

 

「ハレ先輩が、出来るだけミレニアム全域を調べてくれたけど……見つからなかったみたい。ミレニアムの外にいるんじゃないかな?」

 

もしそうなら嬉しいけれど、油断は禁物である。自然とハンドガンを持つ手に力が入るのも、教えの現れか。

 

「いっつも神出鬼没の先輩だし、簡単には見つからないよね。なんかミッション中に、急にパフェ食べに行ったりする人みたいだし……ま、今の所計画通りなんだから、気にしない気にしない!」

 

あっけらかんと笑うモモイちゃんではあるが、それは一種の願望のようにも見え、やはり対峙したくないという恐怖である。

 

そしてシャッターが完全に開き切ると同時、やや驚き混じりの声が向こうから放たれ、中から開口一番に大きく告げる。

 

「誰!?」

 

まあ、どれだけ弁じ立てた所で侵入者とみなされるのには変わりないだろう。何より私たちは急いでいるのだ。無理にでも通して貰う他あるまい。

私はすかさずハンドガンを構え、サイトに相手を重ねる。どうやら居るのはあくまで少数。それも戦い慣れしていないであろう子達に、ドローンが数機だ。

 

「ひゃっ!って、生徒会じゃん!まだいたなんて!」

 

「ど、どうしよう先生!?」

 

銃口を向けたまま、ジリジリとポジションを戦闘状態に移行。私は最前線の矢面へと立つ。

 

先生の方を一瞥すると、少しの間が空いた後深い頷きで応えてくれた。

 

「突破しよう」

 

その一言に続いてモモイちゃんとミドリちゃんもライフルを構え、それぞれの位置に着く。

 

「……うん、突破するしかなさそう」

 

「……はい、そうですよね。ここまで来て逃げる訳にはいきません」

 

基本的なフォーメーションとして、アタッカーとなるは私一人ではあるが、二人のコンビネーションからなる援護ならばそうそう苦戦はしないはずだ。

 

遮蔽物の位置を完全に叩き込み、相手の頭上からドローン達がこちらにコンタクト。足元には小型のロボットの群れが銃口を突きつけてくる。

 

「……よし、行こう!」

 

簡単なものであるが、先生からとなると、やはり少しはやる気が出てしまう様で。

頼られるというのが嬉しいのかもしれないが、単純か。

 

地面を蹴り、飛蝗を彷彿とさせるバネ力が勢いよく身体を前方に射出。そしてその速度と重量を乗せたエネルギーは弾丸のように集中して左腕へ。

 

「がはッ!?」

 

破裂音にも似たなにかが鼓膜を突き抜け、私の握る拳に伝わるは確かな肉の感触と奥に潜む内臓の位置。狙い通りに、急所ではない適切なところに打ち込めた事を内心喜びながらも、動きは止めずに。

左脚を軸として捻りを腰に加え、切り裂いて現れるは風の如き回し蹴り。

スピードを重視したそれは先程の打撃と比較してやや威力にかけるが、今に蹴り抜いたるは頭部。加えて、打撃による衝撃は完全に相手へと大きく負荷を与えており。

 

結果としてこの二連撃でまず一人が沈黙した。

意識を失った肉体は重力に引かれ、床へと倒れる。幾人かはその音に慄き、動揺を見せた。

 

すかさず私はその場からツーステップ前へと躍り、ワンテンポ奥への銃撃から回避。そして回避先には一体の小型ロボット。

こちらへ気づくと、私目掛けて数十発の弾丸がそのロボットから浴びせられるが、所詮は文字通り豆鉄砲か。

大した意味もないと認識したのか、無駄に可愛げのある四角い顔に逃走の二文字が表示される。

だが敵は敵。内心良い気持ちにはならないが、私は逃げようとするその身体をしっかりと捕まえ、足をバタバタさせる仕草から目を逸らしながら、相手の頭上に留まるドローン目掛け投擲。

 

クリーンヒットしたドローンは誘爆から二倍の爆発を引き起こし、真下にいた生徒から思考の何割かを奪い去る。

好機としてその子の懐に飛び込み、頭へ二回引き金を引く。

 

「うあっ……ッ」

 

計12発の9mm弾は似つかぬ威力を発揮し、残りの意識ゲージはおそらくミリ近く。弾丸節約も兼ねて蹴り飛ばすと、ゴムまりのように跳ねる身体はシャッターへと叩きつけられ、ヘイローは消失。

 

「レイヴンッ!」

 

先生からの短めの警告。咄嗟に後ろを振り返ると、二人の生徒が私へと銃を向け、既に引き金に指はかかっている。

従って回避の為に上へと飛び上がると、今度は桃色と緑色の銃撃がその二人に襲いかかる。

モモイちゃんとミドリちゃんによる援護だ。

 

「おわっ!?」

 

気が一瞬そちらに向いたのを確認し、片方の頭目掛け右足を頂点とする強烈なキック。

首はぐにゃりと無理やりに曲げられ、平衡感覚を失った肢体は制御から離れる。

 

気絶したのを確認し、もう片方の子に目を向けると、丁度向こうも同じタイミングで目が合った。

しかし動き出すまでのスピードには数コマの圧倒的な違いがある。

それは戦闘経験からか、恐怖からか。どちらにせよ、私にとっては有利だ。

 

彼女の持つ銃を足先で蹴り上げ、武装解除に成功。私はハンドガンを胸元近くに引き寄せ、ステップで距離を詰めながらまたもや二回引き金を引く。

正確さより当てることを意識した射撃はまばらに胴体へヒットし、気絶へは至らず。そのリカバリーとして選ぶは打撃。

 

左ストレートから繋げる、ハンドガンによる予想外の鉄拳。扱いが悪い気がしなくもないが、費用対効果は抜群。この前の整備でもフレームに歪み一つとして無かったよ。

 

気絶を引き起こした身体が頭から着地し、若干口元が引きつってしまうが……これも気絶だから無視だ。

弾倉を再装填、スライドを引いて薬室に弾薬が送り込まれると同時に私へ襲い来るは三機のドローンから放たれたミサイル達。

 

(──────!!)

 

すぐさま上へ飛び上がり回避。着地点は並んだ三つの機体から真ん中を選択。

 

(おっとっと……)

 

耐荷重が私程のものは想定していないのであろう。深い沈み込みからの安定しない動きに、落ちないようバランスを取る。

別に私が重いわけじゃないよ、断じて。

 

左右のドローンを6発ずつで撃ち抜き、煙を吐きながら墜落したスクラップは、下で弾幕を張り続けていた子達を巻き込み爆発。

足場にしたドローンの基部を引っこ抜いて機能を停止させ、そのまま着地するのと同じくして、彼女達の持つ手榴弾にも誘爆したのか、連鎖を引き起こし、想定よりも被害は大きくなった。

 

銃撃戦の影響で下ろされた二枚目のシャッターは所々焼け焦げるのみに留まっている。チタン製というのは本当らしい。

 

……破壊する手段はあるだろうか?

 

(!!)

 

残骸の隙間を掻い潜り、目の前に飛び出す二機のドローン。本能的に反応した私の頭脳はサイトシステムに目標を捉え、注射を静脈へ打ち込むようにしっかりと、だが素早く狙い撃つ。

 

しかしそれだけでは終わらず、撃墜された二機から溢れる炎を掻き分け、生き残った小型ロボット達が押し寄せてくる。

 

生憎弾倉は空。サブの二連散弾銃では向いてないし、ここは手榴弾だろうとチェストリグへ手をかけたと同時。

 

「任せて!」

 

先程と同様、二人による銃撃の雨あられが降り注いだ。互いへの信頼が織り成すコンビネーションは標的に対して均等に配分され、一箇所の敵にのみ集中する事無く、全て同時に撃退された。

 

(ありがとう)

 

二つの意味で鮮やかだと感じるその連携に尊敬の念を覚え、私はドヤ顔の二人に向けて親指を立てる。

こういうところはやはり双子らしい。

 

「どう?ナイスアシストだったでしょ!」

 

『もちろん』

 

「これで全部みたいですね……先に進みましょう」

 

予想外の接敵ではあったが、シャッターで区切られているお陰で増援は来ない。弾薬の消費もそこまでせずに済んだのも良かった。

 

倒れている生徒会の子達の身体を飛び越え、黒焦げになった無人兵器を脇にどかしながら進んでいくと、一際大きなシャッターが立ちはだかっていた。

だがそれも、こうしてモモイちゃんがタッチパネルに手をかざすことであっさりと解除される。

いかにチタン製とはいえ、こうされてしまえば何の意味もないのだ。

 

「最後のシャッターを解除!ふふっ、今やこの生徒会専用フロアは私の思うがまま〜♪さて、もう少しで【鏡】がある差押品保管所に……」

 

スキップで進むモモイちゃんを先頭に、ガラス張りの区画へ侵入すると、タイミングを同じくして突如無線が入った。

 

『モモイ、伏せて!』

 

オペレーター担当のハレちゃんから告げられる一つの警告。危機感と焦りを内包した叫びにモモイちゃんだけでなく一同全てが反射的に身をかがめる。

 

(──────!!!)

 

次の瞬間、ガラスがピシャリと小さく悲鳴を上げてひび割れる。

ひび割れの中心地はモモイちゃんの頭上スレスレにピタリとラインを添わせ、続いて起きるは私達の背後にて起きる壁面への着弾。

まさかという私の予測を肯定するように、ひび割れるだけだったかと思われたガラスはエネルギーを抑えきれず自らの一面を崩壊させ、その隙間からは頭を揺らす程の轟音が間を縫って届いた。

 

「うわあああ!」

 

驚きの声を上げるモモイちゃんの方を見やると、幸いにも当たってはいなかった。

急いで全員がオブジェクトや柱の影に隠れるが、たったそれだけではぬぐい去れない恐怖がある。

 

「い、今頭の上を、なんか凄まじい威力の弾丸が!?壁に穴が空いてるんだけど!」

 

「対物狙撃用の49mm弾!?良かった、お姉ちゃんの背があと5cm高かったら、おでこにクリーンヒットだったよ……」

 

「ヒューっ、確かに。小さくて良かっ……じゃないよ」

 

当たり所によっては気絶する事も視野に入ってしまうだろう。暫くは身体に跡も残るだろうし、何よりも───────。

 

「この辺りはもう、狙撃ポイントに入ってるってことだね……C&Cの狙撃手、カリン先輩の」

 

観測手無しでこれまでの精度を発揮するか。トップクラスのエージェント集団に属する一員だけはあるようだ。

 

「ミドリ、伏せて!また来る!」

 

はるか遠くに光る反射。スコープによるものだ。

それが見えたと同時、今度はミドリちゃんの目先数cm近くへと拳ほどの穴が開き、遅れて再度耳をつんざく音色が響き渡る。

 

「うわあぁ!?」

 

ミドリちゃんは言葉を失い、反応出来たモモイちゃんはそのプレッシャーに思わず声を上げてしまう。

 

これはかなり厄介だ。下手に物陰から出れば被弾は免れない……そうだと思わせるほどの実力が向こうにはある。

しかし、だからといってただ時間を浪費するのでは全く勝ち筋は掴めない。

相手が狙うは、この圧力と射線による牽制といった所だろう。まあ、当てる気があるかと言えば、あるに違いないが。

 

ジャケットからいつもの会話用端末を取り出す。画面に光るロゴは会話モードを表す可愛らしい鳥から、牙を剥く猟犬の物へと変わっており、それはつまり戦闘モードを意味するのだ。

 

起動するアプリケーションはブリーフィング中にも時折使う3Dマップを選ぶ。青と白の二色でホログラムとして映し出されるそれらは全体を直感的に把握しやすく、私はかなり好んでいる。

 

(さっきの場所からすると……ここかな?)

 

あのスコープの反射。見られたのは一瞬ではあったが、大体どこに位置するビルかは見当がついている。

画面の上にそびえ立つ虚像達の配置から考えて、狙撃に適するスポットも限られるし。

 

(………!………なら、大丈夫そうだね)

 

このマップに映し出されるのは地形だけでは無い。自分や仲間の位置も、事前にペアリングする事で共有が可能になる。

 

点が一つ、睨んだ位置に向かっているのを確認して私は笑みを零す。

 

「どど、どうしよう!?このままじゃ埒が明かないよ!」

 

とはいえ、危険な状況には変わりない。ミドリちゃんの言う通り、向こうが用いる銃は対物狙撃銃に違いは無さそうだ。

壁に空いた穴が、何よりの証拠。

 

柱の陰へと隠れた私や先生は数発程度しのげるかもしれないが、モモイちゃんとミドリちゃんが今いるポジションは狭い机の裏。

貫通は必至であるし、撃たれるのも時間の問題だろう。

 

見渡す限り他のオブジェクトは役に立ちそうにないし、移動するならば距離からして私の今いる場所が最善手だ。10m近く離れているという点を除けばだけど。

途中には障害物もないし、無策で飛び出してしまえば終わりだ。

 

私はチェストリグにかけるグレネードを二つ片手に取り、うずくまる二人へハンドシグナルを送る。

 

ここへ来て、という意味だ。

 

「む、無理無理無理!!」

 

首を左右にぶんぶん振って拒否するモモイちゃん。対照的に、ミドリちゃんは私が何を持っているのか気づいたようで、深く頷いて応えてくれた。

 

「腹括りなよ、お姉ちゃん?」

 

「でもどうするのさ!」

 

ミドリちゃんは私の持つグレネードを指さした後、大きな声で叫んだ。

 

「レイヴン、お願い!!」

 

そう言われたら、嬉しくなってしまうのが私の性だ。

 

(オッケー!!)

 

手に取っていたのはいつも使用するコンカッショングレネードではなく、缶にほど近い見た目をした手榴弾。

そしてそれを二つ、等間隔になるよう狙って投げる。

 

「GO!」

 

「うそぉっ!?」

 

ミドリちゃんがモモイちゃんの背中を蹴り上げた瞬間、先程までそのビビットなピンクの耳が位置していた所のすぐ真下に風穴が空いた。

あと少し遅ければ確実に頭部へ被弾していただろう。

 

「あだっ!?」

 

「ほら早く!」

 

思いっきり地面に顔を打ち付けるモモイちゃん。そのドサッと言う音と同時に起きるアクションは、私の投げた手榴弾の起爆である。

 

しかし飛び散るは破片に非ず。

 

さながら忍具と言ったところか。その場に参上せしめたのは正しく煙。

そう、ただの煙そのものが突如として爆発音と共に現れ、私たちを包み込む。

 

煙幕手榴弾(スモークグレネード)が、使用された。

 

これならば、いかに優れた狙撃手とはいえそう簡単には撃てまい。

なんせ見えないのだから。

 

たちまちの内に辺り一帯から視界を奪う煙の中で、私は眼帯の暗視モードを起動。視界に広がるはモノクロに染まる世界の一面。

瞬間、濃煙へと駆け出し、足元が分からず半歩で歩く二人をすかさず両脇に抱える。

 

(軽ッ!?)

 

拍子抜けな感触にドキマギしながらもしっかりと、腰に手を回し─────ひとっ飛び。

 

着地する先は勿論、さっき私のいた場所だ。

 

「うわわっ!」

 

突然の無重力に混乱するモモイちゃんと対照的に、ミドリちゃんは信頼溢れる目で私を見つめながら、二人は離れないようにギュッとジャケットの裾を掴んでくる。

 

論理的には途中で撃たれることを警戒し、本音で言えば身の毛がよだつ感覚に従ってローリングを織り交ぜると……あわや一寸先になにかが横切り、刹那──────低速にて確認されたし。

 

予測は命中。しかし通らぬ。

 

やがて靴が地面をノックし、無事着地までの遂行完了を告げた。

 

怪我は………見た限り無さそう。

 

(二人共、よく頑張ったね)

 

わしゃわしゃと、震える二つ。金髪の髪を撫でて、可能な限り潰さぬよう抱きしめる。

恐怖に屈さぬ行いだと、断言出来よう。

 

ミドリちゃんの一歩なくして行動は進まず、モモイちゃんが訳も分からぬままに腕の中で暴れていれば、軸がズレてあの狙撃に被弾していた可能性もある。

 

………かなり危なかった。煙の中でもあそこまで正確に射抜いてくるとは。直感的に身を捩っていなければ直撃だっただろう。

 

二人からの絶対的な期待と信頼の証であることは嬉しいが────これが危うさへと変わる前に、離脱しなくてはならないというのが名残惜しい。

 

やがて身体を離すと、緊張感から一時的に開放されたのか、私含めた三者は頬に笑みを膨らます。

 

きっと………私無しでもあそこへたどり着けるだろう。

どんな相手であっても友達になろうという勇気と、自分の運命を共有するという信頼を持ち合わせるあなた達なら、必ず。

 

それに……この場にいる誰よりも必死だ。

 

しかし狙撃による脅威は冷めやらぬと思う矢先、突如大きな炸裂音が、窓ガラスを叩く。

爆発が外で起こっている。

次々と音の間隔は狭くなり、激しさを増していく。

奇しくもその方角はあの狙撃スポットと同一であり、つまりは──────。

 

「ウタハ先輩とヒビキちゃんだ!」

 

計算通り、これで道は拓けた。

スモークの中を的確に見通す感覚の持ち主が相手ではあるが、今は彼女たちのみが頼りだ。

 

「カリン先輩の相手をしてくれてる間に急ごう!」

 

ミドリちゃんが気づくのと時を等しくして、今度は別の方角から地響きが鳴る。

もつれそうな二人の足を支えてやると、明らかに状況として異常なそのエネルギーの波はここまで届き、モモイちゃんは地震ではないかと驚きを隠せぬ。

 

だが振り返った先の光景はそれを否定する。

 

ミレニアム校舎、その一室が爆発していたのだ。

しかも………かなりマズイ。

 

さっきまでの興奮が嘘のように消え、鉛を食うような重いなにかが、肩にずっしりと伸し掛ると同時に─────照明が消えた。

外から差し込むネオンに照らされるフロアはどこか、そんな予定外の事態に戦慄する私達の心を表しているようだった。

 

なぜならあそこにいたのはコールサインゼロスリー。

C&Cのブレイン担当────室笠アカネ、その人なのだから。

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと着きました……。こんなに息が切れるなんてまさか、本当に体重が……いえ、そんなはずは……」

 

脳裏に過ぎるは、まんまと私たちを騙したあの二人からの一言である。

メイド服の上からお腹をさすってみますけど……むむむ、いまいち分かりづらいですね。

 

「うわぁっ!」

 

「あ、アカネ先輩に戦闘ロボットまで!」

 

ここに来る道中と、このシャッターを開けるのにかなりの爆弾を消費してしまいましたが……まあいいでしょう。

その甲斐あって、押収品の機械兵達もやすやす通れるほどにぶち開けましたから。

 

「ふふっ、今度こそ【本物】みたいですね」

 

あの特徴的な耳と尻尾は目標に違い無さそうです。反応も良いですし。

二人を庇うようにして出てきた人物……レイヴンも、本人でしょう。あの眼差しは誰にも真似できませんから。

 

「それではあらため……初めまして。モモイちゃん、ミドリちゃん。そして、レイヴン」

 

ロングスカートの裾をふんわりと指先で持ち上げながら私は深く腰を曲げお辞儀を行う。

何事に置いても礼と挨拶は大事です。メイドであるならなおさら、歓迎しなくては。

 

そして顔を上げた時、彼女達の目にはより一層、私達と真正面から相見えようとする気概が冴えて見えた。

 

「マキちゃんとコトリちゃんについては、ギリギリ許せる範囲かもしれませんが……ここまで入り込んできてしまったあなた達に、もう言い訳の余地はありませんよ」

 

ほとんど脅しみたいなものですけどね。実際の所、この任務における被害はこちらで処理しますし、事故として扱われますから。

 

「それに……」

 

「先生も、シャーレに対する抗議文くらいは送らせていただきますのでご承知おきくださいね」

 

私の発言に続いてユウカが繋げますが、本当に内容通りの抗議文を送るかと言えば、多分これも無いでしょう。

 

「ううっ……、ここで、本当に……?嫌だ……っ!」

 

「お姉ちゃん……っ!」

 

そ、そんな涙目で見つめないでくださいモモイちゃん。まるで私達が悪党みたいじゃないですか。

レイヴンの方を見やると、なにやら微妙な表情でこちらでじっと見つめている。

顔に出てますよ顔に。

 

意外と表情豊かなんですよね、この人。

 

「ごめん、ごめんね二人共……先生もレイヴンも色々助けてくれたのに、私たちの力不足で……私たちのせいで……!!」

 

「諦めないで」

 

先生にこの作戦は知らされていない。だからその表情は至って真剣そのもの。投げかける言葉もです。

そうでなくては意味がありませんから。

 

「そうしたい、けど……もう無理だよ。前にはC&C、後ろにはミレニアムの生徒会……ミレニアムでもトップレベルに強力な二大勢力。こんな状況で、いったいどうしたら……!」

 

懐から懐中時計を取り出して時刻を確認すると、どうやらタイムリミットまでの残り時間はあと僅か。

捕まらずにやり遂げられるかと言えば……難しいでしょうね。

こちらには数の暴力がありますし。

 

──────と、その時。空気の流れが変わった。

なにか妙な音とともに、絶望とも言える雰囲気を吸い込みながら肥大していくようで。

 

集束というのが近いだろうか、まるで何かを充填しているような……。

 

「こ、この音は……」

 

「お姉ちゃん、伏せて!」

 

何が何だか、私には分からなかった。ただ、大きな出来事が起きようとしているのは分かるが、具体的な所まではユウカもアスナ先輩も図れなかった。

 

ならばこそ──────彼女は強みを発揮した。

 

 

 

「光よ!!」

 

 

 

視界全てを白い光が一瞬で奪い去り、轟く雷鳴が迸るハリケーン。

あまりにも大きな衝撃はエネルギーを滾らせ、周囲数百メートルに甚大な余波を残した。

直撃していなくてもこの威力、正に破格か。

 

「くっ!!」

 

「きゃあっ!」

 

逆流する疾風からスカートのバタつきを抑え、雷光を直視した目は瞼を閉じても変わらず焼き付く。

しかし状況が状況、やや痛みを伴いながら薄く開けていくと……壁面に叩きつけられた姿勢で、アスナ先輩が肩を震わせていた。

 

「あ、アスナ先輩!?大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫じゃないよー!あははっ、思いっきり当たっちゃった!何これめっちゃ痛い、頭のてっぺんからつま先まで今1ミリも動かしたくない!」

 

「……大丈夫そうですね」

 

とはいえアスナ先輩の言葉通り、今すぐに動くのは難しそうです。

近くにいただけで分かる必殺の一撃。ですが気絶まで追い込まれなかったのは流石でしょう。

 

「そんな、アスナ先輩と半分近くのロボットをまとめて行動不能に……!?た、たった一発で、この火力……!」

 

「カリン、状況を報告してください!今の砲撃はどこから……」

 

無線機を用いて問いかけるものの、カリンからの応答は無く。

 

「カリン、カリン!?そういえば、カリンの火力支援が止んで……いつから!?」

 

カリンの配置されたポジションは校内ビルの屋上だ。もしやと、嫌な予感が脳裏を過ぎり恐る恐るその場所に目を向けた瞬間。

 

一つの閃光が瞬いた。

 

「あの光……!」

 

間違いなく、あれは閃光弾。いくらカリンが視覚に頼らないとはいえ、目を潰されるのでは訳が違います。

 

そして気を取られた矢先、再度光の奔流が場を包み込み、私は咄嗟にその場から距離を取った。

先程よりかは威力が足りていないのを見るに、牽制射撃か。

 

次第に目も回復してきており、ズレた眼鏡と姿勢を共に直した頃……目の前に立つ影が一つ、増えていた。

 

「モモイ、ミドリ!レイヴン!今です!」

 

「アリスちゃん!?」

 

「どうしてここに!?」

 

数時間前に私達が捉え、反省室に閉じ込めたはずだった存在。

艶のある黒髪と身の丈に明らか合っていない得物を携えるその姿。

 

天童アリスが、そこにいた。

 

「生徒会の差押品保管室に向かう途中に、考えていました」

 

脱出の原因は多分、先程電源を落とされた事でしょうか。

エンジニア部の事ですし、EMPを用いたハッキングで解除したに違いありませんね。

 

しかし何故わざわざこちらに……?【鏡】が目的なら保管室へ向かうのが定石かと思われますが……。

 

そんな疑問に答えるかの様に、アリスちゃんは口を開く。

 

「【ファイナルファンタジア】【ドラゴンテスト】【トールズ・オブ・フェイト】【竜騎伝説】【英雄神話】【アイズエターナル】……そして【テイルズ・サガ・クロニクル】……どんなゲームの中でも、主人公たちは……決して、仲間のことを諦めたりしませんでした。なので、アリスもそうします」

 

──────なるほど。

 

「試練は、共に突破しなくては!」

 

落ち込んでいた二人の顔に意思の炎が再び、燃え上がる。信じた風を取り込み、より大きく、より激しく、加速度的に増大していく。

束ねられた火柱に当てられ、私の思考もやや火照ってしまう。

 

「アリスちゃん……」

 

「……うん、どうせこのまま頑張ったら全部終わり。行こう、ゲーム開発部の皆で!」

 

その輝きの素晴らしさは私もよく知っているつもり。ならばこそ、気合いも入るというものですが。

状況の悪化に反し、私個人としては澄んだ気持ち。

 

レイヴンの語る強さ────微かにですが、可能性はあるのでしょう。

 

「あはは、面白くなってきたね!けどまだ身体がビクンビクンしてて、まともに立てない!」

 

「アスナ先輩、それほんとうに痛がってます……?」

 

「っ逃げられる!」

 

「いえ、そうはさせません」

 

アリスちゃんの持つあのレールガン……でいいのでしょうか?それを戦力として数えるならば、こちらが不利になります。

しかし、当たらなければ良いのです、当たらなければ。

 

「アスナ先輩、出来るだけ後ろに下がっててください」

 

対してこちらの戦力は私とユウカ。後は生き残ったロボット達。

時間稼ぎには少し心もとありませんが、全力で当たるというのが礼儀であり、敬意です。

 

「見せてもらいましょうか……その繋がりが、いつまで続くか」

 

愛銃であるサイレントソリューションを構え、私はそう告げた。

 

 

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