今回は1万4000字位ありますよ。殆ど原作通りですが。
タグにアーマードコアつけてるのにあまり出てこないな……。でも、出さないなんて事しませんのでご安心を。
後、先生の影が日に日に薄くなってますね。今作では主人公ではありませんし……基本的に原作と同じムーブしてますので。
新着メッセージ 1件
送信者 室笠アカネ
件名 先日はありがとうございました。
お元気でしょうか?私は現在、入院中です。ああ、数日で退院出来ますし、別に恨んだりはしてませんのでご安心を。悔しい面はありますが。
同じ任務を共にした縁ですので、一つ伝えておきましょう。
リオ会長とヒマリ先輩によって考案された今回の作戦ですが、ネル先輩の推測によればどうやらアリスちゃんを"確かめる"意図があったようです。頭の片隅にでも入れておいてください。
それではまた、近い内にお会いしましょう。
──────
(……………)
先程アカネちゃんから送られてきたメールを読み終えた後、私は部室のクッションに腰を落とし、深くため息をつく。
(やっちゃった…………)
原因は………アカネちゃんの入院だ。見送る時の様子からも、本人は気にしていなさそうだったが……私としては非常に反省している。
そうまでしてしまった理由は、私がこの身体になって得た、戦いが長引くに連れて次第に暴力の加減が効かなくなってくるという特性だ。
これは決して意識の問題だけじゃなくて、この身体に備わった機能のような……いや、ただの勘だけど。段々と身体の主導権が力に移っていく感じ、かな。戦うこと以外の考えが難しくなってしまうというのが、近いかも。
それによってアカネちゃんに予想外のダメージを与えてしまった。
この特性に気づき始めたのがいつだったのかは覚えていないけど、その日から私はなるべく短時間で任務を遂行できるよう最善を尽くしてきた……そのはず。
もし、この力の高まりに飲み込まれたなら……それは私じゃないし。
過剰な力は、いらないよ。
もちろん戦いに痛みは伴うと、私は知っているし向こうも承知の上だ。しかし戦った相手が入院という─────リアリティを持った後日談がいざ来ると……やはり目を背けることはできない。
背けては、いけない。
足には未だあの嫌な感触が残っているし、右の拳を握ってみれば、変わらずギチギチと人工筋肉が唸りを上げる。
(もっと訓練………しないと)
限界を知らなければ、力のセーブも難しいだろうし。戻って来たらラナに伝えておこう。
まぁ…………そのプランは心に仕舞っておくとして、ゲーム開発部についてだ。
「……」
「……」
「……こんなに落ち込んだのは……【テイルズ・サガ・クロニクル】のプロトタイプをアップロードした時以来……」
なんとアリスちゃんを除いた三人は、目に見えて気分が滅入ってしまっていた。場の空気も、これ以上ないくらいに重い。
何か言うのも躊躇ってしまう位、重い。
かくいう私も、そこまで明るい気分ではないのだが……。
「あ、あの、モモイ……?」
「ふふっ、ふへへへへ、全部終わった!おしまいだぁ!!!」
「み、ミドリ?その、大丈夫ですか?」
「アリスちゃん、ごめん……今は何も話したくない気分なの……」
「えっと、ユズ───」
「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱……世界は今、破滅に向かって……」
皆が皆、口々に暗い言葉を呟く。モモイちゃんは半ば発狂だし、ミドリちゃんは会話の拒否、ユズちゃんは悪意に飲み込まれそうになっている。
この中だとユズちゃんが一番心配だ………。
(う〜ん………)
私に、彼女達の苦しみを完全に理解することは難しい。
どういった苦しさかは分かるが、どれほどの苦しみかは、完全に共有出来ない。
だから寄り添いたいと思うのが本心だけども……何とかなると、言ってあげたいけれども……それだけでベストとは言えないのもまた、私の思いだ。
「レイヴン………」
構って貰えないアリスちゃんは眉尻を下げ、小さな歩幅で私に擦り寄ってきた。
寂しいのか、それとも三人の抱える感情にまだ理解が及んでいないのか。
「わぷっ!」
それならば、私が構ってやろう。
私はアリスちゃんを素早く捕まえて胸元へと引き寄せた後、抱き枕のようにしてガッチリとホールドする事にした。逃げられないぞ。
多少は私もそういう気分だし、こうやって癒しを求めているのもあるけど……。
『ごめんね』
「えっと、私はあまり理解できてないのですが……」
仄かにシャンプーに匂いが残る髪を撫でられたり、儚くも細い身体を抱きしめられたりして素直に喜ぶ表情を見せながらも、アリスちゃんは疑問を呟く。
「もしかしてこの状況は、G.Bibleのせい、ですか?」
(あはは………)
まさかそうまでスッパリ正直に言うとは……そこも含めて愛らしい所ではあるが、それを受けてより一層強くアリスちゃんを抱える腕の力が強まったのは、色々と複雑な思いに起因するだろうね。
私は取り敢えず、ただそれだけに留まるけど。
「……」
「……」
だがその一言はかなりの刺激物だ。人間の心はなんとも難しいもので、それでもモモイちゃんとミドリちゃんの二人はなんとか濁流を押し止めようと四苦八苦している。
「えっと、G.Bibleは、嘘は言ってないと思いますが……」
「そ う い う 問 題 じ ゃ な い っ!!」
──────まあ、そうなっちゃうか。
抑えきれなくなったモモイちゃんは大きく叫び、それに驚いたアリスちゃんは私の中で小さく丸まってしまった。
誰も、悪くないのだ。だから私は涙目で震えるアリスちゃんの頭にそっと手を乗せる。
人間の心って、難しいから。
「いっそのこと嘘って言ってくれた方がまだマシ!」
嘆くモモイちゃんも、どうしたらいいのかわからず、ぐちゃぐちゃな顔と声で響かせる。
「うわああああん、終わった!私たちはもう廃部なんだ!ふえぇぇぇぇぇん!」
一体なぜこんな状況なのか……真相は二時間前に遡る。
──────
「ハ〜イ、ゲーム開発部のちびっ子たち!マキちゃんからのプレゼントのお届けだよ!」
明朗快活な声で突如として部室に転がり込んできたのは、赤い髪をお団子ヘアに纏めたヴェリタス所属の一年生である小塗マキちゃんであった。
「遂に!」
マキちゃんは握りしめていたUSBメモリを天高く掲げ、そのままゲーム開発部のPCへと勢いよく接続。
すると瞬時にロードが開始され、皆は今か今かとディスプレイに食いつく。
ミレニアムタワーでの一件から数日が経ち、全員ソワソワした気持ちでこの瞬間を待っていたのだ。
「ジャジャーン!」
そしてマキちゃんが両手を広げて示すと、画面には遂に待ち望んだ文言が表示された。
[G.Bible.exe……実行準備完了]
【鏡】を用いたG.Bibleのパスワード解除がようやく終わり、長らく不明であったその全貌が明らかとなるのだ。
「ようやく、G.Bibleが私たちの手に……!」
「遅れてごめんねー。【鏡】をセミナーに返すことになって、その件でちょっとバタバタしちゃって」
「ええっ、【鏡】返しちゃったの!?」
「実は、ヒマリ先輩は最初から全部知ってたみたい。それくらいあげてもいいから、これからはあんまり無理しないでって。えへへっ」
(言えない………私も知ってた、だなんて……)
私はそっぽを向き、あたかも関与していないふうに装った。この場にその事を知る人物はいないが、それが災いしてか心の痛みは拭えない。
半ば、エゴの為に周囲を振り回した気がしてならないから、というのもあるか。
つまみ食いを誤魔化す位の嘘が、私にとっては丁度良いのだ。
とはいえ嘘も様々な種類がある。もし、ある嘘によって誰かが幸せになるならば……それならば、その方がきっと良いのかもしれないけど。
「あ、それでね。G.Bibleを開いてた時にこの、<Key>っていうフォルダを見つけたの」
マキちゃんが画面を操作すると、確かにG.bibleだけでなくKeyと銘打たれたフォルダが確認できた。
他には何も入っておらず、これだけだ。
「何これ……ケイ、って読むのかな?」
「……ケイ?」
「【キー】でしょ!お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」
key……つまりは、【鍵】。鏡に続いて今度は鍵か。となると錠前もセットであるはずだけど……少なくとも現在私達の手元には無いね。G.bibleも既に開ける状態だし。
三種の神器みたいな……?いや、なんか違う気がするな。
鏡を通して鍵を手に入れたなら、鍵の次はなんだろうか。宝箱とかかな。
そういった、謎解きのプロセスではないかという妄想が一瞬思い浮かんでしまうけれど、別にこの二つの物に因果関係は無い……はず。
とはいえ、このアイデアは面白そうだ。ゲーム開発のヒントになるかもしれない。
「実は、こっちについては何一つ分からなくって。ファイルは壊れてなさそうだけど……私たちの知ってる機械語じゃ解読できない、信じられないような構成をしてる。今の技術より数十世代先を行く、遥かに高度な作りだとしか言えないね」
頬をポリポリと掻きながらマキちゃんは不可解な面持ちでそう語る。
「G.Bibleの方はきちんと開けたけど、こっちはちょっと見ただけじゃ何にも分からなくって。このKeyの事、何か知ってたりする?」
「いや、私たちも全然……」
モモイちゃんはあっけらかんとした表情ですぐ答えてしまったが、対照的にミドリちゃんは顎に手を当て、首をかしげながら考え込む仕草を見せる。
「まさか、あの時の……?」
恐らく、考えていることは一緒だ。廃墟で出会った謎のコンピューター。名前は確かディビジョンシステムだったか。
それが今の所最も有り得る線だろう。
「ふうん、何かあったの?ま、でも取り敢えず今はG.Bibleの方でしょ。<Key>についてはまた今度ね。時間があったら頑張って分析してみるよ」
ラナだったらこの機械語も読めたりしないだろうか。未知の技術を用いる人物なんてラナ以外に思い当たらないし。
「じゃ、間違いなく渡したから。またね!」
「マキちゃん、ありがとね」
「今度会う時は、秘書を通して連絡してね!なにせ私たちは、【TSC2】で大ヒットする予定だから!」
スケールが大きいね……。でもまあ、大きな目標を持つのはいい事。私としても、この子達の作るゲームには大きく期待を寄せているし。
断じて身内贔屓ではなく、作品として見た時に映るエッセンスは唯一無二だからね。
少なくとも、埋もれたりはしないだろう。
「あははっ、楽しみにしてるよ!」
今までの出来栄えを知ってか知らずか、ドアノブに手をかけたマキちゃんはそう告げて部室を後にした。
さて、ここまで来ていよいよ本命だ。
「あらためて……G.Bible、見よっか」
緊張というかなんというか。いざ見るとなると、どこか気合いが入ってしまうのか自然と皆が皆姿勢を整えて集まる。
「みんな知ってる通り、この中に何が入ってるのかについては、ほとんど誰も知らない。ただ最後にG.Bibleを見たと噂される、あるカリスマ開発者によると……【ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡】……って言われてる」
モモイちゃんは自信満々な表情で今まで自分のかけてきた思いを再度掲げる。
「私は、それが知りたい」
その一言にミドリちゃんが繋げた。
「うん……最高のゲームを作る為に」
「そう、それが出来れば、これからもみんなでこの場所にいられる」
居場所を守りたいと願う心。
それに私は再認識する。
この子達に私というアイデンティティが、どれほど惹かれたのか。なぜ惹かれたのか。
そして脳裏に過ぎるのは────ホシノちゃんや後輩ちゃん達の楽しそうな日常であり……また、積み重ねる奇跡と同義である。
(…………今、どうしてるかな……?)
どうか笑顔で、いてほしい。
モモイちゃんは、そんな考えを浮かべる私の顔を一瞥しながらも話を続けた。
何を思ったかは分からないが、その表情は真剣そのものである。
「もし失敗したら……ユズは寮に帰って、会いたくもない奴らに会わなきゃいけなくなる。それに、アリスは……」
口から出たのは最悪の事態について……。客観的に見れば世界が滅びるとかでは無いが、当人の主観的には、同じ意味にもなりうる。
過言であると誰かは呟くかもしれないが、それ程までに運命を左右するのだ、この件は。
「……もしものことは考えたくないけど、その時はきっと先生が、シャーレが助けてくれるよ」
(そんな捨て猫みたいな……)
ユズちゃんのことに関しては初耳だが、きっとその経験はあまり良くないものだし、アリスちゃんについての事もある。
拾った、という表現はいささか不適切だけど、こうして関わりを持ったんだからある程度義務は発生するし。
その面でも、こうした関係を維持し続けていくことは極めて重要だ。
「シャーレ……?先生と一緒なのは、とっても嬉しいのですが……」
予想外の発言に一同はずっこけた。まあ、今に始まったことじゃないが。
『そうじゃなくて……。なんていうのかな、今みたいに皆で集まるのが難しくなっちゃうの』
「ではアリスは……もうここに、モモイ達と一緒にはいられないのですか?」
『出来なくはないだろうね。でもきっと、それはまた別の時間。確かなことは言えないんだけど、多分……こうした、一途な時間は過ごせなくなっちゃうんじゃないかな?』
これには、ちょっとした実体験も混じっている。
私自身の、取り戻せない時間についての。
カイザーの元理事や大人達が語った事は正論だ。誰がどう見たって、その方が合理的で有意義だろう。現に、ほとんどの生徒や住民は全てを捨ててやり直した。
別にその事を咎めはしない。至極当然の行動だと、分かっているし。
でもそれだけで動かないのが、私……ひいてはホシノちゃん達だった。
なぜかと聞かれれば、少し難しい。私の場合、本気でアビドスの再生を諦めたくないという目的もあったが、それと同時にあの場所で過ごす瞬間が………。
きっと、ここでも─────。
「そんな事はさせない!私たちは絶対に、最高のゲームを作るんだから!」
心配な顔色を見せるアリスちゃんの肩を叩き、モモイちゃんは啖呵をきる。
「大丈夫、【TSC2】もアリスにとっての【神ゲー】になるよ」
根拠は無いものの、その顔は自信に満ち溢れ、見るものに安心感を与えるような、そんな顔だった。
『とりあえず、今は信じよう。アリスちゃん』
私は親指を立て、出来る限りの笑顔でアリスちゃんに真正面から向き直る。
どちらにせよ、やってみなければ分からないのだ。今はまだ、落ち込むには早すぎる。
次第に晴れていく表情を両目でしっかりと確認し、私は大きく頷いた。
「さて、それじゃあ……」
改めて決心もついた所でアリスちゃんがマウスに手を伸ばし、全部の準備が整った。
「始めよう、アリス!」
「はい」
カーソルは淀みなく、震えもせず目標を定め、迷わぬクリック音がその宣言と共に押され、息遣いのみであった部室に木霊する。
「G.Bible……起動!」
突きつけられた一言と同時にコンピューターのファンは唸りをあげ、ロードを終えた真っ暗な画面に私達全員の顔が映る。
やがて少しの待機を吹き込まれた果てに、ようやくそのデータは自らを明かし、言葉を紡ぎ始めた。
[G.Bibleの世界へようこそ]
「は、始まった!」
やや上ずった声色でモモイちゃんは零した。
[最高のゲームとは何か……この質問に対して世界中で様々な答えが模索され続けてしました。作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。そういったものが最高のゲームの【条件】として挙げられることは多いですが、それらは全て、あくまで【真理】の枝葉に過ぎません。]
瞬きする事も忘れ、文を読み込むスピードもまるで古代文字の翻訳かの様にゆっくりと、だが着実に脳へと染み込んでいく。
[最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。そしてこのG.Bibleには、その真理が秘められています。]
「い、いよいよ!」
「何だかすごそう……」
[最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法……それを今こそお教えしましょう。]
……
…… ゲーム を 愛しなさい
「おお……オープニング、みたいな感じかな。それっぽい」
「そ、そう?」
ゲームを愛しなさい
「……まさか、これで終わり……じゃ、ないよね?」
『いやそんな』
「な、何かバグってるんじゃないの……?」
「ちょっと待って!」
声を荒らげたモモイちゃんは半ば強引にマウスをひったくり、急激に青ざめた顔で目線を様々な方向に動かしながら操作する。
「ええっと、設定変更はどこから……」
黒い一色の背景に隠れていて気づかなかったが、よく見ると右下に小さく矢印が埋め込まれている。
モモイちゃんは一瞬安堵したような表情を見せた後、すかさずクリック音が短く鳴らされた。
[あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう。]
「あっ、やっぱり!このまま終わるはず無いよね!」
こちらを振り返るモモイちゃんの顔には、そうであって欲しいという、藁にもすがる思いとやらがベッタリと張り付いていた。
私には─────分かる。いや、薄々分かっていた。
なぜなら慣れっこだから。
こういう、事には。
このパターンなら、という経験に基づく推察。
だから最初に私が思ったのは、そのことに対しての怒りだとか、悲しみだとかよりも……この子達に向けて無造作に突き返された非情な答えへの……いや、虚しさへの疑問だった。
額に汗を滲ませながらも、再度モモイちゃんは不条理な画面へと視線を移す。
移してしまう。
[しかし、エラーではありません。]
それが眼に映されてしまえば、絶望の二文字が焼き付いてしまうのは、必然だったのだ。
「嘘ぉ!?」
となれば、私達の脳のパフォーマンスはガタ落ちする。受け入れる事を拒む為にそうしているのかは分からない。だがこの機能のせいで私達はゆっくりと苦い味を噛み締め、暗い感情を腹の底に貯めていかなければならない。
私でさえ、この心臓に穴が空く感覚と血管が凍りつく感触。伴って起きる謎の温度差からの目眩と………吐き気。
決して慣れやしない。
またかと思えども、諦めきれない私の性分だからかもしれないが。
精神は身体と密接にリンクしている。これは医学的、科学的にも証明済みであり……つまりは、そういうことになる。
[残念ですが、これが結論です。]
オマケとばかりに追撃を刺され、更に暗い影が落とされてしまう。
陰りが現れてしまう。
[ゲームを愛しなさい!]
感嘆符がこれ程嫌味ったらしく見えるのは人生でも数少ないだろう。
神経を逆撫でするような無神経極まりないその文言に、私は不理解を叩きつけた。
「そ、そんなはずはない!きっと何かエラーが……!」
「ファイルの損傷とか修正も見当たらない……最後の転送情報、ファイルサイズ、それにデータ構成も問題なし」
肩の隙間からひょっこりと現れた赤い髪が視界の隅に揺らめく。
「そ、それじゃ、本当に……」
ユズちゃんは打ちのめされていた。猫のように大きくぱちくりとしていた目は一点を見つめて動かず、手は震え、赤みのかかっていた頬からはすっかり血の気が引いてしまっていた。
正しく、顔面蒼白であった。
「こ、これで終わり!?」
モモイちゃんの言う通り、あまりにもだ。
あまりにも呆気なさすぎる。
たちが悪く、陳腐すぎる、子供騙しと言っていい仕掛けだった。
「………お」
「お姉ちゃん……私たち、何か悪い夢でも見て……」
言ってあげたい。あなた達は悪夢を見ているんだって。
目が覚めたらそこには求めたG.Bibleがちゃんと存在してて、ゲーム作りの助けになってくれる物だったって。
でもこれは………文面が示すとおり、現実で、どうしようにもない結論である。
信じたくない、真実である。
「終わりだああぁぁぁああ!!」
──────
「あの、モモイ……デイリークエストしないのですか?いつも、【デイリークエストより大事なものなんてない】と言っていたのに……」
「アリス……私のHPはもうゼロだよ……」
「えっと……」
そんなわけで今に至る。
時間もいくらか経ち、更にはこうしてアリスちゃんを抱えているお陰もあってか、私の精神状態はほとんど正常に戻り、ある程度現実を受け入れられるようにはなった。
しかし、他の三人はまだショックを受けたまま立ち直れずにいる。
別にそれは悪いことじゃないし、傷を受けたならば治すのに時間がかかるのも当たり前だけどね。
でも本来、彼女達は騙されてもいい存在なんかじゃないはずだ。そもそもそんなのいないし。
与えられるべきはきちんとした報酬であり、今回の場合はG.Bible。もとい最高のゲームの作り方。
けれど……そんなのは無かった。
それは一体どれほどの苦しみだろうか。
なぜそんな物が与えられなくてはならないのか、私には分からない。
彼女達には頑張りへの報いがあって当然だと、私は断言するが……同時に思う。
私なら────何とかできたんじゃないかって。
私の経験を用いれば、そういった過剰ともいえる期待を与えずに済んだんじゃないかなって思ってしまうけど、そんな思いも……なんだか違う。
多分───結果論と言うやつだ。
【もしかしたら、嘘かもしれないよ?】だなんて、私は言わないし言えない。
私という人物が、そういうものなのだ。
虚構や空想、夢を諦めたくない、意地っ張りな人。
ならばきっと、嘘じゃないかと思って探ったとしても……私は私の信じる所へ変わらず進み続けるに違いない。
だから考えるだけ、無駄。
私が私である限り、この結果は必然だっただろうし……。
けど、そう分かっているとはいえやはり拭えないのがジレンマ。
三人がこの結果を受け入れない限り、私はソレを引き起こした自分自身を許せやしない。
的はずれな追求だとしても、だ。
──────ホシノちゃんも、あの時こんな気持ちだったのだろうか?
「ミドリ……?」
「ごめんね、アリスちゃん……知ってたけど、現実ってこういうものなの……そう、つまりこれがトゥルーエンド……ハッピーエンドとはまた別の到達点……」
「………」
「レイヴンも……ごめんなさい。ここまで付き合ってもらったのに……」
『良いの、私が望んで選んだんだから』
俯いて座り込むミドリちゃんに肩をピッタリくっつけ、頭と頭がコツンと触れ合う程に隣り合う。
『この前のミレニアムタワーでの事、まだ覚えてる?』
「……はい」
『私ね、嬉しかったの。私が居なくなったあとでも、ミドリちゃん達が折れずにいてくれてた事が』
「それは………その……レイヴンがああまでして戦ってくれてたので……当の私達が頑張らなきゃ、どうするんですか……」
あの時、私とアカネちゃんが離脱した後。
三人はユウカちゃん以外にも、復帰したアスナちゃんと同時に戦い……そして無事に当初の任務を果たした。
全員が、帰還することに成功した。
『そうだね。全くもって、その通りだよ。ミドリちゃんの言う通り。あなた達は自分に出来る精一杯のことをしたの。私の力に頼らず、ね』
【他人の力を頼りにしないこと】
これは一種の教訓である。
だが決して、【他人の力を借りるな】という事ではなく、【自立心を忘れるな】という意味である。
私は過去、ホシノちゃんの力に頼りすぎるあまり……あそこまで擦り切れてしまう位に追い詰めてしまった。
その事を悔やむ思いから得たのが、この考え。
とはいえ、そこから加減を知らずに無茶をした結果が今の状態なんだけども。
「でも……これじゃ………」
ミドリちゃんの声は、震え始めていた。真面目なこの子の事だから、申し訳なさや罪悪感によるものだろう。
私はそっと、その顔が誰にも見えないよう胸で隠した。
(大丈夫だよ。誰も、悪くないの)
ふと、私は考える。一体この噂がどこから来たのか。どのようにして考え出されたのか。
もしかしたらきっと、本当はただの冗談から生まれたデータだったのかもしれない。
それが人伝いに語られていくにつれて形を少しづつ変えられ……いつしか、元の姿を失ってしまったのだと。
本当は、誰かを笑わせるものだったはずが、ね。
なんともまあ、甘い考えなんだろうけど……私には、特定の誰かが絶対に悪いだなんて考え続ける事は難しいから。
私は、そういう事にしておいた。
「ユ、ユズは……ユズはどこに?」
「多分、またロッカーの中に引きこもってるんだと思う。よく見て、ロッカーがたまにプルプルしてるでしょ?」
モモイちゃんが指さした先では、言葉の通りロッカーが時折物音を鳴らしながら揺れていた。
「今のみんなの姿は……まるで、正気がログアウトしたみたいです」
「うぅ……」
私にはプログラミングは出来ない。イラストも、簡単なのしか描けない。シナリオは……書いたことないから分からないけど。
この状況を打開する力は持ち合わせていなかった。
「仕方ないじゃん、最後の手段だったのに、それが、あんな誰でも知ってる文章が一つだけだなんて!釣りにもほどがある!」
モモイちゃんは泣き叫ぶ。
感情をさらけ出すのが上手な子だから。
「知ってた!世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手くいくような、便利な方法なんか無いって!でも期待ぐらいしたっていいじゃん!うああぁぁぁんっ!」
私に、無力感という数倍の重力がより強くのしかかってくる。
「はぁ……ごめんね、アリスちゃん……やっぱり私たちは……G.Bible無しじゃ、良いゲームは作れない……」
ミドリちゃんの呟き。諦めともとれる自己否定の一言。
──────それは、違う。
絶対的なNOという返事が瞬時に即決した。
考える間もなく、条件反射的に。
「……いいえ、否定します」
だが何よりも、私よりも早くその事を伝えたのは、いつの間にかミドリちゃんの正面に立つアリスちゃんだった。
「アリスは【テイルズ・サガ・クロニクル】をやるたびに思います」
アリスちゃんは腰を落とし、ミドリちゃんの頬に触れてゆっくりと首を自分の方へと向けさせた。
光を多く反射する、うるうるとした翠緑の瞳に純粋な蒼が覆い尽くす。
そしてその奥に……隠れているものに、押し込められているものに、直接届くようハッキリと口に出す。
「あのゲームは、面白いです」
「え?」
視線を交わしての、他者からの肯定。
少しだけ顔を出したソレは、か細いこえで鳴いた。
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームを、どれだけ愛しているのかを」
アリスちゃんはTSCの開発に携わっていない。
だからこそ、だった。
「そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると…………胸が、高鳴ります」
そうして浮かべる笑顔は、嘘偽りない誠から出る行動。
完全な第三者からの、情動。
「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」
自分のもたらした結果が見せる、報い。
アリスちゃんの言うことから推察するに、きっと─────彼女は夢を見ない。知ってはいても感じることができない。
感じられないものは、存在すると言えるだろうか。
しかしTSCは彼女に夢というものを教えた。
それは不理解の虚構から、認識できる真実への転換。
夢への拡大解釈。
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです……この夢が、覚めなければいいのに……と」
相互理解への一歩は今、アリスという存在によって、自らを受け入れる鍵へ──────昇華した。
「アリスは、そう思うのです」
晴れ晴れとした笑顔に、皆は顔を向け、光を浴びる。
自らの起こした火による、受け取るべき温度。
「アリス……」
「……」
「ってうわっ、ユズちゃん!?いつからそこに!?」
「【テイルズ・サガ・クロニクル】の話が始まった時から……」
「最初からいたの!?」
ユズちゃんのスニークスキルは、計り知れないポテンシャルであった。
さすがは別行動による保管室への単独潜入を成し遂げただけのことはある。
「……作ろう」
「え?」
誰よりも早く立ち直ったのは……ユズちゃんだった。
眉と目つきはキリッと整い、見ているこちらにも敢然たる意思が燃え上がっているのが分かる。
「わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。でも、わたしが初めて作った【テイルズ・サガ・クロニクル】のプロトタイプは……四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって……」
すぐにそれは見えなくなってしまったが……消えたわけじゃない。
「それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……」
両手の人差し指をつんつんと合わせ、頬に赤みが戻る。
恥ずかしさ、だろうか。
けれどもユズちゃんは決して臆せず、震えながらでも伝える事を──────選んだ。
恐らく、尊ぶべき強さである。
「二人が、訪ねてきてくれた」
──────
[これがゲーム?]
[これを作った人の頭の中、逆に気になる……]
[それはさすがに脳みそ……って言おうと思ったけど、本当に入ってるのか怪しいね]
[ゲームのことをよく知らない人が作ってない?]
[身の程を知った方が良い]
[これはゲームなんかじゃない、ゲームによく似たゴミだよ]
「うぅ………」
明かりは、付ける気にならなかった。カーテンも既に閉め切っていた。
「やめて……ごめんなさい、ごめんなさい……」
諦めの悪さだろうか。
画面を閉じてしまえば、いいのに。
「もうお願いだから……許して……」
頭を抱え、毛布を被り、パソコンからなる電子音をシャットダウンしようと……外界から完全に情報を遮断しようと、私はうずくまる。
止まることの無い、剥き出しの悪意が自分の生み出した存在……ひいては私自身をも蝕む。
全てが、怖かった。
誰とも、会いたくなかった。
みんな、私をそういった目で見ている気がして……落ち着かなかった。
TSCは、私そのものだ。
私が良いと思える、好きだと思えるゲームの要素を全て詰め込んだ、
私という存在を構成するものの、生き写し。
多少の批判は覚悟の上だったけど……これ以上は、耐えられなかった。
私には創る才能はないんだって─────世界が告げた。
私の宇宙は……崩壊寸前。
そんな時、完全な外。つまりは部室の前、そこから私の扉へと何かを叩く音がした。
「ひぃっ!」
飛び上がった。
本当に、飛び上がった。
遂にはこの現実世界にまで追いかけてきたのだと思った。
終わりを報せる音だと思った。
「だ、誰……?」
喉は狭かった。空気がひゅう、と鳴らし、声と言うにはあまりにも弱々しすぎた。
長らく使っていなかったから、機能を失いかけていたのだ。
「えっと、ここって【テイルズ・サガ・クロニクル】のプロトタイプを作った、ミレニアムのゲーム開発部で合ってますか?」
「な、何……っ?今度は、直接……?」
毛布の隙間から見る、扉の先。
そこに誰がいるかなんて、分からなかった。
けれど、こんな場所にくる人物なんて……私の知り合いにはいない。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……!もう二度とゲームは作りません、だから許して……!」
また毛布のシャッターを勢いよく下ろし、引きつった声で訴える。
書き込みによる誹謗中傷では飽き足らず、私だけの居場所へと入り込もうとする悪意を心から拒否した。
「えぇっ!?」
「何言ってるんですか、こんなに面白いのに!プロトタイプだけ作ってやめちゃうなんて!続き、凄い気になってるんですよ!?ここまでワクワクさせておいて、そんなの無しでしょ!」
けれど送られてきたのは、決して私を否定するような罵詈雑言のメッセージではなかった。
必死で丸まり、背を向けていた扉の先から、それはやってきた。
「…………ぇ?」
思わず、零れた。
心からの疑問であった。
今までにない初めての感触であり……例えるなら、柔らかかった。
面白い──────だなんて。
そりゃ、自分の作ったものを自分で面白いと思うのは当然だ。
でも目の前の、私のことを知らないはずの誰かが、そう言った。
「【テイルズ・サガ・クロニクル】、すっごく面白かったです!」
「お姉ちゃん、徹夜でやってたもんね」
よく分からなかった。
けれどもっと、近づきたかった。
わたしは毛布を被ったままゆっくり扉の近くへと、のそりのそり進み、縮こまった首を伸ばした。
「ミドリだってニヤニヤしながらプレイしてたじゃん!もともとゲームにそんな興味なかったのに!」
「え、う、うーん……確かに、ドットだけどキャラとか凄い可愛かったし……」
「ほらね!って、そうじゃなくて……!とにかく、あの!失礼します!」
準備もつかぬまま、こちらの事情も鑑みずに押し入ろうとするアグレッシブ。
突然の事態相手に、自分が対面する体裁を整えるべく、急いでぐしゃぐしゃの顔面を腕で拭おうとした所で、扉は私を待たずに勢いよく開く。
その音にビクついた私は、思わず毛布を手放してしまった。
「あなたがUZ様!?」
毛布が床に落ちる音と同時に、かき消すようなハツラツとした声で目の前の生徒は言う。
「っえぁ…………あ、はっ……はい……」
「ファンです!」
「私も、ミドリも!UZ様みたいに、面白いゲームが作りたいです!」
扉、毛布という二重の壁越しでくぐもっていたせいで認識出来なかった、もしくは、それほど心の余裕がなかったのか。
私の居場所に踏み込んできたのは、満面の笑みを浮かべる二人組であった。
そしてその目の輝きは──────何を隠そう、私が創り出したものだった。
二人組……姉妹だろうか。
小さな両名の手に握りしめられていた入部届を確認し、巡り巡った優しさは新たな色として私の宇宙を……広げた。
──────
「……それで、二人が来てくれた。一緒にテイルズ・サガ・クロニクルを完成させて……今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど……」
「うっ……」
「……」
「その後、アリスちゃんとレイヴンが訪ねてきてくれて……面白いって、笑えるって喜んでくれた。それで、私の夢は叶ったの」
(そっか………)
モモイちゃんたちからユズちゃんへ、そして次はユズちゃんからゲーム開発部のみんなへ。
「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が」
優しさの、連鎖。
紡いで、繋がれて来た想いたち。
信じることで生まれる心の、輝き。
「………」
「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい」
「ユズちゃん……」
その発言を受けた私はユズちゃんの方へと一歩一歩、距離を縮める。
私が思ったことの為に。
思い返してみれば……ユズちゃんと正面からこうやって話すのは、初めてかもしれない。
紫のかかった青い眼に、私の……私の持つ黄金色が反射して、燦然とした光が──────蘇る。
『良いんだよ、欲張って。いっぱいいっぱい、欲張っちゃって良いの。だってさ、誰かを幸せにしたり……楽しい気持ちにさせたり……そういう事が出来るって、とっても素晴らしいんだよ』
「あぅ………」
『だから、ユズちゃんが皆を信じ続ける限り、諦めない限り、それは終わらない。きっと……無限にね』
私は親指をぐっと立て、深く頷く。
『夢は見るだけじゃなくて────追いかけるモノでもあるから』
「…………」
『大丈夫!G.Bibleがなくたって、精一杯やれる事をやれば良いんだよ。あなた達なら、出来るはずだから!』
ユズちゃんも、口元に少しの笑みを浮かべながら……浅く、だがしっかりと頷いてくれた。
その返事に、私も頷き返す。
「………ねぇ、今からミレニアムプライスまで、時間どれくらい残ってる?」
「お姉ちゃん……!」
「6日と4時間38分です」
「……それだけあれば十分。どうにも諦めきれないし……それに、私たちはC&Cとセミナーに勝ったんだよ!レイヴンの力無しでも……!」
立ち上がったモモイちゃんは自らの両頬をパチンと激しい音と共に叩き、鼓舞する。
腹の底からの叫びが伝播し、全員の燻った燃え殻に─────火をつけた。
「さあ!ゲーム開発部一同!【テイルズ・サガ・クロニクル2】の開発、始めよう!!」
その熱気に当てられ……全てを燃やし尽くす勢いを持つ意思の螺旋が部屋中を覆い尽くし──────私達は、また一つ積み重ねた。