戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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竜に挑むは、騎士の誉れよな……

 

 

「逃げ切れるとでも思ったか?」

 

ミレニアムの旧校舎内にて、私達のリーダーは視線の先で最後のドローンを撃破したゲーム開発部の面々へと声高らかに告げ、同時に不意打ちの発砲を行った。

 

二丁のSMG……ツイン・ドラゴンの矛先はミドリちゃんを指定。

一点集中の弾丸の嵐は正確に向かうものの……。

 

「……チッ!」

 

瞬時に黒い影がミドリちゃんを掴み、すかさず共に宙へと舞ったことでギリギリ回避されてしまった。

 

「言ってた通りだな……」

 

その黒い影とは、何を隠そう私を病院送りにしたあのレイヴンである。

レイヴンは地面へ静かに着地すると、掴んでいたミドリちゃんを背中へ回し、庇うような姿勢を取った。

 

それを受けて私達C&Cの存在に気づいたゲーム開発部一行は表情を引き締め、手に持つ火器を向けてくる。

一、二、三、四、そして五人目。

今回は全員いるようで何より。

 

「なるほどな……アイツの存在もあるだろうがそれ以上に、ここまでいちいち良い判断を下してきた原因……」

 

そして、その五人を統率する存在もしっかりと同席している。

 

「さっきこのチビたちを指揮したのも、ミレニアムの差押品保管所を襲撃したのも─────あんただったか」

 

リーダーが真っ先に目をつけた相手は、タブレット片手に若干困ったような表情を浮かばせながらも、首を左右には振らなかった。

意味するところは、肯定である。

 

「名前は確か……先生って呼べばいいんだったな。アカネが調査した、例の【先生】……まったく噂通りだ」

 

「どういう用件?もしリベンジとかなら……」

 

「はっ!んなくだらねぇ理由で来るわけねぇだろうが」

 

先生の問いをリーダーは鼻で笑い、先程よりも大きな声で答える。

くだらない理由と蹴飛ばされてしまったが、私としてはちょっぴりリベンジしたい気持ちはある。

しかし……前回あれ程の力量差がある事を思い知ってしまった。

故に、暫くそれはお預けである。

 

「強いて言うならまずは……そこの、デコ出してるあんた」

 

リーダーが右手に持つ銃で指したのはユズちゃんだった。

 

「あの時は、よくもあたしを騙してくれたな……」

 

「ひぃっ………!す、すみません!」

 

あの時、というのはミレニアムタワーでの一件。

簡潔に言うと、何も知らされていないリーダーに差押品保管所で遭遇したユズちゃんが咄嗟の嘘で誤魔化し、切り抜けた時の事である。

 

ユズちゃんは怒られると思ってか身を震わせ、顔色を悪くするものの……あいにくリーダーがそんな器でないことを、私達は知っている。

 

「やるじゃねぇか、褒めてやるぜ」

 

「……え?」

 

「怯えたフリをしてプルプル震えながら、あたしを騙すなんてな。大した演技力だ」

 

……私の見る限り、その怯えは演技ではなさそうですけど……多分。

しかし、度胸がある事に違いは無い。

 

「そんで次……良いジャケット着てるあんた」

 

レイヴンは呼ばれたことに気づくと自らを指さし、首を傾げる。

どこか嬉しそうな表情に見えるのは気の所為だろうか?

 

「聞いたぜ?あんたも依頼達成率100%で、しかもうちのアカネをシバいたって話をよぉ……」

 

レイヴンは、何も言わなかった。

いや、言いたくても言えなかった。

会話用のツールは、こういった状況で扱う事が困難なのだろう。

相手と距離も空いてるし、リーダーが今の昂った状態でそう大人しく画面を見てくれる訳ない。

 

「さっきの動きを見た限りじゃ、それもマジな話らしいな……あ゛?」

 

リーダーはガンを飛ばしながら低い声で唸るも、レイヴンは特に怯える様子は見せない。

流石に傭兵だから肝が座っているのか。

 

「確かに骨はありそうだが……"今"じゃねぇ。あたしがここに来た目的は……そっちのバカみたいにデケェ武器持ってる、あんただ」

 

デケェ武器。

そんなのを装備しているのはこの場に一人しかいないのだが……肝心のその人物はキョロキョロと辺りを見回すばかりで、まるで気づいていない。

 

「あんただよ、あんた!」

 

「アリスのことですか?」

 

「そうだ、てめぇには用がある。C&Cに、どデカい一発食らわせてくれたらしいじゃねぇか……?ちっとツラ貸せや」

 

それを言うならレイヴンも当てはまるでしょうけど……レイヴンとアリスちゃんには決定的な違いが。

それは、経歴。

レイヴンには傭兵として活動してきた実績が明確存在し、ある程度強さへの根拠があります。

しかしアリスちゃんには、それが無い。

全くもっての白紙。

リーダーがアリスちゃんをメインディッシュに選んだのは───そこが理由でしょうか。

 

「あ、アリス、このパターンは知っています。【私にあんな事をしたのは、あなたが初めてよ……っ】。告白イベントですね?チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です」

 

「ふ、ふっざけんなこの野郎っ!ってか、だぁれがチビメイド様だ!?ぶっ殺されてぇのか!?」

 

リーダーは顔を赤面させながら地団駄を踏み、カミナリを落として訴えた。

廊下中にその怒りは広く響き渡り、心臓までをも揺らすように感じ取れる。

 

「ひっ……!」

 

「こ、怖っ!!」

 

アリスちゃんは恐怖に飛び上がり、モモイちゃんは直球な感想をこぼす。

その事を否定はしない。ネル先輩は確かに険しい人相ですし、発言や性格も乱暴で高圧的。

怖がられるのも良くあること。

しかし────部長、美甘ネルがそれだけの人物であるなら私……いや、私達C&Cはここに留まっていない。

 

「けっ、なかなかイラつかせてくれるじゃねぇか……まあ良い。誤解してるかもしれねぇから一応言っとくが、別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ」

 

先程の怒りと羞恥はどこへやら、リーダーは速やかに切り替え、至って冷静に話し始めた。

 

「あちこちに怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちで、あたしらを相手に目標を達成しただけ……別にそこに恨みはねぇが……俄然興味が湧いてきてな」

 

「興味……?」

 

「確認、って言った方が正しいか?この場合は……チッ、上手く言葉が出てこねぇな。まあ良い」

 

リーダーは真っ直ぐ、アリスちゃんだけを見据えながら両手に携えるツイン・ドラゴンを向けた。

前傾姿勢から腰を落とし、地面へと足を食い込ませるその姿は陸上競技のスタートダッシュに近しく、今にも飛び出すことは必至である。

 

「要は、手合わせだ。あたしと戦って勝てたら……このまま大人しく引き下がってやる。お互いを理解するには、これが一番手っ取り早いからな」

 

勝ち気な笑みを浮かべ、いざくる闘争というコミュニケーションへの期待が膨らむ。

美甘ネル───コールサイン:ダブルオーとは、そういう人物である事もまた真実なのだ。

 

私達三人は、それに巻き込まれぬよう脇に退くことにした。

邪魔してしまうのは本望ではない。

 

「どうだ?難しい話じゃねえだろ?」

 

「……分かりました」

 

「お、やる気満々と来たか」

 

考える素振りは少し見せたものの、意外にも素直にアリスちゃんは了承した。

それが自信から来るものか、はたまた別の何かなのか。

私には図りかねますが。

 

「一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね、理解しました」

 

「イベ……なんだって?」

 

「あの時は狭かったですし、【鏡】を持って帰るという使命がありました。ですが今なら……!」

 

するとアリスちゃんは即座にレールガン……スーパーノヴァ、でしたっけ?それを構え、同様に腰を落とすものの、逆に床へと足を杭のように固定した。

リーダーが変幻自在を可能とする攻めの姿勢を取ったのに対し、アリスちゃんが選んだのは一点集中の固定砲台。

 

まるで正反対の戦いであり────行く末がどうなるかは、時間の問題だ。

 

「行きます、魔力充電100%……!」

 

「ちっ、こいつは……!」

 

充電の名の通り、チャージ。

既に暖機運転を終え、好調なアイドリングを流していたモーターのコイル。

アリスちゃんが引き金に指をかけ、ゆっくりとだが着実に力を掛ける。

するとどうだ、コイルの回転数に比例して大気を揺らすこの高鳴り。

二つの音が、聞こえるだろうか?

リニアに、滑らかかつシルキーな音。

それだけではなく、電光!スパーク!

スーパーノヴァのレール周辺を飛び交う細かな放電現象はいわば余剰エネルギー。

機関部根元から段階的にレール先端へと進行していくその小さな雷達は並の如き変化の音を奏でていきながら、合間合間の感覚を狭めるカウントダウンだ。

 

遂に全てへと電磁を纏い、かつ、駆動は咆哮を限界まで上げた時。

この場に宣言される。

 

 

「光よ!!」

 

 

 

今迄に見た事のない光量。

雷が目の前に落ちたとしても、ここまでは行かないだろう。

フィクションだと思うレベルの真っ白な光が現れた。

 

狙いはリーダーだと完全に分かっていた。

あらかじめ脇にどいていた私達は避ける必要も、無かったかもしれない。

しかし、だ。

私達三人は壁へと身体を限界迄擦り付け、その被害範囲に1mmも届かぬよう必死であった。

事実、私の10cm手前の床は一直線かつ完全に抉れ、衝撃波が窓ガラスを全て突き破り。

放たれた光の弾丸を受けた壁面は跡形もなく消滅していた。

その壁面に瓦礫は存在せず、全てが塵へと変化。摩耗していた。

削り取られたのだ、それ程までに。

 

「くっ!」

 

「わぉ!」

 

続いて、破壊の副産物である煙たちが私達の視界を遮り、ひび割れた天井から滴る火花がアクセントを加える。

間違いなく完全威力の発揮に────戦慄が走る。

 

「校舎の壁を、こうも簡単に消し飛ばすほど……!」

 

なんという、業。

いや、技。

必殺といって差し支えぬ圧倒。

 

「す、すごい……」

 

「こんな火力、見たことない……」

 

「……やったか!」

 

「アリスちゃん!そのセリフは無闇に言っちゃダメ!」

 

「あ、ネル先輩は3年生でした。言い直します」

 

これで放った本人が平然として談笑しているのだから、温度差に風邪をひきそうになる。

そう簡単に出すべき火力では無いし、いくら地面に身を固定しショックに備えたとて、まさかあれ程の、想像するだけで吹き飛びそうな反動をものとしないとは。

 

力ある者、素養がある。

卓越、逸脱した能力の持ち主。

さらに立ち回りと空白の経歴から鑑みるに、恐らく先天的に戦闘適性の優れた存在。

 

 

 

 

「いや、敬語の問題じゃなくて……」

 

「まだだよ」

 

 

 

もっとも──────それは、リーダーも同類であった。

 

天井付近から煙越しに、倍返しだとばかりに浴びせられる銃弾の雨あられ。

振られたアリスちゃんは横へ回避しようと脚を動かすものの、既にそこへ予測された被弾。

更に避けようと今度は逆方向にステップを刻むが、これも既に予測済みであり……まるで追尾するような弾丸が一足早くアリスちゃんの身動きを封じる。

回避に徹すれば徹するほど、まるで罠に誘われたが如くダメージが蓄積していく。

一発一発の威力は低くとも、連続で何度も受けてしまえば脅威になりうる。

 

結果として、八割近くの集中攻撃を受けたアリスちゃんは体勢を崩し、その場に膝を着く羽目となった。

 

「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……ただ、それだけだ」

 

身に纏っていた煙塵のベールを置き去りにし、リーダーはぶら下がっていた天井から地面へと軽やかに着地する。

肩にかかった煤を払いながら浮かべる表情は不敵であり、ダメージゼロという事実を無情にも突きつけた。

 

「も、もう一度、魔力を充電……!」

 

「通るかよ」

 

静かにそう呟くと、リーダーは地を蹴って真正面から懐へと飛び込んだ。

その速度は瞬間移動かと見紛う程であり、反作用でスタートの踏み台にされた地面が大きく捲れ上がって、小さな破片が私の頬を掠める。

 

「ッ……!」

 

突如として目の前に現れたリーダーへ反応を見せるアリスちゃんだが、もう既に遅く。

部長は居合を発展させたような身の丈半分に満たぬ位の前傾姿勢から起き上がると同時にアリスちゃんの胸倉を掴み、そこから宙へと投げ飛ばした。

 

ここまでの流れは一秒にも届かず、無重力の感触へ急に触れたアリスちゃんは驚きと悲鳴の声を漏らす。

更にそこへリーダーもアリスちゃんが地面に落ちるより速く、同じ高さまで飛翔した。

空中で防御の姿勢を取ろうと腕を前に持ってくるものの、ここで手に持ったままだったスーパーノヴァの重量が仇となり、思うような姿勢には至れない。

それでも、来ると予測された追撃に対象すべく、空いた片方の腕でなけなしのガードを行う。

 

しかしだ。

そんな甘っちょろい動き、片腕のみで胴体……強いては腹部を庇いきれる筈もなく。

リーダーは両足を用い、防御の隙間へと的確に蹴りの応酬を叩き込み続け、ほんの少し体幹が崩れた所で一区切りとばかりに勢いよく蹴り飛ばした。

 

「てめぇの武器は確かに強い。だが引き金を引いた後、発射まで最低でもコンマ数秒はかかる」

 

背中から地面へと不時着し、数mも流されていくアリスちゃんに向けてリーダーはダメ押しとばかりにツイン・ドラゴンを発砲。

 

「その上、その強すぎる火力の所為で相手にある程度の距離まで入られたら撃てねぇ。爆圧に、自分まで巻き込まれちまうからな」

 

迫り来る追撃に気づいたアリスちゃんは息付く間もなく手足に銃撃を受けてしまうも怯む様子は無く、自らと一緒に引きずられていたスーパーノヴァを盾として構え、体勢を立て直すべく起き上がった。

 

「そしてこの間合いであたしに勝てる奴なんざ、キヴォトス全体でもそう多くは…………いや、一人もいねぇ」

 

正面がダメなら頭上へ、頭上がダメなら背後へ、背後がダメなら足元へ。

張り付く様にして止まぬ連撃。

地を蹴り壁を蹴り天井を蹴り。

ピンボールの如き立ち回りは回数を重ねる度に速度を増していき、最初は反応が可能であったはずが次第に振り切れていく。

 

それはもはやオールレンジ攻撃といって差し支えない程に洗練された戦い。

相手が一人だからこそ真価を発揮することが可能な────美甘ネルらしい、タイマンのやり方である。

 

「うぅ………」

 

「アリス!」

 

ペースを完全に掌握されたアリスちゃんはただただひたすらに防御へ徹した。

幸いにもスーパーノヴァの面積は広く、盾としての運用を想定されていなくとも十分に効果を発揮する。

 

だがしかし、唇を噛みながら必死に耐え忍ぶも、スタミナや集中力、防ぎきれなかった弾丸は着実に精神と肉体を削っていく。

このままの状態では勝てる見込みは無い……少なくとも私はそう考えたし、表情からして本人も尚更分かっているだろう。

 

「思った以上にがっかりだったな。この程度で、アイツらがやられたとは到底……」

 

そこで─────別のアプローチに出る。

 

「銃身を………!」

 

根本から塗り替える。

いや、在り方を拡大する。

別の使い道と、解釈。

可能であるという自信。

 

導かれしは─────大剣であった。

 

アリスちゃんはスーパーノヴァの持ち手を両腕で構え直し、自身の目前に掲げ……そして横一直線に振り回す。

 

「ぐっ!」

 

唐突な行動に予測が外れ、既に一寸先まで接近していたリーダーは避けようにも速度が超過し過ぎており、急には方向を変更できなかった。

咄嗟に両腕でガードするも、その重量からくる純粋な衝撃力は流石に殺し切れず、身軽な身体はティンパニに近しい重低音と共にはね飛ばされ、窓枠の柱に背中を酷く打ち付けてしまう。

 

「はっ、近接戦としては悪くねぇ判断だ……けどな」

 

柱は歪んだ、リーダーと同じ形に。

普通に考えて意識が飛んだとしても可笑しくない程の衝撃が加わったにも関わらず……一笑に付するのみ。

意趣卓越なタフさが、分かりやすく表れていた。

 

「相変わらずこの距離じゃ、あたしの方が圧倒的に有利!」

 

追撃の一射が来るよりも早く復帰すると、リーダーは変わらぬ速度でその場から消え、またもや近接戦闘へと移行する。

怯むことなき姿勢はただ加速一辺倒である馬鹿の一つ覚えと、思う者も居るかもしれない。

 

「てめぇが発射しようにも、あたしに照準を合わせらんねぇこと自体は────何一つ変わってねぇだろ!」

 

だが、全てが同じ動きではなかった。

先程までは手数を重視した純粋な攻撃。いわばゴリ押しであり、防御なぞ知ったことかと貫通させる勢い。

しかし、ここで変化が加わる。

 

アリスちゃんは身の回りを駆ける小さな影に向け、予測立てて大剣と化したスーパーノヴァを振り下ろした。それは大剣だからと言って鈍重な動きではなく、私達がバットや竹刀を扱う時同様軽快に用いられるが故に、戦況へと変化を与えられる代物。

 

するとリーダーの一寸先へ質量の塊が身体を潰すべく、迫るも──────それだけ。

 

タイミングが、早すぎた。

スーパーノヴァからの圧力は相手より数秒早く到達してしまった。そして銃身が地面へと突き立てられた後になって、リーダーは飛び込む。

これはいわゆるディレイであり、緩急。

アリスちゃんの予測よりもコンマ数秒単位で自らのスピードを落とし、空振りを誘発したのだ。

 

至近距離への侵入を許した事でアリスちゃんは身体全体に余すことなくツイン・ドラゴンの全弾を貰い受けてしまい、続いて弾切れとなった両銃による後隙の無い打撃。柔らかい頬にお構い無しな、こちらも質量の塊。

意趣返し。

双剣とも捉えられる、疾風怒濤。

 

負けじとアリスちゃんは突飛にも頭突きで抵抗。およそ人体からなってはいけない硬質な音が鳴り、慣れぬ感触にリーダーは一瞬鈍る。

その間にアリスちゃんはスーパーノヴァを支点として姿勢復帰を果たし、ついでにリーダーを蹴り飛ばした。

 

適当に振っては当たらず、かといって慎重へ念を置きすぎてしまえばチャンスは来ず。

 

アリスちゃんからの軽く、だがしっかりとした蹴りで互いの距離は少し開いたのは良いが、結局行き着くところはどちらも接近戦。

 

時にはガード、時にはアタック。

 

攻めの一手をようやく手に入れたアリスちゃんだが、未だ経験は足りない。

今度はリーダーの予測地点へと速度重視に袈裟斬りと同じ動きのスイングが。しかしリーダーは到達と共にバックステップでそれを回避してしまい、銃身は空を切る。

続いて逆方向へ切り返すも─────すり抜けた。

 

アリスちゃんがスーパーノヴァを引き戻すよりも速くリーダーは駆け出し、それが振り下ろされる直前に突破したのだ。

これもまた、緩急が生み出す駆け引きであり……最適解を見いだせず、重ねて分析不足なアリスちゃんでは、その賭けに負けてしまう事は当然であった。

 

それからも戦いは止むことなく続くが、まだ敗北までの時間が伸びただけ。

翻弄と絶え間なき圧力と物量は始末に負えず、ゲーム開発部の面々はその光景に額へ汗を浮かべた。

 

「……照準は、必要ありません。行きます!」

 

「だから無理だって……ん?」

 

するとここで、アリスちゃんは思い切った行動に出る。

 

「この状況で発射準備……?おい、まさかてめぇ……!?」

 

いつから引き金に指をかけ始めたのか。

ツイン・ドラゴンの銃声にかき消されていたその猛りは虎視眈々と電磁を蓄え始めていたのだ。

 

「あたしじゃなく……床に!?」

 

そして標的は─────決して逃れることの無い相手。

静かに燻っていた蒼き炎が燃え上がり、雷として空気中を刺激し始める。

何度も見てきたから分かるが、スーパーノヴァの火力はチャージをそれほど挟まずとも通常兵器を優に超える。

つまり、それは可能なのだ。

 

「正気か!?そのまま撃ったらてめぇも……!」

 

リーダーは目を丸くし、爆圧を受けぬよう急いで後方までの離脱を試みるが──────。

 

「光よ!!」

 

唯一、自己を省みぬぶっ飛んだプランと、実行の為に下された判断の速さでは……この状況に限ってかもしれないが、リーダーより一枚上手であった。

 

その事に気づいた私へまたもや光が飛び込み、衣服のフリルやブロンドの髪を衝撃波が引っ張ると、辺り一帯は硝煙の香りや破壊による煙が立ち込める。

 

………なんだか、最近視力に悪影響が出てないか心配ですね。

スーパーノヴァの光は普通に眩しい。

チャージの度合いにもよるが、閃光弾レベルの光量をそうバンバンと連発されてしまえば、体力より先に目がやられてしまうかもしれない。

盲点でしたね。

 

目元を解しながらそんなことを考えていると、窓ガラスが全損して風が素早く攫っていくおかげか、たちまち煙は晴れ……アリスちゃん達の姿は消え去っていた。

 

(今追うのは、やめておきましょうか)

 

リーダーを置いて単独行動するのはダメに決まっているし、レイヴンの存在もある。

あまり時間をかけない内に指示を仰ぎたい所なのだが─────リーダーは何処だ?見当たらないぞ。

 

(結構散らかってますね……はぁ……)

 

蛍光灯は数える程しか機能していないし、床は崩落。空いてしまった壁のヒビや穴も考えると、修理費は中々持っていかれそうだ。

後でユウカに伝えておかなければならないだろう。

最近は財政状況が芳しくないと愚痴っていたし、もしかしたら怒られるかもしれない。

 

「リーダー!」

 

「まさか、瓦礫に巻き込まれたパターンでしょうか……?」

 

「さっき一瞬アリスちゃんが見えたけど、だいぶダメージ受けてたよ。今頃きっと、うちのリーダーもぺちゃんこに……」

 

瓦礫の量は相当ある。一枚ずつ捲っていくには時間もかかるし、場合によっては爆心地にできた穴から下の階に落ちてしまったかもしれない。

それに、あれ程の爆圧を至近距離で受けたものだから、ダメージも大きい筈。

 

従って早急な捜索が求められるも────。

 

「……誰がちっちゃいって!?」

 

数ある瓦礫の山の内一つが吹き飛び、何事かと視線を向けてみれば、そこに立っていたのは怪我一つ無いリーダーの姿であった。

 

「わ〜お、さすがうちのリーダー!全然ピンピンしてるじゃん!」

 

「てめぇはいったいどっちの味方なんだよ……」

 

「今のアリスは戦闘力を失った状態だけど、このまま追いかける?だいぶ負傷してたし、保健室に向かってるはず……」

 

ひょいひょいと足元の瓦礫を避けながら近づいてくるリーダーに対してカリンが問いかけるが……リーダーは何かを探るような顔で押し黙る。

決着は一応、ハッキリ決まった訳では無い。

ミレニアムには二桁以上の保健室と、もしもの時の病院が一つ存在している。

もし完膚無きまでに叩き伏せるのであれば、向かった場所を特定し、殴り込むことは用意だ。

 

「…………………」

 

「リーダー?」

 

「……ああ」

 

瞬きを二度三度した後、リーダーは落ち着いた様子で答える。

 

「いやいい、追撃は無し。もう戻るぞ。一通り暴れたらスッキリしたしな」

 

ふっと笑ってツイン・ドラゴンを仕舞ったのを確認し、私達も各々戦闘態勢を解除した。

 

「目的は概ね達成した。リオがゲーム開発部に興味を持つ理由も分かったし……それに……」

 

「分かった!気になっちゃったんでしょ〜、先生のこと!」

 

「ばっ、違ぇよ!そ、そういうんじゃなくてだな……!」

 

図星、だろうか。

先生も中々難儀な人だ。

 

「ふふ、お気持ちは分かります。でも、少々心配ですね。あの子たちの体躯から推測するに先生の好みは……」

 

「少なくともリーダーにとっては、悪い情報じゃない……レイヴンを除けば」

 

一人だけ例外すぎる。

フィジカルも例外すぎる。

 

「うるせぇ!いつまでもそんな話続けんならぶっ飛ばすぞ!?」

 

レイヴンは独立傭兵。

言ってしまえば、都合の良い存在。

あまり考えたくないが………ふむ。

 

「はぁ……」

 

リーダーのため息が、なぜだか私にも同調して聞こえた。

後で個人的に調べてみるとしましょうか。……といっても、本人に聞けば正直に答えてくれるでしょうけど。

 

嘘が苦手な人ということは、既に分かっていますので。

 

「……思いっきり暴れたら腹減ったな。なぁ、ラーメンでも食いに行こうぜ」

 

「でしたら、丁度この前教えてもらった店がありますので、そこに行きませんか?」

 

「そいつは良い。一体何処だ」

 

「アビドスの柴関ラーメンという所らしいです」

 

「中々遠いな……」

 

「ですね……」

 

寄り道のレベルを遥かに超えるほどの距離である。

果たしてそれ程の価値があるのか……食べてみなければ分かりませんが。

 

「まぁ、そこにするか。ここら辺の店にも飽きてきた所だしな」

 

「賛成賛成〜」

 

「……そういえばリーダーは成長期だった」

 

「いい加減にしろやぁっ!!」

 

到着までの間、退屈する事は無いだろう。

そんな思いで完全なる未開の地への期待に胸を膨らませていると……なにか聞きたいことがあるのか、リーダーは肩を叩いてきた。

 

「アカネから見て………レイヴンはどんな奴だった?」

 

「知りたいですか?」

 

「まぁな」

 

「…………ふふ、内緒です」

 

無駄な先入観は邪魔ですよ、ネル先輩。

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