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これからも見てくれると、私は嬉しいです。
ところでAC6がもう1周年ですか……早いですね。もしあれば、DLCの情報とかが出てくれると良いのですが。
『これより、ミレニアムプライスを始めます!司会及び進行を担当するのは私、豊見コトリです!』
古風なブラウン管型ディスプレイから聞こえるハキハキとした声に耳を傾け、私はとうとうやって来たこの瞬間に息を呑む。
C&Cからの襲撃があった時は結構ハラハラしたけれど……アリスちゃんのおかげでなんとかなって良かった。なんだか建物の修繕費も向こうが処理してくれたみたいだし。
その代わりとしてか、アリスちゃんはどうやらメイド服が苦手になっちゃったみたいだけどね。
まあ少し気になる事はあるが─────それは置いておこう。
『今回は、これまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。おそらくは生徒会の方針変更により、部活動維持の為に【成果】が必要になった影響かと思われます!』
そう、成果。
成果があれば……この場所を守ることが出来る。
「……コトリちゃん達の方も、無事だったみたいだね」
「エンジニア部は元々、ミレニアムでもかなり功績が認められてる部活なこともあったし……でも、本当に良かった」
「うん。ところで、史上最多の応募って……」
「それはちょっと困るなぁ……」
『史上最多……どのくらいかな?』
私が疑問に問いかけると、ミドリちゃんが一瞬考える素振りを見せた後、やや難しい表情で答えてくれる。
「ミレニアムプライスに参加する部活は私たちを含めて全部で48組。でも、ひとつの部活につき出展可能な数というのに限りは無いから……え〜と……はい……」
『そっか……』
反応を見るに、やはり激戦となるのは間違いなさそうである。
悪いことを聞いてしまったな……よしよし、撫でてあげよう。
『昨年の優勝作品であるノアさんの【思い出の詩集】は、本来の意図とは違ったようですが……その形而上的な言葉の羅列が、ミレニアム最高の不眠症に対する治療法として評価されました。今回も、【歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ】【ミサイルが内蔵された護身用の傘】【ネクタイ型モバイルバッテリー】【光学迷彩下着セット】【丁度缶一個なら入る筆箱型簡易冷蔵庫】……』
コトリちゃんがマイク片手に壇上で列挙していく数々の出品物はどれも特異なものだけど……殆どエンジニア部製じゃないかな?
もしかしたら、私が知らないだけで他の部活もあんな感じなのかも知れないけど。
『そして!今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】などなど!今回出品された三桁の応募作品の内、栄光の座を手にするのは、たったの七作品!』
三桁……三桁か。
急になんだか怖くなってきちゃったぞ。
横目に見ると、皆真剣な表情で画面を食い入るように見つめている。
かく言う私も、その一人だ。
『それでは七位から、受賞作品を発表します!』
前置きは短めに、コトリちゃんは早くも入賞作品の発表を開始した。
たとえ七位であっても、入ってくれていれば万々歳だ。
安心して一位まで見ることが出来るぞ。
『七位はエンジニア部、ウタハさんの【光学迷彩下着セット】です!これは身につけてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが……露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を……その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね!とにかく七位!』
なんてこった!アレじゃないか!
私は思わず目を見開いた。
確かに、審査員のその着眼点は考えもしなかったが、まさかそれほどまでに高い評価を集めるとは。
とはいえクオリティは高水準であったし、実際着心地は良かったから、納得出来ないこともない……かな?
「ふぅー……。まっ、私たちのゲームは七位には相応しくないよね」
モモイちゃんの発した言葉は、いわば強がりではあるが、そういうことにしておこう。品質ならばこっちも負けてはいない自信があるし。
まだまだ枠は六つもあるんだからと自分に言い聞かせて、私は再度耳をすませた。
「続いて第六位は【ミニミニヘリアンサスちゃん!】前回惜しくも入賞を逃したヘリアンサスちゃんがちっちゃくなって新登場!ピザカットとしての役割や作業の手伝いの他にペットとして─────」
「…………」
「そして第五位は、【絶対にくっつかないバター】これでもうトーストを焼く時にカーペットの値段を気にせずに済みますよ!しかもそれだけではなく日常生活においても─────」
「私達の名前……呼ばれないね」
テンポ重視なのか立て続けに発表されていく作品の数々に、まだ私たちゲーム開発部の名前は呼ばれず、【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】もそれは同じだ。
『次です、四位……!』
「ううぅっ!そろそろお願い!」
四位───これも私たちでは無かった。
もう既に枠は半分以上埋まってしまったということに気づくと、滲み出る焦燥感や恐怖が汗となり背中を伝っていくのが分かる。
『さあ、ここからはとうとうベスト三の発表です!』
「も、もう心臓がもたない!」
「お願い……お願い……」
はち切れんばかりの鼓動を繰り返す心臓を抑えるべく、私は固唾を飲み、気づけば知らずの内に皆と無意識に身を寄せ合い、それはまた、皆も同じであった。
全員、懸ける想いも祈りも願いも同じなのだと身に染みて感じる。
『栄えある第三位の座!これに輝いたのは────』
第三位────そこに私達の名前は無い。
最悪の結果と、最良の結果。
両方が重なり合っていく。
『さあ、今年のミレニアムプライスにおいて僅差で第二位を受賞したのは─────』
「……お願いします、私たちの名前を……!」
第二位が発表されるも─────ゲーム開発部じゃない。
後はもう、一枠のみ。
『そしてそして、最後に迎える最高の栄誉!』
重々しい雰囲気を纏う私達と相反して、軽快な口調と派手な演出。現場の会場にて沸き立つ観客たちがボルテージと期待をマックスにまで引き上げる。
『ズバリ!第一位の座をその手に掴んだ存在──────』
まるで、スロー。
紙芝居にて次の場面を焦らされるかのように、この瞬間が歪む。
泣いても笑っても、とは言うが……どちらにせよ皆、涙を浮かばせ始めていた。
出来ればそれが、喜びであってほしい。
勝利であってほしい。
そう、定義付けられてほしい。
ここまでの頑張りを、積み重ね続けた繋がりを、在りし日の感動を……今、ここで振り返り──────私は見据える。
『第一位は、新素材開発部の……ッ!』
重ねて部屋中に響く、銃声、もしくは嘆き。
【し】の音が聞こえ始めた時点で、既にセーフティを解除していたモモイちゃんが目の前のディスプレイを撃ち抜いた。
乱雑に、ろくに狙いも定めず、撃った。
「ぅ……ぅぐ……っ────!」
モモイちゃんは銃を投げ捨て、途端に泣き崩れる。
俯くその表情は見えなくとも……想像する事は容易い。
そんな姿にミドリちゃんは一瞬戸惑いを見せたが、やがて何を言うでもなくいつもより小さくなった背中をただただ摩った。
「……結局、こうなっちゃうなんて……」
完全に割れてしまったディスプレイを見つめながら、ユズちゃんはぽつりと呟く。
その声色に、深い絶望は無かった。
だからといって諦めや、平常心などではなく。
ほんのちょっぴりの、苦味があった。
「落ち着いて、お姉ちゃん。まだ全部終わった訳じゃ──────」
「……わかってる、分かってるの!そんなこと!……全部が否定された訳じゃないって、また立ち上がればいいんだって……!」
泣き腫らした目はとうに赤く染まり、モモイちゃんの号哭が鮮烈に私の心を射抜いた。
カーペットの染みは次第に増えていき、濡れた声がぽろぽろと漏れだしていく。
「ネット上の評価も悪くなかったし、クソゲーランキング一位だったあの時に比べれば、大きく成長した……次こそはもっと良い結果を出せるに決まってるし、今より立派な広い部室だって貰えるはず!……でも、ここは……この居場所が……」
世界が滅んだ訳じゃない。
誰かが死んだ訳じゃない。
コンテニュー出来ない訳じゃない。
それでも……だ。
「今はっ、今はこの瞬間が───欲しいのッ!」
失った時間は、戻らない。
一度刻まれてしまえば、例え埋めたとしても同じにはならない。
この子達はきっとこの先でもゲーム開発を続けていける……その確信はある。
けれど、モモイちゃんの訴えが皆の総意だ。
(私は、一体……)
デジャヴが脳内を駆け巡る。
G.Bibleの時と同じ思いが蘇ってくる。
唯一違う所は………明確に突きつけられた喪失だった。
怒りか悲しみか、溢れ出す感情が右手を小刻みに揺らすも左手で抑え、私は手足を小さく折り畳んだ。
「……心配しないで」
そこへ告げられたユズちゃんの言葉は、何よりも真っ直ぐで─────穏やかだった。
「……わたし、寮に戻る」
「えっ?」
「もうわたしのことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思うし……もし居たとしても、大丈夫」
まるで包み込むかのように。
あるいは引き剥がすかのように。
輝いて差し込むその言葉は、優しく耳へと届いてくる。
「今の私にはもう─────皆がいるから」
憂いのない笑みで、ユズちゃんは親指を立てる。
つまりは……サムズアップのポーズ。
古代の国で───満足できる、納得できる行動をした者にのみ与えられる仕草……。
返ってきたその意味に、私は崩れる。
「ありがとうございました、先生」
「……ユズ」
「先生がこの部室に来てくれたから……わたしたちは、大きく変わる事が出来ました」
ユズちゃんはゆっくり私に歩み寄ると……
縮こまった私へ、静かに語りかけてきた。
「レイヴンのおかげで……わたしたちは、全力を尽くす事が出来ました。前に進む事が、出来るようになりました」
(…………)
「ありがとう、レイヴン」
その、立ち上がる強さに。
私は、覚えがあった。
その、眼差しに。
私は、覚えがあった。
感謝は、寧ろ私がしたかった。
だってその有り様は……良く、知っていて。
かつ、灰を被って今まで燻り続けていたのだから。
(──────ありがとう)
ちっぽけな炎が、継がれた。
追想の息吹が、吹き込まれた。
なんとも名状しがたい感情が全身に行き渡って────私は、静かに瞬きをした。
「先生、アリスちゃんを……よろしく、お願いします……」
「………………うん、私に任せて」
先生の方へ向き直ったユズちゃんは深々と頭を下げてそう言った。
「………アリスちゃん」
自身の制服を力一杯握りしめるアリスちゃんを見つめながら、ミドリちゃんは零す。
「………」
「……ごめんね」
「いえ。先生の事は、信じられますから」
気丈に振る舞うものの、彼女達の心に巣食う罪悪感や後悔の念を感じてか、アリスちゃんは汐らしく言葉を吐く。
「ですが……もう……もうみんなとは……一緒に、いられないんですね」
何度か詰まりそうになりながら、しかし拙いながらでも伝わる。
彼女に出来る最大限の本音を打ち明けられ……その目元にある大粒の涙は、えらく透明だった。
「ごめん、ごめんね、アリスちゃん……!」
それを受けて感情の濁流を抑えきれなくなったのか、ミドリちゃんは勢いよくアリスちゃんに飛びついた。
「私、毎日シャーレに行くから!本当に、絶対に毎日行く!どこにいっても!一緒にゲームを作ろう!」
「う、ううっぅ!……やっ、やっぱり嫌ッ!」
モモイちゃんも、同じだった。
二人に抱きつかれたアリスちゃんは戸惑いながらも確かに抱きとめて返し、思いの丈をその身に受ける。
「先生!やっぱアリスを連れていっちゃダメ!わ、私の部屋に連れていく!ベッドも一緒に使おう!ご飯も二人で分けて食べるから!」
「わ、私の分もあげるっ!」
「……………」
「二人とも、先生を困らせないであげて……それに、もしその事がバレたら、モモイも、ミドリも……」
私には、なにか出来ることはあるだろうか?
今すぐ出来ることは?
……分からない。何か返さなければならないのに、何をしてあげられるのか分からない。
決まってしまった定めを覆す力など、持ち合わせていない……。
姿なきものに縋り付く思いで、嗚咽と鳴き声の入り交じる部屋を見回していると──────突然、部室の扉が開け放たれた。
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!」
廊下に立っていたのはセミナーの会計、早瀬ユウカ。
彼女はこちらに目を向けると、泣いて互いを抱きしめ合う部員達へ満面の笑みを浮かべながら入ってきた。
「ひいっ!もうユウカが!」
「ちょ、ちょっと待って!そんなすぐになんて……!」
「悪魔め!生徒会に人の心はないわけ!?」
「おめでとうっ!」
皆、宣告だと思っていた。
もう既に魔の手が忍び寄り、居場所を奪わんと攻め入ってきたのだとばかり思っていた。
だがどうだ、ユウカちゃんの笑みは。
明らかな賞賛の意に満ち満ちているじゃないか。
「……?」
「……え?」
「え、えっ……?」
「?」
「え、何この反応?」
ならば私達が呆気に取られたのは必然であるが、なぜかユウカちゃんも同じような反応を見せる。
もし皮肉でやってるんだとしたら……抗議の文章をA4用紙一枚分、着払いで送り付けたい所だ。
「まさか、結果見てなかったの?」
「……結果?」
「私たち、七位以内に入れなくて……」
「はぁ?何を言ってるの、今も放送中なんだからちゃんと見てみなさいよ」
「お姉ちゃんがディスプレイを粉々にしちゃって……」
ミドリちゃんからの申し出を受けたユウカちゃんが目を細めるとその先には、白煙でお手上げの狼煙を放つ元ディスプレイが散乱していた。
「ほんとに何をしてるのよ……ほら、見てみて。私もスマホで見てて、途中から走ってきたの」
溜息をついて彼女が取り出したのは、少し大きめのスマホ。
全員集まるように手で促され、恐る恐る私達は目元を裾で拭いながらその画面を注視する。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、【実用性】を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、それを実現していくという趣旨に基づいています』
そこでは丁度、壇上に上がった審査員が観客達に向けてなにかを語りかけている所だった。
胸元に輝くあのバッジは企業の物であり、イヅモマテリアルの所属である事を意味する。
それ程の大手が放つ声は雄々しく、力強いが、他にもどこか期待感を含んだものだった。
『しかし今回の作品の中には、新しい角度から【実用性】を感じさせてくれたものがありました。とある【ゲーム】が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです』
言葉を並べていくに連れて、段々と浮き彫りになっていくのは、審査員が持つ感情。
極めて純粋な、混じり気のない童心への回帰へと色が染まり、彼は堂々と撮影用ドローンに向けて声を発する。
『よって私たちはこの度、異例の選択をすることにしました』
そして同時に、カメラは勢いよくズームアウトし……審査員の背景と化していた超巨大ディスプレイへとピントを合わせた。
『今回は【特別賞】を設けます、その受賞作品は……ゲーム開発部の【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】です!』
湧き上がる歓声と、上空から舞い散る紙吹雪。ディスプレイに浮かび上がる【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】の文字。
賛否の様子はあっても、ノーリアクションということは無く、会場は観客達の大声と熱気に包まれていた。
「えぇっ、嘘っ!?」
「何が起きてるの……?」
脳が規格外の情報に処理を一時停止し、読み込むまで時間を要するも………それを待たずして目の前の現実は、予想外の真実を叩きつけてきた。
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが……』
審査員は深く息を吐き、続ける。
『新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結び、積み上げながら魔王を倒しに行く……そういったRPGの原点に立ち返る、根本的な楽しさへ訴えかけてくる思いが、しっかり込められた作品だと思います』
開発時に私達の掲げたコンセプトを……彼は正しく受け取っていた。
『プレイしながら、かつて初めてゲームになった頃の思い出が鮮明に浮かび上がりました。そういった点を評価して、この作品に……今回、ミレニアムプライス【特別賞】を授与します』
会場は万雷の拍手で包み込まれ、それがゲーム開発部へ向けられたものだと知ると、陰鬱としていた部室へ陽の光が差し込んだような……視界が開けたような感触が心に届く。
皆は目を見開き、唖然とした表情で互いの顔を確認し、時には自らの頬をつねる。
だが──────覚めやしない。
「え……あ……」
「本当におめでとう!その、実は私もプレイしてみたの。決して手放しに面白かったとは言えないけれど……良いゲームを遊んだあとの、後を引く独特の感覚が味わえた」
目を見て、真正面からの直球で直接な感想。
それは制作者達にとって何者にも変え難い燃料であり、私達はユウカちゃんからの賛辞を受けつつもぎこちなく視線を交わす。
「モモ、ミド!あたしも【TSC2】やってみたよ、すっごい面白かった!今ネット上でも大騒ぎだよ!ヴェリタスの調べだと、有名アイドルの名前より、【TSC2】の検索数の方が多くなってるってさ!」
「ほ、ほんとに……?」
今度は別の人物。
廊下からひょっこりとマキちゃんが顔を出し、追加の燃料を投下。
燃え上がる喜びの情動が際限なくこの居場所に広がっていき、皆少しずつ再起動を果たしていく。
「確認しました。三時間前にアップした【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】は、先程までダウンロード9491回、合計2262個のコメントがついていましたが……ミレニアムプライスの発表以降、約26秒間でダウンロード回数が1.5万回を超えました」
「!?」
「コメントも約700個追加、言葉のニュアンスからして否定的・疑惑のコメントが342件、肯定的・期待のコメントが240件、残りは不明、もしくは評価を保留しているコメントです」
ネット上にアクセスしたアリスちゃんが言うに、どうやらそういうことらしい。
「え、あれ……?そ、そしたら私たち……結局ダメってこと!?」
「ううん、そんなことは無い」
「ユズちゃん……?」
彼女は手持ちのスマホを取り出し、画面上で何やら操作を加えるとやや間を置いて、はにかんだ笑顔と共に私達へ提示してくる。
「見て。今同率で、一番多く共感をもらってる、二つのベストコメント……」
<chicken:実際にプレイするかどうか、最初は散々迷いました……でも今はこう思ってます。このゲームに出会えて、良かったです。>
<Kotoha0507:これまでミレニアムに対して、偏見を持ってしまっていました。冷静さと合理性しかないというミレニアムの生徒達への偏見は、今回のミレニアムプライスと、この遊び心溢れる【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】を通じて、完全に無くなったと断言できます>
「……!」
それは見ていて心が踊るような、真心のこもったコメントだった。
しかもその下には、共感したことを示すスタンプが幾重にも記され、サイレントマジョリティーの思いまでもが添付されていた。
「えっと……っていうことは、廃部にはならないんだよね!?」
「ええ、そうよ。あ、でもあくまで【臨時の猶予】だから。正式な受賞ではないし、生徒会としてはまた来学期まで……ゲーム開発部の廃部と部室の没収を、【保留】することにしたの」
来学期まで……。六日でTSC2を作り上げることが出来たんだし、それだけの時間があればより素晴らしい作品が出来ることに違いは無さそうだ。
極めて些細な問題である。
「えっと、それから…………その……」
けれど、ユウカちゃんが言いたい事は他にもあるようで……気まずそうに私達から視線を外しながら何かを言い淀んでいる。
だが、視線の先に飾られた数々のレトロゲーム達を捉えると、彼女は急に私達へ目を合わせ、若干早口気味に告げる。
「……ご、ごめんなさい。ここにあるゲーム機のこと、ガラクタって言って……」
不意に彼女が口にしたのは、謝罪だった。
「あなた達のお陰で思い出したわ。小さな頃に遊んでた、色んなゲームの事を。久しぶりにあの頃の……新しい世界で旅をする楽しさを感じられた」
忘れてしまった思い出や、覚えておくことの出来ない記憶。
時を経るにつれて、そう変わっていってしまうのが私たちの必然であり、彼女もまたその一人だったのだろう。
そんな中であっても過去に追い求めたロマンを今一度蘇らせ、褪せた日常に色を取り戻させる事が出来るのなら……其れは前を見据えるミレニアムにおいてイレギュラーでありながらも────過去を忘れぬルーツへの前進。そして他者との共有。
ベクトルは違えど追求を重んじるその有様は確かに、ミレニアムらしい有り様だ。
「……ありがとう。それじゃあ、部室の延長申請とか部費の受取処理とかは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。じゃ、また後で!」
矢継ぎ早にそう捲し立てると、彼女は顔を隠しながら足早に廊下へと飛び出していった。
その背中を見送った私達は互いの表情を確認する。
「じゃ、じゃあ……!」
「……!」
「やっ……」
浮かべる表情は皆等しく……モモイちゃんは身体を丸めて拳を握り─────。
「やったぁあアアッ!」
溜め込んでいたエネルギーと歓喜を笑顔に弾けさせ、飛び上がった。
もはや天を穿つその勢いは留まることを知らず、共振する私達は打ち震える。
「良かった……!」
「やった……嬉しい……!」
成功した。
勝利した。
証明してみせた。
ここまで歩んできたことの全てを肯定された気分に心は爆発し、全身と言葉でもって表現される。
達成感なんてもんじゃないぞ。
「ア、アリスは……つまり、ここに、居ても……?」
「そうだよアリスちゃん!私たち、特別賞を受賞したんだよ!この場所も、私たちの部室のまま!」
「だからこれからも!ずっと一緒にいよう!ずうっと!!」
「これからも、よろしくね……!」
三人はアリスちゃんの手を繋ぎ、寄り添いながら叫ぶ。
魂の、叫びだ。
「私も……私も、嬉しいです」
アリスちゃんも全身全霊をもって応え……輝かしい笑みとぐしゃぐしゃの泣き顔でもってして、この居場所は守られたんだと実感する。
「これからも、よろしくお願いします……!」
諦めなかった、その姿を。
この子達は私に……見せてくれた。
夢であった無形の存在を、今こうして目の前で掴み取ったのだ。
私にとってそのことが、どれ程大事で身に染みるモノか……頬に伝う感触と、緩んだ口元が有無を言わさずに証明してくる。
(どうかあなた達の、この居場所での日々の未来が、喜びで溢れますように……)
声が出せないなりに私は心中でそう呟き、ハッピーエンドの輪の中へと─────静かに身を寄せるのだった。
「今のところ、これで注文は終わり?」
テーブルに備え付けられたタッチパッドへ思い思いの食べたいメニューを打ち込んだ後、私は尋ねる。
「十分十分!もし足りなかったら後で足せばいいし!」
「お姉ちゃん、遠慮とかないの……?」
「私は……大丈夫です」
「アリス、このパフェが食べたいです!」
どれどれ……?中々大きいな、食い切れるのか?
……まあ、もしもの時は私が食べるし問題無いだろう。
「心配しなくて良いよ。今日の主役は皆だからね……遠慮せず食べてくれれば、私は嬉しいな」
ミレニアムプライスでの一波乱から数時間後、私とゲーム開発部の面々は自治区内のファミレスに来ていた。
勿論レイヴンも一緒だ。
もう少し高い所に行こうかとも思ったんだけれども、彼女達の願いでここを選んだ次第である。
私の予算を察したのか、それともこの店になにか特別な思い出があるのか……。
「レイヴンはどう?」
私が問いかけると、彼女はやや控えめに二品追加した。
本来ならこの打ち上げはTSC2の完成記念のはずだったが……C&Cとの一件で有耶無耶になってしまっていた。
けれど、ミレニアムプライスで特別賞も取ったことだし、丁度よく二つの記念として無理やり予定にねじ込んだのだ。
お陰でシャーレの仕事が持ち越されてしまったが、それは明日の私が頑張ればいいだけ。
今この瞬間こそが、大人としての責任を果たすところだ。
「よし、全部頼み終えたよ。さささ、ドリンクバーにどうぞ行ってらっしゃ〜い」
「レイヴンとユズと先生は何にする?私達が代わりに持ってくるよ!」
『私はコーラかな』
「じゃあ、メロンソーダで」
「それなら、水を頼める?」
「オッケー!」
手をヒラヒラ振って促すと、廊下側に座っていたモモイとミドリは期待に胸を膨らませた様子で備え付けのドリンクバーがある場所へとアリスの腕を引っ張りながら向かっていった。
私としても、そういった顔をしてくれると奢り甲斐があるというものだ。
『水だけって、物足りなくないですか?』
「ははは、かもね。でも私はディナーの時、水しか口に含まないって決めてるんだよ」
レイヴンとユズの二人はいかにもへ〜、といった感じで受け取ってくれるが、今言ったこれは中々情けない理由によるものだ。
ちょっと前にユウカから口出しされちゃったからね……シャーレ中の冷蔵庫から愛しい彼の姿は消えてしまったよ。
「そういえば、レイヴンに聞きたいんだけど……この数日間はどうだった?元々依頼に無かった事だらけだし、もしアレだったら……」
『最高でした!』
怖々とした思いで尋ねた私の事など知る由もなく、レイヴンは咲き誇る笑顔で胸を張りながら答えた。
『見た事ない場所に行かせてもらいましたし、他の学校なんて中々こうして深く関わる事も無かったですし、オマケにゲーム作成のお手伝いもさせてもらって……とにかく、退屈しない最高の休日でした!!』
私とユズ。両方に見えるよう端末を掲げて主張するレイヴンを見て、私も何処か緊張していた心がほぐれていくのを感じる。
思えば、レイヴンにはずっと戦わせ続けてしまっていたな……本人がそれで納得しているのなら、私が言うことは無いけれども。
「?…………ぁわッ!?」
いきなり素っ頓狂をあげたのはユズだった。
どうやらレイヴンの言葉に反応し、頬を赤らめた所で捕まってしまったようだ。
「…………うぅ…」
わしゃわしゃと頭を撫でられ、ユズの頬は輪をかけて紅潮する。
この光景も数日間で見慣れたものだ。
だが今回は人目も多い。さすがにそこを弁えてか、レイヴンの抱擁は十数秒辺りで終わった。
『それに……この子達と出会えたことが、なにより良かったです!』
致命の一撃を食らったユズは、ノックアウトされた。
今や身をすくめながらプルプルと震え、目を伏せながらにも耳は完全な赤に染まっている。
レイヴンは……いや、ユメは素直な子だよ。本当に。
ラナから届いた経過観察の報告では、以前と比べての性格の相違は許容範囲に収まっているという話だ。
但し──────戦闘中はその限りではなく、また記憶の一部にも欠落が見られるらしい。
とはいえ、数日間共に行動した私から見て彼女に懸念すべき点はさほど存在しないようにも思えるし、それはラナも同意見。結論として対処法が見つかるまで戦闘は必要最低限に、後はそのままで構わないとなった。
だが一つ、付け加えたい。
出会った当初に比べてユメの─────何かが変わったように思えるのだ。良いか悪いかでいうなら、多分良い方向に。
いずれラナがその変化に気づいた時……ラナはどんな反応をするだろうか。
喜ぶと、いいが。
「あら?中々微笑ましい光景ですね」
不意に、揶揄うような声が入り込んだ。
内心では少し驚いたものの冷静に声のした方向へ首を動かしてみると……そこには微笑みを湛えたアカネがテーブルの傍で佇んでいた。
「アカネ……?」
「はい、ご存知C&Cの室笠アカネです。先生とこうして会うのは初めてでしたね」
アカネは丁寧なお辞儀でもって挨拶をしてくれる。
場所が場所だから、メイド服でもあまり違和感が無いな。
「今日はどうしたの?見たところ、君一人だけみたいだけど」
「ええ。実はコレをレイヴンに渡そうと思ってですね……」
そう言って彼女は身につけているマフラーに手を突っ込み、やがて小型の封筒を取り出した。今どき珍しく、それは封蝋を用いた古風な物である。
『もしかしてアレ!?』
レイヴンは目を輝かせながら身を乗り出し、アカネに問う。
「その通りです。渡すのがいくらか遅くなってしまいましたが……」
『いいのいいの!気にしないで』
「ふふ……ありがとうございます」
はしゃぎながら受け取ると、レイヴンは大事そうに懐へと仕舞い込んだ。
一体何が入っているのか気にはなったが、アカネを一瞥すると首を左右に小さく振ってきた為、私は放っておくことにした。
「それでは、またいつかお会いいたしましょう」
またペコリとお辞儀をし、アカネはそそくさとこの場を後にした。どうやら用事はこれだけだったようである。
その後、アカネと入れ替わるようにして私達のテーブルへと配膳ロボットが到着。
モモイの頼んだハンバーグと、アリスの分のオムライスとパフェ、それ以外にも色々と全員分の料理が一気に運ばれてきた。
流石ミレニアム。手際が良いな……と感心しながらテーブルにそれらを並べ終えた所で、丁度よくドリンクバーからモモイとミドリ、アリスが戻ってくる。
「お姉ちゃん、それ本当に飲み切れるの……?」
「大丈夫だって!どう考えてもこれは美味いに決まってるじゃん?まあ私の配合スキルを見ときなって」
「見るだけにしとくからね。もう二度と飲みたくないし」
「きっと、回復力の飛躍的な向上が見込めます!」
「アリスちゃんまで……」
モモイの持つドリンクが一つ、なんだか奇妙な色だが。それ以外はちゃんとお願いしていた飲み物達だし問題無い。
私は冷えた水がなみなみ注がれたコップを受け取り、三人も席につく。
モモイが一体ドリンクバーで何をしてきたかは容易に想像がつく。しかもミドリの発言からして常習犯だ。
「皆、用意はいい?」
まぁ、飲みきれなかった場合は私が代わりに飲むとしよう。健康面での支障は……多分ないだろうし。
そんな杞憂を薄く巡らせていると、全員が手に持つコップを天高く掲げはじめた。
どうすべきか、突き刺さる五つの視線が物語り、慌てつつも私は水を零さぬよう慎重にコップを掴んで、その場へと参加する。
この先、レイヴンも含めて……様々な試練が待ち受けているだろう。時には、残酷な選択を強いられる時が来るかもしれない。
大事なものを、諦めなくてはならない時が来るかもしれない。
そんな時……こういった日常の一幕が、もしなにかの助けになるのであれば──────きっと、それは…………。
──────いや、良い。
今はただ、存分にこの時を楽しもうじゃないか。
「それじゃあ!【テイルズ・サガ・クロニクルⅡ】の完成と受賞を祝って─────」
テイルズ・サガ・クロニクルⅡfrom KING'S FIELD
ゲーム開発部によって制作された稀代の怪作。
2Dのドットと3Dのポリゴンを巧みに盛り込んだ本作品は類まれなる小ネタの多さと新鮮なアイデアに溢れ、ゲーム史に於いて【レトロチック・ロマン】の名と共に記録される事となった。
レビューサイトでは、その複雑かつ多くを語らぬストーリーや高い難易度も相まって固定のファンを多数獲得している。
また、ゲーム開発部の作品で必ずと言っていいほど登場する【電光剣】の初出は本作品である。