(ひぃん、や〜っと着いたあ)
中々キツい道のりではあったが、特に不良に絡まれる事無くブラックマーケットの入口へたどり着くことに成功した。
ブラックマーケット 治外法権がまかり通るはぐれ者達の溜まり場。兵器や食糧だけに限らず、様々なモノがあちこちに売られている。しかし注意すべきはその法外な値段だろう。目立ちやすい幾つかの店はまだ割高と言える程であるが、路地裏に居を構える所なんかはもっぱらぼったくりレベルである。
(でも、なんでわざわざブラックマーケットに?)
キヴォトスにおいて銃を手に入れるのはそう難しい事では無い。ペンやノートと同じくらい流通している筈だ。なのにあのHSL-1はここを選んだ。
(うわ、なんか怖い子達がこっちみてるよ〜)
服装もボロボロのままで来ているので、不良やチンピラらしき子から多少の注目を集めてしまっている。
(先に服でも買っておこうかな)
通りを幾つか巡り、なるべく目立ちにくそうなルートを選んで歩くとネオン管がチカチカ点滅する服屋らしき店に着いた。
「……」
店員らしき人物は私を一瞥するなり、手元の新聞に目を背けた。
その新聞にピントを合わせてみると、小さい文字で今日の日付が印刷されている。HSL-1の提示した日付と全く同じだ。
(ん〜、なんかパッとしないな)
取り揃えてあるものは大体そこら辺の古着屋と同レベルであった。値段も許容範囲内。
(ホシノちゃんがいれば……)
あの可愛い後輩なら素っ気ないながらもちゃんと似合う服を選んでくれる筈だけど。生憎しばらくは1人だ。正直HSL-1に聞いた所でドライに返されそうだ。
(これは……?)
とりあえず元着ていた制服に近い物を選んでいると、ひとつのジャケットに目を奪われた。焦げ茶のありふれたレザージャケットにしか見えないが所々傷が入っており、数え切れない程の修羅場をくぐり抜けてきたのだと見受けられる。ちょい古めのアクション映画でこんな服装の人物がいた気がするが。
(9?)
左腕の箇所には9と書かれたシンプルなワッペンがつけられていて、なんだか惹き付けられてしまう。
試しに羽織ってみるとサイズはやや大きめながらも私にとってはピッタリで、腕を動かしたりしても動きづらいなんてことはなかった。意外と軽い素材で出来ているようだ。
(いいねこれ。可愛いとは言えないけど)
まあ探せばほかの店にも良さそうなのはあるかもしれないが、このジャケットはしっくりくる。それに、先輩がかっこいい姿で登場した方が後輩からの受けもいいだろう。
『会計お願いします』
「……はいよ」
眠そうな目をしている店員の元に持っていき、手早くポケットから金を取り出す。あくまで必要最低限の服のみだからそこまで割を食うことは無い。
「!」
私の選んだジャケットを見るなり、今にも眠りそうだった細い目が大きく見開かれる。まるでありもしないものを目にしたような、驚愕の表情が伺えた。
「あんた……ちょっとここで着てみてくれるか?」
なにか問題でもあったのだろうか。もう1回羽織って店員に見せてやると考え込むような仕草を見せた後、深いため息をつきながら天井を仰いだ。
「……」
『どうかしましたか?』
「いや、なんでもないさ。そのジャケットの代金は取らねぇよ」
『ええっ!いいんですか!?』
「訳ありでね。さっさとしな」
……なんだかきな臭い気がするけど、気にしても仕方ないかな。釣り銭なく渡して店を出ると、次の店に移動する事にした。
入店時までこちらを見ていた子達も、今度は無視する事にしたようだ。多分見た目の問題だと思うけど。
(そりゃ怖いよね、眼帯にジャケットだし)
ここを出た後で小さい子とかに泣かれないといいが。
しばらく歩くとちょっぴりファンシーな外見の店が道に張り出していた。絶版品になったグッズや中古の品が売られている様で、あまり見ないマイナー所の物が棚いっぱいに詰め込まれていた。
「ん〜……届かない……」
(あの制服、トリニティの子かな?)
金髪の幼い顔立ちの子が上段の棚に置かれた手を伸ばしている。モモフレンズのグッズだろうか?白い鳥のぬいぐるみが目的のようだ。
幸い私の方が身長は高いし、手に取って渡してあげよう。
「あっ、ありがとうございます」
『問題ないよ。他にはなにかある?』
端末に言葉を打ち込み会話を試みる。少し強ばった表情だったが内容を見て安堵したようだ。
「それなら、あの子をお願い出来ます?」
そう言って彼女が指さしたのは黒い体に白い仮面をつけたような小さなぬいぐるみだった。タグを見るとスカルマンと書かれている。こっちの子の方が可愛い気がするな。
そいつ(ペロキチ)