ひとつの悪夢
夢を見ている。
と言っても、【願い】や【希望】に類する方では無く寝ている時に見る方を指す。
……そんなの、当たり前に見るものであってわざわざ言うほどかと、みんな口をそろえたが。
だが私の見る夢は少々違う。
夢、と言ったら普通は奇想天外摩訶不思議で有象無象の散りばめられた、極めて安定を損なった体験。
瞬きごとにシーンが変わったり、壁が水のような感触を得たり……多種多様。
では、これは?
「惨憺たる結末だな……本当」
鼻をくすぐる硝煙の匂いと、熱く肌を照らす残り火が現実と錯覚させる。
否、これは──────いつか来る現実。
未来……そう、私は予知夢を見る。
普通の夢とは違う。極めて現実味を帯びたもの。はっきりとした意識のそれは明晰夢と同レベルには感じるが、しかし目の前の光景を塗り替えられぬ事実からして、そうでないことは明白。
「変えられるものなら……変えているさ。とっくに」
そう思い廃墟となった都市を見回すも、なぜか記憶よりもこの光景は退廃的で、寂しく、また酷く争いの残穢が残っている。
今まで見てきたのとは異なる事態に疑問符が立ち、己の能力への恨みよりも好奇心が競り勝つ。
「これはまた……随分と時間が飛んだようだね?」
今にも崩れ落ちそうなグレイの空に、ひとつの光が瞬く。
しかし──────太陽は既に頭上へと昇っているのだ。
あの光が何なのか……その正体は知り得ない。企業の新兵器か、それとも落下する隕石か。少なくとも、今の時間帯に星が見えるはずもなく。
しかしまぁ……真昼の月ならばあってもおかしくはないのだが。
何となく心の内でそう思考した時、真っ先に浮かんだのは、月光を思わす青緑の髪を持った人物。無情な隻眼を携え、ジレンマと戦い続けた異端者。
私が今までに見た中、この結末へとたどり着く断片に彼女はしばしば登場していた。
ある時は能天気そうに前へ進み。
ある時は己の精神をすり減らして障害を排除し。
ある時は折れつつも立ち直り。
ある時は…………。
その行動一つ一つが、このキヴォトスにどう影響していったのか。
先生と呼ばれる存在も、そこは似ていると言えよう。だが確かに違う点は……起きた結果であった。
それは奇跡を呼ぶ力でも、世界を塗り替える力でもなんでもなく、ただただ暴力で……そこからまた争いは激化していった。
彼女がその力を使えば使うほど、守ろうとすればするほど──────彼らは戦いを続けた。
つまりは、火種でしかありえなかったのだ。
「さて……皆はどこに行ってしまったというのか」
無人のビル群に、すっかり機能停止した交通インフラ。どう動くべきか考えつつ私は道路上へ放置された普通自動車のボンネットへ腰掛ける。車内を覗けば、すっかり埃を被っていたシートにヒビの入ったスマホが忘れ去られていた。
私のでは無い。
「ふぅん………」
その車に備えられていたはずのフロントガラスはとうにガラス片へと様変わりしており、私は腕を伸ばすだけで容易にそのスマホを手に取る。
「……なにがあったのやら」
飄々と吹く風が私の長髪と尻尾を揺らし、冷たさが体温を奪う。
スマホを通し、自らのこれまで見てきた情報とすり合わせようと電源を入れた。
「……それはそうか。当たり前だ」
無論、パスワードがかかっており情報収集には至れない。しかし日付のみ……今が少し先の未来を指していると確認できた。
ため息を吐きつつ、私はここで起こったであろう─────これから起こると確信する出来事に考えを巡らせることにする。
エデン条約 。
トリニティとゲヘナの間で長きに渡って存在してきた、確執にも近い敵対関係。そこに終止符を打たんとするもの。互いが互いを信じられないが故に、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス。
だがそれは発案者であり、【エデン】という名を嵌め込んだ連邦生徒会長の失踪によって空中分解寸前へと陥る。
彼女というピースを失った儚き祈りはもはや消えゆくのも時間の問題であったが、桐藤ナギサという人物の尽力をもって、条約の締結は限りなく実現へと近づいていった。
「ここまでは、既に辿り……見てきた通りの展開」
私には最初から分かっていたし彼女自身の持つ資質から大した不安も持ってはいなかったが、それでもナギサから報告を聞く度、私は心から彼女に尊敬の念を抱いていたのは事実だ。合わせて予知の内容が現実となっていく様子に、苦味を得たりもしたが。
見てきた予知夢はナギサを中心としたトリニティ周囲のものだけではない。
独立傭兵レイヴン……あのワタリガラスにスポットライトを当てた物語を幾つか拾う事もあった。
最初の頃は接点の無い彼女を注視する夢に対して疑問が尽きなかったが。
当然だろう? 同じ学園に所属している訳でもないし、ましてや血の繋がりがある訳でもない。本当に赤の他人の、宛のない旅路を見せられていたのだから。
けれども彼女は、道の途中で力を手にした。なぜその力が彼女を選び、助けるにまで至ったのか……私には到底知る由もない。
当人と茶を嗜むなりすれば、引き出せるやもしれぬが。
ソレが顕在化した所を目撃した瞬間に初めて、私はかき集めてきた断片の意味を悟ったと同時にこの上ない恐怖を感じた。
それっきり未だに見てはいないが、きっと知らない方が良いのであろう。
「………彼女は紛れもなく、ここへと至る要因だった訳だ」
ゲヘナに於ける雷帝の暗躍と、四人の極秘任務。
アビドスに於けるカイザーの侵略と、一人の覚悟。
ミレニアムに於けるトップの監視と、五人の共同。
そこから次に渡るのは、トリニティ総合学園。私たちだ。
「………んむ」
ベチッと、新聞が顔面へ張り付いた。風に吹き飛ばされてきたのだろう。
「全く……今日は不運だな」
以前私は、予知夢を見る事を拒否した。その筈だ。でも寝る前に強く拒否の意を念じた所で、結局こうやって時々見せられてしまう。
それに被せてコレとは………意地の悪さを感じずにはいられない。
はてさてどんなものかと難癖つけるべく、顔から引き剥がして確認すると、見出しの1つに私は少し驚く。
「ほう……カイザーが、か」
新聞の日付はスマホに表示されていたものよりは少し前。
書き込まれていたのはカイザーコーポレーション本社壊滅の報せと、同社の倒産だった。
「ムラクモにしてやられたか……?もしくは……」
カイザーといえば小鳥遊ホシノの一件で影響力を削がれ、アビドス砂漠から撤退したものの未だに地位を維持し続ける存在。
それがまさかこうなるとは……にわかに信じ難い。
水面下で続けられていた小競り合いと、傭兵たちを用いた代理戦争。それらが顕著に現れなかったのは、各学園と連邦生徒会が持つ権威と武力による抑止。
しかしエデン条約締結日に起きてしまった事件の事を鑑みれば、二校の影響力低下に企業達がつけ込み、不信の蔓延る連邦生徒会へとクーデターを仕掛け……争いが表層化したとしてもおかしくは無い。
妄想というなかれ。根拠や裏付けとして、この新聞の主役に学園や生徒達は存在せず、企業同士の低俗な政治的駆け引きが主であり、加えて私は予知夢でレイヴンと共に企業の隠し持つ力を幾つか見てきたのだ。
カイザー壊滅の第一被疑者、新鋭技術を核とした技術者集団の名を探して目を走らせるも、どうしてか彼らの名は何処にも見つからない。もしやこちらは、既に滅んでしまったのかもしれないが……。
読み進めていくと、どうやら原因は他企業でも連邦生徒会による苦し紛れの制裁でもなく、謎の巨大兵器によって齎された深刻な被害であるとの記述があった。
「レジストコード……アンサラー……」
その兵器に登録された名の意味のする所は回答者や報復者。カイザーを相手に、大分皮肉な名付けである。
「分類は、アームズフォート……」
全く存じない、未知の区分にアンサラーは仕分けられていた。どこの勢力に属しているのか……より詳しく読み込んでみると、それは【色彩】によって虚妄のサンクトゥムを守るべく遣わされたというではないか。
「何がどうなっているんだ……」
企業同士の争いがキヴォトスの主軸となってしまった事だけであれば、この荒れ果てた都市区画の様相もある程度飲める。
だがこの紙面に書かれた色彩と呼ばれる存在に関する戦いの記録は……事がそう単純ではないと私に突きつけていた。
「始まりがクーデターであっても、そうではないにしても企業対企業の構図は確実……。そこに第三勢力である"色彩"が被せてきた……?」
大まかに整理すると大体そのような認識になる。しかしそもそも色彩とは? 虚妄のサンクトゥムとは?
さも当たり前のように用いられる単語への疑問は尽きない。
「アンサラーの行方……これは……!?」
記された一文によると、この悪魔の兵器はアビドス地区の独立武装組織ラインアークによって撃滅された……との事だ。
これまた新しく出たキーワードに首を傾げながら、アンサラーを堕とした張本人の名を視界に入れる。
その時──────突然の強風と爆音が周囲一帯を襲った。
「くっ………!」
立て続けに今度は地面が揺れ、貧弱な身体はあえなくボンネットからずり落ちてしまう。
硬いアスファルトに全身を強く打ち、節々に微かな痛みが生じる。
戦車の砲弾か、はたまたヘリのミサイル攻撃か。最悪の場合、アンサラーと同じ分類とされていたアームズフォートとやらの仕業か。
いったい何事かと思い、顔を上げてみれば………さっきまでの曇り空は姿を消しており。
あかい、あかい空が、広がっていた。
「…………少々……いやかなり、マズい状況らしいね」
見ているだけで神経が毛羽立つように感じる、禍々しい色。空はまるで燃えているかのように赤く染まり、吹き荒れる風が砂塵を巻き込んでピリつく。
よもや異次元とでも繋がってしまったのだろうか?
考える間もなく再度地面が大きく揺れた。今しがた受けたものに比べ、より強く。そして私の四つ耳からなる聴覚は即座にその震源が多数であり尚且つこちらへ向けて移動していると感知した。
「いつも通りならば、恐らく私にとって害はない……だが、念には念を入れておくべきか」
私の見る夢は、分かりやすく例えるならば観測者としての視点のみであり、干渉はほとんど出来ない。呼び掛けても返事は帰って来ず、物を移動させたとしてもソレが登場人物と関連する事象に必要とあらば何事も無かったかのように元に戻ってしまう。
同じように向こうもこちらは認識できておらず、不意に触れても気にも留めず、銃弾や爆弾の攻撃は当たっても比較的大したダメージにはならない。
つまり、今いる所目掛けて不運にも巡航ミサイルが着弾したとして……私にはただ、車にひかれたのと同等の威力にしか感じないのだ。
今回も恐らくそうだと考えてはいるものの、不気味な赤い空を見た後では些か不安感を煽られてしまう。
そこで私は片手に新聞を握りしめたまま、路地裏へと移動して身を隠す事にした。
「カイザーのゴリアテ……?」
薄汚れた壁に寄りかかりつつ顔を半分だけひょっこりと出し、震源の正体を探ってみる。
単なる知的好奇心のみではあるが、まるで知らないこのキヴォトスの現状は、我々が本当に行き着く先なのか……確かめる為にもこの行動は重要であると判断した。
もしくは、諦めがついていないとも、捉えられるが。
「……来たな」
次々と、地面の揺れが。二足歩行型兵器特有の足音と振動が近づいてくる。
目を凝らす先は、大通りへと繋がるバイパス区間、ビルの角の向こう。複数体がそこを通ってくるだろうと予測して待っていると────大きな一歩を踏み締め、その兵器は現れた。
「随分と、物騒な身なり……」
確かにそれは人の形を有しており、銃火器を装備している所まではゴリアテと同じ。
「カイザーでも、ムラクモでも無い……?」
所属不明。全身が黒く何かに塗りつぶされた様な機体の容貌はゴリアテと同等サイズではあるが頭部はガトリングでは無いし、より汎用性と生産性に重きを置いた印象を受ける。
「まさか古代兵器……」
次々と大通りに集結し、目に飛び込む人型兵器の軍団。統率の取れた動きと、それぞれが背部にセットしているキャノン砲やミサイルポッド。
それらの特徴は、主にムラクモ社が発掘を進めている兵器群と似たような雰囲気を纏っていた。
「一体誰が……? 彼女の仕業か?」
便宜上彼女と呼ぶが、私の知る限り彼女は最も古代兵器関連の技術に精通している。
アレの後に彼女がどうしているのかまでは想像がつかなかったが……。
「まさか……」
認めたくはないものの……彼女がそうしないとは断言できなかった。
「………はぁ…」
誰か生存者でも探しているのだろうか、古代兵器の分隊は大通りを進み、頭を左右に振りながらこちらの方へとやってくる。
一歩一歩、足を地面につける度に周囲の建物は揺らぎ、軋んだ声を上げる。
「流石に勝てそうもないな。戦車に戦闘機、ましてや私たちが銃を手に取ったところで……」
四肢を振り回すだけで瓦礫を量産し、車をも簡単にペシャンコ。
古代兵器が手に持つ銃は、恐らく突撃銃に区分され口径は戦車の主砲に相当。
関節部を狙うなり、過剰な火力を叩き込みさえすれば何とかなるかもしれないが……数が多い。
一機相手だけならばまだ希望は見えるが、あれだけ多くいるとなるともう術は無いだろう。
あまりに多すぎる情報量と強い絶望に私はなんだか身体が重くなり、制服が汚れることにも構わず、薬莢の散らばる路地の床へと座り込んでしまう。
「──────雪?」
ふと、口から零れる。
私の視界を上から流れ、小さな手に何かがふんわりと降ってきた。
だがよく目を凝らし見てみれば、その微細な粒は白色ではなく────青緑だった。
粒は一つだけに留まらず、すぐさま後を追って多数の粒が……粒子が降り注ぐ。
足元に、路地裏に、大通りに、そして古代兵器達にも。平等に降り注いでいる。
単体の状態では気が付かなかったが、天から降る粒子達は、集まるにつれて光を発している。
青緑の、光だ。
「!?」
突然、古代兵器達が発砲を始めた。
私の居場所がバレたのか、と最悪な予想を生じるものの彼等の銃口はこちらに何一つ向いていないようだ。
自らに降りかかる謎の粒子を手早く払い、私はその射線の先へ。
ビルによって反響された銃声と、胸を内側から叩くような空気の振動に唇を噛み締めつつ空を見上げる。
「…………………………………」
そこに居た。
白く、無垢な、鋭角を多分に用いたフォルムで。
蒼く満ちた眼光は全てを見通すように。
声が出なかった。
青緑の粒子を放出ながら、ゆっくりと降下していくその姿に私は圧倒される。
相手は指一本すら動かしてすらいないのに。
いや、むしろその不動こそが圧力を感じさせるのだろう。
(……………天使?)
そのシルエットに羽根はついておらず、ヘイローを浮かばせたわけでもなく。
しかしそれでも、人型兵器として形を成していても、これまでの兵器達とは一線を画す……世代や次元が違うと思わせる何かが、その機体にはあった。
その異様な有様が、古書にて登場する天使達と重ね合わせてフラッシュバックしたのだ。
「ぁ……」
絶句する私とは対照的に、古代兵器達は発砲を止めない。
ただターゲットが現れたと認識したのみであろうか、彼等はそのプレッシャーに何の反応も見せず引き金を引き、ミサイルを発射する。
しかしこれは、届かなかった。
それは射程距離外を意味しない。きちんと描かれた弾道は寸分の狂いも見せず、目標目掛けて襲いかかっていた。命中は確実で、射撃能力に不備はないように思えたが。
弾丸や弾頭がいざ機体の数m直前まで、真正面から接近すると──────稲光が走ったのだ。
すると、銃弾もミサイルも粉々に砕け散ってしまう。
何発、何十発、何百発。数多の攻撃がその雷と共に葬られ、傷一つ与えることさえ叶わない。
(まるで効いていないのか……)
注意深く機体の周囲を観察してみると、雷光が迸る数秒中に青緑の色をした膜のようなものが垣間見える。恐らくその膜が防護の役割を果たしているのだろうか。
やがて小隊の攻撃がいくらか止む。カバーとして牽制の射撃を放つ機がいるものの、数機が銃から弾倉を外し、弾丸のリロード動作に入った事で制圧力が減ってしまった。
ならば今度はこっちのターンとばかりに、ようやく白い二脚型機動兵器が動きを見せる。
その者が背部のブースターノズルを少しばかり動かして装甲を展開すると、凄まじい轟音と風圧を発生させながら一瞬で数キロメートルの間合いを縮めるに至り、路上に散らばっていた車や瓦礫、電線などの構造物が吹き飛ばされた。同時にこの私も、身に受けた衝撃波相手に全身を縮こませる他なく、目元を両手で覆う。突風に巻かれた破片達が頬へ強く当たる感触は突き刺さるようでいて、傍観の立場から引きずり下ろさんとしてくる。
「うぉわぁッ!?」
重心を低く、壁から生えている配管を掴みながらなんとか耐え忍んでいると、今度は空気の逆流が起きた。あの機体によって突き破られた大気の穴を塞ぐべく猛烈な、台風と紛う力が起き、私の痩躯は箒で塵が掃かれるのと同等に大通りへと投げ出されてしまう。
「ぁっ…がっ……!」
私と同じように飛ばされたオブジェクトによって構成されるスクラップの竜巻に巻き込まれ腕、足、背中。あらゆる部位に洗礼を受けつつ痛みに耐えかねた声が不意に漏れる。一体どれほどのスピードで移動すればここまでの影響を及ぼすのか……是非教えを乞いたいものだ。
幸いにもその竜巻は直ぐに止み、私はめくれ上がったアスファルトを転がりつつ着地した。
転がる途中で口元から入り込んでしまった砂を吐き出しながら、倒れた電柱を支えにして立ち上がると、ぼやけた視界の先で白い機体が既に戦いを始めていた。
──────だが、それは戦いと言うよりもどちらかと言えば蹂躙と呼んだ方が正しいように思える。
(強すぎる、あまりにも……)
スピードの勢いをのせたまま左腕部より夕焼け色の剣を現出させ、すれ違いざまにまず一機を胴体から切り落としてみせる。光で構成されたそれは、たった一振りで分隊の内1機を無力化、溶断せしめた。
続いてそこに向け、他の2機が再装填を終えたミサイルを斉射。総数40発と推測される弾幕が純白へと迫り来るものの、これを強引に、純粋で、単純な速さで躱す。
瞬間的加速による回避運動は音速を容易に突破し、ソニックブームによる大音響を発生させながら一瞬で視界の外へフレームアウト。
加えてたった1回、目で追うのさえ必死なこの挙動を、その機体は休む間もなく再度実行。しかも慣性を完全に殺し、Gの存在を無視したかのように、さっきの超音速とは逆方向に動いたのだ。
二連続の俊敏は機動兵器への固定概念を明日へと置いてけぼりにし、常識を覆す。
中にパイロットが居たとして……無事で済むのだろうか。
そんな疑問を打ち払うかのように、止まることなく攻撃を続ける機体。
まるで破壊することだけしか知らぬ、
右手の突撃型ライフルはほんの数秒間で相手2機に風穴を空け、反撃に送られる他幾のキャノンは青緑の膜により防御される。
武装構成こそはシンプルに纏まっている筈が、ソレは基礎スペックのみで既に従来の遥か先を行き、感情のトーンを落とす。
およそ歯が立たぬヒエラルキーの頂点に対し、私は手の震えを感じた。
残存数は7機。その集団は仲間の撃墜に意を介することなく淡々と、細身かつソリッドなフォルムの白に目掛けて集中攻撃をかける。
だがどれも有効打……そもそも攻撃は俊敏性と膜により当たらず、一方的という図式は変わらない。
ビルの隙間を駆け抜け飛翔すると、超音速の機動を存分に活かし、ライフル射撃の雨をもって3機を木っ端微塵に粉砕。
それだけに留まらず、すぐさま急降下の体勢へと白は移る。
この動きに対して残り4機の内で3機は反応し、その場から距離を取るも──────1機は鈍かった。
頭上に陣取られてしまえばもうお終い。
ほんの数秒の動きが命運を分け……結果としてその古代兵器は頭から真っ直ぐ、光の剣によって串刺しにされた。
レーザーブレードと呼称するべきだろうか、あの武器は。
火花を鳴らし、それを引き抜きながら消失させると、散り散りとなった3機によりそれぞれの方向から射撃がくる。
慌てた様子も見せずじっくりと白は蒼い眼光をギラつかせ、首を動かす。
その慎重な視線がどうにも恐ろしく、私は首をすくめた。
すると、狙いを決めたのか白は天へとまたもや飛び上がり、いつの間にかビル屋上へと移動していた機体をレーザーブレードにて一刀両断。すかさずブースト移動を行い離脱すると、大通りの隅に身を隠していた機体へライフルを発砲、果てに爆散。
無機質で効率的な戦闘マシーンの立ち回り。一連の戦闘行為に目が釘付けとなり、ただ固唾を飲んで見守っていると……もう既に立ち上がっているのは私の眼前に残る1機のみである。
「
苛烈で、思慮深く、また閃光を想起させる戦いぶりを見て私は新聞中の文字列に紡がれていた、アンサラーを破壊した張本人の
「君は、一体……」
彼の者は、ほんの1分足らずで9機を屑鉄へとせしめた。
ホワイト・グリントが特徴的な加速音を共に轟かせながらビルのガラスを衝撃波で叩き割り、颯爽と目の前へ滑り込む。
疾風に私の金髪は大きく靡き、いつからか垂れていた汗がみるみる乾く。
向こうには見えていない筈。
だが偶然だと頭で分かっていても、何処かその行動にはヒーローじみた影を心が重ねてしまう。
可笑しいものだ……どちらも変わらず、人を簡単に傷つける兵器である事に変わりはないというのに。
左側背部に折り畳まれていた装備が駆動音を立てて展張し、キャノンを形成。同じくして胴体とそれをつなぎ止めていたアームが動き、肩越しにその砲は相手へと狙いをすます。
「君は、天使なのか?それとも悪魔……まさか神とは言うまいが……。もしも君が彼女だとして、運命に最後までとことん抗った結果の姿がソレだとしたらあまりにも君は──────」
途端に過ぎる推察。
告げようとする一節を待たず、キャノンはスパークを立て、空気を焼く。
赤熱化した銃身は打ち出そうとする物の威力を容易に想像させる。
雷光に通じる蒼を纏い、そして莫大なエネルギーの光が視界を白く塞ぐと…………私の意識はそこで途切れてしまった。
ただひとつ、微かな寂しさと報われなさを抱いて。
──────私たちは運命を受け入れるしか無いのだろうか?