戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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温泉開発部部長捕獲

 

 

『ハーッハッハッハッハ! 無駄だよ無駄! たったそれだけの戦力を寄越した所で我々の活動を止めるに値しないのさ!』

 

ムカつく……。スピーカー越しに煽り続けるのもいい加減にしてほしい。本気(マジ)にこれ程ぶん殴りたいと思った奴は初めてだ。

私は怒りに震える拳を床に叩きつけながら、今回の爆破テロ兼立てこもりにおける主犯であり私たちの追っていた指名手配犯。占拠したセキュリティルームでこちらを嘲笑う、鬼怒川カスミへと憎しみの感情を向ける。

 

「クソがッ……私だけかよ残ってるのは……!まったく冗談きついぞ……」

 

支給品のアサルトライフル(AR70)を両手でぎゅっと抱え、玄関ホールの支柱を遮蔽物にしてよりかかった状態のまま私は悪態をついた。

 

「おい! 誰かまだ根性ある奴はいるか!? ホシ取りに賭ける馬鹿は!? 居るならさっさと返事しろ!」

 

無線で何度もさっきから呼びかけてはいるが、やはり応答は無い。

顔を半分支柱から出して、手を上げてるか笑ってる仲間でもいないか探してみるものの……どいつもこいつもだらしなく無様な在り方を晒していた。

 

──────無様と言えば……私も当てはまるか。

 

今回の騒動は行方不明中の指名手配犯、鬼怒川カスミによるホテルの占拠と周辺地域へのテロ行為だ。

毎度の事ながら飽きないもので、アイツらは温泉開発だとか口にしつつ迷惑行為をやってくれる。

 

私は風紀委員会所属。

つまりはカスミの奴とその他構成員を捕まえ、全員の顔面にありったけ望みのものを叩き込んでやるのが仕事。

 

その筈だ。

 

しかし結果は散々。

よりによっていつも先陣を切ってくれるイオリが今日は別任務で不在。ただでさえ苦戦する温泉開発部相手に彼女抜きで任務遂行など不可能に近く、ましてや超頼れる存在のヒナ委員長に関しては休みを取ってしまっている。

 

休みを取るのは良い! 非常にいい事だ。常日頃ストレスをかけ続けてしまっているのだからあって当然! むしろ普段が働きすぎだ加減しろ委員長!

 

なのになんでこんなタイミングで仕掛けてきやがったんだアイツ。趣味が悪すぎる。狙ってるのか? 狙ってやってるんだろうそうだろう!?

 

「ったく……なんて体たらくだ。ワンマンスイーパーに目を背け続けた結果がこれか。想像以上に委員会とは名ばかりだったみたいだなぁ私たちは……」

 

あの日以来。アビドスへ向かった時はより顕著に現れていたが、私たち風紀委員会はあまりにも実力が足りなすぎる。

別に装備が貧弱な訳では無い。

訓練を怠っている訳では無い。

 

純粋に、1人単位における強さのレベルが違うのだ。

 

越えられない壁がある。

埋められない溝がある。

そうした現状を打破しようと行動できる者はこの私を含めてもまだ少ない。

 

イオリもそこら辺はきちんと考えているし、ふざけまくりのアコ行政官もその心意気で思惑は一致している。

けれど前者も後者もトラブルメーカーだ。任務を遂行する組織の一員として少し問題がある。

 

「チナツ! 増援は来ないのか!? もう私ひとりしか残っていないぞ!」

 

『少々お待ちを。そちらへ間もなく1人到着するようです』

 

「ひとりぃ!?」

 

『ええ』

 

その一言に驚くと、私の隠れている柱へ機関銃の弾幕が襲ってきた。見栄えを重視して作られたであろうこの柱ではそう長く持たないだろう。

顔の横を掠める多数の銃弾達に冷や汗をかきながら私は無線相手へ声を張り上げる。

 

「正気か! のこのこ1人でやって来てどうにかなる相手じゃあるまい! ヒナ委員長は別としてな!」

 

『ですが彼女はそのヒナ委員長直々のご指名です』

 

「なに?」

 

えらく素っ頓狂な声が思わず出てしまった。

 

「ウチにそれほど実力のある奴はいたか? イオリは別任務に向かった筈だろう」

 

『いえ、外部からの支援です。ゲヘナに所属はしていません……前に1回この話しませんでしたか?』

 

「知らん。初耳だ」

 

『ええと……あっ、忘れていました。彼女については当事者以外、可能な限り情報を伏せるよう言われているんです。でなければ契約違反になってしまうと……』

 

「契約? となるとなんだ、まさか私の提案が通ったのか」

 

以前より私はアコ行政官にある事を頼み込んでいた。

なにぶん、隊にいくら過酷な訓練を課した所で肝心のプログラムが実戦に則さぬ物であるならば満足に戦えやしない。

現在風紀委員会で使用されている戦術教本も、戦闘テクニックも、アップデートが必要になったのだ。

 

ゲヘナ生は暴力へのハードルが低く、弱肉強食。なら戦闘面に於いて有用かと問われれば答えはNO。ストリートと戦場では求められる物がまるで違う。

 

構成員を育てる意味で、そこは確実に抑えるべき点でありながら未だに手をつけられていないのが私たちの現状だ。原因は様々だが……一番は今のゲヘナ内部にそういった戦闘経験値のフィードバックや共有という文化と資料が少ないこと。つまり、仲間内で教え合うだけでは限界ということだ。

その為、まずは外部から新しい風を取り込み本格的な新規の訓練プログラムを構築する必要があるのだが、これが中々難しい。

 

エデン条約締結が間近に迫り大手のPMCや傭兵、又は他の学校に合同演習等の協力を求める事はトリニティに対する武力の拡大として厳しい目で見られる可能性が高くなってしまう。

雷帝失脚時以来の極めて緊張感が高い状態にあたり、無理に動くことは慎まれるべきだとアコ行政官が苦い顔をして語ったのを覚えている。

まぁ私としても苦肉の策で、外部に頼るというゲヘナの権威を落とすような真似は本来したくないし、変な厄介事を起こしてしまうのも勘弁だ。

 

『いいえ、そうではありません。先程も申し上げた通り彼女はヒナ委員長自らによって選ばれた独立傭兵です。自分の不在時に代打で受け持ってくれるとの契約内容でした』

 

「となると、私の思っていたのとは違うな……。結局はそいつに頼るんだろう? 本当に大丈夫なのか」

 

一騎当千を期待するしかないということか。極秘に一人紛れ込ませるくらいなら情報部の方で何とか出来るらしいな。

 

『信じるのなら、ヒナ委員長を。もし無理ならご自分の目で確かめて下さい』

 

「そうさせてもらおう。で、助っ人の名前(コールサイン)は?」

 

『──────レイヴンです』

 

その名をチナツから聴いてすぐ、けたたましい唸り声を共にし、玄関ホールの回転ドアが大きな衝突体によって粉々に粉砕された。

 

『ほう?』

 

タイヤを地面に擦り付け、猛烈な急ブレーキをかけて停止する突然の乱入者に敵一同は機関銃の射撃を中止し、ホールには細かなガラス片の舞い散る音とオートバイのアイドリング音が響き渡るのみとなる。

まさかバイクに乗ったまま突入してくるとは。アクション映画じゃあるまいに。

 

最も、その大胆不敵な登場の仕方はこの場の空気を掻き乱し、一気にペースと主役をかっさらってしまう。

全員の注目がただ一人に、ゆっくりとサイドスタンドを下げてシートから降りる動作にさえ釘付けにされた。

 

『これはこれは……初めて見る顔だね。だが風紀委員会の者じゃないだろう? チェックインなら明日にしたまえよ』

 

ブーツを鳴らすその人物はゆっくりと私の傍まで近づき、ホルスターからハンドガンを引き抜きながら膝をついた。

 

(ん?……どこかで見覚えが……)

 

旧式の携帯端末を取り出すと、彼女はキーボードに置く指を滑らして文字を入力する。

 

『まだ戦えそう? 実は1人だと少し心許なくて……』

 

「…………ははっ、そりゃそうだろう。丁度私も心細かった所だ」

 

支柱の影から幾人もの温泉開発部部員を見やり、ライフルのチャンバーを確認しながら私は答えた。

 

「………やれるな?」

 

『そのつもりだよ』

 

青緑の髪を揺らし、柔和な笑みでもって彼女は左手を差し出してきた。その手にはプロテクター付きのレザーグローブがしっかりと嵌められている。

 

「それは良かった」

 

手を取り立ち上がると、心做しか己の体力がいくらか回復したように思える。無意識に消えかけていたであろう気力もなんだか湧いてきた。

 

『なるほどなるほど……どうやら君は風紀委員会に雇われた傭兵だね? よもや珍しい事もあるものだが……それなら話が早い。今からでも手を引いてくれないか』

 

ややスピーカーの音量を上げ、カスミがレイヴンへと話を持ち掛ける。

 

『私たちはこう見えても貞淑でね。無駄な争いは避けたい。どうだ? こちらに付くというのは。報酬も風紀委員会提示の2倍は軽く出してやれる』

 

「おい、アイツの言葉に耳を貸すなよ」

 

短く告げるとレイヴンは苦笑いの表情を浮かべた。

 

『もはや風紀委員会の人員もそこに残る1人。かたやこちらにはまだ数十人が矛を向けている。一介の傭兵である君にとって悪い話じゃ無いだろう? どちらに付いた方が合理的で利口か、小学生でも分かるはずさ』

 

「勝手に言ってろ……」

 

そう吐き捨て、はったりをカマしつつも私の動悸は上昇している。ヒナ委員長に選ばれたのならそうそう鞍替えするような奴では無いと思いたいが……傭兵というのは元来そういう存在だ。不安は拭えない。

 

レイヴンが手に持つハンドガンを素早く構える。不意に緊張が走って、反射的に引き金へ指がかかるものの……彼女の銃口は前線を張る温泉開発部の部員達へと向けられていた。

 

『ふむ……残念だよ』

 

カスミはそれだけ言った。これ以上無駄に言葉を並べても無駄だと判断したのだろう。

私にとっては二つの意味で最高だ。

 

(さて、どう攻めるか……。タッグで行くならあまりやれる事は少ないぞ)

 

ここの玄関ホールの構造は単純明快。2階までの吹き抜けで私から見て左側のみに1階と階段で通じた廊下が設けられ、正面奥の踊り場にエレベーターが設置されている。

一先ず標的の位置するであろう10階に向かう為エレベーターを目指す訳だが、道中の遮蔽物は何本かある支柱とソファ位な物だ。フロント用のカウンターと観葉植物は既に多量の爆弾で消え去っている。

 

「私は左舷から攻める。正直まだ不安だが、そうも言ってられん。レイヴンは右舷から頼む」

 

シンプルではあるものの、会って数秒でろくな連携など取れやしないだろう。出来るだけ簡素な方が良い。

私の作戦を聞き取ったレイヴンは、親指を立てて即座に了承してくれた。

 

「じゃ、行こうか」

 

やる事は決まった。後は実行するのみ。

互いに頷き、呼吸とタイミングを合わせる。

そして、相手の内誰か1人が【撃て!】と叫んだのと同時─────私たち2人は動き始めた。

 

「あがッ!?」

 

まず1人上半身のみを柱から出して私は、2階からせり出す廊下に位置取る奴の頭部へ集中攻撃。ヘルメットが吹き飛び、十何発か口元に被弾すると少し怯ませることに成功。その隙にすかさず、私はなけなしの手榴弾を2つそこへ投げ込む。

何百回と繰り返した投擲練習が功を奏し、思い描いたままの軌道で入ってくれた。

 

乱射される数多の銃声達がBGMを奏でる。

引き出される闘争本能や暴力性が剥き出しにぶつかり合う。

いざ起爆するまでの数秒間、私はチラッと横目にレイヴンを見た。

 

「手馴れたもんだな、向こうは」

 

土嚢が積まれ構築された簡易的な前線より、軽機関銃による弾幕が彼女を襲う。しかしこれをレイヴンは己の身体ひとつ、宙へと舞って凌いでしまう。

羽でもついてるのかと錯覚させる程鮮やかな跳躍と回避技術に魅入られそうになるも、今はそんな場合ではない。

 

いざ手榴弾起爆の音が轟くと、私は彼女レベルとは行かないまでも極めて無駄なく、素早さを重視して飛び上がり、廊下へと移動する。

そうしてまず目に入るのは、手榴弾が直撃したであろう人物が3人。勿論私は蹲る3人へ丁重にトドメを刺し気絶させると、すぐさま2階部分の客室に繋がる細い廊下へ一旦身を隠す。

 

弾倉を手で叩き、中に30発キッチリ込めた銃弾達の列を揃えて再装填。

レイヴンの方はと言うと、敵の波をなぎ倒し続けて注意を引き、尚且つ被弾は最小限に抑えているようだった。壁を蹴り地を滑り、常に動き続け、攻撃を止めないその立ち回りは一風変わっており、我流なのだと分かる。

隊の参考にはならないな。

 

私は私なりのやり方として、廊下から吹き抜けへと銃を構えたまま飛び込んだ。

 

「おおっ!?」

 

右半身に硬い床の軽い衝撃を受けつつ、こちらに驚く1人と、レイヴンへ気を取られていたもう1人へ発砲。15発ずつそれぞれに放たれ、2人は幾らか後ずさり隙が生まれる。

瞬時に私はハンドガンをホルスターから抜き取り片手で持ち、鼻っ柱目掛けた追撃を両方に贈る。

 

ドサドサッと重い音が2つ、床を伝った。

 

直ぐにホルスターへハンドガンを戻し、ライフルに持ち替えて中腰の姿勢を取る。また新しい弾倉をマグポーチから取った所で、正面に3人が立ち塞がった。

 

「ああ、クソッ……!!」

 

3つ分の容赦ない銃撃を全身に受け、苦痛に顔が歪む。

それでも何とかレシーバーへ弾倉をねじ込み、チャージングハンドルを思いっ切り弓のように引き、傭兵には負けてはられぬと言うプライドでもって姿勢を保つ。保たなくてはならない。

 

さっきの所でまたやり過ごそうにも、奴らの狙い所は的確に手足の関節部であり、容易に四肢を動かせないよう固めてきている。

下手に大きく動いてしまえばこの姿勢を崩し、銃を持つ事さえままならない状態へ陥るだろう。

 

1発1発の銃弾が皮膚へめり込み、所々の被弾箇所からは血も出てきた。

意識もガリガリと削られていく。

 

タダでやられるのは癪だ。

そう思い、銃を構える。

手ブレは酷く、視界の端は滲み、怯み状態は収まらない。

 

その打開策として私はやや変則的に構えを変える。ハンドガードに添えていた左腕をマガジンごと抱きしめるように回し、右腕とクロスさせ腕にハンドガードを乗せる形に。腰を下ろし、足膝を立ててそこに肘をピッタリ固定すると構えは完成した。

本来であれば中長距離を正確に狙う為のものであるが、この状態から移行できて尚且つ正確に相手を狙えるものをと考え、私はこれを選ぶ。

 

成ってしまえば後は撃つだけ。

意識を蝕もうと滲む痛さに眉をひそめつつ、狙いをド真ん中に立つマヌケに絞る。

祈りという程上品では無いが、"くたばっとけ"という願いを30カウントに込めて私は真っ直ぐ引き金を引いた。

 

「ぬぐっ…うぁ!」

 

胴体部分に30発ちょうど。寸分の狂いなく叩き込まれ、そいつは見かけ通りの嬌声を上げながらノックダウンした。

 

すると続けざまに激しい爆発が1つ起こり、両側に居た2人を襲う。

しかし私の手榴弾ではない。別方向から投げ込まれたコンカッションの援護である。

 

「ナイスカバーだ! レイヴン!」

 

大声で感謝を述べつつ私はライフルの再装填を行いながら突進する。

恐怖や痛みに屈せず、全速力で近づいてくる私の姿はどう見えただろうか……動揺を隠せぬ1人に向かって走りながら銃弾を放ち続けていると、既に距離は格闘戦の行える範囲まで縮まった。

 

弾切れのボルトストップ音が鳴るも、構わず私はそいつを銃床(ストック)で2度3度と目一杯殴りつけ意識を刈り取る。

 

「この……! 良くもやったな!」

 

けれどもう1人への対処に回すだけの余裕はなかった。

背後から組み付かれ、首に腕を回されてしまう。

 

(放せ! なぁにしやがる、とっとと放すんだこの馬鹿!!)

 

早口に脳内で捲し立て、咄嗟にライフルを捨てた私はどうにかこうにか引き剥がすべく両腕に力をかける。

だが筋力では向こうが上なのか、それともこうして気道と血管を塞がれ生じてしまう、酸素不足によるエネルギーの低下が原因なのだろうか。

両方かもしれないが、ともかく私にこの拘束は振りほどけそうにも無かった。

 

「ぐっ……あぁ……っ!」

 

くらくらと遠くなっていく視界に、熱を帯びていく顔。息苦しいなんてもんじゃない。

素人の手加減なしな首絞めは下手っクソなりに無駄な苦しみが長く続く。

 

(ちくしょう! こうなりゃヤケだ!)

 

肘で相手の脇腹をがむしゃらに突き、少しばかり悲鳴を上げさせてやると、こちらがある程度動くだけの余裕が出てきた。

幸い体格はほぼ同レベル。なればここで決め切るしかなく──────私は全身を大いに振るって2倍かかる体重の重さで倒れ込み……階段を転がった。

 

(ぬぁあああァァ!?!?)

 

一つ、二つ。数えるのさえ億劫な段差達は平等に2人を痛めつけ、加速する回転に物理法則を呪う。

挙句散らばった薬莢が追加で滑りを良くし、私たちはポイ捨てされる空き缶のように踊り場へゴロゴロと。

 

四苦八苦の七転八倒。互いに全身を打ち、組み付いている奴を下敷きにしてようやく踊り場で回転は止まった。

けれど拘束は未だに解かれてはいない。こいつの体力は間違いなく減っただろうがそれは私も一緒だ。何も変わらん。

意識を失っていないのも同じ。

 

「ふっ……っ……がぁッ」

 

このまま気を失うかと思ったその矢先。

 

─────特徴的な銃声が耳に届く。

 

その音は先程まで起きていた銃撃戦(パーティー)に微量混じっていたものではあったが、気づけば聞こえるのはそれひとつのみで……私を苦しめていたモノは呆気なく件の銃音と共に消え去っていた。

 

「はっ…はっ…ぁ………はぁ……」

 

邪魔な腕を退かして飛び起きた私は、ただ求めるままに空気を貪り天を仰ぐ。

すると目の前には、不安そうな表情でこちらを覗き込むレイヴンの顔があった。赤く光る眼帯のレンズがやけに眩しい。

 

『どこか痛む所は無い?』

 

「ゲホッゲホッ……あぁ……問題ないね。五体満足無事だぁ……クソッ」

 

『ほんとに?』

 

「良いんだ良いんだこんなのは。怪我のうちに入りゃしないさ」

 

納得いかない様子のレイヴンだが、今はカスミの馬鹿を捕らえるのが先決だ。この手に首根っこさえ掴めば、あっという間に元気百倍間違いなし。

 

ハッタリかまして堪えつつ立ち上がり、硝煙の香りにむせながら周りを見渡す。

どうやらパーティーはもうお開きのようだった。

 

「恩に着るぞ、レイヴン。今のは本気(マジ)にヤバかったからな……」

 

『気にしないで』

 

「ああ」

 

6発の跡を残す頭を見下ろしながら私は掠れ声で言った。

 

「にしても、随分とやってくれたな。ざっと数えて40人くらい居たと思ったんだが……まさか1人で片づけるとは。私の部下達にも是非見せてやりたい」

 

『なら写真でも撮っておく?』

 

「いい考えだなそりゃ。記念だ」

 

懐からひび割れたスマホを取り出し、私は乱れた戦場跡にシャッターを切った。ついでにレイヴンを、とも思ったが彼女については極秘らしいので止めておく。私は新聞屋じゃないし、撮ったとしても後で情報部に消されるのがオチだろう。

 

「よし……さっさと行くか」

 

入ってきた入り口から振り返ると、備え付けのエレベーターが銀色に輝いている。開閉のボタンを押すと、既に昇降機が来ていたのかすぐに開いた。

一瞬、中に追加の増員がいる可能性を忘れていたから冷や汗をかいたものの……幸いな事にすっからかんだった。

 

「妙だな。いつもはキリが無いってのに……今回は数が少なすぎる。何か聞いてるか?」

 

『何も?』

 

2人で昇降機に乗り込み、また開閉のボタンを押しながらチナツへ無線を繋ぐ。

 

「玄関ホールは掃討した。カスミの馬鹿はまだ10階のセキュリティルームに居るか?」

 

『偵察ドローンによると、目標にまだ動きはありません。屋上にも人影無し……作戦を続行してください』

 

「了解した」

 

10階へのボタンを押すと、ガコンという大きな音と共に少しの浮遊感を受ける。

昇降機が上昇し始めた。

 

今からあのインテリぶったニヤケ顔をぶん殴れると聞いて心底ワクワクする。

ほくそ笑みながらライフルとハンドガン両方に弾倉を再装填し、チャンバーを確認。

特に引っかかりや砂の詰まりなど無く、一安心だ。

 

レイヴンの方も右手に持つちょいと大きめなハンドガンの弾倉を交換しており、抜かりは無い。

 

「まさかハンドガン一丁だけで戦った、とは言わないよな?」

 

『そうだけど』

 

「参ったな……こりゃ。一体どうやったんだ?」

 

『当てるだけだよ、12発』

 

「12発!? こいつでも30発必要だぞ……!」

 

手持ちのライフルを叩きながら私は口にこぼした。

 

「弾薬は? 見た所50口径とか454カスールには思えんが。ベースはM93Rだろ」

 

『9mm』

 

「市販のパラベラムか?」

 

レイヴンは首を縦に振る。

 

「はぁー………どういうカラクリだ」

 

『私も知らない。この子で撃つと何故かそうなるの』

 

「……………さてはオカルトグッズか」

 

『違うよ、多分』

 

「じゃあ良ければ後で私に撃たせてみてくれ。欲を言えば私も同じヤツが欲しいしな。攻撃は最大の防御だ」

 

『撃ってもいいけど、私以外マトモに扱えた子はこれまで居ないし、似たような銃は何処にも売ってなかったよ』

 

「オカルトグッズじゃないか」

 

『違うってば』

 

「なら何処で手に入れたんだ。礼拝堂か? 神社か? それとも古代遺跡か?」

 

私が聞くと、レイヴンは目に見えて答えを渋る。

恐らくはかの名高きブラックマーケットだろう。あそこには魔改造の銃も数多く出回っているし、このM93Rもその1種だと考えられる。

 

だがしかし、こいつはどうも他のハンドガンとは一線を画する何かを感じる。

市販品に手を加えたと言うより、1から設計された一品物と考えた方がしっくりくる佇まいなのだ。

 

これ程の物を購入出来るなら是非立ち寄りたい……。

不良や学籍なしの身分に売るからして、これまでに確認したそういう類の店は軒並み学生証の提示が必要無い。レイヴンも同じクチだろう。

つまり私も身分を隠して足を運べるということになる。

 

非常に悩むが────似たようなのは何処にも売ってないと語るレイヴンの発言が過ぎり、私はそれを信じる事にした。

というか普通に考えてあまり行くべきでは無い。

 

「まぁ良いかどうでも。撃てて当たるんなら問題無し。全部一緒だ」

 

めちゃくちゃな暴論をかざし終止符を打った所で、昇降機が到着の音を鳴らした。

 

(兵站の兼ね合いもあるが、やはり威力が必要か……)

 

威力……ね。

そう考えていると銀色の扉が無造作かつスムーズに開き────

 

 

 

 

レイヴンが、仰向けに崩れた。

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