戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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代理

 

「ああ────クソッ!!」

 

頭を撃たれ、倒れたレイヴンを引きずりながら私は悪態をつく。

開閉ボタンを連打し、焦りながら横の壁にピッタリと両方の身体を退けると、昇降機内の鏡に相手の姿が写った。

 

対物(アンチマテリアル)ライフル……バレットM82だな……?」

 

あの独特なシルエットは間違いない。

 

「毎回毎回、本当にどっから調達してくるんだアイツらは!?」

 

どっかの誰かさんが武器の横流ししてるんじゃないだろうな。カイザーコーポレーションとかって!

額の汗を腕で拭いながら待っていると、ようやく昇降機の扉が閉まってくれた。

 

これで一応少しは安全が確保出来たはずだ。

 

「おいレイヴン! 私の声が聞こえるか!?」

 

「………………ぁ」

 

声が上手く出せないのだろうか。彼女は吃りながら答える。

目は虚ろで、口も半開き。前髪を手で払って額を観察してみると12.7mm×99mm弾による大きな傷が出来ていた。出血もしている。

 

「大丈夫だ安心しろ、な? 今は安全で私もここに居る。お前の怪我もそこまで酷い訳じゃない」

 

レイヴンの両手を握りつつ私は励ました。

強い脳震盪も起こしているだろう……頭部へのダメージから考えて気絶まで行かなかったのは不幸中の幸いか。

いや、激痛が続くことから考えてやっぱり良くないかもしれん。

 

取り敢えず、腰に装備しておいた医療品バッグから必要な物を取り出し、私はレイヴンの額へ消毒液と止血パッド。そしてクルクルと包帯で巻き、手早く処置を済ませる。

 

「………ぁ………が………」

 

「感謝だってんなら別にいい、お互い様だ。それに私は慣れてる……お茶の子さいさいだぞこの位」

 

レイヴンは口元に微かな笑みをたたえる。

 

「とにかくお前はあまり動くな、今の容態じゃ安静にしといた方が賢明だ」

 

私は扉が閉まるまでの数秒間に記憶した物とブリーフィング時に教えられた10階の内部構造を照らし合わせる。

相手はエレベーターを降りた先の長い廊下、1番奥で待ち構えており、その背後にはセキュリティルームと屋上への扉が存在している。

つまりあのスナイパーを仕留めればカスミの所まで行ける訳だが、その道中では左側に客室が12部屋分配置されている……ここが厄介だ。

中に多くの温泉開発部部員が待ち構えているとするなら勝ち目は薄いだろう。

 

「チナツ、レイヴンがスナイパーに撃たれた。ちょっとばかし動けそうにも無い」

 

『スナイパーですか!?』

 

「そうだ。丁度セキュリティルーム前の場所に構えてる。窓の無い所だ」

 

『……本当にすみません……完全にこちらの落ち度です。もっと念入りに動かしていれば……』

 

「謝るならレイヴンに言え! 後にしろ! とにかく今、私が欲しいのは謝意じゃなく敵の数についてだ」

 

『!……分かりました』

 

「廊下と客室、見える範囲で良い。偵察ドローンを回して索敵してくれ」

 

『了解です』

 

「頼むぞ」

 

こっちからじゃドローンも見えないし飛ぶ音も聞こえやしないが、張り切ってやってくれるに違いない。

詰めの甘さと問題の抱え込みやすさを克服してくれたなら……と思いはするも彼女はまだ1年生だ。そこまで求めるのは酷なものである。

 

「レイヴン、これは何本に見える?」

 

二本指をレイヴンの眼前に向けて、反応を伺う。左の眼球をグリグリと動かしながら瞬きを多めに繰り返すと、彼女は片手で弱々しく三本指を突き立てた。

 

「………やっぱり、アイツをやるのは私だな。それ以外無い」

 

任務を終えた後でセナ先輩の所に連れていった方が良いかな、これは。

レイヴンの戦闘能力は確かに高水準だと感じたが、耐久力はヒナ委員長に比べて劣るらしい。

比べる対象が規格外すぎると言えばそれまでだが。

 

立ち回りにもそこは違いが出ていた。

ヒナ委員長は半ば固定機銃や重戦車を思わせる様な、被弾にお構い無しの戦いを多用する。機動力を駆使したやり方も可能だが、規則違反者相手にはそれで十分通している。

 

そして、基本他者に頼る事が少ない。

 

「レイヴン。お前に1つ質問がある……別に無理そうなら答えてくれなくて構わんが」

 

首をゆっくり動かし、レイヴンは目を細めつつこちらを見つめる。

 

「お前は─────私を頼ってくれるか?」

 

そう口に出すと、彼女は人差し指を私へと突き出し……真っ直ぐな視線のまま親指をグッと力強く立てた。

 

「………分かった。こんななりでも今の私は風紀委員会の端くれだ。ここで見といてくれ」

 

告げた矢先、自身の装備していたチェストリグに手をかけた彼女が筒状の物を取り外すと、半ば押し付けるように手渡してきた。

 

煙幕手榴弾(スモークグレネード)……ありがたく使わせてもらおう」

 

感謝を述べた所で、チナツからお待ちかねの通信が入ってくる。

 

「おお、どうだった」

 

『確認した所、客室内に人影は見受けられませんでした。恐らくそのスナイパーが最後の砦……対処出来ますか?』

 

「当たり前だ。任せておけ」

 

『時間をかけてしまえば目標が逃げ出す可能性も増えていくでしょう。速やかにお願いしますね』

 

「カスミの奴には随分と借りがあるからな。そのつもりだ」

 

通信はそこまでとし、扉の開閉ボタンへ指をなぞる。

ふと鏡に目をやると、そこには服を爆風で焦がし、全身に銃撃の傷を残す私の姿が写っていた。

目につくダメージは頭部のみに限られたレイヴンとは真反対の、ボロボロな私の姿。

 

汗と血を拭い、爆弾の火傷からひりつく肌の感触と関節の鈍痛に見て見ぬふりをしつつ、荒い呼吸を整える。

バクバクと鳴る心臓に手を当て、落ち着けとノックする。

 

 

そうして──────鏡が割れた。

 

 

同時に爆裂音が共鳴し、身を震わす。

見れば、扉に強烈な穴をこじ開けた銃弾が鏡を貫いていた。

パズルのように割れた破片が辺りへ散らばり、様々な角度から私を象る。

 

続いて2発、3発と。

厚さ数十mmは確実にあるはずの強固な扉に風穴が空く。

今の私の身では手足の何処かに食らうだけで即任務失敗だろう。そう思わせる位の威力が目の前で立証されている。

 

恐怖は、もちろんある。

これは抗えない事だ。

しかし、戦わなくては。

 

────戦わなくてはならない。

 

その為には……恐怖を乗りこなす事だ。

臆病であっても、腑抜けではならない。

無鉄砲であっても、恐れを知らなくてはならない。

 

私は私自身の信じるものに尽くすべく、証明のためとして。

 

今───扉を開く。

 

「待ってろよ……」

 

手渡されたスモークグレネードの内1つをひょいと投げ、昇降機前に煙を炊く。

少し待って、本体から放出したであろう煙が廊下へ充満したのを見越すと、私は匍匐へと体勢を移行し、レイヴンの元を後にした。

 

(訓練での成果が役に立つ時だぞ……私)

 

有刺鉄線が張り巡らされ、重機関銃が襲う泥の中を這って進んだ過去の経験が今の私を動かしている。

何度もやってきた事だと……やるべき事をただやるだけだと語っている。

 

肘や膝、全身をフルに使い、頭を低く保ち踵を寝かせ、可能な限り伏せたまま動く。

無論、自分のライフルは抱えつつ。

 

想像するイメージは正しく蛇だ。霧の立ち込めるジャングルを縦横無尽に這い回る蛇だ。

敵を睨み、怯ませ、硬直させ。

音もなく忍び寄り、隙を見て噛み付く。

 

自分自身がそういう存在なのだと暗示をかけ、イメージのままに動く。

相手に撃たれるより早く、こちらが撃つのだ。

 

やがて少し進んだところで、また1つスモークグレネードを前方へと放り投げる。

煙を自らの周囲に持続させながら着実に、慎重に、距離を詰める。

 

されど速度は素早く。

 

焦ってはダメだ。この身を包んでくれる白い煙こそが、柔らかくも強固なアーマーなのだから。

 

音を鳴らしてはいけない。

居場所がバレてはならない。

 

追い詰めているのは私なのだと、相手にじっくりと教えてやるのだ。

 

(ふむ……何も見えん)

 

見えるのは光の散乱する照明。

聞こえるのは自分の呼吸音と鼓動の鳴り。

触れるのは深紅のカーペット。

 

ただならぬ緊張感が張り詰め、制限された感覚をより研ぎ澄ます。

 

(レーザーサイト……)

 

赤く細い線が頭上を真っ直ぐ飛ぶ。

チンダル現象により見えるようになった相手の射線はここで私に味方してくれた。

つまりそのレーザーにさえ当たらなければ、私がダウンすることも無い。

これ以上なく分かりやすい目印。

 

(スナイパー失格だな……まぁ所詮、そんなものか)

 

持つ知識の量と質の違いから来るアドバンテージが私を前へ前へと進ませる。

もう1つ、スモークグレネードを廊下に転がし、更に向こうへと身体を動かす。

 

スイッチの切り方も知らぬのだろうか。やや動揺を隠せない動きでレーザーがブレる。

 

信頼の置けない武器を使うから、そうなるのだ。

扱うのであれば1から10まで余すことなく知っていなくては。

自らの身につけた技術と知恵でなくては。

 

(……!…………危ない……!)

 

私を探そうと揺れる線が床スレスレにこちらへと、偶然にも近づいてきた。

 

咄嗟に身を鉛筆のように転がして避けると……さっきまで私がいた位置に小さなクレーターが出来てしまう。同じくして派手な轟音が耳をつんざいたが、その音量は昇降機内にいた時より確実に大きく聞こえ、自らがどれだけの距離まで接近できているかを知らせてくれる。

 

(もう少しだ……)

 

喜ばしい事実に思わず私が口角を釣り上げたところで────無線が入ってきた。

 

『先輩、動きが見られました』

 

(何!?)

 

『付近の空域に所属不明の小型ヘリが入り込んだ模様です』

 

(……逃げるつもりか!)

 

すると、廊下内に足音が1つ響く。

恐らくはカスミのもの……しかも近い。

 

今すぐ立ち上がり、走っていけたならば追いつく可能性は高いだろう。奴を捕らえるまたとない機会だ。

しかし依然としてレーザーは私を探そうと頭上を動くままで、いつでもお前を撃ち抜けると宣告してきている。

 

憶測の距離ではあるが、少なく見積っても5mはありそうだ。今まで通過した客室の数から考えても、そのくらい。

立ち上がった所で即スナイパーに撃たれてしまう可能性も、高いと感じる距離だ。

 

当然、あまり無茶は出来ない。

とはいえ、今こうしている間にもカスミは屋上へと赴いているだろうし、スモークの持続時間も徐々に限界へと近づきつつある。

 

(まだ残ってたか……? いや頼む、ひとつだけでもいいから残っててくれ……!)

 

神を信じたことなんてそこまで無いし。もしいるならば向こうも私を嫌うだろうが。

それでも私は祈りつつ、ベルトに装備していた未使用のポーチを探る。

 

(よしっ!)

 

残ってくれていた1つのグレネードを手に握り、私は心の中でガッツポーズを取った。

今日はどうやらツイてる日らしい。

 

(それじゃあとっとと────くらいやがれぇ!!)

 

もはややる事はただ1つ。これしか無い。

私はグレネードのピンを抜き、思いっきり前方へとぶん投げ、スナイパーへの直撃を狙う。

 

それに加えて、匍匐の姿勢からゆっくり起き上がり、脚部に出涸らしレベルかつなけなしの全力を入れると──────スモークが晴れ、スコープが光を反射した。

 

レーザーの赤い点が、私の胸に置かれる。

けれどもそれは、私を見ているから。

私に注意を向けているからこそ出来ること。

 

「────なぁッ!?」

 

コロンと転がったグレネードが間もなく爆発した。

煙越しの、先の見えない投擲に不安を感じていたものの……私の技術は相手の胸元近くへとホールインワンかつストライクを叩き出してくれたのだ。

 

爆風により、私の目の前へと身を投げ出されるスナイパー。

直撃したにも関わらず、まだ立ち上がろうと手足を動かしている姿は少し可哀想に感じるが。

 

それを見逃してやれる程、甘い私ではない。

 

「今度からは、レーザーなんて着けてくるなよ……? でなきゃその腕前も無駄になる」

 

うつ伏せの状態からこちらへ、未練がましく目を向ける相手に向けて私はライフルの銃口を突き付け……弾倉内全弾の30発を吐き出した。

これで当分は動けまい。

 

『先輩! 目標が!』

 

最後の砦が意識を失った事を確認すると、チナツが無線越しに声を荒らげた。

 

「カスミが屋上に出たのか!?」

 

『その通りです! ヘリもすぐ近くにまで迫って来ています!』

 

「クソッタレ!!」

 

無線を切り、私は吐き捨てる。

向かう先は屋上だ。

 

倒れたスナイパーを飛び越え、屋上へのドアへとすぐさま走る。

金属製のドア目掛け、この走力と勢いを維持したままタックルをぶちかます。

そうしてドアが大きな音を立てて開いた。

 

残る細い階段を必死に、二段飛ばしで駆け上がっていくと─────視界が開く。

 

そこには、青空が広がっていた。

 

「ハーッハッハッハッハ! 随分とお疲れのようじゃないか風紀委員どの?」

 

あと、カスミとヘリ。

 

「だぁれのせいだと思ってる!」

 

ローター音が私の声を掻き消さんと大きく唸りを上げている。

残念な事だが、カスミはもう既にヘリに乗り込んでいた。加えてヘリも地を離れている。

 

「さあ? 私には皆目見当もつかないねぇ〜。私達はただこのホテルに居ただけ……勝手に爆発したのはそっちだろう?」

 

「なんだと!? もういっぺん言ってみろこのタコォ!!」

 

私についてはともかく、部下の失敗までをも言うとは……。やはりタダで済ます訳には行かないらしい。

私は空の弾倉を捨て、マガジンポーチに手を置く。

 

しかし────もう弾倉は、残っていなかった。

 

「おやおや、どうしたのかな? そんなに顔を赤くして。ストレスが溜まっているのなら速やかに発散したまえよ……無理に溜め込むのは身体的にも精神的にも毒だぞ?」

 

「ええぃ……クソッ!」

 

チャンバー内に残った1発をカスミに狙いを定めて発射。

だがそれは、高い防弾性を有するキャノピーガラスによって防がれてしまった。

 

「おい! 降りてこい! さっさと降りないかこのぉ!!」

 

私はハンドガンを乱暴に取り出し連射。

怒りのままに引き金を引き続ける。

けれども、こんなみみっちい弾が有効打を与えられる訳なぞない。

言わば負け犬の遠吠えなのだ。悔しいが。

 

「そんな物で堕とそうなどとは、勉強不足じゃないかキミ? 兵器についてもっと深く学ぶ事を私はオススメするよ」

 

「うっせぇ黙ってろ凡骨が!!」

 

「ハーハッハッハッハ! 結構結構! 誰がどう言おうと構いはしないさ!」

 

「………ッざけやがってぇ!!」

 

「また会おう。お節介な風紀委員の隊長さん?」

 

ハンドガンの弾を再装填。乱射しつつ、段々と遠ざかっていくヘリに向けて脚を動かす。

届かないとは知りつつも、屋上の縁まで歩を進めても、私は抵抗を止めない。

 

それでも、現実は無情な物で。

虚しくホールドオープンの音が鳴ってしまう。

 

「…………畜生!」

 

弾切れだ。

ヘリとの間に空いた距離からして、もう当たりもしないだろう。

いっその事、さっきのスナイパーが使ってた対物ライフルでも借りるかと思い、後ろを振り返る。

 

「レイヴン!」

 

そこに居たのは、フラフラと不安定のままこちらへ歩いてくるレイヴンの姿だった。顔には苦笑いを浮かべ、次にカスミの乗ったヘリに視線を飛ばしている。

 

私は慌てて彼女の傍に近づき、肩を貸す。

大まかな脳震盪は一時に収まったのかもしれないが、まだ余韻としていくらかが痛みと共に頭を苦しめているはずだ。

 

「クソッ……任務失敗だ。私が、奴を取り逃した……!」

 

悔しさに拳が震える。

唇を噛む。

目前まで来て、あんな煽りまでくらって何も出来ずにみすみす逃がしてしまうとは……。

 

それなのに、目頭が熱くなる私とは対照的に、レイヴンは飄々とした表情を崩さない。

やはり傭兵、という事なのだろうか。

 

「…………?」

 

レイヴンが、私を見て首を左右に振る。

気づけば彼女は手持ちの端末に文字を打ち込んでいた。

 

『見てて』

 

したらば彼女は、カスミの乗っているヘリへと指を指した。

どういう事なのか意味が分からず、顔を見つめてみるが彼女はうんうんと頷くばかり。

仕方なくヘリに視線を移したその瞬間─────

 

火が爆ぜる。

 

否、ナニカによって爆発したように見えた。

ミサイルでも、ロケットランチャーでもない。得体の知れぬ巨大な弾頭が確かにヘリに着弾したのをこの目で確認した。

 

何処からか飛んだその1発によってヘリは粉々に。

カスミとパイロットらしき人影は地面へと落下。

派手な爆発音と火柱を辺り一帯に起こし、問答無用の墜落(チェック)だ。

 

「レイヴン……これは……」

 

油を全て抜き取った機械のように、ぎこちない動作で私はレイヴンを見る。

 

『任務完了、でしょ?』

 

一陣の風が吹くと……私は言葉を失った。

 

 

 

──────

 

 

 

『今日は休日のはずだろう。なぜここに居る』

 

「……いちゃいけない?」

 

電話越しの友人……いや、ここ最近は連絡も全く取っていなかったので不安なのだが。

多分向こうも同じように思ってくれているだろう。でなきゃ今こうして電話など掛けてこない。

 

とにかく、ビル街の雑踏の中で私はその人物と話していた。

 

『そういう訳では無いが……』

 

「少し見学しにきただけよ。すぐ戻るわ」

 

『待て。まさか"戻る"というのは校舎ではないだろうな』

 

「………そんな訳無いわよ。あなたが代わりにいるでしょ?」

 

『そうだが』

 

それならばある程度は安心というもの。まぁ、誰かに覗き見されなければであるが。

さしずめ鶴の恩返しか。鶴でもないし、貸し借りなんてしていないけれど。

 

私は髪を耳に掛けつつ、その場から離れるようにして歩き始めた。

 

「ああでも、私のサインが必要な書類は残しておいてちょうだい」

 

『偽造はダメか?』

 

「ダメよ」

 

相変わらず、この友人の価値観は少しズレている。加えて、尋常ではないスペックも健在。

だからこそあの時友人になってくれた、という考えも無くはないが。

 

『分かった。そういう分類以外の物は纏めて私が処理しておこう』

 

「助かるわ」

 

『ところで、後ろに背負っているそのケースについて質問したいのだが』

 

バレたか。

私は背中に背負った、自身の身の丈程ある黒いケースに目を向けつつ答える事にした。

多分どっかからか見ているのだろう。

 

そういったマルチタスクが可能であるという事も、友人に代理を任せた理由である。

 

「……いざという時の為よ」

 

『そうか』

 

私の性格を知っているからか、友人は短く言うに留まって理解してくれたようだ。

 

『それで……どうだ? 実際に見た感想は』

 

「親馬鹿も程々にしなさい」

 

『……………』

 

「はぁ…………正直、ホッとしてるわ。ちょっぴり不安だったから」

 

実際、情報部所属の頃に得た情報から推測して彼女に戦闘行動を強いるのには抵抗があった。もちろん、これまでそうやって生きてきた事を尊重し、考慮してはいるものの、やはり何処かそういった懸念があった。

 

けれども思いの外、全力を尽くしてくれた様だし……この友人が常に見ているのだから最悪な事態にはならないはず。

 

『それは良かった』

 

「にしても……やっぱり色々、違う所があるわね」

 

『当たり前だ』

 

それはそうである。

私は懐から1枚の写真を取り出し、じっと見つめる。この世に4枚しか無い────あの時に撮った4人の写真だ。

みんな凄く遠くに行ってしまったようで……懐かしさを感じながらも心は痛む。

 

この写真に写る友人の姿は、彼女とまるで違って見える。

髪型と髪色。体格こそ同じなのに。

 

私が秘密で貸してあげたゲヘナの制服。その上から薄い灰色のトレンチコートを羽織り、サングラス越しに覗く目つきは鋭く、顔だけは無表情。

 

隣にちょこんと居る私に関しては……うん。

 

『ヒナ、今晩はグッスリ眠るといい。約2ヶ月に渡ったカスミの捕獲任務も丁度これで済んだ所だ。心配になるような事はもう無いだろう』

 

「………変わらずね……ラナは」

 

なぜ昔から、こんなに世話を焼こうとするのか私には分からないが……お互い様だろうか。

ある程度の常識は私が教えていたし。

 

『では、また連絡しよう』

 

「ええ。それじゃあまた」

 

名残惜しくもスマホをタップし、通話を終了する。

さて今日はどこに行くべきか……悩みながら私は友人の作ってくれた休日を有意義に過ごすべく歩調を速めた。





今回出てきた風紀委員モブ。
モブなので思うままに書いていたらこんな感じに……。ゲヘナだし、こんな性格と口調の子が居ても不思議ではないか……?

描写上分からないと思ったのでちょっとした補足。
ヘリを落としたのはユメ先輩による火力支援要請です。ラナに頼んで光学迷彩付きのHELLKITEシリーズにやってもらいました。
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