戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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生体兵器は苦手だ

 

 

(えっと……これかな)

 

黄色いテープが特徴的に巻き付けられたレバーに手を伸ばして、やや重めの感触を受けつつ押し下げる。そして1回大きな揺れを挟むと、昇降機が動き出した。

 

(おお、結構速い)

 

目に見えて外の様子が分かるからというのもあるが、それにしたって速い方だと思う。……ちゃんと減速できるか不安なくらいに。

 

『さて、話したい事についてだが……』

 

(うん)

 

『まず分かったのは、これから進む先の地層がキヴォトス誕生以前の物に値するという事だ』

 

(キヴォトスが……? というかよく分かったね)

 

『調査がある程度進行してな。示準化石に該当する出土品のレポートを見つけ出すことに成功した』

 

示準化石。確か、その化石が堆積している地層の時代が分かる物だったか。中学での勉強の時以来に聞く単語だぞ。

 

『出土品と言えば、数ヶ月前ムラクモの持つ発掘調査地帯へ潜入した事があっただろう?』

 

(ああ、あそこね。ロボットの部品とかが沢山見つかってた場所)

 

掘り出された物一つ一つについてラナが丁寧に解説してくれたから、博物館に来たみたいで楽しかったのは良く覚えている。発掘や復元に勤しんでいる様子を撮るだけの楽な依頼でもあったし。

 

『その件と類似した事がこの場所で行われていたようだ……つまり、過去に使われていた生体兵器を蘇らせるべく動いている可能性が極めて高いという事になる』

 

(蘇らせる……)

 

可能かと問われれば可能かもしれない。もしもAMIDAの化石や永久凍土が見つかったとして、あのパニック映画と同様にそこからDNAを抽出し、読み取りさえすれば。

……まさかフィクションの展開をそのまま現実に持ってくるなんて。

 

『だが長い月日が経ち、DNAも完全に残っている訳ではなかった筈。その上、AMIDAには兵器として役割を持たせるよう無理に弄り回した影響か、劣化や磨耗も起こりやすい』

 

(じゃあ、遺伝暗号の欠損部分を埋める物が必要でしょ)

 

『……キヴォトスの技術ならば、見つけるのも時間の問題……いやむしろ、私たちが遭遇したあのAMIDAによって、殆どそれは裏付けられたか』

 

(そんな……!)

 

『事態は深刻だ。一体何処の愚物がしでかしたかなぞ知った事ではないが、速やかに対処しなければ多くの被害が懸念される』

 

(…………………)

 

もはや言葉は出てこず─────こんな煮える思いも、言語化したくはない。

ゆえに私は紫ちゃんを強く抱き締め、ふわふわとした柔らかい感触に心を埋めた。

 

それからしばらく、長い体感時間の間に聞こえるのは昇降機の稼働音のみだった。時折、紫ちゃんが心配そうに目元を触手で撫でてくれるのは、ささやかな癒しである。

 

(………まずは救出、だよね)

 

自分にそう言い聞かせ、いつからか震えていた右手を静かにポケットへしまい込む。

すると、瞬く間に視界が勢いよく揺れ、スクロールしていた景色と昇降機が停止した。まあまあ荒っぽいブレーキだったけど、ちゃんと止まれたんだから良しとしよう。

 

続けて私は紫ちゃんを下ろし、再び扉をスライドさせて新たな場所に足を踏み入れる。

 

(うわぁ……また随分と雰囲気変わったね)

 

今度は正に研究所と言った出で立ちで、岩肌はどこにも露出している様子はなく、几帳面な白いタイルと灰色のドア達が無愛想にお出迎えしてくれた。けれど対照的に、床に散らばるAMIDAの残骸や弾丸の薬莢。弾切れの拳銃や割れたシールドなんかが捨てられており、ここで壮絶な銃撃戦が行われたことを想像させる。

 

(監視カメラは……動いてない。職員とかは居な──────)

 

即座にショットガンを構え、狙いをつけたと同時に気づけば引き金に指。

私の目前に、早速ドアを突き破ってAMIDAが転がって来た。

 

【】

 

息付く間もなく1秒未満の発砲。

結果、頬を複眼の欠片が掠める。

 

まただ。

また反射的に撃って……でもこれは違う。

驚きや恐怖なんて感じるよりも先に、身体が動いた。まるでマシーンの如く、冷徹。

 

ふと考えれば、任務開始からの経過も長い部類。実際の戦闘に費やした時間は短いけれど、移動中の警戒状態を戦闘状態として含めれば"特性"は既に発動していると見ていい。

 

(誤射だけは気をつけなきゃ……)

 

私が憂いていると、いつの間にか足元へプルプルと隠れていた紫ちゃんはAMIDA撃破を確認し、おずおずといった感じで先程突破された扉の方に進み始めた。

同じく私もそちらへ近寄って、様子を伺う。

 

(食堂かな……こっちも職員は居ないし……もう放棄されてる?)

 

今居る廊下と同じく、食堂にも照明の明かりはついていた。見る限りゴミが落ちてたりとか、テーブルに食べかけが残ってるとかは無いけど……至る所にAMIDAが蠢いている。

放棄されたのなら、原因は管理不足や実験の失敗だろうかと頭で浮かべつつ、私はコンカッションを2つ片手に握り、素早く中へ投げる。

 

そうしてチクタク待てば爆発音が轟き叫び、間髪入れず私は暗視を起動。食堂内部へ突入を開始した。

 

(………………ッ)

 

直撃を免れた個体でも、唐突に室内で強烈な音と衝撃を食らってしまえば驚きはするようで。ひっくり返って足をモゾモゾ動かすものや、その場にじっと留まり意識が正常に戻るのを待つ生き残り達が未だに。

 

そこからは無抵抗の相手へと向かい、爆風を受けながらも黙々と散弾を撃ち続けた。

引き金を引き、反動を受ける度。

爆風を浴び、次のAMIDAを捉える度。

 

──────心境はどうあれ、約20匹を数えた食堂のAMIDA達は呆気なく一掃完了。

 

それから私は瞼を閉じると、ただ項垂れて。次第に落ち着いていくマスクの呼吸音だけを空間に這わせながら12ゲージを1発1発、強くマガジンチューブへ押し込んだ。

 

(………気をしっかり持って……まだ戦う必要があるんだから…)

 

ため息を漏らし、"戦いが長引くにつれて加減が出来なくなる特性"についてまた考える。

どうやら、ラナ曰く手術の後遺症という線が有力だそうで。彼女が野暮用から帰ってきてすぐの時に"そういえば"と思い相談した所、そのように告げられた。訓練を増やす旨は伝えても、理由は明かさずにいたからである。

ラナには【何故もっと早く伝えなかった】って怒られちゃったけど……うん。変に1人で抱え込もうとするのは良くないってことだ。それが無意識の内でもね。

 

……まぁとにかく。対処法は相も変わらず、自分で抑え込むしかないみたい。幸いにも、任務が終われば特性も引っ込んでくれるし……大丈夫大丈夫!

 

(さて、先遣隊の子はどこかな……?)

 

暗視を解除しつつ気持ちを切り替え、テーブルや椅子の下を覗いてみる。けれど、誰か隠れているという事は無く。観葉植物達に聞いても知らぬ存ぜぬと口を並べている。

 

(んーと……キッチンの方?)

 

銀色が良く映えるキッチン周りに入ると、洗い終えたであろう白い皿や調理用の大きな鍋が幾つか重ねて置かれている。枚数はかなり少なめっぽいけど、利用している人があまりいなかったのだろうか。

 

(居ない……)

 

あまりこの食堂も広い部類ではない。大体クラス2部屋分くらいだし、隠れることの出来る場所は限られている。

あくまで"見かけた場所"を聞いただけだし、今現在の位置が違う可能性は十分にある。

 

(アレは……)

 

いやまさか、と思い私が見つめる先は台下の冷蔵庫。

 

『盗み食いとは、感心しないぞ』

 

(しないよ!? 中に隠れてたりしないかなって思っただけだから!)

 

全く、人をなんだと思っているのやら。

それはさておき、中をチェックしても特に損は無いでしょ。もし何かの間違いでワイヤートラップがあってもちょっと痛いだけだし、万が一AMIDAが飛び出してきたのなら……いや待って、ごめん無理かも。

 

(………………ひぃん)

 

私は冷蔵庫の取っ手に指をかけたまま硬直した。

 

『何をしている』

 

(だってぇ…………ん?)

 

浮かんだ最悪のビジョン相手に1人打ちのめされていると、後を追って食堂にやってきた紫ちゃんが私の近くを通り過ぎて真っ直ぐキッチンの奥に跳ねていくのが見える。

 

(あれは……あっちのも冷蔵庫みたいだね)

 

紫ちゃんの向かう先に目を動かすと、そこにあったのは、個室かと思えるくらいに大きなプレハブ冷蔵庫。ここは結構深い地下なんだし、備蓄や長期保管目的として設置してるのかな……なんて、そんな風に考えていると紫ちゃんはその冷蔵庫の前でピタリと止まった。

 

(えーっと、この中だったり?)

 

紫ちゃんが冷蔵庫の扉をノックする。

つまりはそういう事なのか。

 

『……内部温度を適当に変えてやれば、確かに良い隠れ場所となるだろう。AMIDAはそこまで気が回らんからな』

 

何気ない予想が的中したことはちょっぴり嬉しいけど、そんなことより中の子が無事かどうかが重要だ。早速私は冷蔵庫へと駆け寄り、その大きな扉を開けようと手を伸ばす。

 

(固ッ!?)

 

いざ引っ張ると、まるで釘で打ち付けたかのように扉はビクともせず、むしろ冷蔵庫自体が若干動き始めてしまい、取っ手も取れてしまった。

慌てて元取っ手を落としつつ良く見てみると、小さな鍵穴が設けられているじゃないか。鍵なんて私は拾っていないぞ!

 

(うーん……この際だし、仕方ないか)

 

あまり時間を食っている暇は無い。後で修繕費とか請求されたら少し困るけども……放棄されてるんだとしたら無問題。

私はショットガンを左手に持ち替えると、右手の拳を軽く握り込んで少し後ろに引き。

 

取っ手付近を狙って打った。

 

(あれ……)

 

なんてこった、穴を空けてしまった。言わずもがな拳1つ分のを。本当なら歪ませる程度に留めて、指が入るくらいの隙間を作るのが狙いだったんだけど。

 

(……まぁいいかな。そう大して変わりはしないし)

 

結果に妥協しつつ、自ら生み出した新品の取っ手に手をかけ、扉を開けようとする。言わずもがな全体に多少の歪みは発生していて、数センチ動かす度にマンドラゴラじみた金属の絶叫が耳をつんざくものの、最終的に力技で無理やりねじ伏せていく。

 

結果、扉は跡形もなくペシャンコ。

 

あいも変わらずオーバースペックすぎる肉体だと実感しながら、私は冷蔵庫の中に足を踏み入れる。

 

(誰か居ますかー……?)

 

内部の電気は点いておらず、されどキッチンからの明かりが差し込んで十分に照らす。冷蔵庫なので、どれほど寒いものかと思ったけれど、特にそんなことは無く快適な温度。内部温度がいじられているのか、それとも故障しているのか。

一つ一つに多種多様な食材が詰めてあるだろう袋やダンボール箱、棚で構成された森の隙間をすり抜け、進んでいくと──────

 

(痛ったぁ!?)

 

背中に強い衝撃を受けた。

同時に、銃声も。

それが何者かによる攻撃だという理解には一瞬で事足り、被弾の影響から前方へ倒れようとする身体を後ろへ捻らせ、すかさず片足を突き立てて持ち堪える。

 

(!!)

 

すると視認したのは、二つの銃口を突きつけて睨んでくる人物。軽い逆光で見えづらいが、その者は防弾ベストと帽子を着用しているようで、どちらにも等しく同じ文字列が記されている。

 

K.S.P.D(ヴァルキューレ)と。

 

「動くなァ!!!」

 

荒く叫ぶ声相手に私はショットガンを脇へ投げ、無抵抗を示すべく両手を頭上に掲げた。

ところがそこへ更に2発目、3発目と衝撃が襲いかかってしまう。

 

(えっ!? 噓ぉ!)

 

痛い。まあまあ痛い。これは散弾だな絶対。

 

「クソッ……クソッ……!!なんで倒れない!?」

 

なにかボヤいているのが聞こえるが、それよりもこの状況は不味い。明らかにこの子は私を敵だと勘違いしてしまっているし、強ばった表情筋や焦点の曖昧な目玉からして、精神的にもかなりすり減ってるようだ。

今もこうして2発私の胴に撃ち込み、弾切れになっても尚引き金を引き続けている。

 

これを好機と捉え、仰け反っていた上半身を戻し急接近。向こうは激しい動揺のままに銃を乱暴に振り回すも、こちらは難なく回避し、その手に握られていたマスターキー(M26 MASS)装備のM4カービンを奪い取った。

 

「ひっ……!」

 

当然やり返す訳もなく。

すぐさまそれを捨て、彼女に詰め寄る。

 

「くっ……来るな……来るんじゃなぁい!!」

 

(お、落ち着いて……)

 

味方だと伝えたいが、声が出せない現状では無理だし、却って変に刺激してしまうかもしれない。取り敢えずは両方の手のひらを向けておくも、先程の威勢はどこへ行ったのか、途端に彼女は酷く怯えた様子で後ずさり、辺りの物を私の足止めとして散らしていく。

……眼帯とガスマスクを付けた人間が無言で近づいてきたら、まぁ親しみずらいかも。扉を壊した所も見られていたとしたら尚更。救出任務の際は決まってこれだ。

 

(一旦取り押さえた方が良いかな……ん?)

 

いつものやり方を取ろうかと思ったその時、前触れもなく触手が視界の外より伸びてきて、瞬く間に先遣隊の子を拘束する。

 

(紫ちゃん……!)

 

触手の主は、ご存知紫ちゃん。

中でのトラブルに気づいたのか、自らの判断でサポートしてくれたようだ。

 

「ぱ、パンケーキ! お前か!!」

 

手足を縛られ宙に浮いた状態のまま、先遣隊の子はハッとした表情で紫ちゃんに声を放つ。

 

「私じゃない! こいつだ! こいつをやれ!」

 

おっと、知り合い?……それは置いておくとして、ベストタイミングだ。紫ちゃんが拘束してくれている間にさっさと済ませるべく、私は端末を取り出して簡潔に文字を入力。彼女の鼻先へ突きつけた。

 

『敵じゃないよ』

 

「…………はっ?」

 

 

 

──────

 

 

 

 

「いや本当……申し訳ない事をしました。心の底から謝ります……」

 

冷蔵庫の壁に背を預けたまま、彼女は深く頭を垂れる。

あれから紫ちゃんと共に協力し、ここに来た事情と自らの身分を説明する事で、私への容疑はなんとか晴れた。なんでも、私の事をここで生み出された兵器と勘違いしていたようで……。

それは見た目の所為か、出会い方が悪かったのか。個人的に見た目はカッコイイと思うんだけど、傍から見ればやっぱり怖いらしい。今度からはドレスでも着ていこうか?

 

「無抵抗の相手に、何発も撃った。これは警官として恥ずべき失態に違いありません……」

 

『気にしなくていいよ。大して効いてないし』

 

痛かったは痛かったが、肉体的なダメージは全く無い。置換された臓器、骨格、筋肉はかなりの耐久性を誇り、基本的な戦闘であればパフォーマンスが85%以下に低下する事はゼロに等しい……とのこと。ラナが言うにはね。とはいえ意識や感覚にまでは作用しないから、肉体的な損傷が軽微でも気絶するというケースは存在する。この前のホテルで起きた対物弾直撃がいい例だ。

 

『それに、傭兵が相手なんだから。そこまで深く考えなくていいんだよ』

 

「ですが……」

 

『撃たれた本人が良いって言ってるんだから、大丈夫!』

 

「…………はい」

 

ズレた帽子を深く被りつつ彼女は答える。やや肉体的なダメージは散見されたものの、そこは私の手持ちで応急処置。精神面はと言うと、話を交わしている間にある程度回復してきたようである。

 

「でも感謝だけは伝えさせてください……レイヴン。あなたが来てくれなければ、私はより長く苦しんでいました。心よりの礼を」

 

警官らしいピシッとした敬礼。

私の方も何となく、やんわりとだが敬礼で返し、これで解決という事にする。

 

「もし良ければ、この任務の後でヴァルキューレに来ませんか? あなた程の腕前と人徳なら、きっと良い警官に成れます。入校についての不安要素なら私の方で融通を効かせる事が出来ますし……」

 

警官か……そういえばアビドスで見かけることはほぼ無かったように思うぞ。だからといって変な色眼鏡を掛ける訳でもないし、寧ろ素晴らしい人達の集まりだと思っている。この子の言う通り、力を活かすには中々良さそうな場所。でも私は首を横に振って提案を断った。

 

『私にも目的があってね。無理なの』

 

傭兵を終えた後の場所もとっくに決まっているし。

 

「……そうですか」

 

えらく残念そうな声色で彼女は返答を飲み込んだ。

 

「実を言うと最近親友が警備局を辞めそうでして……あなたが入ってくれれば、何かいい風を取り込める気がしたんですが……」

 

『それは私の役目じゃないよ』

 

「……おっしゃる通り」

 

苦笑を浮かべながらも、彼女はゆっくりと気合いを入れるようにして立ち上がった。

警官らしさをすっかり取り戻して再起するその姿に、紫ちゃんもご満悦な様子で跳ねる。

 

「ところで……名前とか教えましたっけ。今更ですけど」

 

『レインズ、でしょ?』

 

説得を始める際に必要事項として聞き出したし、以降も何度か不安定状態のレインズ自身が復唱してたから、当然知っている。

 

「ええ……その通り……ん?」

 

そう言って、不思議そうに彼女は首を傾げた。多分口にした自覚は無いのだろう。

変に発狂状態の事について触れると互いに気まずくなりそうだし、話題を変えることにしよう。

 

『私はこれからアレを全部倒しに行くつもりだけど、レインズはどうしたい? 戻りたければ下水道の所までついていけるよ』

 

「………いえ、私も同行させてください。一掃に丁度良い方法を知ってますので」

 

『丁度良い方法?』

 

「その為には管理室へ向かう必要があります。アイツらに占拠されたままでしょうから、取り返さなくてはなりませんが」

 

揉めた時にこちらが投げてしまったM4カービンを拾いつつ、レインズは語る。

 

「詳しくは向こうで話す事にします。ここからそう遠くありませんし、実際に目にした方が早い」

 

弾薬の入っていない弾倉とチャンバー相手に弾切れという事を思い出したのか、彼女は肩を落とす。

 

(タフっぽいね……でも……)

 

私は自らの持つ12ゲージを幾らか手のひらに取り出すと、それらを見せながら問いかけた。

 

『正直に言って、やれる?』

 

レインズは帽子のツバを上げ、目をパチクリと動かし。けれどもすぐに彼女は表情を律して、毅然とした態度で声に出す。

 

「務めですから」

 

赤のショットシェルは全て受理され、回答をハッキリ確認。同じくして私はショットガンを拾い、追加の12ゲージと一緒にこれもレインズに差し出す。

 

『折角だからこの子を使ってあげて。元々はそっちの所属だし、火力もソレより優れてる筈』

 

「構いませんけど……あなたは?」

 

そう聞かれ、ホルスターから自分のハンドガンを引き抜いてやると、シェルを充分に装填し終えたレインズが納得したように頷く。

 

「では、向かいましょうか」

 

『構造は分かる?』

 

「以前3人で調査をしていた際に大体の把握は完了しています。一掃の方法も同様、その時に発見したんですが……アレが大勢現れ、結果私が殿に。後は知っての通りです」

 

立派だなぁ。勲章ものとかなんじゃないの? 私だったら絶対贈るよ、それ。

 

「でも、まさか傭兵がパンケーキを連れて助けにくるとは思いませんでしたけど」

 

パンケーキ……紫ちゃんの事を、レインズはそう呼ぶ。説得中に聞いた話では、物資コンテナの中に潜んでいた所を3人の内1人が見つけたらしく、個体も複数存在していたと。

 

「犬に好かれたりとかは?」

 

『よく追っかけられるよ。白黒の毛並みで、赤のアクセントが映える子には特に』

 

「あーそれは……自重してください」

 

言われなくとも気をつけているつもりだ。ただ、任務の過程で仕方ない場合と言うのもあるし、せめて速度超過位は見逃して欲しい。

 

「まぁとにかく、私が先導しますので」

 

その宣言通りレインズが先頭。2歩後ろから私が追従、アンカーは紫ちゃんという形で3名は食堂を後にし、廊下を進み始めた。

 

(いや〜パーティーメンバーがいると安心感が違うね、安心感が……)

 

『私は違うのか?』

 

ラナから唐突に差し込まれる一言は、たったそれだけで私の意識を凍らせるのに十分だった。

 

(そ……そういう訳じゃ。ラナはほらアレだよ、アレ! 固定メンバーだから! 最初から最後までずっと一緒のアレだから! ね!? 特別だから!!)

 

言い訳みたいに聞こえてしまうかもしれないが、RPGで例えればラナの立ち位置はまんま解説兼お助けキャラ的ポジションだろう。アリスちゃんに紹介したら9割の確率でそう言うに違いない。

 

『……………そうか』

 

どっちだこれ。

 

『……帰ったら話がある。覚えていろよ』

 

(ひぃん……)

 

洒落にならない声色と発言に内心で頭を抱える私だが、露ほどもそれを知らぬレインズはグングンと前へ進む。丁度今通過した所のルームサインには職員寮と書かれており、扉の小窓からのぞく内装は奇妙な程何も無い。

 

やがて、培養室や遺伝子構造解析室といったいかにもな感じの部屋の前を通り過ぎていくと、十字に交差する場所の手前にてレインズが停止の合図を送る。

 

「構えてください」

 

小さな呟きを耳にし、私は両手でグリップを握り込む。引き金に指を添えると視界が広がるように意識は先鋭化され、身体は軽く感じる。

4回目の接敵ではあるが心臓は至って冷静にリズムを刻み、極めてリラックスのコンディションを保つ。

ネガティブ感情も隅へ追いやられ、戦いへの集中は高まるが……これは"特性"か"慣れ"か。

 

──────考える間も無く、3つの道よりAMIDA達が大勢の群れをなして侵攻してきた。雪崩の如く、互いにひしめき合い蹴散らしながら。

 

【討て】と誰かが囁き。

 

気付けばすぐさま撃って、撃って、撃ちまくって。弾ける様に目もくれず、ひたすらに押し寄せる相手へと銃口を押し付ける。

かかる指に重みは無く、次から次にターゲットを定め、弱点部位と推測される腹部のみを撃ち抜いていく。

 

反撃に対しては最小限の動きで攻撃を避け、掴んだ脚を2本引きちぎってやると、体液が飛び散り目元を濡らす。構わず私が傷口から銃弾を届かせ、撃破の熱が乾かす。

 

レインズはどうかと横目で見やれば、至って怯えやオーバーな激情を表に出さず、淡々と処理していた。所々の仕草や表情に荒れた片鱗が滲んではいるものの、自分をコントロールする精神力の高さには目を見張り。自ずとこちらも、彼女の負担を可能な限り減らすべく攻勢を続けていく。

 

レインズの援護は私が。

私の援護はレインズが。

 

死角や再装填に伴う隙を両者で補い、確実に敵の数を減らす。前回と同じ即席タッグだが、今回はより密度が増している。

 

しかし不幸にも互いの再装填が重なり背中合わせになると、今度は紫ちゃんが音速で打ち付ける。鞭と同等か、それ以上の威力を持つ触手はAMIDAを背から砕き、壁に黒焦げを作り出す。

 

その行為を見て私は驚いた。ここまでずっと怯え、背に隠れていたあの子が……自ら攻撃を仕掛けた事に驚いたのだ。果たしてこれを喜ぶべきかは即決出来ないが、助かった事は確かである。

 

「天井!」

 

(やばっ……!)

 

1秒たりとも気は抜けず、意識外からの奇襲相手に蹴りで応える。人体に比べた時の軽さから始まり、段々グシャリと内臓を潰す感触へシフトしていく反撃行動は躊躇いと嫌悪感を生じさせる筈が、身体は構わず脚を振り抜き、爆炎に敵を潰す。

 

"特性"が、倫理を滲ます。

 

戦いにおいて数とは重要な要素であり、圧倒的な物量の波を乗り切る程の質を持つは世にわずか。それはこの場にも通じ、一撃で消えるとて数の暴力が消えることは無く、未だ脅威として消耗戦を仕掛けてくる。

 

牽制のコンカッションに、貫通のスラグ弾。

遠投からのC4起爆で緑の波を割る。

 

けれどまだ、ぞろぞろと這い出てくるAMIDA達。1匹居たら100匹……これはその何倍か。

爆薬と銃弾には限り。しかし格闘にそんな物は無く、ホールドオープンの音を第2ラウンドのゴングとして、高水準の最高戦闘効率を常に保つ打撃と蹴撃が放ち続けられた。

 

なりふり構わずAMIDAを薙ぎ倒し続け、爆発に次ぐ爆発は最早花火会場どころではなくボップコーン。

私の蹴りが、レインズの銃撃が、紫ちゃんの触手が三者三様に物量というアドバンテージを削り取っていく。

 

「はぁッ……はぁ……」

 

「…………」

 

経過時間は如何程か。これだけ濃く、単調な戦闘が続いてくると、体感ではそこそこの長さだ。しかし急激に減り始めた群れの圧力からして終わりは近い。

 

私はやや脚に力を込め、空いた群れの隙間へ向けて跳躍。そこから着地際に1匹を踏み潰すと、荒れる爆風が髪を靡かせる。

これにてようやく、ヘイトを大きく分散。挟み撃ちの態勢へと移行を完了。

 

壁を蹴り、宙を舞い、3次元的機動の能動性は嵐の如く。一撃必殺、一撃二殺、一撃三殺。

勢いを四肢に乗せ、躍動を止めずに。

 

イメージはもう1人のトップランカー。

アクロバティックな回転を織り交ぜ、翻弄と攻撃を同時に行うあの動き。

見よう見まねに飛び回り、私は拳を振り抜いて撃滅。次に来る背後からの攻撃をバク宙で避け、天井に両足を並べると、真っ逆さまに視界が反転。すかさず脚力を発揮し、空中前転で姿勢を整えつつ遠心力を付与……からの飛び蹴りを放った。

 

「──────!!!!」

 

力学的エネルギーと加速、遠心力という3つの力を合わせた加減無しのソレは瞬く間に目標へと突き刺さり、圧縮。砲弾と化したAMIDAは真っ直ぐ直線を描き、吹き飛ぶ最中に周囲の仲間を巻き込み続け、ついに爆発。高密度のエネルギーは衝撃波としても作用し、残りのAMIDA達全ては壁面及び天井へ容赦なく叩きつけられ、スイカのように潰れていく。

……多重炸裂の余韻が後を引く中、左手と膝で着地すると、撃破に伴い巻き起こる炎がアーチを象っていた。

 

結果……白かった廊下は満遍なく全てが黒と灰色に塗れ、足元では完全に燃えなかった死骸達がカーペットを作り、避けようと思えば踏み場もなく。

 

『目標の全撃破を確認……よくやった』

 

焦げた匂いに煙の立つ足先と道の両脇でパチパチと燻るソレらをじっと見つめ、深くラナの言葉を反芻していると───心做しか右手に熱が籠るように感じた。

 

しばらく経つと、目を丸くした顔のレインズが賞賛の口笛を吹き、死骸を退けつつ近づいてくる。

 

「これをたった1人で……いやはや……」

 

"こうする"と大体ドン引きされたり怖がられたりするけど、彼女はそんな素振りなく、あっけらかんとした様子で腰のポーチを探っていた。

 

「……弾あります?」

 

私は目を合わせず、ぎこちない首を左右へ振る。

 

「なら、もうこれ以上襲撃が来ない事を祈りましょう」

 

全くもって……その通りだ。

 

「パンケーキ! こっちだ!」

 

慣れた様子で手招きされると、少しばかり震えたままの紫ちゃんがズルズルとレインズの通った後から寄ってきた。……なんかちょっと遠くない?

 

(あ……)

 

そんなモヤモヤは露知らず、レインズはスタスタと早歩きで先行していってしまう。慌てて私と紫ちゃんも後ろにつき、十字路から先の道へと進んでいく。

 

(良い方法ってなんだろうね? 自爆システムの作動とかじゃないといいけど)

 

『それでは困るな。まだ得られていない情報もある』

 

(そっちは何か見つけた?)

 

『職員用の緊急プロトコルと特別収容手順、物資運搬の指示書と言った所だ。研究レポートや計画書は殆どアナログ資料で管理されていると見ていいが、複数ある関連施設へのルートはまだ通じている。どうやらAMIDAの体内に埋め込んだチップから、先程の戦闘で得たデータをリアルタイムに送っているらしい』

 

(うわぁ……だとしたらまさか利用されてる?)

 

『かもしれん。少ししたらケミカル・ダインの方を洗うさ』

 

この状況が戦闘データ確保の為に用意された物であったとすると、薄々感じていた違和感は消えていく。

 

余裕なく全職員が避難したのであれば道中に痕跡が少なすぎるし、その逆ならAMIDAをあそこまでのさばらせておく必要は無いはず。最初に入る時カードキーが通用した時点で、最高高度のセキュリティが発動していないのは確実だろう。普通ならシャッターも下ろすし。

 

ラナの見立て通り、その点で今の所最も怪しいのは依頼主……か。

 

『暗号処理の徹底具合からしてこの情報の解読には本来数週間を要するが、相手が相手だ。余程運が無いらしい』

 

(あはは……)

 

絶対悪い顔してるな、これ。

そんな意地悪マネージャーの口ぶりと相応に高い能力に軽く舌を巻いていると、レインズがとある部屋の前で足を止めた。

さっきまで通ってきた部屋と違って、ここは大分荒れた様子。入り口の扉はひしゃげた状態で遠くに捨て置かれているし、中では棚や机が軒並み倒れてしまっていて、ファイルや紙が所狭しと散らばっている。

 

「この資料室を入った左の奥に管理室があります。私の方で一掃用の手順を進めておきますので、警戒の方をお願いします」

 

『オッケー!』

 

制服とベストの隙間から赤色のファイルを取り出すレインズにそう告げて、私は一足先に駆ける彼女と、追いかけていく紫ちゃんの背を見送る。それからちょっとの間を挟んだ後に、突如爆発音が聞こえはしたものの……すぐに【大丈夫です!】という声が返ってきた。

 

(本当に大丈夫……?)

 

『調査用の資料類を手に入れるのであれば今の内だな。研究の進行具合と結果は可能な限り目を通しておきたい』

 

(AMIDAが来ないと良いけど)

 

『私の方でチップから居場所を逆探知しておく。これなら安心だろう?』

 

(……そうだね)

 

信用してくれたレインズにはちょっとばかし悪いけども、ここはラナに任せる事にする。万が一襲撃が来たとしても、その時はその時。

警察の方で捜査してもらっても構わないけど、効率を優先するならラナを優先にした方に軍配が上がる。今までも幾らかそうしてきたし、生体兵器の専門知識とセキュリティ無視のハッキング力は替えがたい。

 

(さてさて、どれがお目当ての書類?)

 

棚や机を起こしながら、下敷きとなっていた子達をあらかた引っ張り出していく。確認の為にチラッといくつか流し読みしてみると、空白しかないダミーや黒マーカーで文章を塗りつぶした物などが散見される。出資者や参画企業についても代名詞のみで対応しているようだけど、今必要なのはそっちじゃない。

 

(お、クリップで何か留めてある)

 

妙なそのファイルを開くと、高解像度の解析画像と共に付随していた、ある写真が目に留まる。なぜならその被写体は紛れもなくAMIDA……しかも化石の状態ときた。

 

(ん〜、一緒に写ってる重機の大きさからすると……5mくらい? てことは成虫……)

 

想像すると鳥肌が立ってきちゃうぞ。さっさと懐へしまうに限るな、この写真。

 

(こっちの方はどうだろ)

 

そこまで室内は広くないが、詰め込まれている紙類の数は相当。全部をチェックする暇なんてないし、ビビっときた物だけ貰っていこう。

 

(自己意識の統合化と、バイオネットワーク間における命令伝達のジャギー対策について……これは、時間効率を兼ねた食性の最適解への提言B……)

 

書いてある意味はさっぱり分からないけど、タイトルから想像するにAMIDAの運用に関しての物だ。

しかし、計画的にこの状況へ持ち込んだのであれば、資料をそのままにしておくそれなりの道理がある筈。今しがた手に入れた物もダミーという可能性は捨てきれないけど……まさか敢えて握らせるのが狙い?

 

(情報を餌に捜査機関を利用……はもうやってる)

 

レインズ達が派遣された理由も下水道内の調査って話だったらしいし、ますます依頼主が怪しく思えてくる。でも、関連性を証明する為の物品はここまで見つかっていないのが現実。今回の件を報告しておけばゲヘナが動くのは確実だが、元々この依頼は風紀委員会に届いた物だ。その点は織り込み済みに違いない。

 

(なにかこっちで細工しておかないと……)

 

ラナのお陰で、相手の予想以上に情報は得られた。後はこれをヴァルキューレと風紀委員会……場合によっては連邦生徒会に送るか、もしくは私たちの方で独自に動いて叩くか。両方やるのもアリだ。

 

(でも誰かに任された訳じゃないし、お金が貰えるかも分からない。今回みたいな戦いが多くなったらそれこそ……辛い)

 

まぁ、もう一度よく考えてからにしよう。

今まで受けてきた依頼に比べて規模は大きいし、危険度も高くなってくる。安易に首を突っ込むのは避けるべきだ。

 

「レイヴン! 来てください!」

 

ある程度資料が集まってきた所で、管理室と思われる気密扉の先からレインズの声が聞こえてきた。怪しまれぬように書類を懐へ隠し、私はさっさと次へ進む。

 

「今物理ロックを解錠しましたので、セーフティ機構は全てクリア。残るは最終決定の判断を下すだけです」

 

部屋に入ると、壁に設置された複数のモニター達が大きく主張しており、その中のいくつかはこれまでに通ってきた道を映していた。レインズが指したモニターだけは唯一、赤色の画面で"緊急廃棄処分"という文言を唱えている。

よく見ると、彼女が小脇に抱えている赤のファイルも同一のそれだ。

 

『どうやって一掃するの?』

 

「これに書かれている内容によると、あの生物達は酸に極めて弱い性質を持つそうです。なので、施設内の空気循環シリンダに酸性のガスを入れて散布させる手法を取るのだと」

 

それはまた……痛々しい。だけど、直接やり合うのと比べれば圧倒的に合理的。機械のスクラップ送りに値すると考えれば軽いが、曲がりなりにも相手は命を持ってしまっている。

相手に精神的ダメージを与える事も性能の一部なのか?

 

「心配せずとも洗浄プロセスがありますので、20分もすれば外に出られますよ。防護服もあそこのロッカーに入ってますし」

 

そういう事を気にしてる訳じゃないんだけど……と心でボヤキつつ、私は紫ちゃんを撫でる。不思議そうにこちらを見上げる仕草は可愛いもので、今回を機に別れるのは寂しい気もする。

 

(この子に、これから行く宛てってあると思う?)

 

『折角だ。隣の奴へ押し付けておけ』

 

(随分投げやりだね……)

 

とはいえ、レインズならちゃんと面倒を見てくれる気はする。良好な仲を育んでいるようだし、順調に行けば交番のアイドル猫的なポジションに収まってくれたり……とかは完全な妄想だが。

 

十分に紫ちゃんの感触を楽しんで癒された後、私は認証を促すモニターへと向き合う。

 

この画面に映る1つのボタンを押すだけで、当人は幾つもの命を奪える。たったそれだけの行動で。

この画面に映る1つのボタンを押すだけで、当人は幾つもの日常を守れる。たったそれだけの行動で。

 

「…………どっちが押します?」

 

彼女に目配せをすると、脳裏で重なるのは発狂してしまった際のあの姿。

 

『私がやるよ』

 

AMIDAに対して、同じ見方をしている訳じゃない。その点では、任せた方が良いのかもしれない。誰にも向き不向きはある。

向いてないって分かってる。

 

けど、出来るならそうしたいから。

 

私は震えて燃える指を画面に添わせて、目に警告の色をチカチカと眩しく反射させながら────

 

廃棄を、認めた。

 

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